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Level.71 スリーピングアウル

Level.71 スリーピングアウル

 ナシュナが執事を呼びつけてお湯の準備をすると、ミルを取り出してシャンゲルの実からできたコーヒー豆を挽き始めた。するとナシュナの部屋にはコーヒー豆の良い香りが充満した。

「私、コーヒーのこの香りに惹かれたんです。コク深い…でもすっきりしたような…。ザルじいから色んな種類のコーヒーがあることも聞きました。私はまだ見ぬコーヒーの世界に没頭して…。これからもまだまだ勉強していかないとなって思ってるんです。」

 そう話しながらナシュナはミルでコーヒー豆を挽き終えると丁度よく執事がお湯を持ってきてくれた。ナシュナは"ありがとうございます"とお礼を言ってから、カップの用意も自分でしてコーヒーをドリップしてレイニーにコーヒーを淹れてくれた。

「はい、レイニー。ナシュナスペシャルです。」

「ふふ、ナシュナの淹れてくれるコーヒーは美味しいんだよね~。」

 そういってレイニーはコーヒーを一口口に含むと、ホッと息を吐いた。馬車の中では冷えないようにひざ掛けを掛けていたが、それでも雪深いアクイラの街に近付くほどその寒さが身に染みてきていた。ナシュナが淹れてくれたコーヒーを飲んで体を温めていると、部屋の扉がコンコンコンとノックされた。

「はい、どうぞ。」

「ナシュナ。」

「お母様。」

 部屋に入ってきたのはナシュナの母のシュリーだった。部屋の中に漂うコーヒーの香りにシュリーは興味津々だった。

「これが話していたコーヒーというものなのね…。いい香りだわ。後で私にも淹れてくれる?」

「はい。そのつもりで道具一式を持ってきましたので。それでレイニーに用事があるのでは?」

「あっ、そうそう。レイニーさんにちょっと頼み事があるの。」

「そう言えばナシュナも私に頼みたいことがあると言っていましたけど…どんな内容でしょうか。」

 ナシュナがシュリーのために椅子を用意すると、シュリーは小さな声で"ありがとう"と言ってからレイニーのことを真っ直ぐ見つめた。

「レイニーさんはゴールドランクの冒険者だと聞きました。その腕を見込んで私たちの街を救ってはいただけないでしょうか?」

「街を…救う?」

「はい。今私たちの街には夜になるとスリーピングアウルという巨大なフクロウ型の魔物が襲ってくるようになりまして…。その魔物が発する光を浴びてしまうと深い昏睡状態になってしまうのです…。最初は薬も足りていたのでそれほど深刻化していなかったのですけれど…。ここ最近は毎晩のように現れては街の人たちを昏睡状態にするので、薬も足りなくなってきて…。今では目を覚ましていない人もいるくらいなのです。」

「フクロウ型の魔物…。その魔物が現れてどれくらいのが経ってます?」

「そうですね…、3ヶ月ほどは…。」

「ふむ、今夜も現れる可能性があるということですね。分かりました。幸い最近飛行リングという空を飛べる魔道具も開発されたので、飛ぶことができるスリーピングアウルにもなんとか対応できると思います。その魔物、私が討伐します。」

「!ありがとうございます、レイニーさん。せっかくの年末ですもの、魔物の恐怖に怯えて過ごすのはごめんですから。」

 そう言ってレイニーは夜が更けるのを待ち、スリーピングアウルを討伐するため早めの夕食を取ることにした。夕食はレイニーとナシュナがキッチンに立ち、屋敷に少しだけいる料理人に指導しながらご飯を作った。メニューはシュリーのリクエストでお魚料理がいいとのことだったので、レイニーは魚のフライとタルタルソースを作ってナシュナの両親に振る舞った。タルタルソースの罪深き味わいにシュリーは感動していた。

「はぁ…こんなに美味しい料理は初めて食べたわ。レイニーさん、ナシュナ、ありがとうございます。」

「お母様たちにもレイニーの料理の凄さを分かっていただけてよかったです。さぁ、これからレイニーはスリーピングアウルの討伐があるでしょう?食器の片付けは私たちがしますから、レイニーは準備を。」

