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Level.50 完治

Level.50 完治

 レイニーたちはエルフのシスターから血を分けてもらい、深々と頭を下げた。

「大事な血液、大切に使わせて頂きます。これ、私のお店の名刺です。良かったら来てください。美味しい料理を振る舞うので!」

「喫茶レイン…。時間がありましたらお伺いします。大切な人を救えるよう、私は祈っております。」

「ありがとうございます。それじゃ!」

 レイニーたちの薬の作成が上手くいくよう、シスターは祈りを捧げてくれるらしくて、レイニーはそんなシスターにお礼を言ってムーゲルツィオの村ならピーゲルの街までテレポート結晶で飛んだのだった。

 街についてレイニーたちは次の材料の確認に入った。

「えっと、あと必要な材料は…。」

「珊瑚の粉とマンドレイクの根の粉末だな。両方ともギルドの隣の雑貨屋で買えるぞ。」

「案外簡単に薬の材料が買えるのね。」

「珊瑚の粉もマンドレイクの根も薬としてはメジャーな材料だからな。」

 そう言って2人はピーゲルの街の雑貨屋を訪れると数人の冒険者が色々買い込んでいるようで、レイニーたちは雑貨の中をキョロキョロとしてお目当ての材料を見つけるといくつか手に取って決めたのだった。

「2つ合わせて200インツになります。」

「結構するのね…。」

「珊瑚の粉が結構値段が張るんだよ。マンドレイクの根は安い方さ。」

 レイニーは雑貨屋の店員にお金を支払い、珊瑚の粉とマンドレイクの根を購入すると、早速レイニーの家に行き、錬金術を使うことにした。レイニーの部屋をカーテンで暗くして、それっぽい雰囲気を出しながらレイニーは錬金術を使用する時の魔法陣が描かれた布を部屋の床に敷き、苦労して集めた紅鳥の粉塵、エルフの血液を薄めた水、珊瑚の粉、マンドレイクの根の粉末を揃えた。

「これで薬が出来てくれるといいんだけど…」

「試すしかないさ。すみれさんの容体もいつまで持つかわからない。出来ることは片っ端からやろう。」

「うん。そうだね。よし、やるぞ~!」

 レイニーは深呼吸をして意識を集中させると、魔法陣の上に並べた材料に手をかざして魔力を少しずつ注ぎ始めた。今回は材料の種類も多いし、薬としての効能を考えて魔力を少しずつ注いで微調整しながら薬を完成させることにした。一定量の魔力を注ぎ続けること、30分。ポンッという音と共にレイニーの手の下にあった材料たちが光って一つにまとまり1本の小瓶に変わった。

「レイニー、薬が出来たみたいだぞ。」

「これで完成なのかな?効能を確かめてみるにも健康体のわたしたちじゃ…。」

「すみれさんに飲んでもらうしかないな…。すみれさんのところへ行こう。」

「うん。」

 レイニーたちは直ぐに部屋を出て出かける支度をしていると、ザルじいがレイニーを呼び止めた。

「レイニー、これを持って行きなさい。」

「これは…?」

「わしが作ったカツサンドじゃよ。ここ最近忙しいようであんまり食べていないじゃろ?これを食べて元気を出すんじゃ。」

「~ッ!ザルじいありがとう!リトと一緒に食べるね!行ってきます!」

「いってらっしゃい。」

 レイニーはザルじいからカツサンドの入ったバスケットを受け取り、嬉しくなってザルじいにハグをしてから、ザルじいに見送られてレイニーたちはイグルへとテレポートしたのだった。

 レイニーたちがイグルに着くと、夕方になっていたのだが、すみれの家を訪れると医師の診察中だった。レイニーたちが訪れると医師はレイニーの手にある小瓶を見た。

「お嬢さん、その小瓶は?」

「あ、えと、お医者さんの観点からも考えて欲しいんですが、すみれさんのために薬を錬金術で作ってみたんです。材料は紅鳥の粉塵にエルフの血を薄めた水、珊瑚の粉にマンドレイクの根の粉末です。どうですかね…?」

「ふむ…、その材料なら少しは効き目があるかもしれませんね。配合を聞いても?」

「はい!」

 レイニーは少しの間医師と薬の配合の話をしてから医師の勧めもあり、レイニーたちの作った薬をすみれに飲ませてみることにした。薬を飲ませるのはリトに任せ、レイニーは山の宿の厩舎で習得した、筋力増加の魔法をすみれに掛けた。2人の手助けもあり、すみれは薬飲み終えると僅かだが、顔色が良くなってきたように思えた。

