Level.66 月の神殿
Level.66 月の神殿
リトの操縦で浮島に上陸したレイニーたちはその浮島の様子にびっくりした。なんと浮島には動物たちが何頭か心配そうに飛行船から出てきたレイニーたちを見ていたのだ。
「動物ごと大地から持ち上げたのね…。森の先に何かあるかもしれない。みんな気を抜かずに行こう。」
「レイニーさん、それだったら私の精霊が偵察に行ってくれますよ。」
「じゃあ、森の偵察はエミュレットさんの精霊がやってくれるそうだから、私たちは少し飛行船の近くで様子を見ましょう。」
4人は飛行船から降りて近くの森の様子を見にいった精霊の背中を見送り、帰りを待った。数分もすれば、精霊は偵察を終えて戻ってきた。精霊と意思疎通のできるエミュレットが精霊から偵察の内容を聞いた。
「精霊はなんて?」
「この森の先に月の女神の神殿があって、そこから禍々しい魔力を感じるって言ってます。月の女神の神殿って最近話題になってた消えた神殿ですよね?」
「そう。その神殿と月の都の末裔の一族と、関係があることは確かです。偵察も終わったし、その神殿に行ってみましょう。」
「はい!」
4人はプラチナランクのリトを先頭にして森を突き進んだ。やがて森を抜け、レイニーたちの前に荘厳な神殿が姿を現した。
「これが月の女神を祀ってる神殿…。」
シオンがその神殿に一歩踏み出そうとした瞬間、レイニーは殺気を感じてシオンの後ろに近寄る怪しい影を見つけてシオンに叫んだ。
「シオンさん危ないッ!」
シオンのそばにいたエミュレットがシオンの頭を無理やり下げてシオンに向かって襲いかかってきた人物は空振りをすると高くジャンプしてレイニーたちから距離を取った。
太陽の光で影から次第に襲ってきた人物の顔が見えた時、シオンは驚いた顔をしていた。
「ルナ…?ルナ!私よ!シオンだよ!?どうして襲ってきたりなんて…。」
「シオンさん離れて。彼女は今、私たちの味方では無さそうよ。」
日の光を浴びて白銀のゆるふわな髪がキラキラと輝き、瞳は不気味なほど真っ赤でレイニーはなんだかウサギのように見えてレイニーはこれが月の都の末裔の血筋か…と思っていると、ルナは近くにあった大きな石を持ち上げて再びシオンに襲い掛かろうとするので、エミュレットがシオンを誘導して攻撃を避けた。
「今のルナさんは様子がおかしいです。なぜシオンさんを襲うのか、そしてシオンさんからの呼びかけにも応じない理由…。」
《ルナ…ルナ……。障壁を破って侵入してきた邪魔者を排除しなさい》
「はい…、お母様…。」
「!!?」
レイニーたちにも聞こえた空からの声にルナは頷くと、重そうな石をレイニーたちにも向かって投げてきた。
「おっと…!レイニー、どうする!?この子一般人だろ?武器で倒すのは…。」
「気を失わせれば攻撃をしてこないはず!私がシオンさんを守るからリトはルナさんの意識を失わせて!」
「了解!」
レイニーの指示でリトは冒険者としてのトップスピードで駆け抜けてルナとの距離を詰めるとルナが石で攻撃しようと手を振り上げた瞬間、その手首を掴んでクルッと背後に回り込むと地面に彼女を叩きつけた。そして締め技を繰り出して凶器じみた石ころから手を離させるとリトは首に手刀を落としてルナの意識を飛ばした。
「ふう…。一般人でしかも女の子が相手だと力加減が難しいぞ…。」
「お疲れ様、リト。シオンさん、この人がルナさんで間違いないですか?」
「はい…。この子が私の探していたルナです。でも、どうして私に襲いかかってくるなんて…。」
「シオンさん、あなたにも聞こえたと思いますが、ルナさんに邪魔者を排除しろと言ったあの声、聞き覚えはありますか?」
「え…?あ…、そういえばセレーネ様の声に似ていたような…。」
「恐らく神殿の中にセレーネさんはいて、娘のルナさんを何かしらの力で操っていたことになりますね。」
「レイニーさん。少しいいですか?」
「はい、エミュレットさん、どうぞ。」
4人は意識を失っているルナが再び意識を取り戻した時に襲いかかってこないためにも彼女には悪いが縄で縛っておいた。
そして、神殿の方角から聞こえた声の正体について話し合っているとエミュレットが手を挙げて発言権を獲得した。
「私の記憶では国の魔道士団の副団長のセレーネ様の得意な魔法は人でも物でもそれを操る力…魔力での操術です。この先の神殿にセレーネ様はいて、そこからルナさんを操ってシオンさんを襲わせた…のではないでしょうか。」
「確かに…セレーネ様の得意分野は操術だった…。でも実の娘を…。」
「今は実の娘も関係なく、戦力にするほど周りの状況を見られてないのかもしれませんね。神殿に急ぎましょう。」
