Level.46 雷光の槍
Level.46 雷光の槍
レイニーは相棒の武器が完成するまでの間、リトとのコンビを復活させて、短剣を使いつつ、病院で入院していた期間で鈍った体の感覚を取り戻すべく、ワイルドボアやジャイアントグリズリーの相手をしていた。
そして喫茶店の営業もしていると、ピーゲルの街の人々がレイニーが復活したと聞きつけて、たくさんの人が退院祝いをくれたのだった。
喫茶店の営業二日目を迎えた時、レイニーはピーゲルの街以外からやったきた冒険者の装いをした二人組の会話からレイニーは尋ねられた。
「喫茶店の店長さんは知ってます?アルシュッド王国の飲食店。」
「アルシュッド王国?」
「はい。私たちの住んでいるハインツ皇国の隣の国ですよ。その首都イグルの街にここと同じようにとっても美味しい料理を出すって噂の飲食店があるんですって!」
「へぇ…、アルシュッド王国かあ…。行ったことないので、気になりますね!それに私たちと同業者なら関わり合うことでいい刺激を受けそうですし…。」
「店長さんも時間があるときに是非行ってみるといいですよ!」
冒険者の二人組はそういって、デザートまで食べて行ってくれて、レイニーは感謝しながら、二人を見送った。その日の営業後、レイニーは帳簿を付けながら、ふぅ…と一息吐いた。
「レイニー、アルシュッド王国へ行ってみたいんじゃないですか?」
「えっ、ナシュナ聞いてたの?」
「はい。カウンターでコーヒーを淹れているときに少しだけ。アルシュッド王国へは馬車で1週間ほどかかると聞きますよ。」
「そんなに遠いのか…。うーん…。」
レイニーが悩んでいると、ホールの掃除を終えたリトがやってきた。悩むレイニーの姿を見て、リトとナシュナは顔を見合わせた。
「よし!私アルシュッド王国に行ってみる!ザルじいとナシュナには休暇を与えます!二人はしっかり休んでね!」
レイニーが意を決したようにそう宣言すると、ナシュナとザルじいはにっこりと笑って、レイニーに"楽しんで来てね"と伝えた。
――――――
喫茶店の営業の翌日。レイニーは武器屋を訪れていた。目的はレイニーの相棒の槍ができる頃かと思ったので、行ってみたのだった。
「おお、レイニーちゃん、いらっしゃい。頼まれていた武器ができてるぞ。今持ってくる。」
「ありがとうございます。」
店主がカウンターの奥の部屋に行ってから、ほんの数秒で彼は戻ってきて、槍を持ってきてくれた。
「ほらよ、これが俺の作った最高傑作の槍だ。雷竜の鱗を使っているから、雷属性の魔法攻撃に耐性がある。魔法を何発打っても頑丈にできてる。」
「ありがとうございます!かっこいい…。」
店主がカウンターにドンと置いた槍の刃先にかかっていた布を取ると、刃の部分には電撃のような稲光の黄色い発光色の線が一本入った刀身をしていた。レイニーは店主から武器を貰うと、カウンターから少し離れて、槍の柄をくるくると回して、手に馴染む感触を確かめた。
「この武器に名前を付けるなら…、"雷光の槍"だな!」
「"雷光の槍"…、私もそれ気に入りました!こんなに立派な武器を作ってもらってありがとうございました!大事にします!」
レイニーは店主の名づけ癖をリトから聞いていたので、今回はどんな名前を付けてくれるのだろうかわくわくしていると、かっこいい名前を付けてもらえたので、レイニーは嬉しくなって、槍の柄を撫でた。
その後、代金を支払い、レイニーは"雷光の槍"のその性能を確かめるべく、冒険者ギルドを訪れて、簡単な魔物の討伐クエストを受注した。
レイニーが草原エリアに辿り着くと、そこには群れでブラッディブルが数頭いたので、レイニーは早速槍を持って軽く助走をつけて走り出した。そしてブラッディブルたちが気付いた頃には、レイニーの助走はあっという間にトップスピードになっており、得意の刺突攻撃でブラッディブルの群れを一直線に切り裂いた。レイニーの槍はシュンッという風切り音と共にブラッディブルたちを一気に倒してしまった。
「すごい切れ味…。それに軽いし…。いいもの作ってもらっちゃったな~!」
レイニーはブラッディブルの群れがいた場所から魔石を回収し、クエスト内容のブラッディブル20頭の討伐をクリアするため、再び草原を駆け抜けた。
ブラッディブルを20頭狩り尽くした頃には、草原は夕焼けに包まれていた。
「そろそろ帰らないとなぁ…。槍の調子もいいし。」
レイニーはブラッディブル20頭分の魔石があることを数えてから草原エリアを後にした。
そして冒険者ギルドに戻って、クエスト完了の報酬金を貰うと、ザルじいの待つ家に帰宅したのだった。
「ただいま~。」
「レイニー、おかえり。」
「おかえり!レイニー。新しい武器を受け取りに行ったんだろ?どうだった?」
レイニーが帰宅すると、2階の住居スペースのリビングにはリトがソファーでくつろいでいた。リトはそう尋ねると、レイニーの手にある、"雷光の槍"に視線を移した。
