Level.30 雷光神速
Level.30 雷光神速
2体の狼の像から遠吠えが鍵だったのが正解だったようで、違和感のある像の間の地面が蓋していたようにゴゴゴ…という重い音と共に動き出した。
「やっぱり!ここから中に入ってみよう…」
レイニーは地下へと続くであろう空間に入ってみた。腰のポーチから小さなランタンを取り出して火を付けると狼の像があった地下はかなり広いようでランタンで辺りを灯しながら慎重に前に進んだ。すると地下から上に登る階段が現れた。レイニーは階段を上がった先に誰かいるかもしれないと緊張しながらランタンの火を消し、そっと階段を上がってキョロキョロと辺りを見渡した。
「(良かった、誰もいない…)」
シュッと俊敏な動きでレイニーは階段を上がって近くの物陰に隠れて辺りを警戒した。
「(ここはなんだろう…なんか嫌な感じがする…。もしかしてさっき入れなかった洋館がここ…?)」
位置的に先ほど扉に鍵が掛かっていて中に入ることができなかった洋館ではないかとレイニーは予想した。そして誰もいない洋館の中が不気味でレイニーは身の毛がよだつ感覚がした。
「(早くリトを探し出してこんなところ離れたい…)」
キョロキョロとたくさんある部屋を探索しようとレイニーはまず一番近くにあった部屋の扉を音が鳴らないように慎重に開けた。
「(ここは…書庫?すごい蔵書の数…でもどの本も狼に関するものとか…これはホムンクルス?人造人間…?)」
レイニーは本棚に入っている本を1冊取り出して本についていた埃をパッパと払うと本のタイトルを確認した。どの本も狼に関するもので中にはホムンクルスという名前の人造人間についての書籍もあり、レイニーはこの場所がより不気味な場所であることが分かり本を棚に戻すと隣の部屋も見てみようとした時、廊下の突き当たりの部屋から光が漏れていて話し声も聞こえてきた。
レイニーがそっと部屋の扉を少しだけ開けて中の様子を覗くとそこには天蓋付きのベッドが広い部屋の真ん中に鎮座しており、その周りには今まで行方不明になったであろう、男性冒険者たちが上半身裸になって手を縄で縛られているようであった。レイニーは直ぐに部屋の主を探した。このたくさんの男性冒険者に何かしようとしていることは確かなので、レイニーはまずその元凶を調べてみる必要があった。天蓋付きのベッドの上で何かがモゾモゾと動いていたので、レイニーはその方向に目を凝らして見た。するとそこには上半身裸の女性が縄で縛られた男性冒険者が嫌がる顔を見せているのに、豊満な胸やしなやかなくびれを触らせるようにしており、レイニーは只々気持ち悪いものを見た気がしてしまい、その場を後にしようかと思った。だが、この部屋にもしかしたらリトもいるのかもしれないと思い、レイニーは部屋の周りにぐったりとした様子で縄で縛られている冒険者の男性に近寄った。レイニーが近付くと男性冒険者は助けが来たんだと嬉しそうに目をキラキラさせていた。レイニーが人差し指を口元に持っていって、"しー"のポーズをとると、冒険者にも伝わりレイニーが縄を切ってあげると、男性冒険者に尋ねた。
「少し前にここに銀髪の冒険者が来ませんでしたか?」
「あ、ああ…、それなら、そいつ暴れるもんだから、地下牢に入れたとか聞いたけど…。」
「分かりました。ナイフを貸しますので、皆さん上手く逃げてくださいね。」
「ありがとう、助かるよ。」
レイニーはそう言ってこの部屋の主人がベッドの上でのお楽しみ中に夢中なのをいいことに、レイニーは男性冒険者たちに逃げるよう伝え、自分は銀髪の冒険者が恐らくリトのことだろうなと思いながら部屋から出て地下牢を探した。そこでレイニーはこの洋館に入ってくる時に通った、あの地下通路がどこかにある地下牢に繋がっているのではないかと考えた。そう考えるとレイニーは直ぐに来た道を戻り、ランタンを付けて地下通路を探索し始めた。さっきのベッドの上の上半身裸の女性が捕まえた男性冒険者たちが知らぬ間に逃げていることに気付いたら、レイニーが地下牢の男性を助けに行くことも気付かれてしまう。レイニーはなるべく早く地下牢を見つけるため、キョロキョロと辺りをランタンの光で照らした。すると、その光に何かがキラッと光った。その光の先に行くと鍵のついた地下牢を発見し、その中でうずくまっている銀髪の男性を見つけた。
