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Level.45 無事に

Level.45 無事に

 レイニーは剣を握る腕を潰された訳ではないので、なんとか立ち上がると、はぁはぁと荒い息遣いでキュクロプスを見た。相手も頭を潰されかけ、左胸にも風穴が空いている状態で、命の灯火も消えかかっていた。

 レイニーはこのチャンスを逃す訳にはいかない!と思い、潰されていない方の腕でぐっと短剣を握ると、魔力を込め始めた。体中の魔力をかき集めて、レイニーはこれが最後の攻撃になるだろうと思った。

 キュクロプスも頭を抑えつつ、レイニーにずしずしと近付いてきていた。両者睨み合いの末に同時に動き出すと、やはりキュクロプスの動きは遅く、レイニーに向かって振り下ろされた腕はを避けると、レイニー直ぐに地面を蹴って一気にキュクロプスの懐に入った。そして、貯めた魔力を一気に解放するかの如く、短剣で縦に雷の一閃を放った。

「雷の一閃!!!!」

「がああああっ!」

 レイニーが縦に放った雷撃はキュクロプスの体を真っ二つにして魔物の血の紫色の血飛沫を撒き散らしながらドスンと倒れ込んだ。その場にはレイニーの荒い息遣いの音だけが森にこだましていた。そして、レイニーも体力の限界と魔力の枯渇があり、その場に仰向けに倒れ込んだ。それと同時にキュクロプスの体は光の粒子となって四散した。

 キュクロプスが消えたことでレイニーはホッとして大きなため息を吐いた。

「(これで雷竜様から鱗を貰える…。でも、その前に意識飛びそう…)」

 そんなことを思いつつ、レイニーは腰のポーチから最後の1本の体力回復のポーションを取り出して飲み込んだ。これで少しは安心だろうと思っているとレイニーは次第に離れつつある意識を繋ぎ止めたかったが、腕の痛みがジンジンと痛み出してきた。それによって更に意識が遠のきそうになって、レイニーはなんとかしてリトたちの元に行きたくてズルズルと無理をして体を動かして這って移動してみたが、腕が痛すぎてほんの数メートル動いただけで、レイニーは意識を手放してしまったのだった。

 ――――――

 レイニーの帰り待つリトは先程からソワソワしていて、隣で目を閉じていたノアリーに遂には声を掛けられてしまった。

「リト、もう少し静かにしてもらえないか?」

「俺何も言ってないぞ!?」

「行動がうるさい。」

「うっ…。」

 ノアリーにズバッと言われるとリトは深呼吸をして自分を落ち着かせようとした。そんな時、今まで沈黙を貫いていた雷竜がグッと首を持ち上げて森の方向を見た。

「どうやら、終わったようだぞ。」

「!!ノアリー!」

「もう我は止めん。早く行ってやれ。」

 リトはノアリーから許可を貰うと直ぐに神殿を飛び出して、腰のポーチから導き石を取り出した。

「(レイニーのところへ…!)」

 リトが強くそう願うと導き石はゆらりと熱くない炎を燃やして風に靡くようにふわりと炎を揺らした。その方角にレイニーがいるのだと思ったリトは直ぐに森へ駆け出した。

 それからリトは木々をかき分け、河原に出るとその近くで木が何本も倒れていたり、血痕があるのに気が付いた。その血を見た瞬間にリトは急いでレイニーを見つけなければと河原近辺をくまなく探した。そして、河原から数十メートル離れた場所で這うような姿勢で地面に倒れているレイニーを発見した。全身血だらけで右腕を潰されているその姿を見た瞬間、リトは全身の血の気が引くのを感じた。

「レイニー!!」

 リトが直ぐに駆け寄って息をしているか確かめると微弱ながらに息をしているのを確認し、腰のポーチから包帯を取り出して潰れた右腕の止血のために腕に包帯を巻きつけておいた。そして自分の分として取っておいた体力回復のポーションを1本取り出すとまず自分が口に含み、レイニーに口移しで飲ませた。レイニーの喉がグビっと動いたのを確認すると、リトはキョロキョロと辺りを見渡した。するとレイニーの近くに魔物の血である紫色の血飛沫の痕を見つけ、そのそばにはキュクロプスと思われる魔物の魔石であろう大きな石がぴきりと亀裂が走っている状態で見つけた。リトはそれを布で包んで持ち上げて腰のポーチに無理やり入れると、レイニーの潰れた右腕を庇いながらお姫様抱っこをして、導き石の炎のゆらめきを見ながら神殿へと戻ったのだった。

 神殿に戻るとノアリーが直ぐに駆け寄ってきて、ボロボロのレイニーの姿を見て、泣きそうに眉毛をハの字にしていた。

 直ぐにリトは腰のポーチから大きめの魔石を取り出して雷竜の目の前に置いた。

「約束のキュクロプスの魔石だ。これで鱗をくれるんだよな?」

「…我は果たせぬ約束はしない。我の鱗だ。良い武器を作ってもらえ。」

 リトがキリッと眉を吊り上げながら魔石と交換条件で雷竜の鱗を要求すると、雷竜は自身の体から鱗を1枚ペリッと剥がすとリトに差し出した。リトはそれを受け取ると、直ぐに身を翻してノアリーのことを見た。

