Level.37 雷の鉄槌
Level.37 雷の鉄槌
新しい翼が生えたことでスケルトンマスターのドラゴンは俊敏な動きでレイニーたちの攻撃を避け切って見せた。
「っち!当たらないな!」
「翼も鱗で出来てて硬そう…!」
リトがイラつきから舌打ちをしつつ、なんとか飛んでいるスケルトンマスターのドラゴンに近付こうとするも、高度を上げられて高さが追いつかなかった。レイニーもその翼の硬そうな印象を受け魔力回復ポーションで魔力の回復はできても雷の槍を連発して当たらなかった時が無駄になってしまうと思い、攻撃できずにいた。
そんな時バサバサッという翼のはためきの音と共にレイニーたちの元にドラゴンの姿のノアリーがやってきた。彼女は上級スケルトンたちの殲滅に駆られており、レイニーたちと合流するのが遅くなってしまったのだった。
「戦況はどうなっておる!」
「ノアリー!いいところに!今スケルトンマスターを追い詰めたんだけど、自分の魔石を飲み込んでドラゴンみたいな姿に変わっちゃって…!一度翼を壊して体力を削らせたんだけど、今度は高く飛んで翼も堅いものに変わっちゃって…。どうにかしてアイツを捉えたいんだけど…。」
「ふむ…。ドラゴンに似た姿をしているが我の種族よりも魔物の血が濃い故にドラゴンとはまた違う生き物になっておるな…。我が少し空で相手をしよう。レイニーたちは落ちたやつを叩きのめしてくれ!」
そう言うとノアリーはばさっと翼を広げてその巨体を持ち上げて飛んだ。ノアリーがなんとかしてスケルトンマスターを地面に落としてくれるのを期待してレイニーたちは地上で少しずつ近付いてくる上級スケルトンたちの相手をすることにした。
時々ノアリーとスケルトンマスターの戦いを横目で見ながら上級スケルトンの体を槍で微弱の電流を流してから突くと直ぐにぷすぷすと煙を上げて倒れ込んだ。ノアリーの方は空中戦で難しい戦いを強いられているようだった。
「(ノアリー、頑張って!)」
レイニーの思いとは裏腹にノアリーはスケルトンマスターの攻撃で劣勢に立たされているようだった。
「くっ…!」
「本物のドラゴンよりも私のこの力の方が強い!最強種とも呼ばれたドラゴンがこの様とはな!!!」
「我々を侮辱するのもいい加減にするがいい!最強種の真似事をしている三下風情が!」
すると2体は同時に口の中に魔力を貯めて光線を放った。2本の光線がぶつかり合った衝撃は地上にも届き、レイニーたちは吹き飛ばされてしまわぬように皆で手を取り合って踏ん張っていた。
「すごい魔力のぶつかり合い…!」
「これがドラゴンの戦い…」
レイニーが飛ばされそうになると、リトがその手を掴んで引き留めてくれた。グッとリトの体にレイニーを寄せてくれて、支えてくれたことでレイニーは強風によって飛ばされるのを防ぐことができた。
だが次の瞬間、レイニーたちの直ぐそばにノアリーの巨体がズシン!という地響きと共に落下してきた。
「ノアリー!」
レイニーがリトの腕から離れると直ぐにノアリーの近くに駆け寄った。レイニーが来てくれたことでノアリーはわずかに目を開いた。
「レイニー…、奴は魔石の力で本来のスケルトンマスターの力を遥かに凌駕しておる…、我の力で少し体力を消耗させることは出来たが、後もう少しが足りんかったようじゃ…。」
ノアリーはそう言うと少しぐったりした様子で少女の姿になってしまった。レイニーはこれ以上ノアリーに全ての勝敗を任せることは出来ないと思い、ジルビドにこれからどうするか指示を仰ごうと思った。
幸いノアリーがスケルトンマスターを相手している間に上級スケルトンの殲滅はクリアすることができ、地上は少し安全地帯になりつつあった。少女の姿になってしまったノアリーを支えながらレイニーはジルビドの元を訪れた。
「ノアリーくんには無理をさせてしまった…申し訳ない。どうすればスケルトンマスターの体力を削ぐことができよう…。」
「レイニーがここ1ヶ月で鍛錬してきた魔法攻撃をあやつの目玉に打ち込めば勝機はあるやもしれん。」
「!あれを使う時が来たのね!」
「レイニー、魔力はあとどれくらい残っておる?」
「あれを一発打つくらいなら残ってるよ。」
「よし、我があやつの上までレイニーを運ぶ。他のものは地上からスケルトンマスターの気を逸らしてくれ。」
