Level.38 お祭り料理
Level.38 お祭り料理
レイニーはスケルトンマスターとの戦いの後、病院に入院している時にザルじいと面会をすることができた。
ザルじいはレイニーが無事に帰ってきてくれたことを泣いて喜び、レイニーは心配をかけてしまったことを謝った。だが、ザルじいは必ず帰ってきてくれると信じて、レイニーの帰りを待っていたという。レイニーはそんなザルじいの優しさに触れて嬉しくなって、ザルじいとハグを交わしたのだった。
「それでザルじい、喫茶店の方は大丈夫?」
「ああ、それじゃが、レイニーがグランドクエストに行っている間に何人か今日はやっていないのかと訊ねてくるものがおってな…。レイニーがこうして帰って来られたんじゃ、また喫茶店をきままに営業しようと思っておるよ。」
「そうなんだ…。その訪ねてきてくれた人には申し訳なかったな…。」
「レイニーは冒険者も兼任しておるんじゃ、少しばかり融通が利かなくてもしょうがないじゃろう。」
「ありがとう、ザルじい。じゃ、私も頑張って体調を万全にして喫茶店に復帰しないとね!」
「その意気じゃよ!」
レイニーは病院でそんなやりとりをザルじいと交わしていた。そして、レイニーがジルビドからランクアップの話を聞いたその週の土日に、レイニーは早速喫茶レインを久しぶりの感覚で開くことにした。
朝からお店の開店準備に来てくれたナシュナもレイニーがグランドクエストに行くことを知っていたので、無事に帰ってきてくれたレイニーに抱き着いていた。
「レイニーが無事に帰ってきてくれて嬉しいです!またこうしてレイニーの料理を食べられるんですから、お客さんも喜んでくれますよ!」
「ありがとう、ナシュナ。さ、今日も頑張ってお店を開くよ!3人共、よろしくね!」
レイニーが意気込んで開店準備をして、午前10時にお店を開くと、なだれ込むようにお客さんがやってきて、レイニーは嬉しい悲鳴を上げることとなった。
その日の午後、お昼休憩を取ったレイニーはホールに出て、お客さんのオーダーを取っていると常連でもあるリトの母のランラがお店を訪れた。
「ランラさん、いらっしゃいませ!」
「レイニーちゃん、こんにちは。この間はグランドクエスト、ご苦労様。リトもボロボロで帰ってきたけど、レイニーちゃんの方がフラフラだったって聞いたよ!もう大丈夫なのかい?」
「はい、私は魔力切れが起きていたので、フラフラだっただけで…。リトにもお世話になりました。」
「あはは、あの子がレイニーちゃんの役に立てたのなら、私も嬉しいよ。さて、今日は何を注文しようかしら…。」
ランラはそういって豪快に笑ってくれて、メニュー表を見て、今日の注文をホワイトソースのピザトーストに選ぶと、はぁ…とため息を吐いた。
レイニーはその様子を見て、何かあったのかと思い、厨房に行ってからホールに来たリトにランラのことを聞いてみた。
「ああ、最近の母さんは忙しくてな。本人からその話を聞けば母さんなら、飛びついて話をしてくれると思うぞ。」
と言っていたので、レイニーはホワイトソースのピザトーストを完成させてお盆に乗せてランラのところに持っていくと、それと同時にランラに溜息の原因を訊ねてみることにした。
「ランラさん、お待たせしました、ホワイトソースのピザトーストです。それで…、リトからも聞いたんですけど、最近忙しいそうですね…?何か溜息も吐かれていましたし、何かあれば私もお話聞きますんで!」
レイニーがそう言うと、ランラは運ばれてきたピザトーストを見て、目を輝かせた後、レイニーに向かって苦笑いをした。
「ごめんね、気を遣わせちゃったみたいで…。確かに今忙しいのよ…。レイニーちゃんはまだ知らないかもしれないけど、もうすぐ秋だからね、収穫祭っていうお祭りがこのピーゲルの街で行われるのよ。私はその祭りの実行委員でね…。」
「収穫祭…?」
「そう。毎年の野菜や果物、穀物なんかの豊作を祝うお祭りなんだけどね、そのお祭りのメインイベントの話がまとまらなくて…。」