話し合いの結果、レイニーとシオンとエミュレットは神殿に向かい、リトは操縦ができる唯一の人材なので、気を失っているルナの見張りと飛行船の見張りも兼ねてやってもらうことになった。
3人は神殿にササッと近付き、周りに誰もいないことを確かめると、荘厳な神殿に足を踏み入れた。
レイニーはエミュレットと共に教えてもらった魔力探知で神殿内部を捜索したところ、神殿の奥に進むための道に1人、男性がいるようでレイニーたちはその男性をなんとかして退かせて先に進む必要があった。エミュレットとレイニーが頷くとまずレイニーが角を飛び出して行手を阻む男性に体術で行動不能にすべく戦った。今度の相手は男性ということと武器を持っていたこともあり、レイニーは少し劣勢かと思われた、その時。
「フーカ!ミナ!」
レイニーが戦闘中にパンパンと手を2回叩くと何もない空中から2人の精霊が姿を現した。
「主人様の危機。手助けします!」
「この目の前の男を痺れさせればいいのですね?」
「お願い!2人とも!」
「「はい!!」」
レイニーが精霊2人を呼んで魔法使ってフーカが風の力でふわりと男性を浮かべ、その隙にミナが男性の背後に回って微弱の電流を流して感電させ、意識を飛ばした。最後はガクンと力が抜けた男性にシオンが近づいて来ると、シオンはびっくりしていた。
「リュンヌさん!?」
「シオンさん、この人も知り合いですか?」
「あ、はい。ルナの兄のリュンヌさんです。まさかリュンヌさんもこの浮島に来ていたとは…。」
シオンが信じられないと言ったふうに話すと、レイニーとエミュレットはこの先も神殿の奥に進むにつれて刺客が配置されているのであろうと推測した。
そして2人でシオンを守りながら3人は神殿内部を突き進んでいった。途中何度も月の都の一族の末裔たちが行手を阻んできたので、レイニーやエミュレットが交代でシオンを守りながら戦い、一族の人たちの意識を次々に飛ばしていった。
そして、ようやく魔力感知をして禍々しい魔力が溢れている神殿の奥の部屋に辿り着くことができた。
「この部屋の先に禍々しい魔力を感知しました。そこには女性もいますね。この女性が恐らくルナさんやリュンヌさんを操った張本人…セレーネ・ファース・アルテミューン氏…。」
「シオンさん、ここからは派手な戦いになるかもしれません。それでも構いませんか?」
「はい!セレーネ様も元々はお優しい方だったのに、つい2週間前から魔道士団をお休みして人が変わったようになって…。」
「それで…ルナさんの行方も分からなくなって…ということですか。」
「はい…、どうか、セレーネ様も正気に戻してください!よろしくお願いします…。」
シオンの悲痛な思いにレイニーとエミュレットが顔を見合わせると、シオンの手を握った。
「大丈夫ですよ。ルナさんもその家族もちゃんと助けます。セレーネさんの人が変わってしまったのも何か理由があるはず…、その元凶をどうにかすれば…!」
レイニーとエミュレットは真ん中にシオンを配置して両サイドをレイニーとエミュレットが守る形で神殿奥の玉座の間にやってきた。そこには玉座に座るセレーネとその傍には銀色に輝く石がふわふわと浮いていた。
「よく、ここまで来たわね、シオン。ルナもリュンヌもせっかく操ったのにゴールドランクやプラチナランクの相手じゃダメね。使い物にならなかったわ。」
「セレーネ様!実の娘や息子を道具みたいに…っ!!」
シオンが胸に手を当ててそう叫ぶとセレーネは顔を歪めた。
「私があの子たちを産んだんだもの、どう扱おうと私の自由よ。そこの冒険者2人は私に武器で襲おうなんて…。」
「そちらから襲いかかってきたのだから、武器を取るのは当たり前なのですがね?」
玉座の間ではシオンが玉座に座るルナに似た白銀の髪の毛をハーフアップで一つにまとめ、銀色のプレートアーマーを身につけて玉座に座っていた。シオンとセレーネの話の中でレイニーとエミュレットに視線が移ったのを見てレイニーは武器である槍を構えた。
そして、それを見たセレーネは玉座から立ち上がった。
「いいわ。あなたたちには見せてあげる。この浮島から始まる月の都の一族のその力を!」
そう言ってセレーネが魔力で作った糸を玉座の間全体に飛ばしたかと思えば続々と壁がゴゴゴ…と動きその壁の裏にはいろんな種類の武器が現れた。その武器たちが1箇所に集まったかと思えば武器たちがガシャガシャと音を鳴らして形造り、やがて高さ4メートルはありそうな巨大な武器の人形が出来上がった。
「名前を付けるなら…そうねぇ…、ウェポンゴーレムかしら!さぁ、ウェポンゴーレムよ!この神殿に侵入してきた邪魔者を殺せ!」
セレーネが指示を出した瞬間、レイニーの前にモーニングスターが降りかかってきた。




