Level.40 料理対決
Level.40 料理対決
収穫祭がスタートすると、街の入り口からほど近い、大通りは直ぐに行き交う人でいっぱいになった。
レイニーはこんなに人が集まるとは思っていなかったが、出店に人を呼び込むにはちょうどいい!と意気込んで大通りを通るお客さんに声をかけていった。
「いらっしゃいませー!喫茶レインの出店でーす。焼きそばじゃがバター、リンゴ飴!どれも美味しいですよ!」
レイニーとナシュナがお客さんの呼び込みをしていても、ザルじいが作る鉄板からソースの焦げるいい香りが大通りを流れて、その香りに誘われて次々と人が出店に押し寄せてきていた。
「はい、焼きそば1人前ですね!200インツ(ハインツ皇国のお金の単位)になります!」
「こっちは焼きそば3人前です~!」
レイニーとナシュナは会計担当をしていたので、注文の多さにてんてこ舞いになるかと思ったが、ナシュナがこういうのには強いのか、あっという間に捌き切った。
お昼休憩になると、レイニーたちは出店の裏側でぐったりとしていた。
「こんなに人が来るとは思ってなかったよ…。」
「流石に疲れましたね…。」
「でも、どの料理も皆美味しいって言って食べて行ってくれたじゃないか!」
リトの励ましの通り、レイニーは会計の合間に買ってくれた人たちの料理を食べた時の驚いた顔、美味しいと笑顔になる姿を見た。それが嬉しくてレイニーは頑張って良かったと思えた。
そして昼休憩が終わるとレイニーは午後から広場の方で料理対決があるため、出店から離れなければいけなかった。ナシュナやリトに優勝あるのみ!と励まされてレイニーは出店を後にした。
料理対決会場の広場に着くと、直ぐに実行委員として忙しなく動いているランラに気が付き、レイニーは声をかけた。
「ランラさん!料理対決、ここでやるんですよね?」
「あら、レイニーちゃん!そうなの!今食材の準備してるから、レイニーちゃんはステージ裏の控えテントで待っててくれる?」
「分かりました!頑張ってくださいね!」
レイニーはそう言い残してランラに言われた通り、ステージ裏の控えテントにやってきた。そこにはすでにレイニー以外の料理対決の出場者なのか、シュッツガルドの主婦とベーゲンブルグのナシュナの屋敷の料理人がいた。緊迫した空気感にレイニーも料理対決が緊張してきていた。
そして14時。料理対決が開催された。出場者入場のアナウンスが聞こえてステージに立つと、そこには結構な数の観客がいて、レイニーはこんなに見られながら料理するのか…とドキドキし始めた。レイニーはどんなお題でも料理を精一杯作って美味しいって言って食べてもらえればそれで!という気持ちで料理対決に臨むことにした。
「今年のメインイベントは料理対決、街内外から出場者3名が集まりました!お題は"まだまだ暑い!さっぱりした料理!"です!食材はキッチンエリアの後ろにある山から好きな材料を使ってもらって構いません!調味料などは調理台の上にすべて出ていますので、それをお使いください!制限時間は1時間!出場者の皆さんは何品作るんでしょうか!楽しみですね!それではスタートします、3,2,1スタート!」
アナウンスがスタートの合図を出したのと同時にレイニーは調理台の後ろにある材料の山から夏野菜を中心にパパパッと取った。そしてザルじいが考案した麺類も手に取るとレイニーは調理台に戻って調理を開始した。
まずはトマトに切れ目を入れて湯むきすると、細かく刻んでボウルに入れて調味料と混ぜてトマトソースを作った。そこへ、皿に沢山の葉野菜ときゅうりや薄切り玉ねぎを盛り付け、薄く切られた豚ロース肉を沸騰したお湯に括らせてしゃぶしゃぶすると、皿に盛り付けられた野菜たちの上に冷やしたしゃぶしゃぶ肉を乗せ、更に先ほど作ったさっぱりしたトマトのソースをかけてレイニーの1品目が完成した。
次にレイニーはオクラを茹でててキンキンに冷やしておいた。そして冷えたオクラを取り出すとほんのちょっと切り込みを入れ、水気を切ったオクラに冷たくした出汁と醤油、生姜を少し入れて少しつけ置きするをしておいた。これは2品目のオクラの出汁漬けが完成間近だった。そして次にザルじいが作ったスパゲッティを茹で始めた。作ろうと思っているのは冷製カルボナーラだった。カルボナーラはまだお店のレパートリーにはないので、レイニーの作ろうとしている料理に観客からは"何を作るんだ?"とどよめきの声が立っていた。レイニーはそんな声など聞こえていないようで、作業に集中していた。
