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Level.3 疑問はシンクロ

Level.3 疑問はシンクロ

「さあ、召し上がれ!」

行き倒れていた青年を助けたレイニーとザルじいは青年のために家にあった食料を全部使って、ご馳走を作り上げた。サラダにスープにメインディッシュのお肉料理にデザート。レイニーが元居た世界では見慣れた料理たちが並んでいたのだが、目の前の青年は料理を見て、なんだか躊躇っているようだった。

「あの、どうしたんですか…?」

「えっと、こんな料理見たことなくて…。どれも食べられる…んですよね?」

「えッ…!?見たことない…?」

レイニーは青年が言っていることを理解できなくて、ザルじいに助けの視線を投げかけた。すると、ザルじいは今までその見事な白髭を撫でながら考え事をしていたようで、それが解決した瞬間だった。

「そうじゃ、お主はピーゲルの街の冒険者のリトじゃな?」

「えっ、どうして俺の名前を…。」

「わしはここピーゲルの森の小屋で暮らしておるザルドいうものじゃ。名前くらい聞いたことあるじゃろ?」

リトと呼ばれた青年はどうして目の前のおじいさんが自分の名前を知っているのかびっくりしていたが、直ぐにザルじいからのヒントを元に記憶を探ってくれたようだった。

「あっ、確かに聞いたことが…。森の小屋で暮らしているザルじいって…。アンタのことだったんだな。それでこの料理は…。」

「ああ。これはみんなちゃんと食べられる料理じゃよ。わしとレイニーの二人で作ったんじゃ。たんとお食べ。」

聞いたことのある名前のおじいさんに助けられたのだと、リトが気付くとレイニーとザルじいからの期待が込められた視線を受けながら箸を取った。

どれから食べようか迷っていたが、直ぐに決めたようでメインディッシュのお肉料理の生姜焼きから食べ始めた。ぱくっと一口でショウガの効いたタレに絡んだ豚肉を食べると、リトの表情が一変した。目を見開いたかと思えば、顔を下に向けて、ぷるぷると震え出した。

「あ、あの、美味しくなかったでしょうか…?」

レイニーが不安に思って、リトの肩に手を置こうとした瞬間、いきなりリトが顔を上げて、レイニーの手を取った。

「この料理、すげぇ美味い!君が作ったのか!?」

「え、ええ、まぁ…。」

「すげぇ…、この甘辛いタレに絡んだ肉が本当に美味い!他の料理も食べていいんだよな?」

「ふふ、はい。お腹いっぱいになるまでどうぞ召し上がってください。」

あまりにも自分たちの作った料理を美味しそうにバクバクと食べてくれるリトにレイニーとザルじいは顔を見合わせて、微笑んだ。ここまで食いっぷりがいいと作ったこちらも作ってよかったと満足するのだった。

それから1時間ほどでリトはレイニーたちが用意した料理をほぼすべて平らげてくれた。あまりにも早いスピードで食べるので、こちらが心配してしまうほどだった。

「はぁ…、腹いっぱいだ…。こんなにたくさんの料理、ありがとうございます!俺ここ最近森に入ったんだけど、ちょっと迷ってしまって…導き石も忘れるし食料も底を尽きてしまうしで…。二人の助けがなかったら、俺は餓死してたよ!本当にありがとう、命の恩人だよ!」

膨らんだお腹をポンポンと撫でながら、リトは向かいの席に座るレイニーとザルじいにお礼を言った。

「リトに気付いたのはこの子なんじゃよ。ほれ、レイニー、自己紹介を。」

「は、初めまして!私はつ…じゃなかったレイニーといいます。最近ザルじいと一緒に住み始めて…。」

「レイニーっていうんだな!初めまして、俺はリト。リト・アングレー。冒険者をやっているんだ。」

「冒険者…?この世界には冒険者というのがあるんですか?」

「この世界…?」

リトとレイニーは二人で疑問符を頭の上に浮かべていると、ザルじいが助け舟を出してくれた。

「リト、レイニーは実は異世界から来た女の子での。訳があって今はわしと一緒に住んでおるんじゃ。レイニー、リトはこの世界での"冒険者"という職業に就いておる。クエストという依頼を受けて魔物を倒したり、薬草の採取をしてお金を稼いでおるんじゃよ。」

「へぇ…、って異世界!?」

「え…、魔物!?」

二人でシンクロするかのような息ぴったりのリアクションにザルじいが愉快そうに笑っていたので、二人は"笑ってないで、説明を!"とそこまでもシンクロしてしまうので、更にザルじいは大笑いしたのであった。

