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Level.70 帰省

Level.70 帰省

 お子様ランチが人気を博してきた頃。いよいよ冬本番が近付いて来ており、レイニーは毎朝ベッドから出るのに時間がかかるようになってきた。今日も喫茶店がお休みの平日にレイニーはベッドの中でもぞもぞと動いていた。

「(そろそろ起きないと…。でも布団が暖かい…。布団から出たくない~…)」

 そんな葛藤を続けていると、ふとレイニーの部屋の扉がノックされた。

「レイニー、お客さんが来ておるぞ。」

「えっ!?い、今行く!」

 ザルじいがレイニーの部屋の扉の前にいることを察知したレイニーは慌てて布団から飛び出すと、衣服がしまってあるクローゼットを開いて、冬服を取り出して着込んだ。鏡の前で変な箇所がないか確認をしてから、部屋を出てリビングを通らずに、洗面所に向かって軽く顔を洗って髪形を整えてからリビングに向かった。

「お待たせしました…ってナシュナじゃない。」

「おはようございます、レイニー。今日は突然の訪問になってしまってすみません…。」

「いや、大丈夫だよ。それでこんな朝早くにどうしたの?」

 レイニーがリビングに行くと、そこでザルじいの淹れてくれたコーヒーを飲んでいたナシュナがレイニーに気付いてくれた。レイニーもザルじいの隣に座ると、ザルじいがコーヒーの準備をしてくれた。そしてレイニーがナシュナに今回の訪問の目的について訊ねるとナシュナはコーヒーを一口飲んでから、話をしてくれた。

「レイニーは私の実家の稼業はご存知ですか?」

「えっと、確かお米農家さん…だったっけ?アクイラって街の…。」

「ええ、そうです。それで私近々アクイラの街に帰省することになってまして、年始の餅つきのお手伝いに呼ばれているんです。」

「年始の餅つき…?この世界でも餅つきがあるの?」

「この世界も…ってことはレイニーのいた世界でも餅つきがあったんですね!私たちの家では毎年正月にお餅をついているんですが、そのついた餅を今年一年お世話になったレイニーたちにもお裾分けしようかと思いまして…。」

「そんな!私たちもお餅を貰えるなんて…!」

 ナシュナの話は正直美味しい話だったが、お世話になったお礼にお餅を貰うのはなんだか申し訳ない気持ちになってしまうので、レイニーは両手をぶんぶんと左右に振った。

「レイニーには沢山助けてもらいましたし、とってもお世話になった大事な人なんです。どうか私からの気持ちだと思って受け取ってください。」

「い、いいの?」

「はい!」

 レイニーが申し訳なさそうに眉毛をハの字に下げながらもナシュナの話に乗ると、レイニーの分のコーヒーをザルじいが淹れてきてくれた。

「ザルじい、今年はナシュナの家でとれたもち米でできたお餅が食べられるよ!」

「おお、ナシュナの家のもち米なら白玉粉の時にお世話になったからのう。楽しみだわい。ナシュナ、悪いのう。」

「いえいえ。それで、レイニーも一緒に私の実家に来ませんか?」

「えっ、ナシュナの実家へ?」

「はい。両親にも紹介したいですし、ちょっとレイニーに頼みたいこともあるんで…。」

「?私に頼みたいこと…?」

「はい。詳細は実家の両親から話があるかと思いますので…。出発は3日後です。私の屋敷の所有する馬車で向かいますので、朝9時にお迎えに来ますね。」

「分かった。その日はよろしくね。」

「ええ。ザルじい、コーヒー美味しかったです。ありがとうございました。」

 そういってナシュナはレイニーの家からテレポート結晶でシュンッと姿を消した。レイニーはザルじいの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、さっきのナシュナの話を確認していた。

「3日後っていうと、そろそろ年末の大掃除とかおせちづくりを始めなきゃいけない頃ね…。ナシュナの家での滞在中、ザルじいには家事とか頼んじゃうけど、いい?」

「ああ。いつもレイニーがグランドクエストに行っている間、わしがこの家を守っておるから、数日くらい…。」

「でも、今回は年末だし、私も手伝いたいからナシュナの家の用事が終わったらすぐ帰ってくるから。」

「すまんのう。」

「いいって。」

 こうしてレイニーはナシュナの誘いでナシュナの実家があるアクイラの街まで一緒に行くことになり、3日後の12月の終わりごろ、レイニーは9時に迎えに来てくれたナシュナの屋敷の馬車に乗り込み、アクイラの街へと出発した。