「そんなお祭りがあるんですね…。そのメインイベントってあの広場で行われるんですか?」
「ええ、そうよ。そうだわ!レイニーちゃんがこの街に来てから食文化が発展したから、今年は料理対決だなんてどうかしら!」
ランラはレイニーと話をしている内に何かを閃き、手をポンッと叩くと、レイニーの手を握って閃いた話内容を話してくれた。
「料理対決…ですか?」
「そうそう!レイニーちゃんの料理してるところ見てみたいし、私以外の主婦も同じことを思っていると思うわ!」
「そうですかね…。ちょっとだけ興味がありますね…。」
レイニーが"うーん"と顎に手を当てて考えながら、そう言うとランラは嬉しそうに微笑んだ。
「レイニーちゃんが料理対決に出てくれれば、他の街からの見物客も増えるだろうし!あ、今年は街の大通りの皆さんが出店を出すんだけど、喫茶レインも何か出してみる?てゆーか、出して欲しいくらいだわ!」
「あはは…、検討してみます。返事は急いだほうがいいですか?」
「いや、そんなに急がなくていいわ。レイニーちゃんも冒険者業で忙しいだろうし、出店と料理対決の件、いい方向に考えてくれると嬉しいわ。よろしくね。」
ランラはそういうと、ホワイトソースのピザトーストをかじって味わい始めたので、レイニーも"ごゆっくり"と言葉を残して、厨房に帰ったのだった。
その日の営業終了後。レイニーは従業員の皆に収穫祭の出店のことと料理対決のことを話した。
「収穫祭、楽しそうじゃないですか!今年はレイニーとザルじいのおかげでだいぶ食文化の発展も出来てますし、料理対決だなんて、レイニーの料理をする姿を見ることができる絶好のチャンス!」
「ナシュナ、なんだか楽しそうね…。」
フンスと鼻息を荒くするナシュナにレイニーが少しばかり、引いているとホールの掃除を終えたリトがやってきて、ナシュナに同調するように、頷いた。
「レイニーの美味い料理なら、料理対決も優勝間違いなしだろうけどな!出店で出す料理は何か決めたのか?」
「料理対決で誰と対決するかにもよるよ…。出店の料理は私とザルじいの郷土料理っていうか、前の世界でのお祭りといえば!な料理はどうかなって。」
「レイニーのいた世界のお祭り料理って気になります!」
ナシュナが早速レイニーのいうお祭りの時の料理に食いつくと、目をキラキラと輝かせて、レイニーに近付いた。
「ナシュナの食いつきがすごい…。お祭りの料理と言えば…、焼きそばとかじゃがバター…たこ焼き…、から揚げ…リンゴ飴、チョコバナナ…。」
レイニーがどんどんと料理の名前を挙げていくと、ナシュナはどの料理の名前を聞いたことない!と興奮冷めやらぬ感じで、レイニーに詰め寄った。
「そ、その焼きそばというのはどういった料理ですか!?」
「え、えっと、中華麺っていうパスタよりも縮れた麺を使って、野菜や豚肉と炒めて、ソース味に味付けた麺料理なの。お祭りといえば、焼きそばやたこ焼きのソースの匂いが定番だと思うよ。」
「はぁ~!説明を聞いただけでは、料理の想像がつきませんが、美味しそうなのには変わりありませんね!レイニー、早速八百屋さんに発注の手続きをしておきましょう!」
「ナシュナ、興奮しすぎて、気が早いよ…。」
ナシュナはレイニーから焼きそばの話を聞いてから、頭の中は焼きそばのことでいっぱいらしく、掃除が終わって翌日の準備を終えても、まだ時々"焼きそば…"とブツブツ言っている始末であった。
翌日。今日の家事の大半を終わらせてきたであろう、ランラが喫茶店に来店したので、レイニーは出店の話をして、料理対決にも参加することを決めたと伝えた。
ランラは嬉しそうに頷いてくれて、"レイニーちゃんのとこの出店は何を出すんだい?料理だろう?"というので、昨日ザルじいと一緒に考えた最終案の焼きそば、じゃがバター、リンゴ飴の話をすると、ランラもナシュナと同じで、よだれが止まらない状況になってしまったらしい。こうして喫茶レインも収穫祭の参加を決めて、準備に乗り出すのであった。




