Level.69 お子様ランチ
Level.69 お子様ランチ
ドルグの防具屋から冒険者ギルドに移動したレイニーたちがジルビドに指輪ができたことを報告すると、直ぐに様々な都市にいる冒険者たちに普及させるように防具屋に手配する運びとなり、その指輪は"飛行リング"と呼ばれる魔道具になった。
飛行リングが普及されるようになった頃。レイニーたちの住むピーゲルの街にも冬の足音が近付いて来ていた。日に日に寒くなっている中で、レイニーたち喫茶店には外の寒さを忘れるかのように温かい料理でほっこりする人が増えてきていた。そんな時、レイニーはお客さんの中で子供たちの姿を見た。この喫茶店には子供が好きそうなハンバーグやピザトーストなどの料理があるが、もっと家族連れで着ても皆で料理を楽しむことができればと思った。そこでレイニーはザルじいに相談することにした。
「家族で楽しめる料理か…。それならお子様ランチなんてどうじゃ?」
「お子様ランチ!それなら子供はわくわくするね!でもお子様ランチってどんな料理が乗っていたっけ?」
「そうじゃのう、ハンバーグは大前提として…。ケチャップライスとかコーンライス、後は野菜じゃが…。」
「子供は野菜の好き嫌いがあるからなぁ…。子供の意見も聞きたいけど、どうやって調査すれば…。」
「それなら、リトの兄弟とかナシュナの旦那さんにも年の離れた弟と妹がいるとナシュナが言っておったぞ。」
「よし!じゃあ、その子たちに試作品を食べてもらって意見を貰おう!私はリトやナシュナに今回のことを話しておくから、ザルじいは試作の料理の準備をお願い。」
「あい、分かった。」
こうしてレイニーは喫茶店のメニューとしてお子様ランチを作ることにした。ザルじいはお子様ランチの代表格でもある料理たちを試作し、レイニーはリトには直接、ナシュナには手紙で今回のことを話して協力を仰いだ。数日後には、レイニーたちのお店が休日となってあり、その場にはお子様代表の皆さんと親代わりの兄弟たちが集まっていた。
「今日は皆集まってくれてありがとうございます。お子様ランチ試食会へようこそ!今日は沢山料理を作ったので、意見を頂戴ね。」
「はーい!」
リトの弟のルークが元気よく返事をし、シリウスの弟のマルクス、そして妹のアイリスが少し恥ずかしがるような仕草をしつつも、シリウスに"返事は?"と言われて、小さな声で"はい"と答えてくれていた。
そんな皆の期待を背負ってザルじいが考案した料理たちがリトとナシュナの配膳で、テーブルの上に並べられた。喫茶店ではまだ出していない料理の数々にルークだけでなく、マルクスやアイリスも驚きと喜びの声を上げた。そしてそわそわとしだして、レイニーからのGOサインが出るのを今か今かと待っていた。
「それでは。いただきます。」
「いただきます!」
レイニーが合掌すると子供3人はそれを真似して復唱し、各々スプーンを持ってどれから食べようかと迷っているようだった。ザルじいが用意してくれたのは、ご飯ものでケチャップライスとコーンライス、おかずに目玉焼きハンバーグとから揚げ、ポークステーキ、つくね。そしてナポリタンやミートソースの小さいバージョン、野菜としてはアスパラガスのベーコン巻きやミニトマトのマリネ、簡単ポテトサラダ、野菜と鶏肉の黒酢炒め、などが並んでいた。それを子供たちがそれぞれ食べて料理の感想を言ってもらい、レイニーたちがそれをメモしていく形を取った。全部の料理を出して食べてもらってからレイニーは分かったことがあった。
「(野菜が不評…!)」
どれも美味しくできたはずなのに、子供たちは野菜が嫌いなようであんまり手を付けてくれることがなかった。レイニーはがっかりしていると、ルークが申し訳なさそうにレイニーを見た。
「レイニーお姉さんごめんなさい…、折角作ってもらったのに…。でも、どうしてもピーマンが…。」
「僕もピーマンとか人参が嫌いで…。」
「私はトマトが…。」
子供たちが次々と明かす嫌いな野菜のオンパレードにレイニーの頭の上にはズシンズシンと課題がのしかかった。レイニーはとりあえず、嫌いな野菜をメモして、子供達には帰ってもらったのだった。お店に残ったレイニーとナシュナとザルじいは今回の試食会での反省会を開くことにした。
「子供たち目線でメニューを作ったつもりじゃったが、ここまで野菜嫌いが進んでおるとは思ってもなかったぞ…。」
「ザルじいが一生懸命考えて作ったのは知っていますが…。子供たちからしたら、どんな野菜でも嫌いなものの姿が見えてしまうと避けて食べますよね…。」
「特に黒酢炒めは不評だったわ…。ピーマンも人参もトマトも入っていたから、一番減りが遅かったわね。どうやって野菜を食べてもらうかだけど…。」
