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Level.47 降参

Level.47 降参

 レイニーはほぼリトのせいで山の宿泊施設の料理人の舌を唸らせるような料理を作ることになった。レイニーはもう一度盛大なため息を吐いて、厨房に着いてきたリトのことをジトリと見た。

「これは乗りかかった船だけど、元はと言えばリトのせいなんだからね。自覚してる?」

「いやぁ…流石に3日連続であんな料理を食っちまうと我慢の限界というか…なんというか…ごめん。」

 素直に謝ったリトにレイニーは呆れつつ、"さて"と気を取り直して山の宿泊施設のパントリーを覗き込んだ。山の宿泊施設だけあって食材は少なく保存が効く干し肉などが中心だった。

「(タンパクな鶏肉に卵がある…ふむ、簡単なオムライスなら作れそう…、あとはレシピが簡単な干し肉のスープかな…)」

 とレイニーが食材を見ながらメニューを考えていると、待ちかねた料理人が様子を見にきた。

「まだ料理を作ってないのか!早くしろ!」

「今メニューを考えていたんです。考えなしに挑む訳じゃないです。」

「ぐっ…、わ、分かった…、待っててやるから、早く作れ!」

 料理人は自分の作った料理をまずいと言われたことを根に持っているようで先程からイライラとした様子で、厨房を覗き込んでは小言を言ってきていた。レイニーはそんな料理人のことは気にせず、料理に集中した。レイニーはまず鶏肉を小さく賽の目状に切り、玉ねぎやピーマンなどの野菜も同じ大きさの賽の目切りにし、余っていたご飯を用意した。そしてフライパンで鶏肉を炒め始め、野菜も加えて火を通し、ケチャップがないので塩胡椒でご飯に味をつけた。そして、卵は牛乳と塩を加えて混ぜ、小さめのフライパンで大きく円をかきながら混ぜつつ火を通して半熟のところで塩胡椒で味つけたご飯の上にトロッと乗せた。そして別のコンロで作っていたトマトソースを掛けて1品目の簡単なオムライスを完成させた。

 次にレイニーはオムライスを作っている間に牛の干し肉を水に浸しておいて出汁として使うことにした。水に浸しておいたことで、柔らかくなった牛の干し肉を食べやすい大きさに切り再び干し肉のスープに戻してぐつぐつと煮た。そして、軽く塩胡椒で味つけて溶き卵を入れてふわふわにすると2品目の干し肉のスープが完成した。

「出来ましたよ。」

「ふんっ、やっとか。」

 レイニーは厨房を覗き込んでいた料理人を呼び戻して宿泊施設の食堂でレイニーの作った料理を食べることになった。いつの間にか食堂には話を聞きつけてやってきた他の宿泊者が観客として集まっており、レイニーは目立つことになっちゃったな…と思いながら、先程作ったオムライスと干し肉のスープを料理人の前に差し出した。

「オムライスという料理と干し肉のスープです。食べてください。」

「おむらいす?聞いたことない料理名だな、はったりか?」

「この世界にはない料理ですからね、知らなくて当然です。」

 レイニーは次第に料理人の自信満々の態度が気に食わなくなり、リトの影響もあってか、少し刺々しい態度をとるようになってきた。

「この世界にはない料理?何を言ってるんだか…。ふん、まぁ、いい、食べてやる。どんだけ不味いんだか…。」

 料理人はそういうとオムライスにスプーンを入れてパクりと食べた。そして、直ぐに目を見開いた。

「こ、これは…。う、美味い…。」

「だろ!?レイニーの料理は美味いんだぞ!」

 料理人は信じられないといった雰囲気でオムライスをバクバクと食べ始め、隣にあった干し肉のスープも飲むとびっくりした表情をした。レイニーは静かにするように、肘でリトの脇腹をどついておいた。

「干し肉がこんなに美味しいだなんて…、な、何をしたんだ!」

「あなた方は干し肉を水で戻したらその水を捨ててしまっているんではないですか?干し肉を戻した水には干し肉の旨みが凝縮しています。捨てるのは勿体無いんです。」

「そ、そんな…勿体無いことをしていたとは…。」

 料理人は驚愕してオムライスと干し肉のスープを凄い勢いで完食した。そして、直ぐにレイニーの前に来るとガバッと頭を下げて土下座をした。

「疑ってしまって申し訳ない!あなたの作った料理はそこのあんちゃんの言った通り、本当に美味しかった!どうか、このメニューのレシピを教えてくれ!いや…教えてください!山の宿泊施設の経営を立て直せるしれない!」

