Level.48 お薬作り
Level.48 お薬作り
翌日。レイニーとリトは宿泊施設を出ると、従業員に聞いた小料理屋すみれに向かうため、イグルの大通りを歩いていた。そんな時レイニーはふと気が付いた。
「なんだか人が少ない…?」
「確かに…。歩いている人は皆冒険者だし、この街の人ではなさそうだな。」
「どういうこと…?」
レイニーたちはそんな不可解な感覚を味わいながら、大通りを突き進み店通りの一番端の区画に着いた。そこには小料理屋すみれというのれんがかかった和の雰囲気溢れる外観のお店に辿り着いた。
「ここが小料理屋すみれ…。和食のお店だから、宿泊施設のメニューも和食中心だったんだ。」
「でも、閉まってるみたいだぞ?」
リトが少し前に出て、お店の玄関の引き戸を動かしても、鍵がかかっているようで、開くことはなかった。
「うーん…、すみれさんって人に会いたかったんだけど…。病気だっていうし、会えないのかなぁ…。」
レイニーたちがお店の前で立ち往生していると、角を曲がって店の方にやってきた青年に声を掛けられた。
「あの、すみれさんのお店に御用ですか?」
「あっ、えと、すみません。私たちすみれさんに会いたかったんですけど…。」
「すみれさんなら、床に伏しています。僕はすみれさんの身の回りの世話をしている、タックといいます。あなたたちは…?」
「俺たちは隣国のハインツ皇国から来た、喫茶レインの従業員のリト・アングレーと店長をしているレイニーです。同業者としてすみれさんの噂を聞きつけてきたんですけど…。」
「そうでしたか…、喫茶レインの…。僕も噂はかねがね聞いています。すみれさんも気にしていたので、ぜひとも会っていってください。」
タックと名乗った青年からの問いかけにリトが答えると、タックは少し考える素振りをした後、レイニーたちをすみれに会わせてくれるようだった。3人で小料理屋すみれの店舗兼住宅であろう、お店の2階にいくと、タックはコンコンコンとノックをしてから、部屋に入った。そしてレイニーたちもそれに続くように部屋の中に入らせてもらった。
「お、お邪魔します…。」
レイニーは少し会釈をしながら、部屋に入ると、部屋の奥の布団で寝込んでいる女性に気が付いた。そして近寄ると、長い黒髪を流れるように横たわらせ痩せこけた頬に少し顔色の悪い女性が目を開けてレイニーを見た。
「あなたたちは…?」
「すみれさん。この人たちは隣国ハインツ皇国から来てくださった、喫茶レインの人たちですよ。すみれさん、会いたがっていたじゃないですか。」
「ああ…、この子たちが…。すみませんね、私がこんな格好で…。病魔には勝てなくて…。私がすみれです。遠いところからよく来てくれました…。」
そういって力なく笑うすみれにレイニーは泣きそうな顔になりながら、自己紹介をした。
「すみれさん、初めまして。私はレイニーと言います。こっちは喫茶レインの従業員で私の相棒のリト・アングレーです。私すみれさんにお会いしたかったんです。会えて嬉しいです。」
「まぁ…、初めまして、レイニーちゃん…。私もこんな状況じゃなかったら、あなたに会いに行ってみたかったの…。ごほっごほ…。」
「すみれさん!」
「レイニーさん、すみれさんをもう休ませたいので、今日のところは…。」
「すみません、タックさん、無理を言って会わせてもらって…。」
タックはすみれの容態を見て、今日のところはレイニーたちを帰らせることにしたのだった。レイニーはすみれの部屋から出ると、タックに申し訳なくなって謝った。
「いいんです。すみれさんの願いもかなえられたので…。でも、このままでは…。」
「タックさん、すみれさんのご病気とは…?」
「ここ最近イグルの街で流行り出した筋肉が衰える病気です。少しずつ体に力が入らなくなって立っているのもやっとな状態になることが多くて…。すみれさんはぎりぎりまで我慢していたようですが、ついこの間までお店を開いていた時に倒れてしまって…。」
「筋肉が衰える病気…。ハインツ皇国ではまだ出回っていない病気だな。すみれさんの病気の治療は…?」
「病院のお医者様もお手上げのようで…。今藁にも縋る思いで薬を作ってくれる方を探しているところです。」
「タックさん、そのお薬を作るの、私たちに任せてもらえませんか?」
レイニーが真剣な表情でそう言うと、タックはびっくりした顔をしていた。そして少し考えた後、レイニーに向かってコクリと頷いた。
