Level.52 冒険者ギルド総本部本部長
Level.52 冒険者ギルド総本部本部長
ジルビドたちがレイニーの家を訪ねてきてから、数日が経つとノアリーから魔神軍の続報が舞い込んできた。
「まさかの四天王の二大巨頭が攻め込んでこようとしてるなんて…。」
「ああ。我もまさかとは思ったが、前回のスケルトンマスターのことがあってから人界軍が脅威だということが向こうでも周知されているようでな。キングコボルトとメデューサたちで攻め入れば落とせようと考えているらしい。」
「そっか…、今回のグランドクエストは激化しそうね…。で?ノアリーはまた料理を食べにきたの?」
「うっ…。」
ノアリーは魔神軍の続報をレイニーに伝えきたのだが、またレイニーの家でお茶を貰ってくつろいでいるので、レイニーはノアリーの方をジトッと見た。ノアリーは少し気まずそうにしつつも、素直に話した。
「レイニーたちの作る料理を知ってしまったら、野生の動物の肉を食ってる場合ではないから…。」
「料理の味を知ってしまったら戻れなくなったのね…。」
「レイニーが洞窟までサンドイッチを届けてくれるのも待てなくなっての…。」
「最近は魔界への行き来が多くなったもんね…、エネルギー使うんだね。」
「今日も肉料理で頼む!」
「はいはい。」
ノアリーがすっかり開き直ってリビングのソファーに座ってふんぞり返っているのをレイニーが呆れながら見つつ、お昼はジャージャー麺を作ってノアリーに食べてもらったら、ピリ辛な味付けが気に入ったらしく、"美味い美味い"とものすごい勢いで食べ進めて行った。
そしてその日の夕方、レイニーのザルじいの家に来客を告げるベルがカランカランと鳴ったので、レイニーが1階の玄関に行き、扉を開けるとそこにいたのはレイニーの憧れのゴールドランク冒険者のキュリアだった。
「キュリアさん!いらっしゃい!ささ、家の中に入ってください!」
「久しぶりね、レイニー。元気そうでなにより。」
レイニーは玄関のキュリアを家の中に招き入れると、ザルじいを2階から呼んだ。そして、3人で夕食として牛肉コロッケを作っていたので、それを揚げて頬張った。キュリアは牛肉コロッケも気に入ったようでバクバクと食べていた。
「キュリアさんも今回のグランドクエストに参加するって話、ジルビドさんから聞いていたんです。」
「私もレイニーがシルバーランクになってから活躍してる話人から聞いてる。後で魔法攻撃の練習をしよっか。」
「!いいんですか!?是非お願いします!」
レイニーは嬉しそうに返事をして残っていた牛肉コロッケを頬張ると皿洗いを率先してやってから、家の庭でキュリアと魔法攻撃の成果の報告と新たな力をつけるための練習をすることにした。
「レイニーは今のところいくつの魔法を使える?」
「えっと、雷の槍、雷の鉄槌、雷電闊歩、雷光神速、雷の一閃っていうやつですね。」
「レパートリーが増えてて良かった。それぞれの魔法攻撃の特徴教えてくれる?」
「はい!えっと…。」
レイニーはキュリアがいた時に考案した雷の槍の後から雷の一閃まで技の説明をした。それをキュリアは腕を組みながらふむふむと聞いてくれて、全ての魔法攻撃の説明を終えると、キュリアはレイニーに拍手を送った。
「この短期間でだいぶ成長出来てるようで魔法攻撃を教えた私も嬉しい。でも、レイニーにはまだ伸び代がある。魔法攻撃は何も攻撃だけではないの。バフやデバフ、捕縛系の技も身につけた方が今後の戦いに有利になる。支援系か捕縛系どちらを身につける?」
「そうですね…、私の魔法属性は雷ですし支援系の魔法で魔力調節を失敗すれば対象者を黒焦げにしてしまいそうなので、捕縛系の魔法があれば良いと思います。」
「うん、そうだね、その可能性もあるね。じゃあ、捕縛系の魔法を考えようか。魔力調節は今までの魔法の数から見て結構上手くなってると思う。その様子なら直ぐに捕縛系の魔法も考案できるはず。」
「はい!頑張ります!」
レイニーはキュリアに褒められて嬉しくなりつつも捕縛系の魔法の練習がスタートするとレイニーはいつにも増して集中力を上げて魔法の考案をした。
「(捕縛系…雷の網はどうかな…、漁師さんの網みたいに一気に広げて、捕まえる…みたいな…)」
そんな風に考えながら魔力を練っているとパッと片手を広げると同時に小さな網がバッと広がって地面に落ちた。それを見てレイニーは嬉しくなって顔を上げると、家のデッキで座ってレイニーの練習の様子を見ていたキュリアと目があった。
「わっ、びっくりした…、キュリアさんいたんですね…。」
「レイニーの集中力がすごいのよ。それにしてももう捕縛系の魔法も身につけ始めているなんて…、レイニーの成長スピードには驚くわ。」
「そ、そうですかね…へへへ。」
レイニーは更に褒めてもらうべく、捕縛系の魔法の習得に力を注いだ。電気網の魔法は翌日には幅1.5メートルくらいまで広げることが出来るようになり、更には魔力の出力を上げると電気が青色に輝くようになったので、レイニーはこの魔法に"蒼電糸膜"という名前を付けて完成させたのだった。
"蒼電糸膜"を完成させたその日の郵便でレイニー宛に冒険者ギルドから手紙が届いた。
「もしかして…。」
