表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/90

Level.62 精霊

Level.62 精霊

 会食のメニューが決まったところで、夕食の準備も佳境に入ってるとのことで、料理長は慌ただしく稼働している厨房に戻ることになり、レイニーは自分の宿泊部屋まで戻ることになった。

 なんとか迷わずに自分の部屋に戻ることができたレイニーは部屋でメイドさんが運んできてくれた夕食を食べ、これまたメイドさんが大浴場まで案内してくれてレイニーは大きなお風呂でハインツィアまでの旅での疲れを癒した。そして、覚えた道順で部屋に戻り、そろそろ寝ようかと思っていた時のこと。

 コンコンコンとレイニーの部屋の扉がノックされたので、レイニーが扉を開けて訪問者を見た。するとそこにいたのはキャラメル色の紙を三つ編みにしておさげにしている女の子が立っていた。

「あ、あの!先日のグランドクエストでゴールドランクに上がったレイニーさんとは、あなたのことですか?」

「え、ええ…、私がレイニーですけど…。」

「私、グランドクエストの後方支援部隊で回復班にいたエミュレット・シャーマンと言います。私もゴールドランクに上がることになって、ハインツィアを拠点にしているのでこの総本部でゴールドランクのピンズを授与してもらうんです!それで、あの、是非レイニーさんとお話ししてみたいなと思いまして…!」

「そうだったんですね!じゃあ、部屋で話しましょう!ささ、入ってください!」

 レイニーはエミュレットを部屋の中に招き入れるとメイドが用意してくれて行った紅茶のセットを自分で手際良く準備をした。エミュレットも大浴場で疲れをとってきたばかりのようで着ている洋服はラフなTシャツにショートパンツともこもこのパーカーを羽織って靴は冒険の時に履いているであろう可愛らしいブーツだった。

 紅茶を準備し終えてエミュレットの前に出すと、小さな声で"ありがとうございます"と返ってきたので、レイニーも椅子に座ってお話を始めた。

 だが、レイニーには一つ気になることがあった。

「あの、エミュレットさん。先ほどからあなたの周りにいるこの子たちは一体…?」

「えっ、レイニーさん、精霊が見えるんですか!?」

「これが精霊…。」

 レイニーは空中にぷかぷか浮かぶ羽根を持った小さな女の子や男の子の存在が気がかりでエミュレットに尋ねてみるとびっくりした表情で答えが返ってきた。

「私は本来は精霊術師と言って契約した精霊を駆使して魔法を発動させたりして戦うんです。レイニーさん、精霊が見えるなら精霊との契約も出来そうですね!やってみませんか?」

「えっ、精霊の契約って直ぐにできるんですか?」

「はい、この"魔法の卵"というものを使います。この卵に一定量の魔力を注ぎ続けると精霊が生まれるんです。是非やってみてください!」

「わ、分かりました!やってみます!」

 レイニーはエミュレットに言われた通りに魔力を少しずつ注ぎ続けること10分。ピキリと卵の殻に亀裂が入り、直ぐにパリンという音と共に卵の中からネオンカラーの黄色と紫のグラデーションの髪の毛をポニーテールにしている女の子が現れた。年齢はレイニーよりも少し幼いくらいだろうかと思っていると、卵から生まれた背格好が変わらないくらいの大きさの精霊はレイニーの顔を見ると、その場に跪いた。

「我主人よ、私に名前をお付けください。」

 レイニーがエミュレットに"この精霊の魔法属性、分かりますか?"と訪ねると"雷ですね"と返ってきたので、レイニーは少し考えるそぶりをしてから、頷いた。

「かみなりの子だから、ミナ!私はレイニー。よろしくね、ミナ!」

「ミナ…それが私の名前…しかと覚えさせていただきました。」

「レイニーさん、契約上手くできたみたいですね!精霊術師なら精霊は10体使役するのが普通ですが、レイニーさんたち一般冒険者の皆さんでしたら2人がいいところだと思います。あ、あと、それならもう一つ…。是非ともこの魔法の卵も孵化させてあげてください。」

「えっ、魔法の卵もらっちゃっていいんですか?」

「ええ。私は精霊をもう10体契約しちゃってるので…。」

 そう言って申し訳なさそうに眉毛をハの字にするエミュレットにレイニーはその卵を大事に抱えて"任せてください!"と意気込んだ。

 帰り際にエミュレットに"精霊の契約の中で一番人気の魔法属性は何ですか?"と聞くと"やっぱり風ですかね"と返ってきた。考えてみれば風邪魔法が使えれば精霊の力を借りて空を飛ぶことだって出来そうだと思い付いたのだった。そしてもらった卵に慣れない風邪属性の魔力を少しずつ注ぎ続けるようにレイニーは卵を抱いて眠ったのだった。