「すみれさん。私たち薬の効果が現れるまで1週間ほどイグルに滞在します。何かあったら頼ってくださいね。」

「何から何までありがとう、レイニーちゃん。薬も作ってくれたのに、今の私じゃお礼なんて何も出来なくて…。」

「お礼なんていいですよ!元気になればそれで私は嬉しいんで!」

 レイニーはぶんぶんと頭を左右に振ってからすみれの手を取ってぎゅっと力を入れた。

「すみれさん、ここからはあなたの回復力にもかかってきます。どうか諦めずに頑張りましょう。」

「ええ。レイニーちゃんが薬を作ってくれたんだもの。私も頑張って病気に打ち勝つわ。」

「その意気です!」

 レイニーは笑ってすみれの手を握ってすみれが寝るまでの間、レイニーは自分が違う世界からやってきたことや冒険者としての話、喫茶店を営業するまでの話。いろんな話をしていつのまにか2人は寝てしまったのだった。

 ――――――

 翌日。レイニーの体には布団がかけられていて、すみれの家のキッチンでタックが料理をしているところだった。

「タックさん、すみません。私昨日すみれさんに話をしていたら寝ちゃったみたいで…。」

「大丈夫ですよ。お連れのリトさんはイグルの宿屋に泊まったと聞いています。それとリトさんからバスケットの中身はちゃんと食べたから安心しろって言伝を預かってます。」

「あっ、カツサンド…!ザルじいがせっかく作ってくれたのに忘れちゃってた…。」

「今、朝ごはんを作っているので、一緒に食べましょう。」

「タックさんもお料理出来るんですね。」

「はい、僕はすみれさんから料理を教わっていたので、少しだけですけど、すみれさんの故郷の料理が作れるんです。」

「そうなんですね。楽しみにしてます。」

 レイニーはタックの作っている朝食を楽しみにしつつ、すみれの様子を見に部屋に戻ると、すみれは上半身を起こして窓の外を見ていた。

「すみれさん、おはようございます。」

「おはよう、レイニーちゃん。昨日のお話本当に楽しかったわ。それに自分と同じ境遇の子には初めて出会ったの。」

「和食を知っている時点でもしやとは思っていますが…、すみれさんも異世界人…ですよね?」

「ええ。もう3年前になるかしら…、突然この世界に放り出されてね…。料理は不味いし、魔物とかの危険もあるし…。街から出ずに生きていくために私は小料理屋を始めたの。私は前の世界でも小料理屋をやっていてね。そのおかげでイグルの街の人たちに私の料理を食べて受け入れてもらえてね。それが嬉しくって。そのうちタックくんも仲間になって小料理屋として名を馳せ始めて。それからは充実した毎日を送っていたのに…。イグルの街に私みたいな筋力の低下の病気が流行り出してからは人生の幸福度が無くなっちゃって。それでこんな状態なの。」

 すみれが自分の話をしている間にタックが朝食をすみれの部屋まで運んでくれていた。途中でタックの話も入ると彼は少し照れくさそうにしながら朝食を並べてくれた。そして、すみれは窓の外を見たあと、レイニーに視線を向けた。

「レイニーちゃんもこの世界で生きるためにいろんな思いを抱えてきたでしょう?それは無駄なことじゃない。必ず自分の力になるわ。」

「すみれさん…。はい、ありがとうございます。」

「うんうん。それじゃあ、朝ごはんにしましょうか。」

 いつになく元気そうなすみれにレイニーは嬉しそうな笑顔を向けて、タックを含めた3人で朝食を頬張ったのであった。それから午前中にすみれに小瓶の薬を少量ずつ飲んでもらい、レイニーから筋力増加の魔法をかけて貰い、すみれは再び眠ったのだった。

 そんな生活を1週間続けると日に日にすみれの体調は良くなり、医師からもだいぶ体力が回復してますねと驚きの声を聞いた。レイニーたちの薬が効いているようで、すみれは少しずつだが、歩行のリハビリも受けるようになり、レイニーたちが作った薬を飲み干した1週間後には筋力も増え、病気は完治したようだと医師から告げられたのだった。

「やりましたね、すみれさん!」

「レイニーちゃんが頑張って作ってくれた薬のおかげよ。」

「私はただすみれさんに元気になってまたお店をやって欲しくて…。」

「ふふ、そうね。そろそろお店を再開してもいい時期だと思ってたわ。レイニーちゃんもう少し私のわがまま、聞いてもらってもいい?」

「?わがままですか?」

「ええ。私のお店の再開店の準備を手伝って欲しいの。レイニーちゃんがいれば直ぐにでも料理の準備ができそうだもの。」

「私で良ければぜひ!」

 そう言ってレイニーは嬉しそうに笑って病気を完治したすみれと共に小料理屋すみれの開店準備を手伝ったのだった。

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