Level.64 浮島の可能性
Level.64 浮島の可能性
レイニーは喫茶店の休業日である平日にシオンとの約束である"月の都"について図書館の禁書庫で調べものを始めた。
「(月の都…、初めて聞いたけどそんな都があったのかな…)あ、あった!」
レイニーが禁書庫で"月の都"に関する文献を探していると、いかにも歴史がありそうな古い紙に残された"月の都"についての文献を見つけて、禁書庫の閲覧スペースでその内容を見た。
「(月の都…とある森で栄えた都市…。月の重力の恩恵を受け、空を飛ぶ技術に長けた都であり、世界の空を支配するため、浮島を作り上げた…。浮島…?そういえば最近ハインツ皇国の森からごっそり土地がなくなったニュースが新聞に載ってたな…。そのことも関係している…?)」
レイニーは次第に明らかになる月の都についての情報をノートに書き記して整理しつつ、次に冒険者ギルドで最近ハインツ皇国の森から土地が丸ごとなくなってしまった事件についてギルドの受付嬢に訊ねてみることにした。
「シルビーさん、こんにちは。」
「あら、レイニーちゃん、こんにちは。今日はクエスト何か行くの?」
「えっと、今日は調べ物をしていまして。最近ハインツ皇国の森で土地がごっそり無くなった事件がありましたよね?その場所について詳細を聞きたいんですが…。」
「ああ、あの事件ね…。あの場所は古くからある神殿があった土地でね…。歴史的価値のある神殿だったから、学者はこぞってその土地が無くなったことを調べているんだけど、どこにもその土地が見つからなくてね…。」
「その、神殿っていうのは…?」
「えっと、なんて言ったかな…月の女神を奉る神殿だったかな…。」
「月の女神…!あの、ここ最近冒険者ギルドに月の都について訊ねてきた人がいませんでした?」
「ああ、あの貴族のお嬢さんなら神妙な面持ちで月の都について訊ねてきたけど…。」
レイニーは数日前に知り合いになったシオンが冒険者ギルドを訪ねたかもしれないことを察してシルビーに聞いてみると、その予感は的中していた。
「そうですか…。あのそのお嬢様にはなんて…?」
「冒険者ギルドでもその月の都についての情報は無いって話をしたら、残念そうな顔をして帰って行ったわ。」
「やっぱり冒険者ギルドにも月の都の情報はありませんか…。あの、その月の都と月の女神を奉っていた神殿、何か関わりがあるかもれません。私が個人的に依頼を受けます。」
「分かったわ。お金のやり取りだけは気を付けてね。」
「ありがとうございます。」
そしてレイニーはシルビーにぺこりと頭を下げた後、月の都についてて新たな情報を掴んだことをシオンに手紙で報告することにした。数日後、シオンから帰ってきた手紙には今回行方を捜しているルナの家に行ったときに神殿の写真が飾られていたことを思い出したと書かれていた。レイニーはその手紙を読むと、直ぐに家を飛び出して図書館の禁書庫にて月の都についての文献をもう一度読んだ。
「(月の都は空を支配しようとして栄えた都市…。もしかしたら、神殿ごと空に…!?)」
その考えに至ると、レイニーは個人の依頼として請け負うには大事になる気がして、冒険者ギルドのギルド長のジルビドを頼ることにした。
シルビーにその旨を伝えて、シオンにも手紙で直ぐにピーゲルの街に来てギルド長との詳細を話し合う会議に参加してほしいと書いて手紙を出した。翌日の夕方には返事が来て翌々日にはシオンが再びピーゲルの街に来た。
冒険者ギルドの前で落ち合うことにしたレイニーはシオンを出迎えると、二人でギルド長室を訪れた。
「レイニーくん、彼女が今回の月の都の末裔のご令嬢の捜索を依頼してきた…?」
「はい。」
「お初にお目にかかります。シオン・フォー・マードリックといいます。」
優雅な流れでお辞儀をしたシオンにジルビドも椅子に座りながら、会釈を返した。そしてレイニーたちにソファーに座ってもらうよう促すと、今回の会議の本題に入った。
「今回レイニーくんから概ねの話の内容は聞いている。シオンくんのご友人は月の都という都市が栄えた末裔だと聞いた。それは間違いないかい?」
