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Level.29 行方不明

Level.29 行方不明

夏の新メニューが喫茶店で注文殺到して忙しくなってきた頃。レイニーは喫茶店が休みの平日は冒険者業に勤しんでいた。

 今日もピーゲルの森で魔物の討伐依頼があったので、それをクリアして冒険者ギルドに報告に来ていたのだった。

「あれ?リト!」

「おう、レイニー。クエストお疲れ。」

「そっちもお疲れ様。今日はどんなクエストをしてたの?」

「こっちはブラッディブルっていう牛に似た魔物の討伐だよ、何気に数が多くて大変だったよ。」

「リトも苦労したんだね、私も今回の魔物の討伐はちっちゃいウサギの魔物だったから倒すのに苦労しちゃってさ~。」

「2人とも、お帰りなさい。」

 レイニーたちが今日のクエストでの愚痴を話していると受付嬢のシルビーが声を掛けてくれた。

「シルビーさん、ただいまです。クエスト完了の手続きお願いします。」

「俺の方もお願いします。」

「はーい、ちょっと待っててね。今確認して報酬金用意してくるね。」

 2人は討伐依頼完了の条件である魔物の核となる魔石をシルビーに渡して報酬金の用意がされるまで、クエストカウンターで待っていた。すると、バタバタと誰かが冒険者ギルドに傾れ込んできた。

「あなた、大丈夫?」

 頭から床にぶつかるように転がり込んできた女性冒険者にレイニーが駆け寄ると、その女性冒険者はガッとレイニーの手首を掴んで必死の形相で叫んだ。

「私の相棒が消えたんです!どうか行方を探してください!大切な人なんです!どうか…どうか…っ!」

 その女性冒険者はレイニーに縋るように涙を流していた。レイニーは困惑してリトに視線を投げかけた。すると別のところから女性冒険者の肩に手が置かれた。

「大丈夫ですか?お話を聞きますから、場所を移動しましょう。」

「ぐすっ…はい…」

 レイニーを助けてくれたのはシルビーだった。何もすることができずに呆然としていたレイニーにシルビーはウインクをして泣き止まぬ女性冒険者をギルドの空き部屋に誘導していった。

「さっきの人、相棒が消えたって言ってたね…。最近ベーゲンブルグの荒廃した街の跡地で行方不明者が続出してるって話に関係してるのかな…?」

「その話俺も聞いたことがあるぞ。なんでも男性冒険者が消えてるらしいじゃないか。」

「そうなんだ…、リトも気をつけなよ?」

「分かってる。シルバーランクになってるし前よりは強くなってるから、行方不明の原因を突き止めたっていいんだぜ!」

「そうやって過信してるといつのまにか行方不明者に入ってることがあるんだから!本当に気を付けて!」

「真偽を確かめるために行こうとしてたのに…」

「なにか?」

「イエナンデモ。」

 リトが自ら行方不明事件の解決に行こうとしていたので全力で睨みを利かせて釘を刺しておいたが、このままではリトは自分の正義感からその荒廃した街に行って事件の真相を突き止めたがるに違いない。そう思ったレイニーは溜息を一つ吐いた。

「リト、もし行方不明事件の真相を探りたいなら、私と一緒に行動すること!いいね!?」

「!レイニーが一緒なら心強いぜ、明日にでもその荒廃した街に行こうぜ!真実は俺が掴み取ってやる!」

「はぁ…、大丈夫なのかな、コレ…。」

 レイニーは自分でGOサインを出してしまったことを少しばかり悔いてしまったが、自分から言ってしまった手前、もうすでにやる気に満ち溢れているリトの邪魔はしたくなかったため、レイニーは再び溜息を吐いてリトの暴走を止めるべくしっかりしなくてはと自分の頬を叩いて気合を入れたのであった。

