Level.65 精霊術師の力
Level.65 精霊術師の力
地面を100メートルほど抉り取ったような大地が空を飛んでいる光景にレイニーもミトも驚いた表情をしていた。
その瞬間紅鳥が何やら魔力を貯める気配を感じたので、レイニーはハッとして紅鳥の方を見た。紅鳥は喉元に魔力を貯めると火の粉を浮島に向かって放った。その火の粉の行方をレイニーとミトが追うと浮島に当たる前に何やら透明な障壁で防がれたようで火の粉はバチンッという音と共に消滅してしまった。"クェ…"と悲しそうに鳴く紅鳥にミトが寄り添い、優しく撫でると紅鳥は翼をはためかせ空に飛んでいってしまった。
「紅鳥が伝えたかったのはあの浮島のことだったんですね…。私は直ぐにピーゲルに戻って先ほどの障壁のことと空を飛ぶ浮島の存在についてジルビドさんに報告してきます。ミトさん、今回は連絡していただき、ありがとうございました!」
「レイニーさん、これは私の憶測に過ぎませんが、あの浮島には何やら良くないものがいるような気がします。どうかお気をつけて。」
「はい、ありがとうございます。」
レイニーは最後にミトに一礼するとテレポート結晶でピーゲルまで飛んだのだった。レイニーが慌てた様子で受付嬢にジルビドに急ぎの報告があることを伝えると受付嬢は直ぐに頷いてギルド長室に案内してくれた。
「レイニーくん、グレンではどういった情報が?」
「ジルビドさん、大変です!グレンの上空で浮島を発見。そして浮島には何やら見えない障壁が展開されているようで紅鳥が放った火の粉を打ち消してました。」
「浮島がすでに隣国の上空に…。これは急を要する問題かもしれない。ハルスト、飛行船の準備と図書館にいるシオンくんを呼んできてくれ。」
「はい。」
ジルビドがハルストにそう指示するとハルストはギルド長室を出て行った。そしてジルビドはレイニーに向かってこう言った。
「レイニーくんには直ぐに浮島に向かってもらう。そして見えない障壁だが…、シオンくんのご友人のルナくんは確かルナ・ファース・アルテミューンだったな、アルテミューンの名前には心当たりがある。恐らくだが、今回行方不明になっているルナくんの母君…セレーネ・ファース・アルテミューン氏が関わっているはずだ。彼女はこの国でも指折りの魔法使いだ。魔法の障壁を作ることも容易いだろう。」
「ルナさんのお母さん…が関わっていると…?」
「その可能性がある。こちらとしては今回の事件の首謀者でないことを祈るがな。」
ジルビドが顎に手を置きながら、そう話すとレイニーは今回の話の大きさがいかに強大なものか再確認した。そして図書館の禁書庫で文献を見ていたシオンと合流し、レイニーはハルストが用意してくれた飛行船に向かった。するとそこにはリトがいた。
「えっ、どうしてリトがいるの!?」
「リトくんには私の方から浮島への調査に同行してくれるよう、お願いしたんだ。」
「レイニーがシオンさんの友人の行方を探しているうちに大きなことになってるって聞いて。俺もプラチナランクだし、手伝えることなら手伝うぜ!」
「リト…!ありがとう!」
「レイニーくん、浮島に行く前にシュッツガルドに寄ってくれ。魔法障壁を壊してくれる優秀な冒険者の手配をしてある。その人物と合流してグレンの上空で見た浮島への上陸してほしい。」
「分かりました。」
「飛行線の操縦は先ほどリトさんに教え込んであります。レイニーさんリトさん、浮島での調査、よろしくお願いします。」
ハルストが飛行船の最終チェックを終えるとレイニーにそう言ってくれた。レイニーたちが浮島に行く準備をしていると、今まで黙っていたシオンが意を決したように声を上げた。
「あの!私も浮島に行くのはダメでしょうか…!」
「シオンくん…君は仮にも貴族のお嬢さんだ。何かあっては…。」
「親友のルナが浮島にいるのなら助けたいんです!ただ待っているだけでは私は落ち着いて眠ることもできません!貴族ですが、国の魔導士団の端くれです。役に立たないかもしれませんが、どうか…!」
「…分かった。レイニーくん、リトくん、シオンくんのことをよろしく頼む。」
「分かりました。」
シオンからの友を思う気持ちにジルビドは小さく溜息を吐くと、シオンを浮島へ向かわせる飛行船に同乗させることにしたのだった。
リトが飛行船の操縦桿を握ってエンジンを始動させゆっくりと浮き上がった飛行船にレイニーたちはこれから向かう浮島の調査にドキドキしながらピーゲルの街を出発したのだった。
飛行船の中でレイニーはシオンの魔法の能力について説明をしていた。
「それじゃあ、シオンさんはハインツ皇国の魔道士団の人だったんですね。それなら、あの魔法の障壁も…。」
