Level.61 いざ、ハインツィアへ!
Level.61 いざ、ハインツィアへ!
「え…えぇえええええええ!!!?」
レイニーの驚きの大絶叫がギルド長室を震わせた。周りにいた皆は耳を塞いでいた。
「レイニー声でかい…。」
「ご、ごめんなさい!あまりにも唐突で驚いてしまって…。クルエラ様が私に進呈式の会食での料理の監修を…とのことですよね?」
リトがいまだに耳がキーンとするのかレイニーの慌てた様子に苦笑いをした。レイニーは周りの皆の様子を見て謝ってからジルビドが言ったことの復唱をした。
「ああ。クルエラ様がグランドクエスト中に食べたハンバーガーの美味しさにいたく感動されてな。あんなに美味しい料理は初めてだったから、是非ともレイニー君の料理で進呈式後の会食も盛り上げて欲しいとのことだったよ。」
「クルエラ様が…。私に務まるでしょうか…。」
「レイニー君の作る料理はとても美味しい。私もあの場で食べたハンバーガーの美味しさには驚いたよ。あんな美味しい料理を作れるんだから、今回の会食も成功するはずさ。」
「そ、そうですかね…」
レイニーはジルビドからベタ褒めされて照れくさくなって頬を掻いた。レイニーは進呈式の日にちも近づいていることだし、早めの決断がいいと思って、その場で周りの皆からの視線を受け止めてジルビドに向き直った。
「そのお話し受けさせていただきます。私も食文化の発展のために尽力していきたいんです。」
「分かった。レイニー君の言葉をクルエラ様にも伝えておこう。」
「お願いします。」
「そういうことだ、レイニー君も加えてゴールドランク冒険者の君たちには1週間後にハインツィアに行ってもらう。各自準備をして1週間後の10時に冒険者ギルドの前に集合してくれ。」
「はい!」
レイニーたちがギルド長室から出るとライクスがレイニーと肩を組んでレイニーの頭をうりうりと押した。
「レイニー、やるじゃねぇか!進呈式の料理の監修だなんてよ!」
「あにぃ、レイニーさんが困るでしょう。ウザ絡みはやめなって。」
「ウザ絡みじゃねぇよ!な、レイニー!」
「うざいです。」
「えっ!?」
レイニーとライクス、レイクス兄妹と漫才のようなやり取りをしていると冒険者ギルドを出て解散することになった。リトはレイニーを家まで送ってくれるために付いてきてくれた。
「料理の監修をすること、ザルじいに話したら絶対喜んでくれるって!」
「会食の席での料理のフルコースについては勉強しなくちゃいけないから、出発までの1週間でザルじいに教えてもらうことにしようと思ってる。」
「そのコース料理の試作は…。」
リトがよだれをごくりと飲み込むのを見てレイニーはため息をつきながら答えた。
「今回は料理監修だから、どんな料理を作るかは向こうの料理人さんと考えなくちゃいけないから、試作とかはここでは作らないよ。」
「ええ〜…、そうなのか、残念…。」
「でも、リトはゴールドランクからプラチナランクに上がる当事者なんだし、会食で食べれるじゃない。」
「その当事者の俺が料理を食ってる暇があると思うか?」
「うーん、なんとか声を掛けてくる人を躱すとか?」
「俺の信用問題に関わるからそれは却下だ!」
「まぁ、人付き合いも大事だからね、頑張りなよ。」
「他人事だと思ってぇ…。」
リトが恨めしそうにレイニーに視線を送るとレイニーの家に着き、リトが1週間後、楽しみにしてるからな!と言って手を振って自分の家に帰って行った。
レイニーは家に帰ってきてから早速ザルじいに料理の監修を頼まれたことを話した。
「おお!それはすごいことじゃないか!料理の監修は初めてのことじゃないかのう?」
「うん、そうなの。だから、ザルじいにコース料理のいろはを教えてもらいたくて。」
「わしもそこまでは詳しくないが…一応国のお偉いさん方がいるんだから、格式高い料理が良さそうじゃのう。」
「私コース料理なんて食べたことないよ…。」
「これは1週間の間で覚えることが沢山ありそうじゃの。」
ザルじいと苦笑いをしつつ、レイニーはその日の午後から早速ザルじいとコース料理についての勉強を始めた。
――――――
それから1週間後。午前10時にレイニーは冒険者ギルドの前に止まっている馬車の元へと駆け寄った。
「おはようございます!」
「おはよう、レイニー。」
