Level.34 ドラゴンとサンドイッチ
Level.34 ドラゴンとサンドイッチ
グランドクエストについての説明会が行われてる中、ジルビドは次に今回のクエストの討伐対象の説明に入った。
「名前はスケルトンマスター。骸骨で出来た魔物で魔道士のような格好をしている。その格好の通り魔法を駆使して前衛には出ず、歩兵のスケルトンたちにバフを掛けたりして兵力の増強を行うのが特徴とされている。ちなみに普通の武器での斬撃ではスケルトンマスターには効かない。魔力を少しでも込めた魔法攻撃が有効だ。ここまで質問がある者は?」
ジルビドの説明は不備などなく、サクサクと進んでいき、説明会は30分程度で終わった。
レイニーとリトは最後まで広場に残ってジルビドの言っていたスケルトンマスターの特徴などをメモに綺麗に整理してまとめておいた。そしてジルビドが最後に言った言葉…
「決戦は1ヶ月後」
と言う言葉を胸にレイニーはスケルトンマスターに対抗する魔法攻撃を考案した方が良さそうだなと思った。
喫茶店がお休みの平日。この日レイニーはお昼用のサンドイッチをザルじいに作ってもらってカゴバックに入れてもらうとそれを持ってピーゲルの森に向かった。
森の小屋の近くに木々が生えていない少し広いスペースがあるので、そこで魔法攻撃の練習をしようと思っていたのだった。
レイニーがまず魔法攻撃として加えたかったのは雷属性の打撃、ハンマーのような攻撃が出来ればいいなと考えた。レイニーはまず初歩的なステップの静電気を秒で起こすとそのまま電気を槍の刃先に集中させた。そしてキュリアから教わったイメージの力を強く持ってハンマーのイメージをし続けること5分、パッと目を開けると目の前の槍の刃先には電撃の黄色い光がハンマーのように槍にくっ付いている状態だった。これなら!と思ってレイニーは試しに地面に鉄槌を打ち込んでみた。するとドンという少し重い音と共に地面がほんの少しだけ窪んだ程度だった。レイニーはこれにもっと魔力を込めればもっと攻撃力の高い魔法攻撃が出来る!と思い、今度は魔力の量を調節しながら反復練習をした。
――――――
太陽が真上に上がり、レイニーの腹の虫も先ほどからうるさくなっているので、レイニーはお昼ご飯の時間にすることにした。今日はザルじいが作ってくれたサンドイッチで、ツナマヨや卵とマヨで作ったサンドイッチや、野菜がたくさん入ったサンドイッチから、デザートもいちごとホイップクリームを挟んだフルーツサンドまであってレイニーはそれを見ただけでも嬉しくなった。
「いただきまーす!」
と手を合わせてまずはツナマヨサンドイッチから食べようと思ってそれを持ち上げると、なんだか自分のことが見られてるような気がしてレイニーは辺りを見渡してみた。
「(誰もいない…気のせいか。)」
レイニーは見られるような感覚は気のせいだろうと思い、ツナマヨサンドイッチをパクリと食べた。
「んんーっ!美味しい!」
ザルじいの作ってくれたサンドイッチはパンがふわふわで中身のツナマヨのマヨネーズの割合がドンピシャでレイニー好みの味付けになっていた。次にレイニーは卵サンドを手に取ってパクりと食べると、ふと自分の頭上から"ああっ!"という声が聞こえてレイニーは食べる動きをぴたりと止めた。
その声がした頭上を見上げてみると、そこには厳つい鱗を全身に纏い、ギョロっとした目がレイニーを捉えていた。
「うわぁっ!!!」
「わ!!!」
レイニーと目の前の生き物が驚きの声を上げたのは同時だった。レイニーはサンドイッチの入ったカゴバックを大事に持って数メートル後ずさった。
「な、ななな何!?」
レイニーは目の前にいる物体がなんなのか一瞬分からなかった。だが、その物体の体を隅々まで見ると、前の世界でも少しだけ本に載っていたドラゴンの特徴にそっくりだった。光沢のある鱗がびっしりと体を覆い尽くし、ギラリと光る眼と背中に生える翼が存在感を放っていた。
「(ドラゴンなんて初めて見た…本当にいるんだ…)」
レイニーがそんなことを思っていると、1人と1体の緊張感のある距離で"ぐう〜"と間抜けな音が森に響いた。
レイニーは先程少しだけだがサンドイッチをお腹に入れたので、空腹でお腹が鳴ることはないだろうと思った、つまりは目の前のドラゴンからあの音が聞こえた訳で…。
「もしかして、お腹空いてるの?」
「………。」
ドラゴンはそっぽを向いたまま自分の存在を消すかのように無視を貫いていたが、レイニーはこの場でお腹が鳴るのは自分を除いて目の前のドラゴンしかいない。そう思ってレイニーはそっぽを向くドラゴンの体の鱗をツンツンと触ってみた。思った通り硬くツルツルとした感触にレイニーが"おお"と思っていると、触られている感覚は伝わったのかドラゴンがこっちを見た。
「何をする!」
「お腹、空いてるんでしょ?一緒にサンドイッチ食べようよ。」
「わ、我はお腹など…」
