Level.33 グランドクエスト
Level.33 グランドクエスト
それから数日後。この日もレイニーとリトは相棒としてピーゲルの森とは反対方向の街の入り口から出ると現れる草原エリアで魔物を討伐するクエストに出ていた。
「リト、そっち行った!」
「OK!任せろ!」
レイニーが相手していたブラッディブルが突進攻撃をやめて方向転換すると少し離れたところで別のブラッディブルを相手していたリトの元に走っていってしまい、レイニーはリトに声をかけた。リトはシルバーランクになっただけはある実力でブラッディブル2体をほぼ同時に倒して、レイニーとリトはハイタッチを交わしてクエストをクリアしたという報告のために冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドではスタッフが忙しなく動いており、レイニーはいつもより忙しそうだなという印象を受けた。そのことをシルビーに伝えるとシルビーも苦笑いをして"分かっちゃう?"と言った。
「レイニーちゃんとリトにもそのうち郵便で届くと思うんだけど。先に言っちゃうとね、近々グランドクエストってのが始まるのよ。」
「グランドクエスト?」
「そう。その特別なクエストの招集のための手紙がそのうち届くと思うから待っててちょうだい。」
「はぁ、そうなんですか…。」
レイニーはグランドクエストという名前を聞いたことがなかったので、レイニーの家に帰ってザルじいと一緒に夕食を食べているとレイニーがリトに質問した。
「ねぇ、リト。グランドクエストって何?」
「レイニーは初めて聞いて当然だよな。俺も聞いた話によると魔物たちを統べる魔界の神、魔神が魔物の大群を引き連れてこの人界に攻め込んでくるのを俺たち冒険者が食い止める…みたいな特別なクエストをグランドクエストっていうらしいぞ。」
「へぇ、そうなんだ…。そのクエストがもう直ぐ来るからそのクエストに参加して欲しいっていう招集の手紙が届くのね。」
「うん、そゆこと。」
夕食の餃子を食べながらリトはうんうんと頷いた。ちなみにリトにはお肉多めのガツンとニンニクの効いた餃子を与えているので食後には気をつけてとだけ言って家に帰るのを見送ったのであった。
シルビーからグランドクエストの招集の話をフライングで聞いてから翌日。レイニーが朝起きてリビングに向かうとザルじいがちょうど家に届いた郵便物の確認をしていた。
「レイニー宛に冒険者ギルドから手紙が来ておるぞ?」
「あっ、やっぱり来た。シルビーさんの言ってた通りだ。」
レイニーはザルじいから手紙を受け取るとペーパーナイフでサッと切って封を開けた。中には達筆な字で"グランドクエストが始動する。詳細は追って説明会を開く。この手紙が届いたら冒険者ギルドに出向いて欲しい。"と綴られていた。差出人はジルビドからであの達筆な字がジルビドの字なのだと感心していると、ザルじいも一緒に手紙の内容を読んでいたので、レイニーに「冒険者ギルドに行かなくていいのか?」と言われて慌てて朝食の準備に取り掛かった。
――――――
レイニーがもぐもぐと高速で咀嚼していると2階のリビングに聞こえるようにとザルじいが作った1階の玄関に訪問者が来たことを告げるベルを設置し始めたのだが、それが今日初仕事をした。チリンチリンとベルが鳴り、来訪者を告げたので、レイニーは口いっぱいに朝食を放り込んでるし、ここはザルじいが出ることにした。ザルじいが1階に降りて来訪者の相手をしているとレイニーはその間に朝食を食べ終えて食器を片付けていると、ザルじいが2階に上がってきた。
「ザルじい、誰だったの?…ってリトが来たのね!リトも今日手紙が届いたの?」
「リトが痺れを切らして迎えに来てくれたようじゃよ。」
「レイニーも手紙が届いたんだろ?一緒に冒険者ギルドに行こうぜ!」
「分かった!今から着替えてくるから、待ってて!」
レイニーはリトに"ステイ!"のポーズをして待っててもらい、いつもの冒険者用のワンピースに胸当て、肘と膝のプレート、最後に青色のポンチョを羽織ってザルじいに頼んで勝って貰った全身が写る鏡で最終チェックをして、レイニーは相棒の槍を持ってリトが待つリビングに向かった。
「リト〜、お待たせ、冒険者ギルドに行こっ!」
「おう、ザルじい、また来る!」
「ほっほっ、いつでもいらっしゃい。」
2人はザルじいに見送られて家を出発した。レイニーたちの家から冒険者ギルドまでは5分ちょっとで着く距離だった。だがこの日はなんだか冒険者ギルドが見えてきたところで違和感を感じた。
「リト、あれ、なんだろう?人がたくさん…」
「あんなに人で溢れかえってる冒険者ギルド初めて見たぞ…」
レイニーとリトが冒険者ギルドに到着するとそこには冒険者の格好をした者たちが我先にとギルドの中に入ろうとして雪崩を起こしそうになっていた。レイニーはその場でピョンピョンとジャンプして中の様子を伺おうとするも、人が多すぎてギルドの中まで見ることが出来ずにいた。隣にいたリトも背は高い方だが中の様子までを知ることはできないらしく、レイニーたちは首を捻った。
するとそこで、レイニーたちの前に人混みから抜き出てきた冒険者がいたので、その人を捕まえて情報を聞き出すことにした。
