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Level.32 仲直りのスイーツ

Level.32 仲直りのスイーツ

「これはナシュナには秘密にしていただきたいのですが…。」

 と重たい口を開いたシリウスにレイニーは頷いてみせた。レイニーのその反応を見て、シリウスは小さな声で"ありがとうございます"というと、詳しい話をし始めた。

「実はもうすぐナシュナの誕生日なんです。ナシュナに秘密で、誕生日祝いの料理を手配しようとしているのですが、最近のナシュナは喫茶店で働いていることもあって舌が肥えてしまっているはずなんです。だからそんなナシュナの舌に合うような料理を手配したかったのですが…。中々料理人が見つからず…。外出して料理人を探しているので、帰りが遅くなってナシュナが心配してくれているのも分かっているのですが…。」

「ナシュナのために奔走してくれていたんですね…。彼女に本当のことを伝えてみては?」

「それも考えたのですが、昨夜帰宅して中々料理人が見つからない苛立ちからナシュナにきつく当たってしまった手前、謝っても許してもらえるか…。」

「うーん、でもナシュナなら許してくれると思いますけど…。」

 レイニーはシリウスの言葉に率直に返答すると、シリウスは苦笑いをした。夫婦の問題にこれ以上突っ込んでいいものかとレイニーが悩んでいると、シリウスはレイニーに申し訳なさそうに言った。

「あの、このことはナシュナには…。」

「勿論明かしませんよ。安心してください。それと…シリウスさんに提案があります。」

「提案…ですか?」

「ナシュナの誕生日の料理は私とザルじいが作ります。ですが、デザートをシリウスさんに作っていただきます。」

「えっ、俺が料理をですか!?」

「貴族としてのプライドがあるかと思いますが、料理を作る大変さを味わっていただきます。」

 レイニーの提案にシリウスは驚いた表情で返答に困っていたようだった。そんなシリウスにレイニーは言葉を続けた。

「作るのはシリウスさんが決めてもらって大丈夫です。ナシュナが"ご飯を作る身にもなってくれ"と言ったらしいですね。その言葉を身をもって知っていただきます。」

「わ、分かりました…。俺が作る料理は何がいいんでしょうか…。」

「それはシリウスさんがナシュナのためを思って考えた料理なら、ナシュナは喜んでくれると思いますよ。」

「そうですね…、ナシュナの喜ぶ顔を見たいので、頑張ります…。」

 そういってレイニーの圧に耐え切れずシリウスがそう返事をするとレイニーは満足そうに微笑んで、"その意気です"と言った。レイニーはシリウスが仕事中だったのにお邪魔してしまったので、そのままお暇することにした。そしてナシュナとザルじいが待つ家に帰ると、ナシュナとザルじいがレイニーを笑顔で出迎えてくれた。

「レイニー、お帰りなさい。アップルパイ、焼き上がりましたよ!」

「おっ、いい匂いがすると思った!じゃあ、早速食べてみようか!」

 レイニーはリビングでお茶を飲んでいたザルじいとナシュナと共にキッチンへ行き、常温で粗熱を取っているアップルパイに包丁を入れた。サクッとした感触が包丁を伝って手に感じ、レイニーは美味しくできていますように、と願いながら、3人分のアップルパイをお皿に切り分けた。

 そしてキッチンで立ちながら、レイニーたちはアップルパイを食べた。

「ん!リンゴジャムの甘さとカスタードクリームの甘さがちょうどいいね!食パンで作った生地もサクサクで美味しい!」

「はい!これなら簡単に作れますし、リンゴのジャムも簡単だったので私でも作れそうです!」

「ナシュナ、これでシリウスさんをぎゃふんと言わせられるよ!」

「はい!頑張ります!」

 ナシュナはその後レイニーにアップルパイの作り方について分からないところを質問してレイニーもその返答をしていたら、いつの間にか時刻は日付が変わる時間になっていた。レイニーたちは残りは明日にしようということになり、ナシュナをお風呂に入れさせて、レイニーはザルじいにシリウスと話を付けてきたことを話した。

「シリウスさんも反省しておるのかの?」

「ナシュナを喜ばせようとしていたのに、結局は料理人が見つからない八つ当たり…というかそんな感じで…。二人とも相手を喜ばせようと考えた結果なのがすれ違いの原因なのよね…。あ、勝手にナシュナの誕生日のための料理を作る約束をしてきてごめんね、ザルじい…。」

「いや、レイニーが謝ることはない。わしもナシュナのお祝いができるなら本望よ。ナシュナがお風呂から上がってくる前に誕生日祝いの料理を考えるとするかのう。」

「そうだね!ナシュナが喜んでくれる料理を作らなくっちゃ!」

 そうしてレイニーとザルじいはナシュナには秘密でシリウスと共にナシュナの誕生日祝いの料理を考え始めたのだった。ナシュナはレイニーの家でアップルパイの練習や他の料理の練習をし、レイニーはナシュナが疲れて寝てしまった夜中にシリウスの元を訪ねて、シリウスと共に料理の練習をしたのだった。

