Level.74 誘拐未遂
Level.74 誘拐未遂
ザルじいと新年の挨拶を済ませると、レイニーはその日の内にリトとの初詣の約束があったので、寝ることにした。
そして9時頃まで眠ってしまい、慌てて起き上がって、レイニーは身支度をして朝ごはんとしてお餅を食べた。ナシュナの実家でついた餅はとても美味しくてレイニーは朝から感動していた。そして約束の11時になると、リトが迎えに来てくれたのでレイニーたちはテレポート結晶を使ってグレンの街までテレポートをした。グレンの街は新年のお祝いムードに包まれており、レイニーが前にいた世界の初詣を連想させるような賑わいを見せていて、レイニーはテンションが上がった。
「わー!出店がいっぱいある!リト、どこから回る!?」
「おいおい、落ち着けってレイニー。そんなにはしゃぐと転ぶぞ!」
「そういうリトだってさっきから出店の方ばかり気にしているじゃない!」
「う…ッ。」
リトはレイニーに痛いところをつかれて、対応に困っていると、神社の境内から巫女が下りてくる巫女を見つけると、その巫女のところに向かってレイニーの視線から逃げた。直ぐにでも神社が奉る神様に挨拶をしたかったのだが、人の列がすごかったので後回しにすることにした。
「す、すみません!巫女長のミトさんにお会いしたいんですけど…。」
「巫女長なら朝から神社の裏手の水車小屋で神事を執り行っています。邪魔をなさらないよう、お願いします。」
「あっ…そうですか…。」
巫女長であるミトは神社の代表ということで色々やることがあるらしく、レイニーたちは神社裏手のあの水車小屋の近くまで行くだけで挨拶はしないでおこうということにして、その場所に向かった。
水車小屋までの道のりを寒い寒いと言いながら、二人で向かうと大きな滝は途中まで氷漬けになっており、その荘厳な景色にレイニーたちは言葉を失った。
そしてようやく水車小屋に視線を向けると、そこには人だかりができており、レイニーとリトは顔を見合わせると、その人だかりに向かった。そこではミトが神事を執り行っているようで、この寒い中薄い巫女装束に身を包み、優雅に舞い踊るミトがいた。
「綺麗…。」
レイニーが思わずそう呟くと、隣にいたリトも小さく頷いた。そして周り人からの情報でこの巫女長による舞は一日中踊らなければならないそうで、レイニーはこんな過酷な環境で1日も!?と驚いた。ミトのことを考えて、風邪を引かないように祈りつつ、暫くミトの舞を見学してから、レイニーたちは神社の方へと戻った。
神社の参道に行くと、たくさんの出店が並んでいて、レイニーたちは少し遅めのお昼ご飯をその場で調達することにした。出店はレイニーたちが収穫祭でやっていた出店とは少し違い、料理よりもお土産になるような工芸品が多かった。やっと見つけた、焼き鳥の出店で何本か焼き鳥を購入し、レイニーたちは近くの公園で昼食を取った。
ミトの舞を思い出しながら、リトとレイニーは焼き鳥を頬張った。そして話題は昨日レイニーがリトの家におせちを持っていった話になった。
「あの"おせち"っていう重箱に入った料理、めちゃくちゃ美味しかったよ!ザルじいにもお礼を言っておいてくれ。」
「ちゃんと伝えておくよ。皆で食べたんでしょ?」
「ああ。ルークがポテトサラダを見つけて騒いでいたんだよ。」
「あはは、あれはザルじいの家では定番だったみたいでね。普通のおせちには入っていないんだよ。」
「そうなのか!?おせちの料理って豪華なようだったけど、何を入れるかは皆自由なのか?」
「いや、大体のメニューは決まってるの。縁起のいい料理で重箱を埋めるんだよ。たとえば黒豆は"まめに過ごせますように"とか昆布巻きなら、"喜ぶ(よろこぶ)"に通じる語呂合わせの縁起ものね。」
「へぇ…、料理にも意味が込められているのって素敵だな。」
「そうだね。来年はリトにもおせち作りを手伝ってもらおうかな。」
「それまでには俺も料理が上手くなってるといいな…。」
「さて、この神社の神様にそのお願いと新年の挨拶をしよっか。神社に並ぶ列も少なくなってきたみたいだし。」
「そうだな。」
そういって二人で最後の焼き鳥を食べると、ごみを片付けて、神社の参拝の列の最後尾に並ぶと直ぐに順番が回ってきた。レイニーが流れるような動作で参拝の所作をしているとリトがレイニーの動きを見様見真似でやってのけて、二人は新年の挨拶をして、今年一年の抱負を神様に報告して参拝を終えた。そして二人でテレポート結晶を使ってピーゲルの街に帰ってきた。
「リト、今日は誘ってくれてありがとう。また今年一年もよろしくね、相棒。」
「おう、喫茶店の営業も冒険者業も頑張ろうぜ、相棒。」
