Level.56 作戦会議とハンバーガー
Level.56 作戦会議とハンバーガー
キングコボルトが光の粒子になって四散したのを見てから冒険者たちは1分ほど沈黙していた。
そして、レイニーがぎゅっと握った拳を天に突き上げてから、空に向かって"やったー!!!!"と大音量で喜びを爆発させるとレイニーのその様子を見て周りの冒険者たちにも喜びが伝播して次々と"やったぞ!倒したぞ!“との声が上がり、レイニーは嬉しくてぴょんぴょん跳ねながらリトの所に行くとリトの手をぎゅっと握ってブンブンと上下に振った。
「良かったな、レイニー。」
「2人のおかげだよ~!最後の蒼竜すごくかっこよかったよ!ね、やっぱり2人で組んで正解だったでしょ?」
「まあ、悪くない連携が取れたかな!」
「正直にやりやすかったって言えばいいのに…」
「あ"ぁん?リトお前今なんつった!?」
「イエ、ナンデモ?」
素知らぬ顔でそっぽを向いて口笛を吹くリトにレイニーはくすくすと笑ってリトとライクスの軽い喧嘩を見てやっと一つ終わったグランドクエストに気を緩めても大丈夫だろうと思い、レイニーは笑顔のまま、皆んなに"後方支援部隊に戻りますよー“というとみんなでゾロゾロと歩いて後方支援部隊が設置されている場所まで導き石を使って向かったのだった。
そんな中、レイニーがふと後方支援部隊のある方角とは違う方向を向いて足を止めた。
「どうしたんだ?レイニー。」
「…誰かが呼んでる。」
「え?」
「呼ばれてる気がする…!」
レイニーはそういうと後方支援部隊に向かう列から外れるとその声がするという方角に向けて走り出してしまったので、リトはそんなレイニーを放っておく訳にもいかず、隣を歩いているライクスに"レイニーが脱線したから後で合流する!"とだけ言い残してリトもレイニーの後を追って走り出した。
レイニーはキングコボルト軍団を相手していた冒険者たちが続々と後方支援部隊に帰還する列に並んでいる時に頭に響いた鈴の音のようなか細い助けを求める声が聞こえたのだ。レイニーはそれを頼りに必死にキョロキョロと辺りを見渡し、声の出所を探した。
レイニーが列から逸れて動き始めたので声は次第に大きくなっていった。辿り着いたのはメデューサ軍がゾロゾロと通ったであろう、足跡がたくさんある道を見つけた。近くには瓦礫が山積みになっていた。レイニーはその山積みの瓦礫を少しずつ移動させて声の主を助けようとしているようだった。
「レイニー、こんなところで助ける声なんて…」
「あっ、いた…!」
レイニーが最後に退けた瓦礫からほんの少し人の顔が確認できた。瓦礫の中で体を挟まれているのか人は声をかけても反応しないので、レイニーはマズイと思い、すぐに後方支援部隊に持って行って回復魔法をかけてあげないと!と思いながらその人の上に重なっている瓦礫を撤去して行った。
15分もすればその人の上には瓦礫の小さな破片くらいしか乗っておらず、レイニーは直ぐにその人を人お姫様抱っこをして瓦礫が出した。そして魔界の地面に横たわらせて、様子を見た。
「息はしているみたい。私キングコボルト戦でポーションぽぽ使い切っちゃってるの。リト、余ってる?」
「悪いが俺もそんなに余ってないんだ…。でもまぁ、もう少しで後方支援部隊に着くからこの子も見てもらおう!それにしても…この容姿って…。」
「ダークエルフ…だと思う。」
「だよな。クルエラ様に聞いてみよう。」
そういうとリトがエルフの女の子をお姫様抱っこをして2人で急いで後方支援部隊まで戻ったのであった。
「ですから!魔界で拾った子など、危険です!レイニーさん!」
「この子はダークエルフよ!?それに監禁されてた痕もあるし、多分こっち(魔界)で捕虜とされてたんじゃないかと思って…!連れて帰りたいのよ!」
「いくら言っても聞きませんよ!クルエラ様のお許しが出るまでは…!」
「私の許しがなんだと?」
「「く、クルエラ様!!」」
レイニーが後方支援部隊の警備として立っている冒険者にレイニーは腕の中で眠るダークエルフの子を見るなり中に入れることは出来ないと言われて口論になってしまった。レイニーはなんとか説得して中に入れようと交渉をしていたのだが、その途中でレイニーたちの声を聞こえたのか、クルエラ本人が登場した。クルエラはレイニーの腕の中で眠るダークエルフを見て"ふむ"と頷いてみせた。
