Level.54 キングコボルトの強さ
Level.54 キングコボルトの強さ
レイニーが対キングコボルト軍の指揮官である、ハルストにキングコボルトを視認できたことを報告すると、ハルストもそう簡単にコボルトたちがキングコボルトのところまで冒険者たちを行かせる訳がないだろう…と判断して様子を見ていると、コボルトたちが冒険者軍の猛攻に少しずつ後ずさって行き、とある場所で爆発が起きた。
爆発音を聞くと、レイニーたちは何事かと騒ぎ立てた。
「何事だ!」
「報告です!キングコボルトのいる場所から数十メートルの間に魔法陣を確認しました。それをコボルトが踏んで発動したようで今の爆発はその音だと思われます!」
「自分たちで用意した地雷に自ら踏んづけるなんてコボルトってちょっとバカなのかな…。」
「レイニー、それは言うな。」
レイニーが呆れながら、そういうと隣にいたリトが突っ込みを入れてくれた。コボルトたちは自分たちで仕掛けはずの地雷のところまで後退しすぎたようで、地雷型の魔法陣を踏んづけてしまった…ようだった。
そこでレイニーはハルストに提案を持ち掛けた。
「ハルストさん、このままコボルトたちを押し返して地雷を踏んでもらってキングコボルトのところまで行くのはどうですか?」
「ふむ…、地雷を上手く踏んでくれればいいですが…。」
「俺はレイニーの作戦に賛成だ。コボルトたちの知能がどんなものか分かったし、引っかかってくれると思う。」
レイニーの提案にリトが賛成してくれて、ライクスも同じように頷いてくれたので、ハルストはレイニーの提案を採用し、コボルトたちを少しずつ後退させてわざと地雷を踏ませて爆発によりコボルトたちを吹き飛ばして少しでもキングコボルトの近くへ行こうということになった。その作戦はすぐさま前線の冒険者たちに通達され、レイニーたちも前線に出てコボルトたちを少しずつ後退させることに尽力した。
するとレイニーの思惑通り、コボルトたちはじりじりと後ろに下がっていき、しまいには自分たちが仕組んだであろう、地雷型の魔法陣を踏んづけ、自爆していた。
"ぎゃあ!"という断末魔を上げて空高く吹き飛んでいくコボルトを見てレイニーは呆れた。
「自分たちで仕組んだ魔法陣の存在を忘れるって相当てんぱってるわね…。」
そんな呑気なことを言っているレイニーの元に3体のコボルトがやってきて、レイニーを取り囲んだ。直ぐに近くにいたライクスがそれに気づいて、"レイニー!"と声を上げたが、レイニーはいたって冷静だった。
「あなたたちみたいにそう簡単にやられるわけないでしょ…!」
レイニーは3方向からジャンプしてレイニーにハンマーなどの打撃武器で攻撃してくるコボルトたちを見ると、槍をぐるんと一回転させてから、地面に向かって雷の鉄槌を発動させた。電撃が立体的な放射線状に走り、ジャンプして空中にいたコボルトたちにビリリと痺れさせた。"ぎゃおう…"という少し悲し気な声を出して光の粒子となって四散したコボルトたちを見て、ライクスがレイニーの肩を叩いた。
「レイニー、やるじゃんか!流石はシルバーランクの冒険者だな!魔法はキュリアに教わったって聞いたぞ!」
「ライクスさん、ありがとうございます!私なんてまだまだですよ!早くリトと肩を並べたいと思っているんですけどね。」
レイニーはそういって最後に戦場で双剣を奮ってコボルトたちを次々と倒していくリトを見ていた。ライクスは笑って"お前ならすぐに追いつけるだろ!"と言ってくれたので、レイニーも笑って"さ、キングコボルトのところまでコボルトたちを押し返しちゃいましょう!"と意気込んで、ライクスと共にリトが戦う前線まで上がったのだった。
――――――
レイニーたちは3万もいたコボルトたちを少しずつ削っていき、キングコボルトまでもう少しというところで、キングコボルトに動きがあった。それは今までどっしりと玉座のような椅子に座って戦いを傍観していたキングコボルトが傍にあった大剣を持ち出して、レイニーたちのところまで大ジャンプを見せて、やってきたのだった。
ドスン!!と地震でもあったのかと思うほどの振動が戦場を駆け抜けると、キングコボルトは自分の部下のコボルトたちも巻き込みながら、人間が扱うのよりも大きなその大剣で目の前の軍勢を横薙ぎに払った。大きな大剣は斬撃よりも打撃武器とも言えるような攻撃力で、冒険者もその横薙ぎに巻き込まれて、数人が吹っ飛ばされてしまった。そんなキングコボルトの前にライクスとリトのゴールドランク冒険者の2人が立ちはだかった。
「流石の攻撃力だな。リト、行けるか?」