レイニーが声をかけると振り返ったのは馬車に荷物を乗せていたリトだった。他のメンバーはまだ到着していないようでリトが一番乗りだったらしい。レイニーの荷物もリトが馬車に乗せてくれたので、レイニーはひと足先に馬車に乗り込んだ。しばらくするとライクスレイクス兄妹やキュリアも到着し、馬車はハインツィアに向けて出発した。
ハインツィアまでは馬車で2,3日ほどで到着する。レイニーは馬車の中でライクスから料理の勉強をしてきたか〜?との質問を受けてからどんな料理を会食で出すのか粗方決めてきたことを話すと馬車に乗っていた全員から"どんなのにするの!?"と詰め寄られてレイニーは苦笑いするしかなかったのだった。
――――――
3日ほどかけて馬車はハインツ皇国の首都ハインツィアに到着した。男性陣が荷物を下ろしてくれて、レイニーたちはハインツィアの冒険者ギルド総本部を訪ねるとそこは立派な城が建っており、レイニーはその大きさにびっくりしていた。
「ここが冒険者ギルドの総本部…。」
「俺も初めて来た…。でっけぇ…。」
レイニーはリトと一緒にお城を見上げていると、城からメイドが数名出てきてレイニーたちの荷物を持ってくれたので、レイニーたちはメイドの案内の元、各々の宿泊部屋まで向かったのだった。レイニーが女性の泊まる宿泊棟にたどり着くと、男性陣とは別れてメイドから部屋を紹介された。
「ここがレイニー様のお部屋になります。この後クルエラ様がいらっしゃって料理監修のための会議を厨房の料理長と行うと聞いております。クルエラ様が到着なさるまでゆっくりしていてください。」
「分かりました。案内ありがとうございました。」
レイニーは部屋に入ると天蓋付きのベッドがどーんと窓際の壁際になり、どこもかしこもキラキラピカピカと輝いていて、毎日掃除してくれてるメイドの仕事っぷりに感心した。そして、クルエラが厨房まで直々に案内してくれるという話を聞いたレイニーは自分の荷物のトランクの中から、ザルじいとコース料理についての勉強をした際にメモしたノートを取り出して復習をした。
そして、数十分経った頃、コンコンコンと部屋の扉がノックされたので、レイニーが部屋から"はい、どうぞ"と言うと扉の隙間からクルエラがひょっこりと顔を覗かせた。
「クルエラ様!」
「レイニー殿、今回は料理の監修という大役を任せてしまってすまない。是非とも会食に参加する皆にレイニー殿の料理を食べてもらいたいと思ってな。」
「そのお話を聞いた時は驚きましたが…。私にもいい経験になると思ったのでOKしました。」
「早速で悪いんだが、料理長とメニュー会議を開くことになっている。私が厨房まで案内しよう。」
「よ、よろしくお願いします!」
「そう、緊張しなくていい。料理長は優しいお方だ。」
クルエラが優しい笑みでそう言ってくれたので、レイニーは少しホッとした。あまりにも料理に厳しい人だったらどうしようかと思っていたのだ。
その後部屋を出たレイニーはクルエラの案内で冒険者ギルド総本部での食事を全部作っている厨房を訪れた。
時刻はお昼ご飯を食べて夕食の下準備をしている時間であり、クルエラが厨房に顔を出すと、ザルじいとはまた違う系統のおじいちゃんがレイニーの前に現れた。少し強面な顔にレイニーは萎縮してしまっていた。そんなレイニーに気付いたのか、料理長の彼は苦笑いをした。
「料理長のモーゲストと申します。あなたが喫茶レインの若き店長という話はクルエラ様から聞いています。その料理の腕を見込んで、今回はよろしくお願いします!」
「レイニーです。今回はよろしくお願いします!」
レイニーとモーゲストが握手をしたのを見ると、クルエラはまだ仕事が残っているとのことで、席を外し、レイニーたちは厨房の隣の休憩室を使って会食のメニュー考案を開始した。レイニーが提案する料理はモーゲストにとってはどれも聞いたことがない料理名ばかりで、彼は終始、料理の工程を聞いて味の想像をしていたようだった。使う調味料やどう言った調理法で、と言う話をすると直ぐに"それは美味しそうですね!"という反応を示してくれた。
そうしてメニューを決めていくこと2時間。レイニーとモーゲストが考えた会食でのコース料理のメニューが決まった。
〈前菜〉生ハムのカプレーゼ、キャロットラペ、キノコとチーズのキッシュ
〈スープ〉ジャガイモのポタージュ
〈肉料理〉牛肉の赤ワイン煮込み
〈魚料理〉サーモンのクリームシチュー
〈デザート〉スフレパンケーキ
というメニューになった。