ジルビドが作戦を考えているとノアリーがレイニーの秘策について話すとレイニーは直ぐにピンと来たようで意気込んだ。そしてドラゴンの姿になったノアリーの背に乗るとジルビドたちは直ぐに上空のスケルトンマスターに向かって遠距離の魔法攻撃を周りの冒険者たちに指示した。スケルトンマスターがその攻撃を防ぐために翼で体を覆った瞬間にレイニーを乗せたノアリーは一気に空へと上昇した。
レイニーは風圧で吹き飛ばされないようにしっかりノアリーに掴まってスケルトンマスターの頭上へとやってきた。
「レイニー、ここ1ヶ月の成果を見せる時じゃ!気張れよ!」
「うん!」
レイニーはノアリーの背中からバッと飛び出して空を滑空し始めた。スケルトンマスターよりも高度が高いので少しばかり位置を微調整しながら滑空し、ちょうどやつの目玉の辺りらへんでレイニーは魔力を槍に込め始めた。
「レイニー、やったれ!」
「レイニーくん!」
「レイニー!」
地上ではリトやジルビド、キュリアが上空からスケルトンマスターの頭上にいるレイニーを応援する声を上げた。
スケルトンマスターが頭上にいるレイニーに気付いた時にはもう遅かった。
「(しまった!上にいるのか!)」
「雷の鉄槌!!!!」
ズゴォン!!!と雷鳴が轟く落雷の音と共にレイニーが槍の先に魔力を貯めて作り出したハンマーがスケルトンマスターの弱点であろう目玉にクリーンヒットし、かなりの高度から振り下ろされた雷の鉄槌は威力が3割り増しくらいになっており、その威力と落雷の威力が合わさってレイニーの新しい魔法攻撃の"雷の鉄槌"はスケルトンマスターの目玉の中にあった魔石を砕くには十分なダメージを与えることができたのだった。
「おああああああ!!!!」
「はぁあああ!!!!」
なんとかして頭をレイニーの方に向けて攻撃力と相殺しようとするスケルトンマスターと槍の柄にグッと力を入れて地面に叩きつけようとするレイニーの力比べは、レイニーの方に勝敗が上がり、スケルトンマスターはものすごい勢いで地面に叩きつけられた。
「ぐはぁっ!!!!」
レイニーは地面にめり込むように叩きつけられたスケルトンマスターを見届けるとガクンと体に力が入らなくなってしまった。
「(魔力切れ…!このままだと地面に…)」
レイニーの視界がぼやける中、どうにかして着地しなければと思っていると、レイニーのポンチョのフードをノアリーが爪を引っかけて、レイニーはノアリーによって空中で救出されたのだった。
スケルトンマスターはパキンと魔石が壊れる音がしたかと思えば、サラサラと砂のように崩れ始め、その砂が1箇所にぎゅっと収縮したかと思ったら、パァンという弾ける音で光の粒子になってその体は砕け散ったのだった。
――――――
スケルトンマスターが砕け散ってから、その場にいた冒険者たちは誰1人として歓喜の声を上げなかった。本当に終わったのだろうか、喜んでいいのかわからないといった様子でレイニーとノアリーが地面に着くと、それを見たジルビドが手を持った片手剣を高く突き上げたことで、冒険者たち、人界軍が勝利したことが確定したのだった。
「うぉおおおお!!!!」
ジルビドの拳が突き上げられたのを見て、周りの冒険者たちが雄叫びを上げたことでレイニーはやっとグランドクエストをクリアすることが出来たのだと実感した。ふらふらのレイニーの元にリトとキュリアがやってきて、レイニーを支えてくれた。最後の一撃の雷の鉄槌がスケルトンマスターの最後の命の灯火を消し去ったのだとキュリアがレイニーを褒めていた。そして人界軍は魔界から人界へと帰還し、街でその帰りを待っていた冒険者ギルドの職員たちに無事勝利の報告をすることが出来たのであった。
それからレイニーは魔力切れと戦いの傷を癒すべく病院に運ばれ、リトやキュリアも点滴を受けることになり、一緒に病院に運ばれたのだった。
レイニーの功績があってのグランドクエストクリアが成し遂げられたとのことで、レイニーは病院を退院したその日にハルストの迎えのもと、リトと共に冒険者ギルドを訪れた。
「レイニーくん、まずは退院おめでとう。無事に元気になってくれて良かった。そして、今回ハルストに迎えに行かせて話をしたかったのは…ランクアップの件だ。」
「ってことは私はシルバーランク、リトはゴールドランクに…?」
「そういうことだ。察しが早くて助かるよ。特にレイニーくんにはスケルトンマスターへの最後の一撃を喰らわせたことが評価されている。シルバーランクになっても頑張ってくれ。」
「ッ!ありがとうございます!!」
レイニーは自分の頑張りが評価されたことが嬉しくて泣きそうになったが、なんとか堪えてジルビドからシルバーランクの証のピンズをもらったのだった。