「要はあの大剣の攻撃を避けて近付けば隙だらけですもんね、行けると思います。」
「キングコボルトはお二人に任せます。レイニーさんは私と一緒に取り巻きのコボルトたちを蹴散らしましょう。」
「はい!」
ハルストがレイニーにそう指示をすると、4人はダッシュしてリトとライクスはキングコボルトとの一戦を、レイニーとハルストたちは周りのコボルトたちの殲滅を目的として大群に突っ込んだ。
レイニーはキングコボルトをゴールドランクの二人が倒してくれるものだろうと思って、コボルトたちを蹴散らすため、惜しげもなく魔力を使ってコボルトたちを一気に倒していった。ハルストも光属性の片手剣を鞘から抜き放つと、流石の速さでコボルトたちを一刀両断していった。
3万もいたコボルトたちが残り1万ほどを切ったところで、ハルストが近くにいたレイニーに叫んだ。
「残りは私たちがなんとかします。レイニーさんはキングコボルトの元へ行って加勢してきてください。」
「分かりました!残り、頼みます!」
ハルストは周りに残っているコボルトたちの相手を引き受けることにして、レイニーをリトとライクスが戦っているであろう、キングコボルトのところへ行かせる判断を下した。レイニーがその言葉を受け取ると、相手していたコボルトの首元に槍を突き刺して光の粒子となって四散するのを確認してから、数名の冒険者を連れて、リトたちの元へ急行した。
リトたちが戦っているはずの戦場までは数百メートル離れていたので、横目にで戦場がどうなっていくのか確認が取れなかった。そんなレイニーがキングコボルトの元に辿り着くと、そこには誰一人として立っている者がいなかった。
「ど、どういうこと…?」
レイニーと一緒に付いて来た冒険者たちも言葉を失っているようで、その戦場の悲惨さに驚いていた。そんな時戦場の奥で普通のコボルトよりも大きな巨体を発見し、レイニーはついてきてくれた冒険者たちに息のある者にポーションを飲ませて回復させてください!と頼んで、自分はキングコボルトのところまで一直線に駆け抜けた。キングコボルトに近付くにつれ、キングコボルトが誰かの腕を掴んで、ぶら下げている状況のようで、レイニーは危ないと思って、更に走るスピードを速くして、キングコボルトの元まで駆け抜けた。
「はあッ!」
そしてぶら下げられている人物を助けるために、レイニーがキングコボルトの背中に4連撃の刺突攻撃を繰り出すと、少しでもダメージがあったようで、キングコボルトは"ぐあッ!?"という声を上げて、誰かの掴んでいた腕を離した。レイニーはその人物が地面に激突する前に、地面とその人物の間に滑り込み、なんとかキャッチすることができた。そこでレイニーはその人物が誰なのか理解した。
「リト!?ねぇ、リト!起きて!」
その人物はボロボロの状態のリトだった。よく周りを見渡してみると、近くにはライクスも倒れており、レイニーはこの短時間でゴールドランク冒険者の二人を相手をここまで戦闘不能に追い込んだキングコボルトがどれだけ強いのか計り知れなかった。
レイニーがその腕の中で、意識を朦朧とさせているリトを抱くと、直ぐにレイニーの刺突攻撃から回復したキングコボルトの一撃を避けると、キングコボルトから少し離れて、リトを地面に寝かせた。
「(今動ける人をかき集めてキングコボルトに対抗しても倒せるかどうか…!リトたちを後方支援部隊に連れて行きたいけど、キングコボルトが目の前にいるんじゃ、戦線離脱は難しい…。私がなんとかしなくちゃ…!)」
レイニーはリトの様子を心配しながらも目の前の魔物をどうにかしないと何もかも手遅れのなってしまうと思い、コボルトの相手をしているハルストたちの加勢が来るまで、自分一人でどうにかしないとと考えた。そこでレイニーは最近キュリアから特訓してもらった、捕縛系の魔法、"蒼電糸膜"を使うことを思いついた。あれを使えば、少しの時間キングコボルトの足止めと体力を削ることができるだろうと考えた。
そしてレイニーは直ぐに実践に移した。キングコボルトの大剣攻撃を避けつつ、魔力を緻密に練り込み、蒼電糸膜の準備をした。キングコボルトは魔力を溜め始めて反撃してこなくなったレイニーのことをチャンスだと思ったのか、ぶんぶんとその大剣を振り回して、攻め込んできた。レイニーの集中力が切れるタイミングとキングコボルトの体力が限界を迎えるのはほぼ同時だった。
「蒼電糸膜!」
レイニーは家で練習していた時よりも、倍の3メートルの大きさで槍で空に放射線状に線を引くと、蒼電糸膜を発動させた。




