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Level.55 待たせたな!

Level.55 待たせたな!

 蒼電糸膜は問題なく発動し、その大きな電気の網がキングコボルトを覆いつくした。

「がああああッ!」

 電気の網にかかったキングコボルトはびりびりと巨体が痺れているようだった。レイニーはそれがチャンスだと思って、キングコボルトが痺れている間にリトとライクスの元に駆け寄り、二人に体力回復のポーションを飲ませて、自分も蒼電糸膜を使ったことで消費した魔力を回復するために魔力回復のポーションをぐいっと飲み干した。

「(これでリトとライクスさんは安心…。あとはハルストさんの援軍が来るまで持ちこたえなくちゃ…!)」

 とレイニーが思っていると、キングコボルトが電撃で痺れているのにも関わらず電気の網を掴むとぶちっと引きちぎった。レイニーはキングコボルトの強靭さに驚いていると、キングコボルトはふーふーと息を荒くしながら、少しずつレイニーに近付いて来た。

 レイニーもキングコボルトの襲来に受けて立つべく、リトとライクスの元から立ち上がり、槍をくるくるっと回してから、構えた。そして僅かな静寂が二人の間を駆け抜けた直後。二人は一気に走り出した。キングコボルトは走っているのだろうが、明らかにレイニーの方が走るスピードが速く一気にキングコボルトの懐へと潜り込むことができた。

「雷の一閃!!!」

 レイニーはその速さを使って槍に魔力を込めると、雷の一閃でキングコボルトのぼよよんと出っ張ったお腹にそれなりに深い傷を負わせた。

「がるああああッ!」

 キングコボルトがお腹にできた傷の痛みから雄叫びを上げていると、レイニーの元にハルストたちの援軍がやってきたのだった。

「レイニーさん、大丈夫ですか!」

「ハルストさん…!ナイスタイミングです!私への援軍よりも、周りの冒険者たちの救護に尽力してください。」

「分かりました。私がレイニーさんの援護に回ります。他の皆さんには周りで倒れている皆さんへの救護に回ってもらいます。」

「ありがとうございます!」

 ハルストは直ぐにハルストに付いてきていた冒険者たちに周りで倒れている冒険者の救護に当たるように指示をして、自身はレイニーの隣に立って、キングコボルトに視線を向けた。

「あのリトさんとライクスさんを戦闘不能にしただけあって流石の体力ですね…。」

「はい。私の雷の一閃と蒼電糸膜を負ってもまだ平気で立っていますからね…。」

 レイニーとハルストが走り出すのと、キングコボルトが大剣で攻撃を繰り出すのは同時だった。レイニーとハルストは左右に分かれて、キングコボルトの大剣の縦切りを避けると、両サイドからキングコボルトに走って近付いて、その腕に切り傷を負わせた。ハルストの方は今まで鞘にしまっていた片手剣を眩しいほどの光と共に抜き放って圧縮された光の刃がキングコボルトの腕を焼き切った。キングコボルトはその火傷の痛みで"ぎゃああ!"と叫びドシンドシンと二歩程度後ろに後ずさった。

「ハルストさんの光の剣が効いてるようですね!このまま押し切れば…!」

「レイニーさん、来ます!」

「はい!」

 レイニーはハルストと連携の話し合いはしてこなかったのだが、以前スケルトンマスターとのグランドクエストでハルストの光属性の魔法攻撃を目にしてから、ハルストの強さに驚いていた。流石冒険者ギルドのギルド長の補佐官だけの力はあると思った。レイニーの雷属性の電撃とハルストの光属性の焼き切る攻撃にキングコボルトは少しずつその無尽蔵かと思われた体力を削って行った。15分ほど戦っているとレイニーとハルストの魔力回復のポーションが底を尽きかけてきた。だが、キングコボルトの体力も後僅かなようで、先ほどからはぁはぁと息遣いが荒く、肩で息をしているのが目に見えて分かった。

「あともう少しだと思います、レイニーさん。行けますか?」

「はい、大丈夫です!」

 レイニーとハルストが武器を構えて走り出そうとした瞬間、キングコボルトはきょろきょろと辺りを見渡してから、ドシンドシンとレイニーたちの前から走ってどこかに行こうとした。

「ちょ、ど、どこに行くの!?」

「レイニーさん、後を追いかけましょう!他の戦場にでも行って混乱を招いてはいけません!」

「はい!」

 レイニーとハルストはどこかへ向かって走って行くキングコボルトを追うと、そこには僅かに残っていたコボルトの残党が冒険者と戦っていた。キングコボルトの登場に冒険者たちが驚いていると、キングコボルトたちは冒険者たちに攻撃するわけでもなく、コボルトたちを鷲掴みにすると、コボルトたちをばりぼりと食べ始めた。

「と…共食い…?」

 レイニーが戸惑いの声を小さく漏らしていると、キングコボルトは残っていた数体のコボルトを全て食べきった。ごくんと最後のひとかけらを飲み込んだ様子のキングコボルトは体内で食べたコボルトたちの魔石が一塊になり、禍々しい魔力を放った。その禍々しさにその場に居た全員が息を詰まらせた。