「私の力ではセレーネ様が張ったであろう魔法障壁を壊すことはできません。そのジルビドさんが手配してくださった魔法使いの方がどれほどの魔法使いか分かりませんが…。そう簡単に破れることは…。」
「そうなんですね…。私も手配された魔法使いに心当たりはありません。でもジルビドさんが信頼を置いているのなら、大丈夫だと思いますよ。」
「そうでしょうか…。」
未だ不安そうなシオンを励ますようにレイニーがシオンの肩に手を置くと、操縦かんを握っていたリトが"もうすぐシュッツガルドだ!"と言ったので、レイニーは飛行船の着陸に向けて、席にしっかりと座り衝撃に備えた。
リトの操縦でゆっくりとシュッツガルドの冒険者ギルド前の広場に着陸した飛行船はその横腹の扉を開けて、レイニーは飛び出した。そして冒険者ギルドの前で待っていた人物を見ると、驚いた。
「エミュレットさん!?」
「レイニーさん!ジルビドさんから概ねの事情は聞いています。飛行船に戻って直ぐにここを発ちましょう。」
「分かりました。」
話が早いエミュレットにレイニーは慌てて頷くと、飛行船に乗り込み、リトの安全運転で飛行船は離陸し、グレンの上空を飛んでいた浮島に向かった。
「それで彼女がシオンさんですね。初めまして。私は精霊術師のエミュレット・シャーマンといいます。魔法障壁の破壊の任務を仰せつかっています。そしてその魔法障壁を作り出したのが、国の魔道士団の副団長のセレーネ様かもしれないってことも。」
「そこまで話が通っているんですね…。セレーネ様が作った魔法障壁は硬いと思います。いくらエミュレットさんが凄腕の魔法使いでも、簡単には破れないかと…。」
「私は魔法使いというより、精霊と契約してその精霊の力を借りて魔法を使うという認識でお願いします。私は既に精霊を最多の10体と契約しています。この子たちの力を借りれば、セレーネ様の障壁だって壊せますよ。」
飛行船の中でエミュレットはシオンに自己紹介をすると、自分の力の源である精霊の子と顔を寄せて撫でた。
「その子にそんな力が…。」
シオンはびっくりした表情で、エミュレットに甘えていた精霊の子をまじまじと見ていた。そしてリトが"そろそろ見えてくるぞ!"と言ったので、レイニーたちは操縦席の近くまで行き、フロンドガラスから正面の景色を見た。雲が多い中、ぼふっという音と共に飛行船が雲を抜けると、そこにはレイニーがグレンの街で見た大きな浮島が浮かんでいた。
「これが浮島…。」
「ルナやセレーネ様がいるかもしれない…。」
シオンが不安そうな表情で見ていると、エミュレットが精霊の子を使役するときに使う短い杖…タクトのようなものを持って飛行船の横腹の扉を開けた。
「え、エミュレットさん!?」
「私は今から任されたことをしてきますね、リトさん。しばらくホバリングできますか?」
「5分ほどならできる!エミュレットさん、気を付けて!」
リトが操縦桿を握ったまま、浮島の近くで飛行船をホバリングしていると、エミュレットは不敵に笑って、飛行船から飛び出した。
レイニーはさほど心配はしていなかったが、シオンはまだ少し不安が残っているようで、エミュレットが飛び出してから飛行船の小さな窓から彼女の姿を探していた。エミュレットは優雅に空を飛んでおり、それが彼女の使役している精霊の子の力なのだと思ったレイニーはエミュレットが魔法障壁を壊してくれるその時を待った。
エミュレットの方は浮島に近付くと、その不穏さに鳥肌が立った。
「これが月の都の神殿…。確かに魔法障壁を張られているわね…。皆行くよ!」
エミュレットがGOサインを出すと、精霊たちが魔力を溜め始めた。そして数秒溜める時間を要しただけで、精霊たちは主人のエミュレットに視線を移した。
「この魔法障壁がどれだけ強いものだって、脆いところはあるのよ!発射!」
エミュレットが小さなタクトを振ると、精霊たちが配置された場所は魔法陣をかたどっていてエミュレットの"発射"の合図と共に、精霊たちは強大な魔力の光線を浮島に向かって放った。ドゴォンッ!という凄まじい爆破音と共に、数秒遅れでレイニーたちが待機している飛行船に衝撃波の風が吹いて、リトは飛行船を飛ばされないように操縦をなんとか安定させていた。
「エミュレットさん…!」
シオンが窓に張り付いて彼女の心配をしていると、爆破で生じた煙が晴れ、浮島の姿を現した。精霊の力によって浮島を覆っていた魔法障壁は大穴を開けて壊れていた。
「まさか、あの一撃でここまで大きな穴を空けるなんて…。」
「流石ゴールドランクになった精霊術師ね。」
レイニーが感心していると、飛行船に横づけする形で飛行していたエミュレットがハンドサインを送ってきたので、リトは飛行船を浮島にできた魔法障壁の穴から侵入し、浮島に上陸を試みたのだった。




