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Level.7 冒険者の役目

Level.7 冒険者の役目

冒険者ギルドでの報告を済ませた頃、ザルじいもあの一軒家の契約が終わったようで、レイニーたちが宿泊施設に戻ると、ザルじいが1階の食事処で夕食を食べているところだった。

「二人ともおかえり。レイニー、冒険者ギルドはどうじゃった?」

「えっと、森は危険だから冒険者になってみたら?って誘われて、あれよあれよと初心者向けの講習会に参加することになった…。」

「ほう!レイニーが冒険者になれば、心強いことこの上ないじゃろうて!」

「ありがとう、ザルじい。魔物は怖いけど私も頑張ってこの世界で稼げるようになってみせるね!」

 決意を新たにするレイニーをリトとザルじいが温かい眼差しで見つめたのだった。

 ――――――

 翌日。リトの護衛もあり、レイニーとザルじいは森の小屋に戻り、早速荷造りを開始した。とはいってもレイニーはこの世界に来たばかりなので、自分の荷物はほとんどなく、荷物はザルじいお手製の料理用器具ばかりだった。

「いやぁ…、一人でこの森に住んでいた頃から料理用器具の開発が趣味でのう。気付いたらこんなに増えていたわい。」

 ザルじいが"ほっほっほっ"と笑っているのを横目にレイニーはザルじいの作った料理用器具を次々とまとめていき、リトが手配してくれた馬車に乗せていった。

 2時間ほどで荷造りは終わり、久しぶりの森の小屋での夕食となった。この小屋で過ごすのも最後だと思うと、ほんの数日しかお世話になっていないレイニーでも離れるのが惜しいと思った。

「ザルじいからしてみれば20年以上住んできた家だもんね…。離れがたいよね。」

「わしはそんなに悲しんでおらんぞ。むしろ新しい家のキッチンを早く使ってみたいとわくわくしておるわい。」

「現金だなぁ、ザルじいは…。」

 呆れたように失笑するレイニーにザルじいは"レイニーだってあのキッチンで料理するのが楽しみなんじゃろ?"と言われて、図星を当てられて、レイニーは恥ずかしそうにそっぽを向きながら、"まぁね!"と答えた。リトと共に賑やかな夕食を終えると、この家で最後になる夜を明かしたのだった。

 翌日。レイニーは先に起きていたザルじいとリトと共に朝食を食べると、ザルじいが馬車を操って、リトが馬車の周りの警備をしつつピーゲルの街へと向かった。

 夕方になって街に着くと、リトの母親であるランラが街の入り口で待っていてくれたので、直ぐにレイニーは馬車から下りて、挨拶に向かった。

「ランラさん!お出迎えありがとうございます!今日から宜しくお願いします!」

「はい、よろしく!荷解きとかの手伝いが必要でしょ!私今日は夜まで付き合うから!」

「すみません、ありがとうございます!助かります!」

 レイニーがランラと話している間にザルじいが操っていた馬車が街外れの今日からレイニーたちの家になる住居に到着し、リトとザルじいがレイニーたちを呼んでいた。

ランラとリトの父親のロレット、そして微力ながらにお手伝いをしてくれた弟のルークと共にレイニーたちは住居の掃除と荷解きを行った。

 埃だらけだった家をランラとレイニーが掃き掃除と拭き掃除をやったことでぴかぴかになった。二人の活躍に男性陣から拍手を貰いながら、残るは家具の運び出しと、ザルじいお手製の料理器具の収納だけだった。

 前に住んでいた人がベッドなどの大きな家具は残しておいてくれたようなので、それをありがたく使い続けることにして、その日は森の小屋で作り置きしておいたお惣菜で夕食となった。

 前の人が残しておいてくれたベッドは下見に来た時には埃だらけだったのに、今日の晴れ間にランラが箒で埃を叩き、天日干ししてくれたことで、太陽の光の香りがほんのりする心地よいベッドになっていた。

 そんな温かなベッドでレイニーは初めての場所とは思えないほど熟睡したのだった。

 さらに翌日。残っていた荷解きを全て終えると、レイニーとリトは初心者向けの冒険者ギルド主催の講習会に参加するべく、シュッツガルドという街まで馬車で向かうことになった。

「それじゃあ、ザルじい、行ってくるね。」

「ああ。気を付けていってらっしゃい。リト、レイニーのこと頼んだぞ。」

「おう、任せといて。」

 新しい住居で初めての外出をすることになったレイニーは少しの緊張とわくわくした気持ちでシュッツガルド行きの馬車に乗った。1時間も馬車に揺られれば、シュッツガルドには着くことができた。

「ここがシュッツガルドって街かぁ…。ピーゲルとはまた違った趣…。」

 シュッツガルドもヨーロッパ調のようなおしゃれな街並みだったが、ピーゲルの印象的な赤い屋根ではなく、ここでは青い屋根と白い外壁が印象的な街だった。

「レイニー、シュッツガルドの冒険者ギルドはこっちだよ。」

 クエストで何度かこの街に来ているらしいリト案内の元、レイニーは今日講習会が開かれる冒険者ギルドに向かって、参加受付を済ませると、講習会会場の冒険者ギルドのホールに通された。

 講習会が始まる時間が近付くにつれて、参加者が続々とホールに入ってくるのを見て、レイニーはこんなに冒険者になる人がいるのかと衝撃を受けた。そして始まった講習会。レイニーは初めて聞く名前の魔物や魔物の行動パターンに対しての避け方、もし自分より明らかに強い魔物との戦い方、武器の扱い方、そして冒険者としての仕事内容などが全3回に分けて、行われた。