「分かったならいいんだよ!レイニー、レシピを教えるのか?」

 自分が料理を作ったわけではないのに、なぜかドヤ顔をしているリトにレイニーは溜息を吐きつつも、レシピを教えることに決めていた。

「この料理で沢山の冒険者や商人たちに振る舞ってください。きっとこの宿は変わりますよ。」

「!ありがとう!」

 こうしてレイニーは山の宿屋の料理人にオムライスと干し肉のスープの作り方を伝授し、それを宿屋で振る舞うことにしたのだった。レイニーは干し肉のスープを味変したバージョンも教えて週替わりで振る舞うように伝えた。そして、レイニーたちは1泊すると直ぐに隣国アルシュッド王国に向けて出発することになった。

 見送りに来てくれた料理人にレイニーは握手をした。そしてぜひまたこの宿屋を訪れてくださいと言われてレイニーは頷いて料理人に見送られながらレイニーたちはアルシュッド王国に向かったのだった。

 ――――――

 馬車の中でレイニーは溜息を吐いてリトの頬に人差し指を指した。

「リト!あれほどザルじいから文句は言うなって言われてたのにどうして言っちゃうの!今回は円満に済んだけど、普通作った料理を不味いなんて言われたら誰だって悲しくなるし怒るんだからね!?」

「う…、ご、ごめんなさい…。」

 リトはレイニーから説教を受けてシュンと小さくなった。レイニーはその後も口酸っぱくリトに残りの旅の道中でそのような態度を取るなと言うとリトはしょんぼりしながらこくりと頷いてレイニーの言うことを聞く約束をした。

 そして残りの4日間はリトもレイニーの言うことを聞き、宿泊施設の料理に文句は言わずに、なんとか2人はアルシュッド王国に辿り着くことができたのだった。

「はぁー、長かった!やっと着いたね、アルシュッド王国!」

「1週間も馬車の移動だと体がバキバキだよな!」

 2人はアルシュッド王国の検問を通り過ぎて首都イグルに向けて進み出した馬車の中でゆっくりと体をほぐした。

 検問を過ぎてからイグルまではほんの1時間ほどで着いた。

「お嬢さんたち、イグルに着いたぞ。長い間ご苦労さん。」

「おじさんもありがとうございました。」

 レイニーはここまで馬車で運んでくれたおじさんにお礼を言って馬車を降りた。そして辿り着いたイグルの都市をレイニーたちはぐるりと見渡した。

「ここがイグルかぁ…。飲食店を探す前に宿泊施設に行こう。今日はもう夕方だし。」

「そうだな。宿泊施設の部屋でゆっくりしようぜ。」

 2人は馬車を降りた後、イグルの大通りを進み、宿泊施設に向かった。レイニーたちが泊まるのは冒険者に人気の宿屋で安いのにそれなりのグレードの宿屋でレイニーたちはそこの部屋に着くとベッドに倒れ込んだ。そして、宿屋の1階で料理を頼むことにしたのだったが…。

「ん?ここの料理…。今までの泊まってきた宿屋とは料理が違うね…。」

「確かに…。たまにザルじいが作ってくれてた、わしょく?ってのに似てるな。」

 2人で料理のメニューを見ながらレイニーは焼き魚定食、リトはとんかつ定食を頼み、料理が来るのを待った。2人の前に運ばれてきた料理はまさしくTHE和食!と言ったように美味しそうなこげめのついた焼き魚にご飯に味噌汁と漬物が並んでいた。リトのとんかつ定食もご飯とお味噌汁と漬物が付いていて、とんかつは揚げたてサクサクのようだった。

 2人でご飯を食べるとその美味しいさにカッと目を見開いた。

「う、美味い!」

「本当…、美味しい…。なんで?」

 レイニーたちがびっくりしながら、ホールで注文を受け取ったりしていた従業員を捕まえるとレイニーはどうしてこんなに料理が美味しいのか聞いた。

「ああ、それならここの宿屋の料理はすみれさんが監修してるからですよ。」

「すみれさん?」

「はい。ここイグルで和食の小料理屋を営んでいた女将さんですよ。ここ最近は病気とかでお店を閉めているそうですが…。」

「すみれさんって人が小料理屋をやってるんですね…、あのそのお店の場所は…!」

「大通りを進んで食材が並ぶ店通りの一番角にありますよ。」

「ありがとうございます!」

 レイニーは目的の飲食店の情報をゲットすることが出来て、ワクワクした気持ちになった。だが、それよりもそのすみれさんが病気を患っていると聞き、レイニーは心配そうな表情でリトを見た。

「リト、そのすみれさんって人病気を患ってるって…。」

「ああ、明日は聞いた場所に行ってみて出来ればすみれさんって人に面会できればいいんだけどな。」

 2人でまだ見ぬすみれさんの病状を心配しつつ、レイニーたちはその日は早めに部屋に行き就寝したのだった。

 

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