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Level.68 月の石

Level.68 月の石

「この浮島落ちてる!?」

 レイニーたちは地面に這いつくばることしかできず、次第にスピードを上げて落ちていく浮島にレイニーたちは為す術がなかった。

「(このままじゃ地上に激突…!)」

 レイニーがぎゅっと目を瞑っていると、ふわりと自分の体が浮く感覚がしたので、目を開けた。するとレイニーの服のフードを持って飛んでくれているフーカがいた。

「フーカ!?重いでしょう?そんな持ち上げなくていいから…」

「ダメです!直ぐに飛行船に戻って離脱すべきです!」

 フーカはレイニーを、ミナはリトを持ち上げているようで、エミュレットとシオンはエミュレットの精霊たちが服を掴んで持ち上げていた。精霊たちが諦めていないのでレイニーはその精霊たちの気持ちを汲み取ろうと、ぎゅっと拳を握ると、フーカにこう言った。

「フーカ、私に風魔法を掛けて!ミナのこと手伝ってリトを早く飛行船の操縦席に!」

「!はい!」

 フーカがレイニーに風魔法を掛けるのを確認して、フーカが持ち上げなくても浮遊できるようになると、レイニーはシオンのことを必死に持って飛んでいる精霊の手伝いをした。

 なんとかシオンとエミュレット、そして意識を失っているセレーネを飛行船の中に入れると、リトがようやくフーカとミナの手助けの元、飛行船の操縦席に戻ってきたので、レイニーたちも飛行船に乗船した。

「リト、離脱できそう?」

「ああ、エンジンとかは大丈夫だ!急ぐぞ!」

 リトの操縦の元、レイニーたちは落下する浮島から離脱することができた。ふわりと浮かんだ飛行船はゆっくりと浮島から離れ、今レイニーたちが浮島でどこの上空を飛んでいるのかがようやく理解できた。

「私たち海の上に来ていたの…?」

 レイニーがそうやって小さく呟いた瞬間、浮島が海の上に物凄い水飛沫を上げながら、着水した。ザッパァンという音と共に浮島が浮かんでいるのを確認してから、リトはレイニーを呼んだ。

「レイニー。これからどうする?」

「そうだねぇ…。海ってことはアルシュッド王国の港町が一番近いのかな…。テレポート結晶を使えば一瞬でピーゲルの街に行くことができるけど、またこの浮島の調査をしなくちゃいけないから、どうにかしてこの場所の座標を割り出さないといけないし…。」

レイニーとリトがうんうん唸っていると、乗船しているシオンとルナの様子を窺っていたフーカとミナが操縦席の方までやってきて、レイニーたちの会話に混ざった。

「主、ここがどこなのか知りたいのですか?」

「ミナ。そうなの。ここがどこの国の海なのか分からないと帰るのが難しく…。」

「私たちが遥か上空に行って確認してきましょうか?」

「えっ、いいの?」

 ミナからの提案にレイニーはびっくりして彼女を見た。

「少々お時間をいただくことになりそうなので、飛行船の燃料の問題からもう一度浮島に着陸してお待ちいただけると幸いです。」

「分かった。ミナ、フーカ、よろしくね。」

「はい。」

 二人が揃って返事をすると、飛行船の壁をすり抜けて遥か上空へと向かって行った。その間にレイニーたちはリトの操縦の元、海に着水した浮島にもう一度着陸した。その時の衝撃なのか、ルナとシオンの目が覚めたようだった。

「レイニーさん、お二人が目を覚ましました。」

「分かりました。今行きます。」

 リトとこれからの話をしていたところにエミュレットがやってきて、そう報告してくれたので、レイニーは飛行船の中の座席で横たわっていた二人に近付いた。

「シオンさん、大丈夫ですか?首元の傷はエミュレットさんが処置してくださいました。」

「レイ、ニーさん…。」

 ゆっくりと目を開けて今の状況を確認しようとしているシオンにレイニーは浮島がその浮力を失い海に着水したこと、そしてレイニーの精霊たちがこの場所がどこなのかを上空から確認しに行ってくれていることを話した。