 どの話もレイニーにとっては右も左も分からないことだったので、メモを取るのに必死だった。そして全3回の講習会の後、冒険者登録をするかどうかの書類が配られた。

 リトは既に冒険者として登録してあるので、その紙は関係なかったのだが、レイニーはペンを持ったまま、その紙と睨めっこすること数秒。固まってしまっているレイニーにリトが心配になって声を掛けようかと思った時、参加の間を巡回していた今回の講習会の講師であるエレナという女性が近付いてきた。

「冒険者になるのが怖いかしら?」

「え…、あ、はい…。魔物と戦ったことも見たこともないので…、正直言って怖いんです。」

「そうよね…。私もね、冒険者になるか迷っていた時にあなたみたいな悩みを抱えていてね。魔物と戦うのが怖かったの。そしたら、一緒に冒険者になろうって声を掛けてくれた幼馴染がね、冒険者は魔物と戦うことだけじゃないって教えてくれたの。この広い世界の美しい景色を見て回ったり、困っている人を助けるのが冒険者の役目だって教えてもらったの。あなたも魔物と戦うことばかりではなくて、もっと周りを見てみるといいんじゃないかしら?」

「魔物と戦うだけじゃない…。」

 レイニーはエレナから聞いた話で既視感を覚えた。それはザルじいが教えてくれたこの世界で生きようとおもったきっかけ。この世界の美しさと世界で生きる人たちの力強さだと。その言葉を思い出したレイニーはペンをぎゅっと握って、冒険者の登録書類にサインをした。

 レイニーが無事に登録書類にサインしたことで講師だったエレナは笑顔で書類を受け取り、そしてリトの方を見た。

「君は確かピーゲルを拠点としているブロンズランクのリト・アングレーくんだったかな?冒険者の初心を忘れずに頑張ってね。」

「あ、はい!」

 そう言うとエレナはレイニーの冒険者登録書類を持って席を離れていった。次第に講習会を受けていた新米冒険者たちは席を立っていて、レイニーたちはいつの間にか取り残されてしまっていた。

「さて、ピーゲルに帰るか!」

「うん!」

 全3回の講習会を終えて、レイニーとリトは帰りの馬車の中ではぐっすりと熟睡しており、馬車の業者さんが声を掛けてくれなければ、家に帰れないところだったほどだ。

 リトが新しい家まで送り届けてくれると、丁度いいタイミングで家からザルじいが様子を覗きこんできた。

「おや、二人とも帰ってきたんじゃの。ほれ、夕飯ができておるから、手を洗って食べるぞ。リトも一緒にどうじゃ。」

「え、俺もいいの?」

「リトも是非食べて行って。今日は講習会に付き合ってくれたし。」

そういってレイニーはリトの腕を引いて、家の中に招き入れた。レイニーたちが全3回の講習会に参加している間にザルじいは家の中を綺麗に装飾したようで、家を出る前の殺風景な見た目からおしゃれな感じの家に変わっていた。

「こんだけ1階が広いなら、二人で何かお店でもやったらどう?」

「お店かぁ…、ザルじいはどう思う?」

「そうじゃのう…、お店を開いてみるのもいい案じゃの。どんなお店にするか考えただけでもわくわくするわ。」

「それなら、料理屋さんとかはどう!?二人の作る料理がこんなにも美味しいんだから、売れるよ!」

 リトからの提案に二人が顔を見合わせた。料理屋ということは飲食店…それは考えつかなかったと、レイニーは目からうろこだった。そんな話をしながらいつかこの家で飲食店を営むことができたら、楽しそうだなぁとレイニーは思ったのだった。

 ――――――

 翌日。この日はシルビーから冒険者に登録した後の依頼の受注の仕方などの軽い説明を受けるため、冒険者ギルドを訪れていた。

「レイニーちゃん、リト、おはよう。聞いたよ、講習会の最後の登録書類にサインしたんだってね!これで晴れて冒険者になった訳だけど…。冒険者としての役割のお話をします。」

「ありがとうございます、シルビーさん。はい、宜しくお願いします。」

「うんうん。それでね、まず冒険者としての役割は魔物の討伐、薬草などの自然界のアイテムの採取、人探しなどの個人的依頼に分かれます。クエストはあちらの掲示板に毎朝8時のギルド開業時間と同時に逐一張り出されます。それから依頼の書かれた用紙をこちらの受付カウンターに出していただいて、私たち受付嬢が承諾のハンコを押して受注完了になります。ここまで大丈夫?」

「依頼は掲示板に張り出されるんですね…。分かりました。大丈夫です。」

「で、依頼を完了出来たら、また受付カウンターで依頼の項目が描かれたさっきの用紙と、魔物討伐依頼だったら魔物の核となっている魔石を、採取の依頼だったらその対象の決められた数の物を。そして個人的依頼だったら、その依頼主からの依頼完了のサインを用意してもらいます。それを提示してもらってこちらで確認したら、報酬金とドロップ品の返品をして依頼はクリアになります。冒険者はこうやってお金を稼いでいくのよ。」

「大体の内容は講習会で聞いていた内容に変わりはなさそうでしたので、良かったです。」

「レイニーちゃんはまず依頼を受ける前に武器と防具を調達した方がいいわね。武器がないと心配でしょ?この街に武器屋さんと防具屋さんがギルドの斜め向かいにあるから、覗いてみるといいわ。」

「なにからなにまでありがとうございます。早速行って見ます!」

 シルビーから冒険者としての依頼の受け方の話を聞いたレイニーたちは武器と防具の調達をすべく、シルビーからおすすめされたギルドの斜め向かいにある武器屋に立ち寄ってみることにした。

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