「お、それが新しい武器だな?めちゃくちゃかっこいいじゃん!」
レイニーが新しい武器をリトに手渡すと、リトはその稲光のような一線が入っている刀身を見て、かっこいいと連呼してくれた。レイニーが頑張って手に入れた素材で作った武器だからか、レイニーには愛着が湧いていた。リトから武器を返してもらうと、レイニーは早速ブラッディブルで試し切りをしてきたことを伝えた。
「それで帰ってくるのが遅かったんじゃな。もう少しで夕ご飯ができるぞ。リトも食べていくじゃろ?」
「うん!食べる!ちなみにメニューは?」
「今日はトンテキじゃよ。」
「また聞いたことがない料理だ!肉料理?」
「そうじゃよ。」
「やったー!」
そんな肉料理に目が無いリトと"やれやれ…"と言った感じで料理の盛り付けを始めたザルじいを見て、レイニーは数日前に決めた話を再び引き出した。
「ねぇ、リト。私と一緒にアルシュッド王国に行ってみない?」
「ん?あ、そういえばお客さんから聞いたんだっけか。」
トンテキをもぐもぐと食べながら、リトはそう答えた。レイニーも一口大に切られたトンテキを咀嚼しながら、リトの返事を待った。
「俺もアルシュッド王国には行ったことないし、気になってるんだよな。その飲食店でも肉料理があるのか知りたいし。同業他社だしな。うんうん。」
「本当は肉料理食べたいだけじゃないの?」
「いや!そんなことは!!」
激しく首を左右に振って否定しているが、リトの魂胆が丸見えでレイニーとザルじいは苦笑いをしあった。
そんなリトを同行させてレイニーはアルシュッド王国の飲食店に行くことを決めたのだった。そして夕ご飯後の皿洗いをしているときに、ザルじいがアルシュッド王国までの道のりについて尋ねてきた。
「そういえばナシュナからアルシュッド王国までは馬車で1週間と聞いたな。」
「うん。そう言ってたね。隣国に行く手段だし、途中に宿泊施設もあると思うけど。」
「レイニー、リト。ここ最近わしらの料理で舌が肥えてしまったと思うから、宿屋での料理には文句を言わないようにするんじゃぞ。」
「う、うん…。」
「蘇るカチコチのパン…しょっぱいスープ…。俺耐えられるかな…。」
ザルじいの注意にリトは震え始めてしまって、レイニーはそこまでか…と苦笑いをしつつ、本当にリトが1週間の旅路で料理のことで文句を言わずに堪えてくれることを祈った。
――――――
そしてそれから3日後。レイニーとリトは隣国アルシュッド王国へ向かう馬車に乗って、1週間の旅が始まった。馬車はあらかじめザルじいが手配してくれたものでレイニーたち以外にお客さんはいない。貸し切り状態で馬車に揺られながら、レイニーたちは1日目の宿泊先に到着し、なんとか食事も文句を言わずに耐えきり、順調にアルシュッド王国までの陸路を進んで行った。
だが、3日目に訪れた、山道の中にある宿泊施設で、ついにリトの我慢が切れてしまったのだった。
「あー!レイニーの料理が食べたい!」
「リト!静かに!」
今日の宿屋のメニューは塩をまぶしすぎたであろう、魚の塩焼きとカチコチのパンとそれに浸して食べるように作られただけの水っぽいスープだった。レイニーは周りのお客さんの邪魔になってはいけないと思い、リトの口にカチコチのパンを入れさせて、強制的に黙らせた。リトは直ぐにそのカチコチパンを口から出すと、声のボリュームを先ほどよりも少し下げて、レイニーに文句を言ってきた。
「だってさ、レイニー。ここの料理、はっきり言って…その…不味い…からさ。俺もうアルシュッド王国まで我慢の限界だよ…。」
リトはオブラートに包むことなく、"不味い"と言ってしまったので、レイニーは直ぐにシー!とリトの口に人差し指を押し付けた。だが、それは周りのお客さん、それに宿泊施設の人にも聞こえていたようで、数分もすれば料理人のようにコック服に身を包んだ男性がレイニーたちの席までやってきてしまった。
「私の作った料理に何かご不満でも?」
「いえ、美味しいです…。」
「ここの料理より、絶対レイニーの作る料理の方が美味いよ。」
「リト!!」
レイニーはお世辞でもいいからこの場を切り抜けないとと思っていると、リトはもう我慢の限界のようで、隠すことなくレイニーの料理のほうが美味しいと断言してしまった。その言葉を聞いた料理人はぴくりと眉を吊り上げると、"ほう?"と言った。
「そのレイニーというのはこちらのお嬢さんかな?」
「う…、はい。私がレイニーです。」
「私たちの作る料理よりも美味しい料理が作ることができると…?」
「レイニーの作る料理は美味いんだぞ!」
「リト、もう静かにして…。」
レイニーの思い虚しく、リトのその言葉を聞いて料理人はレイニーを指差した。
「それなら、私の舌を唸らせてみろ!」
「受けて立つぞ!な、レイニー!」
「はぁ…。」
レイニーはリトの暴走に巻き込まれる形で、山の宿泊施設の料理人を唸らせるための料理を作ることになったのであった。