「クルエラ様…」
「私もね、いつだか文書の報告にダークエルフの里が魔神軍に襲撃されて里は壊滅、生き残ったダークエルフは捕虜して魔界に連れ去られたとの話を聞いたことがある。おそらくその時の捕虜にされた子であろう。私たちで傷を治して森に返すのが一番だろうな。」
「~っ!クルエラ様、ありがとうございます!さ!この子の治療をお願いします!」
クルエラの後押しもあり、レイニーの主張が通ったので、レイニーは警備をしていた冒険者を押し除けてダークエルフの子を後方支援部隊の回復班に任せることにした。レイニーは後方支援部隊の物資補給担当からポーションを何本が受け取り腰のポーチに補充しておいた。そして後方支援部隊の方で預かってもらっていたカゴバックを受け取った。
そして、クルエラやジルビド、ハルストがいる指揮官室のテントにレイニーは向かった。テントをはぐって中に入ってみると、中は案外広くレイニーが普通に立っても入れる大きさのテントだった。その中には先程で一緒に戦っていたライクスとリト、そしてメデューサ軍と戦っていたはずのキュリアとレイクスも集まっていた。
「キュリアさんたちは夜になったから一時休戦…みたいな感じで戻ってきたんですか?」
「ええ、そんな感じ。」
レイニーの予想は当たっていたようで、キュリアたちが戻ってきたことで、テントの中は豪華なメンバーが揃っていた。
「さて、それでは…。」
「クルエラ様、お話し前にちょっといいですか?」
「ん?レイニー殿、そのカゴバックは…?」
「腹が減っては戦はできぬと言う言葉が私のいた世界にはありました。まずは腹ごしらえですよ!私とザルじいで作ったハンバーガーを用意しました!どうぞ、皆さん食べてください!」
「これがレイニー殿の料理…本当に見たことがないな…こんなに柔らかいパンは初めてだ!」
レイニーの持つカゴバックからリトが取り出してみんなに配ってくれたので、テントの中の人たちには直ぐに手元に渡ったようだった。レイニーは軽くハンバーガーの食べ方とかどんな料理が使われているのかを少しだけ説明してあとは"思いっきり行っちゃってください!"と笑顔でグッドサインを送ったのだった。
まず動いたのはリトだった。リトはレイニーの作る料理はみんな美味しいと思っているので抵抗感なく食べてくれる。今回も食べ方の説明をしてる時リトから"早くくれ"っていう視線を浴びたほどだった。リトは直ぐに紙を開けてハンバーガーにガブリとかぶりついた。その様子を見てライクスが、ライクスを見てレイクスが、と言った感じで伝播していき、最後にはクルエラがガブっとかぶりついていた。
「お、おいしい…!」
意を決して食べたクルエラの口の周りにはソースやら野菜の破片が付いていて可愛らしいと思っていると、このテントでハンバーガーを食べていたみんなはやっぱりほっぺにソースを付けるのが当たり前となっていた。そんな感じで楽しくハンバーガーを堪能した後、レイニーの元に興奮した様子でライクスレイクス兄妹がやってきた。
「お前すげぇな!あんなに美味い料理初めて食べたぜ!」
「レイニーさん、本当に美味しい料理をありがとう。あにぃは肉料理が好きだからさ。あの喜び様なんだよね。」
「ますますリトとそっくりですね。」
「「ん?なんか言ったか?」」
レイニーとレイクスがテントの中で肩を組んで先ほどの戦いの振り返りをしている2人を見てくすくす笑っていると振り返って訊ねてきたその表情がそっくりでレイニーはさらに笑ってしまったのだった。
レイクスがレイニーから離れると直ぐにやってきたのはクルエラだった。
「あっ、クルエラ様。ハンバーガーはお気に召しましたか?」
「レイニー殿…。」
「はい?」
「あの料理はなんだ!?初めてみる料理に初めて味わう食感と味!私はすごく感動したよ!是非グランドクエストが終わった後、時間を取ってもらえないだろうか?」
「そ、そんなにお気に召したのなら、レシピを料理人さん宛にお手紙で送付してもいいですが…。」
「是非そうしてくれ!」
レイニーの提案にクルエラは嬉しそうな笑顔になってハンバーガーがまた食べられる日が来るのかも…とちょっと上の空であった。