「そうだったんですね…。なんとか皆怪我がなくてよかったです…。」

「う…ッ」

 シオンの隣で寝ていたルナがきょろきょろと辺りを見渡した。

「ここ、は…?」

「ルナ!」

「シオン…?どうしてあなたがここに…。」

「話せば長くなるわ。レイニーさんの精霊たちがここの場所の位置情報を得ている間に説明するわ。」

 ルナは静かにこくりと頷くと、シオンの話を聞きながら、飛行船の中で縄で縛られている母セレーネを見た。そしてすべての話を終えると、ルナは申し訳なさそうに眉を下げた。

「私の母がご迷惑をおかけしたようで…。それに私も母の魔法操術によって操られ、シオンに牙をむくなんて…。何度謝っても…。」

「ルナが無事なだけで私は十分よ…、ルナ…。」

「シオン…。」

 シオンはすべての話をした後、後悔ばかりしているルナのことをぎゅっと抱き締めた。ルナはそんなシオンのことを抱き締め返して静かに涙を流した。

 そうしている間にミナとフーカが飛行船に戻ってきた。

「ありがとう二人とも。ここがどこか分かった?」

「はい。ここはアルシュッド王国の東の海であることが分かりました。

「東…ってことは西に進めば陸地に行けるんだな。よし、出発しよう。」

 フーカとミナの話を聞いたリトが直ぐ様操縦席に戻り、飛行船のエンジンを起動させると飛行船はふわりと浮かんだ。

 そしてそれから飛行船の燃料ギリギリでレイニーたちは数時間かけてピーゲルの街に帰ってきたのだった。

 ――――――

 月の神殿から作られた浮島から帰還して数日。レイニーとリト、そしてエミュレット、シオンにルナが同席し今回の月の都の騒動についての話し合いを始めた。

「ルナくん、病院から退院したばかりで呼んでしまって申し訳ない。母君…セレーネ様の様子は…?」

「ジルビドさん、お気遣いありがとうございます。母はまだ目を覚ましていません。ですがお医者様の話ではもう少しで目を覚ますだろう…と。」

「そうか。それなら安心だが…。今回の事件の発端の話をお願いしてもいいかな?」

「はい…。それは2か月前の出来事です。母が屋敷の納屋で探し物をしている時にあの銀色の宝石を見つけて…、それからというものの母は人格が変わったように私たちを無理矢理引き摺ってあの月の女神を祀っている神殿ごと、地面を抉り取って空に浮かべたんです。」

「その銀色の宝石は今冒険者ギルドで確かめているが、持っている者が決めた対象に浮力を付与させることができるようでね、それで神殿ごと空に浮かべることができたようだった。だが、あの大きさのものを浮かべさせるんだ、大量の魔力を溜め込んでいたよ。その魔力の暴走がセレーネ様を歪め、月の都の復興という名目のもと、あのような暴挙に出たのかもしれない。」

「あの石がすべての元凶なんです…。母があの石に取り付かれてしまった時は誰にも相談できなくて…。兄と二人でそのまま母に操られてしまって…。」

 ルナはそういうと涙をぐっと堪えて膝の上の手を握りしめた。そんなルナの表情に隣にいたシオンがそっと肩を持って背中を撫でてやっていた。

「それで、ジルビドさん。彼女たちの処遇は…?」

「セレーネ様は勿論今回石の暴走とはいえ、あんな暴挙に出てしまったので、国の魔道士団の副団長という立場は追われることになるだろう。ルナくんたち、アルテミューン家の没落は免れない。」