 そんな生活が続いていた頃。ようやくシリウスがナシュナの誕生日祝いのためのデザートを上手く作れるようになってきた。

「シリウスさん、だいぶ上手に焼けるようになりましたね。これならナシュナの前に出しても喜ばれること間違いなしですよ!」

「そ、そうですか?レイニーさんのスパルタのおかげです…。料理初心者の俺に根気よく教えてくれて…。」

「料理初心者の人に教えるのは初めてでしたが、シリウスさんの飲み込みも早かったので、教える方もそんなに苦ではありませんでしたよ。」

「そういってもらえて嬉しいです。後は明日の誕生日パーティーだけですね!」

「はい。明日は頑張りましょう。ナシュナともしっかり仲直りしてくださいね?」

「はい…!」

 そういってグッと拳を握ってやる気十分のシリウスにレイニーはこうして料理を作る輪が広がって行くんだと思った。

 ――――――

 そして翌日。ナシュナの誕生日パーティーの準備が着々とロームント家で行われている間、レイニーの家ではナシュナが朝からアップルパイを焼き、シリウスに届けようと考えているところだった。

 ナシュナは一人では心細いのか、レイニーに付いてきてくれるように頼んだ。レイニーはロームント家に行ってパーティー料理を作らなければいけなかったので、ナシュナの要望にはOKを出して、ザルじいと3人でロームント家を訪れた。レイニーだけでなく、ザルじいまで付いてきてくれてありがとうございますというナシュナにレイニーとザルじいは笑って、ナシュナは自分の部屋で待機することになり、レイニーとザルじいはロームント家の厨房に行き、料理人たちと共にパーティー料理の準備に取り掛かったのであった。

 夕方になると仕事を早く終わらせてきたシリウスも合流しデザートを作り始めた。レイニーはシリウスのアシスタントとして傍でその作り方をしっかりと見て、ザルじいは料理人たちとパーティー料理の最終段階に入ってきた。

 そして夕食の時間。何も知らずに夕食を食べに来たナシュナにレイニーたちはダイニングルームで部屋の明かりを全部消して待っていた。ナシュナがメイドの案内で部屋に入ってきた。

「え…、どうして真っ暗なんです?あの…、お義母さん?お義父さん?シリウス?」

 真っ暗な部屋にびっくりした様子のナシュナにレイニーたちは直ぐにぱっと部屋の明かりをつけて、ナシュナに向かって"誕生日おめでとう、ナシュナ!"と声を上げて盛り上げた。

「え…っ、え?私の誕生日…。」

「ナシュナ、今日が誕生日でしょう?皆でお祝いの料理作ったから、食べましょう?」

 驚いているナシュナのそばにレイニーが近付き、ナシュナの肩を持って席へ案内すると、ナシュナの目の前には豪華なパーティー料理がテーブルに所狭しと並べられていた。

「こんなに料理を…。見たことない料理も…沢山…!私のために…?」

「そうだよ、ナシュナ!皆ナシュナのために作った料理だよ!さ、シリウスさん。」

「え、シリウス…?」

 レイニーに背中を押されてナシュナの前にやってきたのは、ぎこちない表情のシリウスだった。この間夫婦喧嘩をしてしまってから、お互いどうやって顔を合わせばいいのか分からず気まずさが二人の間を流れた。そんな時、ナシュナの背中をレイニーが、シリウスの背中をザルじいが押して、二人の距離を縮めた。そんな後押しもあって、ナシュナはシリウスに頭を下げた。

「シリウス、ごめんなさい!あの時、あなたが仕事で疲れていたのに、料理を作る身にもなれなんて言って…。レイニーの家でお世話になっている間、シリウスがちゃんとご飯を食べているか心配でした…。あなたは直ぐに仕事が忙しいと言って食事をおろそかにする人でしたから…。私の気持ちを込めた料理を持ってきたんです。アップルパイ、食べてくれますか…?」

「ナシュナ…。俺こそすまなかった!直ぐに謝り行けばよかったのに、俺は意地を張ってしまって…ガキみたいでごめん…。俺もレイニーさんからデザートの作り方を教わって作った料理があるんだ、一緒に食べよう。」

「シリウスが料理を…?レイニーから教わって…。なんとなくレイニーがシリウスに会っているのは気付いていましたが、シリウスが料理を習っているとまでは…。」

「えっ、ナシュナ、私とシリウスさんが会っているのに気付いていたの!?」

「はい。レイニーからシリウスの使っている香水の香りがしました。それとお菓子を作っているような甘い匂いもしましたので、二人で何か料理をしていたのかなと予想しておりました。」

 レイニーはまさかナシュナにバレているとは思わず、"あちゃー"と言った表情をした。シリウスの方は苦笑いで"ナシュナに内緒はできないな"と言った。そして、二人で目の前に出したデザートを見て、二人はびっくりした。

 ナシュナはアップルパイを、シリウスはコーヒー味のシフォンケーキを差し出していた。二人ともレイニーから教わったレシピで作り上げて両方とも美味しそうな甘い香りを放っていた。そんな二人の料理を見て、ナシュナとシリウスはどちらともなく、笑い出した。

「二人して料理で仲直りしようと思っていたんですね。」

「俺はレイニーさんから料理で仲直りすることを勧められたんだ。」

「あら、そうなんですか?実は私も…。」

 そこまでナシュナが言うと、二人はレイニーの方を見た。二人の視線に気付いたレイニーはにかっと笑ってピースサインをした。

「全部レイニーの仕組んだことだったんですね。一本取られました。」

「そうだな。」

 ナシュナとシリウスが仲良く笑いあっている風景を見て、レイニーたちも笑顔になった。その後レイニーたちと屋敷の料理人たちが丹精込めて作ったパーティー料理を皆で食べて、ナシュナの誕生日は過ぎ去っていったのだった。

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