レイニーがその男性の顔を覗き込むと、やはりその男性はリトだった。
「リト!起きて、リト!」
「ん…、レイニー…?あれ、ここどこ…?」
「良かった~、リトが無事で…。早くここから逃げよう。詳細はまた話すから今はここから逃げ出すのが先。」
「お、おう。分かった。」
レイニーはようやく見つけたリトの肩に手を置いて息をはぁー…っと吐くと、直ぐに切り替えてリトの手を縛っていた縄を切った。そこでレイニーはリトの冒険者の服がボロボロなことに気づいた。
「リト、その傷だらけの防具、どうしたの?」
「え?ああ、これ、この洋館に連れてこられたとき、女が狼を操っててさ、その狼たちを蹴散らしてたりしたからこんな爪痕が残っちゃって…。」
「狼を操る…まずい!」
「何がまずい?」
「狼を従わせてるなら私がこの洋館に忍び込んだのはバレてる!匂いで直ぐに私たちのところに来ちゃう!」
レイニーはおそらく先ほどの天蓋付きのベッドがあった寝室に入る頃から女には気付かれていて、わざと冒険者たちを逃させることをしたのだとしたら…、レイニーがその冒険者たちからリトの情報を聞き出して助けに行くことと踏まえての気付かぬフリだとしたら…と考えるとレイニーは顔を青ざめて直ぐにリトの手を握って走り出した。
すると予想通り、狼の像があった地上への階段を上がった先でレイニーたちを待っていたのは、沢山の狼たちと、豊満な胸が溢れ落ちそうなデザインのドレスを着て魔女の帽子を被って魔女がいた。
「私のコレクションたちを逃した挙句、上玉の冒険者までも連れ出そうとするなんて…!お前たち、この女たちを八つ裂きにしてしまいな!!!」
狼の魔女の女が狼たちの前に鞭をピシャンと鳴らすと狼たちはその指示通り、レイニーの首元を狙って襲いかかってきた。だが、そのままやられるようなレイニーではない。
相棒の槍をクルクルと回して一回転すると周りの狼たちに傷を負わせ、高くジャンプしてから地面に向かって雷の鉄槌を発動させた。放射線状に電撃が走り、狼たちに感電した。高圧の電気を食らった狼たちはぷすぷすと焦げ臭い匂いを出しながらドサっと倒れた。一瞬のうちに5体の狼を退治したレイニーに狼の魔女は少しだけ怯んだ。
「こ、こうなったら私の秘策を出して、アンタらをあの世に送ってやる!来い!ホムンクルス!」
狼の魔女はまだ何か隠していることがあるようで、再びピシャンとムチを地面に叩きつけると、周りの森から狼たちが何匹も集まり始めた。そしてその狼たちに混じって、その場にいていいのかと思うほどの禍々しい魔力に満ちた、大きな狼男が姿を現した。
「これが…ホムンクルス…?人造人間?」
「ふふっ、私の最高傑作よ!狼の血肉と人間の遺伝子を組み合わせて作ったホムンクルス!こいつに勝てるかしら…?」
「リト、捕まってて直ぐのとこで悪いけど、力貸してもらえるかな?」
「当たり前だろ、相棒!」
レイニーは予備で持っていた短剣をリトに渡して、リトは短剣に自分の魔力を流し込んで、炎を纏わせていた。
「大人しく捕まって私のコレクションになりなさいッ!」
再びピシャンっと狼の魔女が地面に鞭を叩きつけると、ホムンクルスがじわりと動いた。その瞬間、レイニーの目の前からホムンクルスが消えた。
「(え?消えた?どこに?)がっ…!」
レイニーがキョロキョロとしている間にホムンクルスの強い打撃がレイニーの脇腹に決まった。その衝撃で肋骨を何本が折れた感覚になり、レイニーは脇腹を抑えながら体力回復のポーションを飲んだ。痛みが少し引けてきたところで、レイニーは目の前のホムンクルスのスピードの高さにびっくりしていた。
「こいつ、強いな…。レイニー、あの速さについて行けるか?」
「雷の槍も防がれそうな速さよね…。高速で移動しつつ攻撃出来れば…だよね?」
「ああ。俺が少し引きつけるからレイニーは魔法を使え!俺ごと雷でもなんでもやっちゃっていいから!」
「そんな!リト!」
レイニーの制止を振り切ってリトはホムンクルスと対峙した。レイニーはリトがせっかくのチャンスを作ってくれたんだもの!と思って魔力を体に溜め始めた。イメージは稲光の如く高速で移動し攻撃出来るようになること。そのイメージを頭の中で構築してレイニーの溜めている魔力の色が雷属性の象徴の黄色から青に変わった瞬間、レイニーは目を開けた。
「雷光神速!!!」