「こんな禍々しい魔力…。」

「ピーゲルの森で発見された魔力と同等ですね…。」

 レイニーはなんとか声を絞り出すと、ハルストも同じようになんとか声を出せたようだった。

 そんな魔力に気圧されてレイニーたちは半歩後ずさった。その靴がじゃりっと音を立てて動いた瞬間、キングコボルトは一気にレイニーたちとの距離を詰めた。

「ッ!!」

 レイニーは攻撃をまともに受けたらただでは済まないと思い、なんとか体をう退かして寸前のところでキングコボルトの攻撃を避けた。横薙ぎに払われたキングコボルトの大剣は空を切っただけなのに、ブワッと風が舞い、レイニーたちは数メートルも吹き飛ばされてしまった。レイニーは空中でバク宙をして体制を整えると槍を地面に突き刺して、これ以上遠くに飛ばされないようにストッパーとしてやっと地面に着地した。その瞬間を狙ってか、キングコボルトがレイニーに一気に近付き、斬撃よりも打撃武器として機能している大剣をレイニーに振りかざした。

「(まずい!当たる…!)」

 レイニーが地面に着地する寸前、体制をどう立て直してもキングコボルトの攻撃を受けてしまう、そんな風に思って目をぎゅっと瞑って痛みに耐えようとしたその時。

 ゴォオッとレイニーの後ろから2体の火属性の魔法攻撃である火竜がキングコボルトの体を包み込み、焼き始めた。レイニーはふわっとなんとか着地すると、後ろを振り返った。

「待たせたな、レイニー!」

「キングコボルトめ、さっきはよくもぼこぼこにしてくれたな!!」

 そこにいたのは、レイニーが体力回復のポーションを飲ませて地面に寝かせていたはずのリトとライクスだった。

「リト!ライクスさん!」

 レイニーは二人が無事に回復してくれたことに感極まって泣きそうになりながら、二人がやってきたことを喜んだ。ハルストも少しは安心した表情をしていたが、直ぐに目の前のキングコボルトに視線を向けた。

「先ほどの二人の火竜をもってしても…。」

 そう、ハルストのいう通り、キングコボルトは部下であるコボルトたちを共食いして体力を回復、そして禍々しい魔力を宿して復活しているのだ。二人が放った火竜も大剣で切り伏せたり、ばくばくと食べるなどしてあっという間に無効化してしまっていた。

「あの火力の火竜を食べるってどんな胃袋してんだよ…。」

「ライクスさん、今は胃袋の心配をしている場合ではないですよ。」

 ライクスが"うげー"という声と共にキングコボルトの雑食性に辟易していると、隣に並んだレイニーが静かにツッコミを入れた。レイニーたちの後ろにもハルストが指示したことで回復した冒険者たちが並び、キングコボルトを取り囲んだ。

 そして"ぐるる…"と唸るキングコボルトに向かって冒険者たちが総攻撃を開始した。先ほどまではレイニーとハルストの2人だけを相手にしていて意識が集中していたが、今度は全方位から攻撃を仕掛けられて、キングコボルトは混乱しているようだった。

「あのバカなコボルトの親玉だもんな!知能はそんなに良いみたいじゃないな!」

「がるぅああああ!!」

 ライクスがキングコボルトを挑発するように言っていると、キングコボルトは咆哮を上げ、空高くにジャンプした。レイニーは直ぐに何か大きな攻撃を仕掛けてくると思い、ハルストに目配せした。するとハルストも頷いて、周りにいた冒険者たちに"退避!"と命令すると、冒険者たちは散り散りになってその場から退避すると、キングコボルトは上空からその大剣を地面に叩きつけて衝撃波を放ってきた。

 レイニーは槍の刃先を地面に突き刺して衝撃波をやり過ごそうとした。ぶわっと数秒遅れでやってきた衝撃波にレイニーは髪の毛をなびかせながら、耐えた。レイニーの後ろにいた冒険者たちは吹き飛ばされたりする者もいて、レイニーはその人たちの心配をしつつ、衝撃波が止むとキングコボルトに距離を詰めた。

「雷の一閃!!」

 衝撃波を出したキングコボルトは体力を消耗していたのか、はぁはぁと俯いていて、距離を詰めてきたレイニーに気付くのがワンテンポ遅れた。レイニーの雷の一閃がキングコボルトの首に当たり、ザシュッとという音と共に深い傷を負わせることができた。

「ハルストさん!」

 レイニーは雷の一閃を放って魔力切れを起こしてしまったので、その場で跪いてしまっていたが、レイニーの後ろで鞘に手を添えて迫ってきていたハルストにスイッチした。ハルストが鞘から光り輝く刀身を抜き放ってレイニーの付けた首の傷をさらに深くするように、光の刃を放った。そしてハルストの剣がキンという音と共にさやに再び収められると同時にキングコボルトの首がごとりと地面に落ちた。

「リト!ライクスさん!」

 レイニーはその場でぬか喜びせず、直ぐに次の攻撃を仕掛けるようにリトとライクスの名前を呼んだ。すると二人はレイニーの言いたいことが直ぐに理解できたのか、先ほどよりも火力の高い青い炎の火竜をキングコボルトの体の方へと放ち、身体を焼いた。その高温の炎の中でキングコボルトの中の肥大した魔石がパキンという音を立てて、壊れたのをレイニーたちは見た。

 そしてリトとライクスが放った火竜が自然鎮火するとキングコボルトの体は光の粒子となって四散した。

 

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