「はい。直接本人から過去に聞いた話なので間違いないです。」
「そうか…。実はレイニーくんから打診された可能性について冒険者ギルドでも検証してみることになってね。月の女神を奉っている神殿の土地が浮島となって今こうしている頭上で飛んでいるかもしれないという、ね。」
ジルビドがそう言うと、シオンはごくりと喉を鳴らした。レイニーがこの可能性に辿り着いたのは、禁書庫で調べていた文献の内容とシオンからの話を総合的に照らし合わせて考えたものだった。
「それで今回各地の冒険者ギルドから情報をかき集めたところ、興味深い話が上がった。」
「それは一体…?」
シオンが話の先を促すと、ジルビドは頷いて話の続きをした。
「ここハインツ皇国の隣国、アルシュッド王国のグレンという街の巫女長から手紙で、紅鳥がしきりに上空を気にして鳴き声をあげていると。紅鳥が何かしらのサインを送っていると巫女長は推察しているらしい。幸いレイニーくんはグレンに行ったことがあると聞いた。直ぐにでもグレンに向かって巫女長からその情報の真偽を確かめてきてほしい。」
「分かりました。」
「シオンくんには、しばらくピーゲルに滞在してもらうことになるが…。大丈夫かな?」
「はい。家のほうには今回の事情を説明してありますので。」
「よし。レイニーくんが帰ってくるまでの間、シオンくんには特別に禁書庫での入場を許可するから、月の都についての文献を見てくれ。」
「はい。」
そうしてレイニーはグレンに、シオンは禁書庫での調べもの、と言うことに決まり、レイニーは直ぐ様冒険の準備をしてグレンんにテレポート結晶で向かった。
グレンの街にはすみれの病気を治すため、紅鳥の素材を求めて来た時以来だったのだが、今回はのんびりしている暇はない。直ぐに神社に向かうと巫女がレイニーに気付き、巫女長を呼んでくれた。
しばらくして境内の方から巫女長である、ミトがやってきた。レイニーが会釈をすると、巫女長であるミトは"場所を変えましょう"と言ってレイニーを滝の傍の水車小屋まで案内してくれた。
水車小屋の中で音を遮断する結界魔法を展開してから、ミトは今回の手紙を送った内容の説明をしてくれた。
「そちらの冒険者ギルドのギルド長に送った手紙の内容をもう一度説明しますと、ここ最近紅鳥がこの土地に降り立つとしきりに空の方を見て、何かを伝えようとしているように思えるんです。私も上空に普通は存在しないものの、気配を感じました。」
「普通は存在しないもの…?」
「何やら良くないものの気配も感じるので、冒険者としても有名になったレイニーさんのいるピーゲルの冒険者ギルドの方に連絡させていただきました。」
「私の存在を思い出して手紙を送っていただき、ありがとうございました。実は、今私たちは月の都について調べていまして…。その調査の結果、今の月の神殿は浮島として空を飛んでいるのではないかと。」
「月の都…名前は聞いたことがあります。ここグレンの神社が建立された頃に栄えた都市だと…。」
「そんな昔…。もしかしたら、紅鳥は空にある浮島を感じ取って私たちに知らせているのかもしれませんね…。」
そうしてレイニーはミトから有益な情報を貰い、魔法を解除して水車小屋の外に出ると、ミトが何かの気配を察知した。
「もうすぐ来ます。」
「えッ…?」
レイニーが"何が?"という疑問を持ったのと同時に空から何か鳥の鳴き声を聞き取った。そして雲の隙間から紅鳥が姿を現し、レイニーとミトの前に降り立った。
「紅鳥…。」
レイニーはイフェスティオで出会った以来だったので、その懐かしさに浸っていると、紅鳥がふと上空を見た。レイニーとミトもそれに倣って空を見上げると、太陽の眩しさに手で影を作ると、逆光だが太陽にかぶさるように何かが現れた。
「あ、あれは…」
「正しくあれが紅鳥が騒いでいた元凶…。」
レイニーたちの目の前には地面を100メートルほど抉り取ったような大きな浮島がグレンの空を飛んでいたのであった。