 ――――――

 翌日、起きても卵が孵化していないところを見ると寝てる間に魔力の注入を怠ってしまったようで、レイニーはエミュレットがくれた大事な卵だと思い、ゆっくり育てようと決意したのだった。

 その日は午前中から料理長のモーゲストと一緒に会食での料理の手順と動きを料理人たちに確認しながら練習をし、明日に迫った会食の日を前にレイニーは料理人たちと夜遅くまで練習に励んだのであった。

 その日の夜、大浴場で疲れを癒してきたレイニーは寝る前に魔法の卵に魔力を注いでみるか、と思って膝の上に卵を置いて、慣れない風邪属性の魔力を少しずつ注ぎ続けた。レイニーが眠くなって舟を漕ぎ始めた頃、ピシッと殻にヒビが入る音がしてレイニーはハッとした。ヒビは次第に大きくなり、やがて光り輝きながら卵の中からミナと同じくらいの背格好でふわふわのクリーム色の髪の毛を緩く巻いている可愛らしい女の子が現れた。

「あなたが私の主人様ですか?」

「え、ええ。」

 レイニーが精霊からの質問にドキドキしながら答えると、目の前の精霊はミナの時同様、レイニーの前に跪いてレイニーを見上げた。

「主人様、私に名前を。」

「うーん、そうだなぁ…。ふわふわ…、フーカ!フーカにしよう!」

「フーカ…。それが私の名前…。主人様のお命を守るよう、最善を尽くします。」

 フーカはレイニーの周りをくるくると回ると、昨日既にレイニーと契約していたミナのことを見つけると、精霊として切磋琢磨しながら主人様を守ろうと誓い合ったようだった。

 その日の夜、メイドに頼んでレイニーはエミュレットの部屋まで案内してもらった。コンコンコンとノックをしてから、部屋の主のエミュレットの声を聞いてからレイニーは扉を開けて中の様子を窺った。

「エミュレットさん、レイニーです。」

「レイニーさん!」

 レイニーの顔を確認すると嬉しそうにはにかんでエミュレットはレイニーを部屋の中に招き入れた。そしてレイニーの周りを飛ぶ、フーカの存在に気付くとこうしてレイニーがエミュレットの部屋まで訪れたことを察したようだった。

「ついに2体目の精霊と契約したんですね!この子の名前は…?」

「ふわふわしていたんで、フーカと名付けました。ミナと一緒で私を主人と認めて守ってくれるらしくて、しきりに部屋の中を飛び回って危険が無いか確認していたんですよ。」

「あはは!私の子たちも初めてこの部屋に来た時はそりゃもう警戒心丸出しで、部屋の探検をしていたんですよ。」

「10体も契約しているエミュレットさんはすごいですね…。私2体だけなのに目が離せなくて…。」

「私は魔力を介してどんなことをしているのかある程度分かりますからね…。レイニーさんも慣れて魔力感知ができるようになれば過ごしやすいと思いますよ。」

「魔力感知…。それも練習しだいで私のような普通の冒険者でも使えますか?」

「ええ。良かったらお教えしましょうか?」

「お願いします、エミュレット先生!」

「先生だなんて大袈裟ですよ。私は明日ここを発つので今日中に習得しましょうか!魔法の卵も直ぐに孵化させることができたので、レイニーさんには魔力操作の才能があるんだと思いますよ。」

「私に魔法を教えてくれた師匠のような人にも魔力操作の才能については褒められたことがありますよ。」

「そうなんですね!それではまず…。」

 そうしてレイニーはエミュレットから魔力感知についての説明を受け、魔力感知のやり方をレクチャーしてもらった。練習をし始めてから30分後には、その部屋にいるエミュレットとフーカとミナの魔力を感知することができるようになった。

「もっと魔力を込めて索敵範囲を広げれば多分、私の契約している子たちの魔力も感知できるようになると思いますよ。」

「そうなんですね…!魔力操作の練習にはもってこいですね!頑張ります!おっと、もうこんな時間…、私明日は進呈式の料理のお手伝いに行かなくちゃいけなくて…。」

「そうだったんですね!引き止めてしまってすみませんでした!明日頑張ってくださいね!」

「はい!エミュレットさんもまたお会いしましょう!」

 レイニーはエミュレットの部屋から出て、メイドから教えてもらった部屋までの道のりを帰って行ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