「はい…、私もそういう処遇を受けても仕方ないと思っています。どんな罰でも受けます。」

「だが、幸いにも浮島は海の上に着水したし、我が国や隣国アルシュッド王国への損害はない。ルナくんがそんなに気に病むことではないさ。」

 ジルビドがそう言うとルナは泣きそうな顔を上げた。そして何かを言いかけてぴたりと止まるとその言葉を飲み込んで小さな声で喋った。

「寛大な処遇、ありがとうございます…。」

 と言った。そして二人を先に退出させると、ジルビドは残ったレイニーとリトの方を見た。

「今回の浮島での調査、ご苦労だったね二人とも。」

「いえ、結局戦うことしかできませんでしたが。セレーネさんの意識が早く戻るといいんですけど。」

「レイニーくん、テレポート結晶を作り上げた君に、依頼…というかお願いがあるんだ。」

「?なんでしょうか…?」

 レイニーが首を傾げていると、ジルビドは机の引き出しから布に包まれた石を取り出した。その石を見て、レイニーはびっくりした。

「それって今回の元凶になった石ですか!?」

「いや、これは違う。月の神殿ごと浮かんでいた浮島で採掘された石だよ。この石に魔力を注ぎ込むと対象を浮かばせることができると最近分かってね。この石を使って何か冒険者たちに普及させるための魔道具を作ってはくれないだろうか。」

「魔道具…ですか。私のテレポート結晶も魔道具の類に入るんですよね?」

「ああ、そうだ。今回は錬金術を使っても使わなくてもいい。この"月の石"を加工して何か作れないか意見を欲しい。」

「…分かりました。少し考えさせてください。」

 そういってレイニーはリトと共に自宅へ帰ったのだった。月の石と呼ばれるあの鉱石をどうやって冒険者たちの役に立てようかと考えているとあっという間に1日は通り過ぎていった。レイニーが根を詰めてアイディアを絞り出していると、お茶とお菓子を持ってザルじいがレイニーの部屋を訪れた。

「また難しそうに悩んでおるのう。」

「ザルじい…。お茶ありがとう。そうなの…。ねぇ、ザルじい。もし魔力を込めて自分の体が浮けるようになるとしてどこに見つけられれば一番効力を発揮すると思う?」

「なんじゃ、難しい話を老いぼれにしてもなんの意見も出んぞ?」

「ううーん…、じゃあ、石を身に付けるとしたらどこに身に付ける?」

「そうじゃのう…、一番は首飾りじゃが…。指輪にするのも悪くないと思うぞ。一番肌に離さず身に付けていられるしのう。」

「それだ!指輪!指輪に月の石を取り付ければ飛行が簡単になるかも…。ザルじいありがとう!ちょっと出かけてくる!」

「お、おう…。また老いぼれのアイディアが採用されたようじゃの。」

 ザルじいがそんなことを言っているとは露知らず、レイニーは直ぐに冒険者ギルドの斜め向かいの防具屋に行き、先ほどのザルじいのアイディアを参考に月の石をはめ込むための指輪の土台作りを頼んだ。

 そして数日後に防具屋を訪れてみると、エミュレットが防具屋にいた。

「エミュレットさん!どうしてこの街に?」

「レイニーさん。ジルビドさんから月の石の有効活用ができるかもしれないとの一報を受けまして。そしたらこの防具屋でレイニーさんが依頼をしていたと聞きまして…。」

「ジルビドさん、もう知ってたんだ…。まぁ私も指輪が出来上がった頃かなと思って見に来たんです。」

 そんな二人の前に防具屋の主人から店の奥から戻ってきて、石をはめ込むための台座が付いている指輪を二個、ことりと置いた。

「これが頼まれていた指輪だよ。石の方はこっちで事情は知っているし、慎重に扱ってはめ込ませてもらった。これでどうだい、レイニーちゃん。」

「はい!想像通りです!ドルグさん、作っていただいてありがとうございます!」

 レイニーとエミュレットはそのまま一緒にお店を出ると、早速指輪をはめてみた。そして二人揃って魔力を石に流し込むと、ふわりと体が浮かんだ。

「ほ、本当に浮かんでる!これなら冒険者の皆が空中戦できるはず!」

「早くジルビドさんに報告しなくちゃいけませんね!」

 そういって二人でふわふわと空を飛びながら、冒険者ギルドに向かってジルビドに報告をしたのだった。

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