 馬車の中ではレイニーのいた世界での年末年始の過ごし方やおせちと言った正月の料理についての話で盛り上がり、ナシュナはレイニーたちが作ったおせちを食べてみたいということで、正月の三が日が終わったら、レイニーの家にお泊りに来ることが決まったのだった。

 そうしておしゃべりをしながら馬車に揺られること数時間で、レイニーたちはナシュナの実家があるアクイラの街に辿り着いた。アクイラの街には雪が降り積もっており、少しピーゲルの街よりも気温が低い気がした。レイニーが身震いをしていると、馬車から下りた先には、ベーゲンブルグのナシュナの屋敷と同じくらい大きい屋敷がドーンと構えていた。

「ここがナシュナの実家…、でかい…。」

「さ、レイニー、家の中に入りましょう。」

「あ、うん!」

 トランクを持ってナシュナの後を追いかけてレイニーはナシュナの実家に初めて訪問することになった。

「ただいま戻りました。」

「おかえりなさい、ナシュナ。」

「ただいま戻りました、お母様。」

 ナシュナが"お母様"と呼んだ女性は気品溢れる佇まいでドレスなどは着込んでいなかったが、お金持ちの奥様って感じをびんびんに感じる雰囲気を醸し出していた。ナシュナの隣にいるレイニーに気が付くと、ナシュナの母親は優しく微笑んだ。

「あなたがナシュナの言っていた、レイニーさんですね。我が娘がお世話になっております、ナシュナの母のシュリー・メロウといいます。遠いところからわざわざありがとうございます。荷物はナシュナの部屋に運んでおきますから、私の夫にご挨拶ください。」

「初めまして、レイニーといいます。よろしくおねがいします、シュリーさん。」

 レイニーは丁寧な言葉遣いで自己紹介をしてくれたナシュナの母親のシュリーに挨拶を済ませると、屋敷の執事であろう男性に持っていたトランクを持ってもらった。そしてシュリーの案内で、屋敷の中を歩き、とある部屋の扉の前に辿り着くとシュリーがコンコンコンとノックをした。

「ギリー、ナシュナが帰ってきましたよ。」

「入ってくれ。」

 シュリーに促されて部屋の中に入るとそこは書斎のようで、ナシュナの父であろう男性が何やら書き物をしているようで、机に向かっていた。

 ナシュナとレイニーが部屋に入るのを確認すると、シュリーが一歩前に出て紹介をした。

「ギリー、ナシュナとそのご友人のレイニーさんです。」

「ただいま戻りました、お父様。」

「初めまして、レイニーと言います。ナシュナさんの職場の喫茶店の店長をしております。」

 ナシュナとレイニーの挨拶を聞くと、シュリーから"ギリー"と呼ばれていたナシュナの父親が顔を上げた。渋い印象を受ける男性でナシュナの様子に似た金髪に青い瞳を持っていた。

「ナシュナがお世話になったそうだな、私はギリガイア・メロウ。ナシュナの父です。今回はわざわざ雪深いこの土地まで来てくださってありがとうございます。ナシュナからは手紙であなたの存在を教えてもらっていてね。実際に会えるのを楽しみにしていたんだ。」

「そうなんですね。お会いできて光栄です。」

 ギリガイアとの挨拶を済ませると、ギリガイアはまだ仕事が残っているとかで今は席を外すことができないから、ナシュナの部屋でくつろいでいてください。と母親のシュリーから言われてナシュナと頷くと、レイニーたちは執事の案内でナシュナの部屋まで向かったのだった。

 ナシュナの部屋はベーゲンブルグの屋敷のナシュナの部屋のようにフリフリのピンクと白を基調とした女の子らしい部屋になっていた。天蓋付きのベッドにレイニーは"ああ、ここもそうなんだ…"と思っていると、ナシュナが沢山あった荷物の中からコーヒーを淹れるための器具のセットを取り出したので、レイニーはびっくりした。

「コーヒーメーカーまで持ってきていたのね…。」

「母と父にはコーヒーのことを細かく書いていたら、興味を持ったみたいでして、是非飲んでみたいとのことだったので、コーヒーメーカーを持ってきてしまったんです。」

 そういって苦笑いするナシュナは部屋の外に待機していた執事を呼びつけ、コーヒーを淹れたいので、お湯を用意してくださいと頼んでいた。

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