「ノアリー、俺たちはテレポート結晶で街まで戻る。レイニーを病院に連れて行かなきゃならない。」

「分かった…。レイニーに無理をさせてしまってすまない…。」

「ノアリーが謝ることじゃない。じゃ、先に街に行ってるからな。」

「ああ。」

 ノアリーは後から飛んで街に来ることを約束し、リトはレイニーが作り出したテレポート結晶を使用してピーゲルの街までテレポートした。

 リトがピーゲルの病院にレイニーをお姫様抱っこをして、駆け込むと、近くにいた看護師がボロボロのレイニーを見て、直ぐに医師を呼んでもらうことができた。

 レイニーはそのまま医師に任せることにして、リトは医師の手をぎゅっと握った。

「絶対治してくれ!」

「ああ、分かってる。」

 医師もそんな必死のリトの表情にどれだけこの女の子の身を案じているのか伝わり、リトの手を力強く握り返したのだった。

 ――――――

 それからレイニーが目を覚ましたのは、ライニック樹海から帰ってきて1週間経った頃だった。ちょうどレイニーの瞼が薄く開いたのに気付いたのはレイニーの点滴の交換をしていた看護師だった。レイニーの目が覚めたことを医師とリトに伝えると2人はすぐさま病室に駆けつけた。

 レイニーはまだ酸素マスクを付けていたが、リトの姿を見ると安心したように手を伸ばした。リトがその手を握り締めると、レイニーは少し心配そうにリトに尋ねた。

「リト、キュクロプスは…、雷竜様の鱗は…?」

「ああ、キュクロプスの魔石と鱗を交換してもらった。大丈夫、ちゃんと俺が預かってる。」

「そっ、か…、良かった…。」

 そう言うとレイニーは安心したようで再び目を閉じてしまった。リトは心配になって医師の方を見ると、"今は体力を回復するのが先決です。寝かせてあげましょう。"と言ったので、リトは少し安心してすやすやと眠るレイニーの額を優しく撫でてあげた。

 それから翌日。リトからレイニーが目を覚ましたと聞きつけたザルじいとナシュナがレイニーの病室を訪れると、レイニーはベッドの上で上半身を起こしていた。

「レイニー!」

「ナシュナ…。」

「とっても心配しました!リトさんから怪我の具合を聞いた時にはもうダメかと思いました…!」

「レイニーが無事に目を覚まして良かったわい…」

 2人は元気そうなレイニーの姿を見て、涙ながら喜んでくれた。

「2人とも心配させてごめんね…。あっ、喫茶店はどうしてる?リトから私の目が覚めるまで1週間は経ってるって聞いてたんだけど…」

「ああ、それなら、問題なく営業させたぞ。」

「えっ、休んでも良かったのに…!」

 ザルじいがケロッと言ったのでレイニーはびっくりしてザルじいとナシュナの顔を交互に見た。

「私とザルじいはお店を休ませた方がいいと言ったのですが、リトさんがレイニーの思いが詰まった店をこれからも続けておいしい料理を提供すればレイニーも安心してくれるはずって言いましてね。私たちを説得したんです。」

「リトが…そんなことを…」

 ナシュナがくすくす笑いながらリトの言葉を話すとレイニーはリトの方を見た。リトは顔をそっぽに向けていたが、耳が真っ赤になっているのを見て、レイニーはナシュナと一緒に笑ったのだった。

 それからレイニーはポーションや医師による点滴治療と潰れた右腕のリハビリを少しして退院することが出来た。レイニーが復活すると早速リトが受け取った雷竜の鱗を持ってピーゲルの街の武器屋を訪れた。

「レイニーちゃん!リトから話は聞いてる。だいぶ無茶したそうじゃないか!もう体は大丈夫なんか?」

「はい、ご心配おかけしました…!もう怪我は完治しましたし、体力も戻りつつあります!」

 レイニーがむきっと力こぶを見せると、武器屋の店主はホッとした表情で"良かった"と安心してくれた。

 レイニーは街の人たちが自分の心配をしてくれてることが嬉しくなって笑顔になると、直ぐに店に来た理由を思い出して、腰のポーチから雷竜の鱗をカウンターに置いた。

「こ、これは…!雷竜の鱗か…!?本当に取ってきちまうとはな…。これがあれば雷属性に耐性のある武器が作れるぞ!1週間くらい時間をもらえるか?そのくらいで武器が完成するはずだ。」

「分かりました!新しい武器、楽しみに待ってますね!」

 そうしてレイニーは"星屑の海洋石"と"天海の琥珀"そして雷竜の鱗を店主に預けて、相棒である槍を新しく作ってもらうことにしたのだった。

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