――――――

ようやく笑いが止まったザルじいに一から説明してもらった二人は、お互いのことに興味津々だった。リトはレイニーが異世界からやってきたことに、レイニーはリトが冒険者という職業に就いていることに。二人はすっかり仲良くなったようで、お互いのことを話しあっていた。

ザルじいが食器を片付けていると、リトが率先して料理をご馳走してくれたお礼だと言って手伝ってくれたので、レイニーとザルじいはゆっくりとこの世界のお茶を飲んでいた。

「リト、食器の片付け、ありがとうのう。今日はもう寝ていいぞ。まだ冒険の疲労が残っておるじゃろう。」

「ありがとう、ザルじい。じゃあ、お言葉に甘えて、今日は休ませてもらうよ。それじゃあ、また明日。」

「ああ、おやすみ。」

「おやすみなさい、リトさん。」

レイニーとザルじいはリトを部屋まで見送り、レイニーはザルじいと共にリビングへと戻った。

そしてレイニーはザルじいの手を借りたとはいえ、自分で料理を作る楽しさを見出したようだった。

「あんなに美味しそうに私たちの作ってくれた料理を食べてくれるなんて…、私すごく嬉しかった。」

「ああ、そうじゃの。人に作った料理を褒められることはとっても嬉しいことなんじゃよ。」

「なんだかリトさんから大切なことを学べたような気がする。でも、なんで生姜焼きとか他の料理を見たことがないだなんて…。」

「レイニーはわしと同じ世界から来たようじゃから、疑問がはなかったようじゃが、この世界の食文化はさほど進んでおらんのよ…。だから、レイニーやわしがいた世界での料理がこの世界では初めて見る料理ばかりなんじゃよ。」

「そうなんだ…。この世界の人達にも私たちの世界の料理を食べさせてあげたいな…。」

「それは良いことかもしれんの。」

そんな話をしていると、レイニーはうとうととしてきたため、ザルじいより先にお風呂に入らせてもらい、レイニーは翌日のためにも早めの就寝となったのだった。

――――――

翌日。目覚まし時計が無くとも、小鳥のさえずりを聞いてパチリと目を覚ましたレイニーは直ぐにベッドから起き上がり、一つ伸びをすると、ザルじいからもらったこの世界の服を着て、リビングへと向かった。

 キッチンでは既にザルじいが起きていて、朝食の準備をしていた。

「おはよう、ザルじい。」

「ああ、おはよう、レイニー。そろそろリトを起こしてきてはくれんかの?」

「ん、分かった。」

レイニーは少しだけ眠い目に喝を入れるため、洗面所で冷たい水を顔にばしゃばしゃと掛けて顔を洗いタオルで拭いてから、リトの部屋へと向かった。

コンコンコン。

ノックをしても返事が無かったので、レイニーはまだ寝ているのかな、と思いつつ、ザルじいから起こしてきてくれと頼まれたので、ドアノブを回して、部屋の中へと入って行った。

部屋には簡素なテーブルと椅子、そしてベッドだけが置かれているので、ベッドの上で盛り上がっている布団を見つけると、レイニーはそっとその盛り上がりに近付いた。

するとそこにはあどけない表情で眠るリトの姿があった。初めて会った時は銀髪という見た目から強面かも…と思っていたが、話してみると気さくで話しやすい青年だと分かったので、レイニーも直ぐにリトと打ち解けることができたのであった。

 リトの寝顔を少し堪能した後、そっと布団を叩いた。

「リトさん、起きてください。朝ですよ!」

「ん、んん~…、後5分…。」

「もう!5分も寝かしていたら、朝ごはん抜きですよ!」

「はい!起きます!今すぐ起きます!」

布団の中でもぞもぞと動いて起きるのを拒んでいたリトにレイニーが朝食の話を出すと、急にかけ布団をはぐってぴょんと起き上がった。彼が睡眠欲よりも食欲勝ったことにレイニーはクスクスと笑った。

「冗談ですよ。もうすぐ朝食ができるようなんで、準備ができたら、リビングに来てくださいね。」

「あ、ああ。ありがとう。」

リトはなんだかはりきり過ぎた自分が恥ずかしくなったのか、少し頬を染めてベッドの上で縮こまってしまった。そんな様子を尻目にレイニーは一足先にリビングへと戻ったのであった。

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