「あなたさっきまで冒険者ギルドの中に入ってた?」
「あ、はぃ…。ジルビドさんからの直筆の招集状を持って来たらもうすでにこの人の数で…。僕は小柄なんでなんとかギルド長室に入ってジルビドさんからお話を聞くことができました。ギルド前の広場でグランドクエストの説明会を開くからそこで待っててくれって言われて…。」
「ここの広場で説明会が行われるのね、分かったわ。情報ありがとうございます。」
「い、いえ…、僕はこれにて…。」
話を聞いた冒険者は人混みで疲れたのかそそくさと広場の広いスペースでのんびりしに向かっていった。レイニーとリトは広場で説明会が行われるという話を聞いたは良いものの、冒険者ギルドは未だに人で溢れかえっていて、これではジルビドがギルドの外に出ることが叶わないだろう。そう思ったレイニーは相棒である槍をクルクルと回して、刃先とは反対の柄の末端でコン!と地面を叩いた。そして…。
「冒険者の皆さん!!!!広場に移動してください!!!!」
近くで聞いていたリトは耳がキーンとするほどの大声量でレイニーは冒険者ギルドに詰めかける者たちに向けて叫んだ。
大柄な男たちや魔法使いの少女たちが"なになに?""なんだなんだ"とレイニーの方を見るので、レイニーはもう一度息を吸い込むと言葉を放った。
「冒険者の皆さんは広場に移動してください。これでは説明会を行うためのジルビドさんがギルドから出られません。移動をお願いします。」
と静かに、そしてよく通る声で言うと少しずつだが、冒険者が広場の方に移動し始めてくれた。その行動にレイニーはホッとしたが、その移動している中で、ようやくギルドの受付カウンターが見えてきたところで、移動途中だった大柄な男が"誰が馬鹿正直に移動するかよ!早い者勝ちでジルビドさんから重要ポストをもらうんだ!"と言って受付嬢がギルド長室へ続く道を、塞いでいるのをどかっと払いのけて無理矢理ギルド長室に入ろうとしていたので、レイニーはその場で一気に魔力を練り上げて槍に魔力を込め始めた。そして…
ずばんっ!
という音と共にレイニーの相棒の槍が受付嬢を払い退けてギルド長室に入ろうとした屈強な冒険者の頬スレスレに雷の槍を放った。屈強な男は一体どこから雷属性の魔法が付与された槍が飛んできたのかと視線をレイニーの元まで送ると、レイニーは投げたフォームから立ち上がり、怒りのオーラを纏いながら一言。
「受付嬢への暴力は許しません。聞こえませんでしたか?どうか広場へお集まりください。」
そんな極寒の視線を向けると屈強な男は"す、すみませんでしたーっ!"と広場へは行かずにどこかに去ってしまった。レイニーは相棒の槍を取りに冒険者ギルドまで行くと、シルビーともう1人のギルド職員の女性が駆け寄ってきてくれた。
「レイニーちゃんありがとうね!怪我はしなかったけど、あんな風に受付所に乱暴する人は年に数回はいるのよ…。レイニーちゃんの目つきが怖かったのが効いてたみたいだし、しばらくはこっちの話も聞いてくれそうね!改めてありがとう、レイニーちゃん!」
とシルビーと先程冒険者に突き飛ばされた女性職員がペコペコと頭を下げてきたので、レイニーも"いえいえ、ご無事で何よりです"と返すと槍を回収して自分も広場でジルビドが来るのを待っていた。
待っている間にリトからこう言われた。
「まさかレイニーがあんな行動するとは思ってなかったよ。」
「あんな行動?」
「ああ。ギルド職員が突き飛ばされた時レイニーは怒ってその冒険者に武器を向けただろ?スレスレだったとはいえ、そこまで怒りを露わにして退治してるのがなんか新鮮で。」
「そ、そうかな…?私はただ女性が虐げられるのが許せないだけで…。」
「でも、ギルドの職員さんからはお礼を言われたんだし、誇っていいんじゃないか?」
「お礼言われたのは素直に嬉しかったわ。」
そんな話をしていると、冒険者ギルドの方からジルビドとハルストがやってきた。そしてジルビドは魔法で声のボリュームを拡張する魔道具の拡声器を使って声を上げた。
「今回は私の手紙を見て招集してくれた冒険者の諸君!私はここピーゲルの街の冒険者ギルド、ギルド長のジルビド・アッガーだ。手紙にも書いてあった通り、もう直ぐグランドクエストが発行される。グランドクエストに参加できる冒険者ランクはブロンズランク以上の者とする。グランドクエストとは魔界の神、魔神がいずれ訪れる人界襲撃を阻止するため人界軍として魔界に赴き魔神の配下の四天王や幹部と戦い、勝利すること。それがグランドクエストだ。グランドクエストで成果を上げたものには冒険者ランクのランクアップを約束しよう!」
そこまでジルビドがいうと、レイニーは腰のポーチからメモ帳を取り出して必要事項をまとめて乱雑にメモをした。その間にも広場の各方面から"ランクアップのチャンスだ!"とか"魔神ってのを倒せば有名人じゃない!"と自分の地位の向上ばかりに目を向けている者ばかりでレイニーはもやもやした。
「(誰もこの世界の…人界の人を守りたいって気持ちはないのかしら…)」
と思っていた。そんなことを思っていると次にジルビドは今回のグランドクエストで討伐予定の魔物の話をし始めた。