「こうなったら、お薬を作ってくれる方なら、誰でもいいんです。どうかすみれさんを助けてください…。」
「分かりました。私たちも最善を尽くせるよう、頑張ります。もう少し待っててください。」
タックは俯いて鼻水を啜る音を出していたので、それに気づいたリトがタックの背中を擦ってあげていた。そしてレイニーとリトは一旦ピーゲルの街までテレポート結晶で戻ると、リトはゴールドランクになったことで閲覧できるようになった、図書館の禁書庫で筋肉増加についての書物を読んで調べることにして、レイニーは今回アルシュッド王国に行くときに山の宿で聞いた馬たちに筋肉増加させる魔法をかけていた厩舎の人にその魔法について聞いてみることにしたのだった。
それから1週間ほどレイニーたちはそれぞれの場所に通い詰め、それぞれの情報交換を毎日ようにして、すみれの病気が治せるように尽力した。
1週間経つとレイニーは厩舎の人から筋力増加の魔法を習得し、リトも何かを見つけたようでレイニーに朗報を舞い込ませてきた。
「リトの方の材料はなんかいいのあったの?」
「ああ、どの書物を見ても紅鳥の粉塵には不老長寿、生命力が宿るとされているらしい。あとは長寿の象徴、エルフの血を薄めたもの…がいいと思う。エルフの血を大量に摂取してしまうと体に害が及ぶらしい。」
「ふむ…、後は?」
「あとは珊瑚の粉と薬を作るのに定番のマンドレイクの根かな…。」
「よし、薬の材料はそんな感じでいいんじゃないかな!私の方も魔法の習得が出来たし、早速紅鳥の粉塵を取りにイフェスティオに行ってみよう!」
リトから情報を聞いたレイニーは考える仕草をしながらまずはイフェスティオに行くことを提案し、テレポート結晶を構えた。2人で"イフェスティオへ!"と言うと2人はあっという間に蒸し蒸しとした暑さが頬を掠めるイフェスティオに飛んだのだった。
「やっぱり暑いなぁ…、冷却ポーション買いに行こうぜ。」
「うん、そうだね…。」
ぐったりとするほどの暑さにレイニーたちが唸っていると雑貨屋でレイニーは冷却ポーション、火口付近に行く事態を想定して凍結ポーションを購入した。
「よし、これで準備万端!火口付近に行って祠見に行ってみようぜ。また偶然紅鳥に会えるかもしれないしな!」
「!君、今紅鳥と言ったかい?」
「え?」
リトが冷却ポーションをぐいっと飲み干した後、そんな風に言ったことを聞いていた通りすがりの褐色肌に豊満な胸、スラリとした足を惜しげもなく出している黒髪の女性がリトの肩を掴んで揺さぶった。
「紅鳥を探しているのかい!?君たち!」
「あ、はい、そうなんです。今から火口付近の祠に行こうかと…」
「今は火口付近に近づくのは危ない。どうだ、私の冒険者ギルドで涼みながら話を聞こうじゃないか。」
「あ、あなたは?」
「ああ、自己紹介が遅れたね。私はここイフェスティオの冒険者ギルドのギルド長、ザラグ・ジュードだ。冒険者ギルドは冷房が効いている。少し涼むといい。」
そう言って突然現れたザラグの後を追ってレイニーとリトは冒険者ギルドのギルド長室に通された。
「君たちはなぜ紅鳥の素材を集めているんだい?」
「私たちの知り合いで病気になってる方がいて…、その人の病気を治すために紅鳥の素材が欲しくて…。前回もテレポート結晶を作るときに紅鳥から羽根を貰いました。」
「あの高貴な紅鳥が人間に羽根を残すとは…。そうか、その時は偶然が重なったのだな。でも今回は粉塵…羽根よりもレアアイテムだぞ。」
「そうなんですよね…何日もあの祠に張り付くのもキツいですよね…」
ザラグはギルド長室の椅子をクルッと一回転させると、提案をしてくれた。
「ここより少し遠いが、隣国アルシュッド王国のグレンという街では街全体で紅鳥を神として信仰しているところでね。そっちに行ったほうが素材も手に入れやすいと思うぞ。」
「アルシュッド…グレン…分かりました!行ってみます!」
レイニーは喫茶店の名前が書かれた茶葉が閉じ込められたティーパックをザラグに御礼として渡した。そして、ザラグに見送られてレイニーたちは一旦ピーゲルの街に戻ることにした。戻ってからレイニーたちはグレンに向かうため旅支度をしてからテレポート結晶でアルシュッド王国の首都イグルまで飛びそこから馬車でグレンまで行くことになった。