「ありがとう、ナシュナ。部屋に戻って装備整えてくるね。」

 夕食を楽しんだ後、レイニーはナシュナの部屋に戻り、いつもの冒険者としての装備を整えて、屋敷を出た。

 街の方では今夜も現れるであろうスリーピングアウルに怯えているようで人通りは少なかった。

 レイニーは街の大通りで槍をコンッと地面に突き刺しながらスリーピングアウルがやってくるのを待った。すると上空で"クルルァ!"という鳥の鳴き声が聞こえた。

「来たね…。」

 レイニーがそう言って上空に視線を向けると体長が3メートルはありそうな巨大なフクロウ型の魔物、スリーピングアウルがいた。翼を広げると10メートルはありそうな巨体をバッサバッサと羽ばたかせながらアクイラの街の大通りに降り立った。そして、レイニー1人で受けて立つ姿勢にお互いどちらが先に動くか探り合いをした。そして…

「クルァ!」

「ッ!」

 レイニーとスリーピングアウルが動き出すのは同時だった。鉤爪で攻撃してくるスリーピングアウルにレイニーは槍で上手くいなしながら横に薙ぎ払った。スリーピングアウルがギリギリのところで体を上に上昇させたので足の付け根に槍の刃が当たっただけで、切り落とすことは出来なかった。

「やるねぇ!」

 レイニーは今の横の薙ぎ払いを避けたスリーピングアウルに驚きつつも、上空に逃げた奴を追って飛行リングに魔力を注いだ。ふわりと浮いた体にレイニーは槍を構えてスリーピングアウルをなんとか地上戦で魔法攻撃を浴びせるために刺突攻撃を繰り返した。スリーピングアウルもレイニーの連続の刺突攻撃を強靭な翼と鉤爪で防いだ。そしてレイニーが上空で攻撃を防がれたことによるノックバックで体制を立て直せていないのを見計らって、両翼をバッと広げると街の人たちが昏睡に陥っている要因の光を溜め始めた。

「(まずい!)」

 レイニーは上空で雷電闊歩を発動させると、光を放とうとするスリーピングアウルを混乱させて光の発動をキャンセルさせた。そして、その一瞬を狙ってレイニーはスリーピングアウルの片翼に向かって雷の一閃を放った。

「クァ!!!」

 雷の一閃がクリーンヒットし、片方の翼が切り落とされた。そして空を飛ぶバランスが取りづらくなったスリーピングアウルは地上へと落ちていった。レイニーはそのチャンスを見逃しはしなかった。片翼を切り落とされたことで体力を持っていかれたスリーピングアウルがぜぇぜぇと荒い息で動かなくなると、レイニーは上空で槍に魔力を込めた。そして、スリーピングアウルの頭を狙って雷の鉄槌を叩き込んだ。

「はぁああッ!!」

「クルゥアッ!!?」

 上空で飛行リングの効力を消して重力によって落下する力も加わりレイニーの雷の鉄槌は威力が倍になってスリーピングアウルの頭にクリーンヒットした。あまりの威力にスリーピングアウルの頭が街の大通りの地面にめり込んだ。やがて雷の鉄槌の効力が消えると、レイニーはひょいっとスリーピングアウルの体から離れた。

「キュ〜…」

 という悲しげな声を出してスリーピングアウルは光の粒子となって四散したのだった。

「ふぅ…。」

 レイニーが一息吐くとアクイラの街の通り沿いにある冒険者ギルドから少しづつ人が出てきた。

「も、もしかして、スリーピングアウルを…?」

「はい、私が倒しました!」

「おおお!ありがとうございます!」

「おーい、皆!お嬢さんがスリーピングアウルを倒してくれたぞ!」

 スリーピングアウルがいたところにはドロップ品がゴロゴロと転がっていて、レイニーはそれを拾い上げると、どんな素材があるのか確認した。

「羽根に鱗粉に、これは嘴かぁ…。全体的に青いし、私の新しい防具にでも作り替えてもらおうかなぁ…。」

 レイニーがそんなことを言っていると冒険者ギルドから回復魔法を使える魔法使いがやってきてレイニーの魔力を回復させてくれた。そして冒険者ギルドでスリーピングアウルの討伐完了を報告して、レイニーはナシュナの実家に戻ったのだった。

「ただいま戻りました〜。」

「レイニー!」

「ナシュナ。」

 ヒラヒラと手を振って帰ってきたレイニーに玄関で待っていたであろうナシュナがレイニーに抱き付いた。ナシュナを抱き止めたレイニーは彼女の肩をぽんぽんと叩いた。

「街の方から凄まじい落雷の音が聞こえて…。心配でした…。」

「あはは、あれは私の魔法攻撃の音ね。心配かけてごめん。」

 レイニーは謝るとナシュナは少し涙ぐんでいたようで、鼻を啜った。そして2人の元に母であるシュリーがやってきて、改めてレイニーにスリーピングアウルの討伐をしてくれてありがとうございますとお礼を言われたのだった。

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