3人でうーんと頭を捻っているとルークを家に置いてきて、再びお店に戻ってきてくれたリトが3人の様子を見て、苦笑いをしていた。
「帰り道でルークに好きな食べ物について聞いたけど、あいつはハンバーグが一番で次にグラタンが好きって言ってたぞ。後俺に似て肉料理が好きみたいだな。」
「肉料理好きは兄弟そろってかぁ。って…グラタン?」
「ああ。ルークはこの寒い時期になってグラタンではふはふしながら食べるのか好きなんだって言ってたぞ?」
「それだ!」
「えッ?」
リトからルークの話を聞いてるとレイニーは一つの料理を思いついた。
「嫌いな野菜たちもホワイトソースで包み込んじゃえばいいんだよ!」
「その手があったか!」
レイニーのアイディアにザルじいもポンッと手を叩いて、次なる試食会のために野菜たっぷりのグラタンの試作を開始したのだった。
ザルじいが厨房で試作を作っているときに、レイニーはもう一つ料理を考えていた。
「そういえばアイリスちゃんはトマトが苦手だって言ってたけど、トマトを使ったナポリタンも、ミートソースも平気そうに食べていたよね?」
「ええ…。アイリスちゃんは生のトマトが嫌いなようですね…。」
「それなら、ハンバーグに野菜のソースを掛けちゃえば…。」
「肉料理と一緒ならルークも食べてくれると思うぞ!」
「ピーマンも人参も細かく切ってトマトベースのソースにしてハンバーグに掛ければ美味しそうだし、子供たちも好きな味に仕上げられるかも!早速ザルじいに話してくる!」
こうしてレイニーたちは子供たちの嫌いな食材をどうにかして食べてもらえるように試行錯誤を繰り返した。そして1週間後。再び集まってくれた子供たちにレイニーは感謝の言葉を述べた。子供たちは早く料理を食べたいと視線でせがんでくるので、レイニーは苦笑いをしながら、ナシュナとリトにお子様ランチを運んできて持った。完成したお子様ランチには、ケチャップライス、ハンバーグの野菜ソースがけ、野菜たっぷりグラタン、ナポリタン、コーンスープにデザートにはプリンが付いていた。可愛らしくケチャップライスはクマの形に成型され、お皿も可愛いものをなるべく選んだ。3人の子供の前にお子様ランチを運んだ途端、3人は目を輝かせていた。
「お、お兄ちゃん、これ食べていいの?」
「ああ。レイニーが一生懸命考えて、ザルじいが一生懸命作ったお子様ランチだ。ちゃんと味の感想も頼むぞ。」
「いただきます!」
ルークが兄であるリトに向かって鼻息を荒くしながら、食べてもいいか尋ねるとリトが苦笑いしながらルークにGOサインを出すとルークは直ぐにスプーンをを手に取り、野菜がたっぷり入っているグラタンから食べ始めた。冬の時期のグラタンはとても体が温まる料理だ。ルークもはふはふいいながらグラタンを食べていると、目を輝かせた。
「このグラタンすっごく美味しい!」
ルークの様子を見ていたマルクスとアイリスも兄であるシリウスの顔を見てから、スプーンを手に取ってぱくりとグラタンを食べた。するとルークと同じく目をキラキラと輝かせて、次から次へとグラタンを口に運んでは、その熱さに悶絶しつつ、グラタンを一番先に完食させた。そして次に目を付けたのは、野菜ソースがかかったハンバーグだった。今回は野菜をコロコロに切ってトマトベースのソースに仕上げていた。ハンバーグは前回の試食会でもそれだけは高評価を貰っていたので、それを採用し野菜ソースだけに力を注いだ。3人がハンバーグを口に入れる瞬間を見守っている大人たちの視線に子供たちは緊張しているようだった。が。ハンバーグを食べた瞬間、皆何も言わずにパクパクとハンバーグを平らげてしまった。
「ど、どうだったんだ、マルクス、アイリス!」
「ハンバーグ、すっごく美味しい!この、ソースがね、ハンバーグに負けないくらい美味しかったの!」
焦った様子でマルクスとアイリスに訊ねたシリウスに二人は満面の笑みで、感想を言ってくれた。レイニーが一生懸命考えて作り出した二品は子供たちに大好評でおかわりがないかと聞かれるほどでレイニーは"まだ食べる人!"と声を上げると3人が元気よく声と手を挙げてくれたので、お子様ランチの試食会は大成功に終わったのだった。
その後、喫茶レインではお子様限定のお子様ランチの販売を開始した。それは子供たちの間でも噂になっているようで、喫茶店を訪れた家族連れの子供が他の子供が食べているお子様ランチに興味を持ってそれを注文する…という連鎖が起きており、レイニーたちが苦労して考えた野菜たっぷりのお子様ランチは喫茶店の中でも上位に入る人気商品に上り詰めたのであった。