そう思ってレイニーがガサガサと手紙の封を開けて中を確認すると、冒険者ギルドからのグランドクエストへの招集の件だった。レイニー宛に届いたということは思って、レイニーはリビングからキュリアの部屋に行き、ドアをノックした。
「キュリアさん、レイニーです。」
「入っていいよ。」
「失礼します。」
中から許可が下りるとレイニーはキュリアが泊まっている部屋に入らせてもらった。レイニーが手紙のことを話そうとするとキュリアもちょうどその手紙を読んでいたところらしく、直ぐに"これのこと?"と手紙をひらひらと動かした。
「はい。キュリアさん宛にも届きましたか…。時間は今日の夕方5時だそうなので、一緒に行きますか?」
「ええ、多分リトがレイニーのこと迎えに来るでしょうから、私も同行させて。」
「!はい、ぜひ!」
そう言ってレイニーとキュリアは夕方の招集に向けて早めの夕食をとり、キュリアの予想通りレイニーの迎えにきたリトと共に街の広場へと向かった。
広場には前回のグランドクエストの時よりも大勢の冒険者が集まっていた。皆、冒険者ギルドからの手紙を手にしていたので、これだけの大人数に手紙が出されたのだと思うとシルビーたち事務員の仕事量に脱帽した。そして夕方5時になると、広場の入り口のお立ち台にジルビドが上がった。
そして軽い挨拶をし始めたところで、レイニーはお立ち台の横にいる見慣れない女性に気がついて、ジルビドの話の途中だがこっそりとキュリアにその女性のことを訊ねた。
「あの、キュリアさん、お立ち台の横にいる女性は…?」
「あの人は…、まさかあの方がこのグランドクエストの総指揮を取るのかな…。」
「あの方?」
レイニーが首を傾げていると、キュリアは小さな声で説明してくれた。
「彼女は冒険者ギルド総本部本部長クルエラ・バーゴッツ氏。彼女が来たということは今回のグランドクエストは余程大きなものってこと。」
「そんなすごい人が…。」
レイニーはそこで以前ピーゲルの森にオークとオーガが現れた原因であろう禍々しい魔力を放つ魔石の存在をハインツィアの冒険者ギルド総本部で行う話をしていたなと思い出していた。するとジルビドからの挨拶も済んだようで、お立ち台の隣にいるクルエラに交代した。
「ジルビド殿から紹介に預かった、クルエラ・バーゴッツだ。今回のグランドクエストは激戦になることは間違い無いが、先日のスケルトンマスターを倒した時のように今回も我ら人界の冒険者軍が勝つと信じている。君たち冒険者の力を今こそ見せつけよう!」
クルエラのハキハキとした口調とものすごい声量で冒険者たちを鼓舞すると大勢の冒険者が"うおー!!!!"と答えたので、レイニーはちょっと肩をビクッとさせて驚いた。その後クルエラからノアリーが手に入れてきた魔界の状況説明と、キングコボルト軍、メデューサ軍の総大将の特徴から戦い方までおさらいする形になった。キングコボルト軍は3万、メデューサ軍は1万の兵力を持って魔界を今も進んでいるらしい。レイニーはグランドクエストともなればそれだけの兵力になるのかと少しその数の大きさにふらりとした。そんなレイニーの肩を持ってしっかりと立たせてくれたキュリアにレイニーが小さく"ありがとうございます"と言ってぎゅっと地面を踏み締めると、クルエラの話を聞いた。ノアリーからの情報はレイニーが以前聞いたものが含まれており、おさらいするだけだった。
クルエラが話を締めくくり冒険者へのグランドクエストの説明会を終えるとレイニーたちの元にジルビドと先ほど見事な演説をしてみせたクルエラとその後ろに見慣れない男女の冒険者が2人付いてきていた。
「レイニーくん、リトくん、キュリアくん。紹介したい人がいるんだが、今時間はいいかな?」
「あ、はい、大丈夫です。」
「クルエラ様、こちらが前回のグランドクエストでスケルトンマスターと戦ったレイニーくんです。」
「初めまして、クルエラ様。レイニーといいます。今回は微力ながら戦いの力になれるなら、私の命クルエラ様にお任せします。」
「レイニー殿、初めまして。クルエラ・バーゴッツだ。先日のスケルトンマスターとの戦いぶりジルビド殿から伺っている。今回も是非とも頑張ってほしい。」
「はい。分かりました。そちらの2人は…?」
「おっと、紹介をしに来たんだったな。こちらはゴールドランクのライクス・ホーク、レイクス・ホーク兄妹だ。」
レイニーがクルエラに頭を下げて挨拶をするとレイニーはクルエラの後ろに控えている男女2人に視線を向けた。
「レイニーさん、初めまして。私はレイクス・ホーク。兄妹でゴールドランクの冒険者をしています。今回は一緒に戦えること楽しみにしております。頑張りましょうね。」
「お前がレイニーだな!俺はライクス・ホーク!レイクスは俺の妹だ!前回はお前が大活躍だったらしいが、今回は俺たちがいるから出番は無いかもな!」
「もう…、あにぃは静かにしてて…。」
2人との自己紹介も終えてレイクスがライクスの耳を引っ張って後ろに下がると、クルエラが再び前に出てレイニーを見つめた。
「レイニー殿は"喫茶店"という飲食店を開いているとも聞く。是非時間のある時に伺いたいと思っている。無事に帰ってくることが出来たら是非ともレイニー殿の料理を食べてみたいものだ。」
「はい、クルエラ様のお口に合うか分かりませんが、是非お待ちしております。」
そうしてクルエラたちは去っていったので、レイニーは少し緊張していたのか、一息吐いた。