パスタを茹で終わると氷水で冷やして締め、その間に冷たいカルボナーラソースを作ることにした。今回は誰でも真似できるようにマヨネーズを使って作ることにした。マヨネーズもザルじいが考案した調味料で普及率はまだ高くないが、今回の料理対決で使用すれば知名度も上がるのではと思って使うことにした。冷製カルボナーラにはカリカリのベーコンでしょ!と思ってレイニーはフライパンでベーゴンをカリカリに焼いてカルボナーラソースとスパゲッティと混ぜ合わせた。こうして3品目"冷製カルボナーラ"が完成した。ちょうどそこで1時間が経過し、レイニーは3品を作って制限時間終了を迎えた。そして3人の出場者が作った料理の審査タイムが始まった。レイニー以外の出場者は5品も作っていたので、レイニーは少しマイペースに作りすぎたかな?と反省していると早速エントリー1番のシュッツガルドから来た主婦の方の評価の時間が始まった。
主婦さんが作ったのは野菜を湯掻いただけの温野菜、しょっぱいスープを冷やしただけの冷製スープ。そして肉料理には自信があるらしく、カチカチに焼いた肉に酸味を効かせたソースが乗っているらしかった。これは肉の硬さは置いておいて、ソースの味は審査員の方々も頷いてみせた。そしてデザートは2種。フルーツを切り刻んで冷凍しただけのフローズンフルーツ。それとレイニーが防具代の免除のために開いた試食会で披露したフレンチトーストを冷蔵庫で冷やしただけのものだった。
主婦さんの作った料理を全部食べ終わると、審査員たちは1か所に集まって評価の時間をしていた。
そして次に2人目の出場者、ベーゲンブルグの屋敷、ロームント家で料理人として働いている料理人が出てきた。レイニーは彼が1番のライバルではないかと思った。今ナシュナの住むロームント家はナシュナのおかげで食事が変わり始めているのだとか。そんな相手と対決して果たして勝てるかどうかちょっと不安を覚えた。そんなとき。
「レイニー!頑張れよー!」
「レイニーなら優勝できます!」
と広場のステージから離れたところで出店をしていたはずのリトとナシュナが大声で応援をしてくれた。
レイニーはそれが嬉しくって元気をもらうことができた。そして5品作った料理人の審査も終わり、次にレイニーのところまで来た。レイニーは3品と他の出場者よりも品数が少ないが、さっぱりとした料理というお題はクリアしていると思うと考えて、審査員の人たちが食べる様子を祈りながら見つめた。
そして全ての料理を食した後、審査員たちは一カ所に集まって審査会議を始めた。それはレイニーにとって、すごく長い時間のように感じた。たった15分程度の時間が1時間に感じていた頃、レイニーは運営スタッフに促されてステージに立って、結果発表の瞬間がやってきた。
「お待たせしました!料理対決の審査が終わりましたので、これより優勝者を発表したいと思います!優勝は~………」
ドラムロールと一緒に長く溜められる言葉にレイニーは目を閉じてぎゅと手を握り合わせてその瞬間を待った。
「優勝は、レイニーさんです!!!」
「…え?」
観客席からわぁっ!と歓声が上がるなか、審査員長を務めていたジルビドがステージに上がってきてレイニーに近づいてきた。
「レイニーくんなら優勝すると思っていたよ。とっても美味しい料理だった、おめでとう。」
そう言ってレイニーに葉の冠を乗せてジルビドはレイニーの手を上げて優勝したレイニーを存分に注目させたのだった。
レイニーの優勝に喫茶レインのメンバーは誇らしげになった。そして、料理対決が締め括られ、メインイベントも終了すると、レイニーは優勝のトロフィーを受け取ってザルじいたちの元へ向かった。
「みんな~!優勝出来たよ~!!!」
「流石、レイニーですわ ね!優勝はレイニーだと思っていました!」
「よく、がんばったな、レイニー。」
3人から褒められてリトがレイニーの頭をわしゃわしゃと撫でると、レイニーは嬉しさから少し涙ぐんだ。
それから収穫祭は2日間によって行われ、料理対決を見ていたであろう、祭りの見物客からレイニーのお店の出店に沢山の人が押し寄せてきた。大繁盛となった喫茶レインの出店は用意した材料が全てなくなりそうな勢いで売れて、レイニーたちは嬉しい悲鳴を上げて、ピーゲルの街の収穫祭は幕を閉じたのであった。