未だに虚勢を張るドラゴンにレイニーは苦笑いをしていると、再び1人と1体の間で"ぐう〜"という音が聞こえたので、レイニーはカゴバックから一つのサンドイッチを取り出した。
「ね、食べよう?」
レイニーの思いが伝わったのかドラゴンは1つため息を吐くとその大きな体が光に包まれた。レイニーが思わずその眩しさを片腕で目を押さえて遮っていると光は数秒で止んだ。再び目を開けるとそこにドラゴンはおらず、代わりにレイニーより年下であろう女の子が立っていた。
「あ、あれ?ドラゴンは?」
レイニーが目の前で起こった不思議な出来事にキョロキョロしていると、目の前の女の子がレイニーのワンピースの裾をツンツンと引っ張ってきたので、女の子に視線を移して目線を同じくするためにしゃがみ込んだ。女の子は先ほどからレイニーの手にあるサンドイッチをロックオンしているようでレイニーはその視線に気付くと、そっと女の子にサンドイッチを差し出してみた。
女の子はレイニーからサンドイッチを受け取ると、豪快に大きな口を開けてガブリとサンドイッチに齧り付いた。その食べっぷりにレイニーが感心している間に女の子はあっという間にサンドイッチを平らげてしまった。
目の前の女の子の視線がまだサンドイッチの入っているカゴバックにあったので、レイニーは苦笑いしながら女の子に先程とは違う味のサンドイッチを渡した。それを何回か繰り返しているうちにカゴバックにぎゅうぎゅうに詰められていたサンドイッチはあっという間になくなってしまった。レイニーは女の子がサンドイッチを食べている合間に3,4個食べただけでそれ以外は女の子のお腹の中に入ってしまった。ものすごい勢いで食べるものだから、そんなにお腹が空いていたのか…と思うとサンドイッチをほとんど食べられてしまったことも怒れないなと思っていると、目の前の女の子は近くにあった大きめの石の上に乗って着ていたワンピースの裾をパンパンと払うと、再びその体が光に包まれた。レイニーは今度こそ見逃さないように薄く目を開けてその光の中の出来事を目に焼き付けた。
すると目の前の女の子が先ほどの漆黒のドラゴンに姿を変えたので、レイニーは予想していたが目の前の不思議な出来事に少々驚いていると、ドラゴンがレイニーに話しかけてきた。
「先ほどの料理、とても美味にであった。礼を言う。我はドラゴンとして生を受けて数100年生きている、ノアリーと言う。人間の娘よ、先程ここで魔法の練習をしておったな。そこでだ、我が魔法の指導をしてやるから代わりに先ほどの料理を持ってきてはくれぬか。」
「…へ?そんなにサンドイッチが気に入ったの?」
「わ、我好みの味をしていたから…。」
ドラゴンのノアリーはレイニーに魔法攻撃の特訓に付き合ってあげる代わりにサンドイッチを要求してきたので、レイニーは最初ぽかーんとしていたが、目の前のドラゴンがサンドイッチを気に入ったのだと気付くのにさほど時間はかからなかった。
レイニーはノアリーにサンドイッチを持ってくる代わりに魔法攻撃の特訓をしてもらうように約束をした。そしてグランドクエストまでの1ヶ月間、ノアリーに特訓を付き合ってもらいながら、お昼に一緒にサンドイッチを食べる生活を開始した。
――――――
そんな生活を続け、スケルトンマスターと戦うグランドクエストが迫った前日、レイニーとザルじいの家に来客が訪れた。その相手は忙しい身であるはずのジルビドとハルストだった。
「ジルビドさんがわざわざ家まで来るとは…そんなに大きな用件ですか?」
「レイニーくん、ここ最近ピーゲルの森でドラゴンの目撃情報が出ているのは知っているかい?」
「え、ドラゴン?」
レイニーはジルバドからの質問にドキッとした。レイニーはノアリーのことを冒険者ギルドには報告していなかったのだが、それが不味かったのかとヒヤヒヤしていると、ジルビドは次に頭をガバッと下げた。
「えっ!?じ、ジルビドさん!?」
「頼む、レイニーくん。そのドラゴンに今回のグランドクエストでこちら(人界)側に付いてくれるよう、お願いしてもらえないだろうか!」
「えっと、私がもうドラゴンと会っているのは確定であるという前提ですよね?」
「ああ。先程言った通りレイニーくんの容姿の女の子とドラゴンがピーゲルの森で目撃されていることはすでに冒険者ギルドで確認している。ドラゴンをこちら側に引き入れてグランドクエストで共に戦って貰えるとこちらも勝機がより近付くと思うんだ。レイニーくん、どうかドラゴンに仲間になってくれるよう、頼んでもらえないか!」
ジルビドの頼みにレイニーは少しばかり躊躇った。せっかく仲良くなったノアリーを戦いの場に引き入れようとするのに人間の都合を押し付けるようで申し訳ないと思ったからだ。レイニーはドラゴンの子に聞いてみます。今から会いに行くのでジルビドさんたちも来ますか?と聞くとジルビドはパァッと表情を明るくして"ぜひ!"と声高らかに返事をしたのだった。