二人で拳をコツンと軽くぶつけ合うと、二人は別れて、家に帰宅したのだった。
家に帰るとザルじいが新聞を読んでいてレイニーを出迎えてくれた。
「ザルじい、ただいま!」
「おかえり、レイニー。初詣はどうじゃった?」
「うん!巫女長のミトさんの舞がとっても綺麗でね!寒かったけど外で食べた焼き鳥は美味しかったし、いろんなお土産屋さんが出てて楽しかった!」
「それは良かったのう。」
レイニーが興奮した様子で初詣の感想を話すとザルじいは至極嬉しそうに相槌を打ってくれた。こうして新年が明け、レイニーたちは穏やかな三が日を過ごしたのだった。
――――――
三が日が終われば街の大通りのお店も次々と営業再開し、レイニーも土日になれば喫茶店を開店させた。
冬の寒い空の下、店内が暖かいこともあり、お客さんが温かい食べ物を求めるようになった。そこでレイニーは新年の記念にお汁粉を新メニューとして出すと瞬く間にお汁粉は大好評。甘くてもちもちしたお餅の食感にお客さんは体も心も温められたようで、皆ほっこりした表情でお店を後にしていった。お汁粉が繁盛していると、年末にザルじいが作ってくれたあんこが底をつきそうだった。
「あんこがなければお汁粉が…」
「なに、また豆を買ってきてあんこを作ってやるわい。うれしい悲鳴というやつじゃな!ほっほ!」
と笑って言ったので、レイニーはさほど心配せず、あんこの方はザルじいに任せることにした。
そんな日々が続いたある日、レイニーの家に一通の手紙が来た。
「差し出し人は…クルエラ様!?」
「直ぐに開けてみたほうがよさそうじゃのう。」
レイニーはザルじいからペーパーナイフを貰ってピッと切ると手紙の内容を黙読した。そして全てを読んでからレイニーは直ぐに部屋に行くと温かい防寒着に着替えて出かける準備をした。
「ザルじい、ちょっと私ハインツィアに行ってくる。」
「分かった。帰り、待ってるからの。」
「いってきます!」
そう元気に言って街に飛び出すとレイニーは直ぐにハインツィアまでテレポート結晶を使って飛んだ。
一瞬にしてハインツィアまで飛んでくると走って冒険者ギルドの管轄の病院に向かった。
看護師はレイニーの顔を見ると直ぐに事情を察して案内してくれた。とある階層の病室を案内されて部屋の扉を開けると、そこのベッドには褐色肌で白髪のダークエルフの女の子がいた。そして彼女はレイニーの顔を見た瞬間にレイニーに抱き付いた。
「だいぶ懐かれているようだな、レイニー殿。」
「クルエラ様!お手紙ありがとうございます。直ぐに駆けつけました。」
「流石テレポート結晶を持っていればの速さだったな。」
レイニーが病室の入り口でダークエルフの女の子に抱き付かれている隣にクルエラが立っていたので、レイニーは今朝届いた手紙のお礼を口頭で伝えた。そう、クルエラがレイニーをこの病院に呼んだのには、ダークエルフのアルの存在があったからだ。
「アルはどこで暮らしたい?」
「………アルは1人でも、大丈夫…です。」
「無理したらダメだよ?物件なら1つだけあるっちゃあるけど…」
「そこはどこなのだ?」
「ピーゲルの森の中で私がこの世界に来たばかりの時、ザルじい…おじいさんと住んでいた家です。少し掃除すればまだ住めますよ。」
「ふむ…」
レイニーはアルの意思が一番大事なので彼女の意見を聞きたいのだが、彼女は長い間幽閉されていた身だ、いきなり見知らぬ土地で1人というのも可哀想だと思い、レイニーは一時的にではあるが、自分の家にはまだ客室が1つあるから、そこに住まわせることにした。
なんとかアルの身の振り方が決まったところで、レイニーはアルと一緒に冒険者ギルド管轄の病院を出て曲がり角で誰かとぶつかってしまった。
「あっ、す、すみません!怪我はありません…か…」
「お前…。付いてこい!」
「えっ、ちょっ!」
ぶつかってしまった少年に手を伸ばしたところでレイニーはこの少年、どこかで見たことがある気がする…と思っていると、少年がレイニーの腕を掴んで走りだしてしまった。レイニーが振り払おうとしても、彼の必死のような形相で走るのを目にすると力が入らなかった。
「〜っもう!離して!」
レイニーは手に魔力を薄く貯めて静電気をバチッと発動させて目の前の少年が"いたっ"と言って手を離した瞬間を狙ってレイニーは2,3回ジャンプして距離をとった。
「ここ…に、あんたを連れてきたかった。」
「え…?ここって…?」
「孤児院。」
そう曲がる角でぶつかった少年はレイニーを孤児院まで運んで何をしたかったのか、何が何だか分からないままアルが後を追ってきてくれたので、とりあえず心配させてしまってごめんと謝って、アルを抱き締めた。