 ――――――

 翌日。レイニーとリトはベーゲンブルグまでテレポート結晶で飛び、そこから馬車で近くの荒廃している街の跡地まで運んでもらった。

「お兄さんたち冒険者だろ?最近ここで行方不明になってる人がいるから気を付けるんだぞ?」

「はい、俺が真相を見つけ出しますから、大丈夫ですよ!ここまでありがとうございました!」

 リトが胸をトンッと叩いて自信満々に言っているがどの言葉もただのフラグにしか聞こえなくてレイニーは頭を抱えた。荒廃した街の跡地まで送ってくれた馬車の人にお礼を言って見送ると早速レイニーたちは街の捜索を開始した。

「結構建物が残ってるわね…。物陰から何か出てくるかもしれないから、リト、気を付けてね。」

「ああ、レイニーも気ぃ抜かすなよ。」

 2人で背中合わせになって武器を構えて周囲を探索していると、遠くで"ワオーン"という狼の遠吠えが鳴り響き、その遠吠えにびっくりしてレイニーが尻餅をついてしまった。

「いたた…、はぁ、びっくりした…」

 レイニーは痛むお尻をさすりながら狼の遠吠えがあった方角を確認しようとしたその瞬間、自分の後ろにいたはずのリトがいなくなっていることに気づいた。

「リト!?リト、どこに行ったの?リトー!?」

 大きな声でリトの名前を呼んでも一向に返事がなく、レイニーは次第に焦りを感じた。

「(このままじゃこの間ギルドで見かけた女性と同じ末路…。リトが行方不明になるなんて…!ほんのちょっと尻餅して目をギュッと瞑ったその一瞬でリトを攫われてしまうなんて…!)」

 レイニーは不安からギュッと拳を握って暗くなるまで荒廃した街の跡地でリトの行方を探した。だが、いくら名前を呼んでもリトからの返事はなく、リトが再び現れる気配もないまま、レイニーは暗闇での捜索は難しいと判断し、ピーゲルの冒険者ギルドにリトが行方不明になったことについての報告をするためにテレポート結晶で街に戻ったのだった。

 暗くなってから帰ってきたレイニーに受付嬢のシルビーが気づいて駆け寄ってきてくれた。

「レイニーちゃん、リトと一緒じゃないの?」

「シルビーさん…どうしましょう…、リトが…リトが!」

「リトくんも行方不明者になっちゃったか…、真相を探るためにあの街に行ったのね…。」

「私はあれほど気を付けてねって言ったのに…、私がほんの一瞬目を瞑ってしまったばかりにその隙にいなくなってしまって…。付近を捜索したんですけど、人っこ1人もいなくて…。」

「分かったわ。冒険者ギルドの方で行方不明者として情報収集の張り紙を出しておくわ。レイニーちゃんはリトが見つかるまで無理しないでちょうだい。」

「ありがとうございます、シルビーさん…。」

 レイニーはリトを見失ってしまったことへの自分の愚かさを責めた。リトが過信して事件の解決に乗り出そうとした時にもっと強く引き止めれば良かったと、後悔した。そんなレイニーの頭をシルビーがポンポンと撫でた。

「レイニーちゃんが自分を責める必要はないわ。リトもちゃんと帰ってくる。心配しないで。リトは伊達にシルバーランクの冒険者をやってないわ。」

「そう…ですよね、リトはシルバーランク冒険者なんだもの、きっと無事ですよね…!」

 レイニーはシルビーから元気を分けてもらい、リトが無事でいることを願い、その日は家に帰宅してからご飯も食べずに直ぐに就寝したのであった。

 ――――――

 翌日。この日もまだ平日なので、レイニーはリトの捜索をするために再びあの荒廃した街の跡地に向かった。ただ何もせずに待っているよりも何か行動をしてリトにつながる手がかりを見つけたいと思って動き始めた。だが、リトを見失ってしまった地点からいくら調べても証拠は出てこず、レイニーは焦りを感じるばかりだった。

 そしてザルじいが何も食べないレイニーのことを心配してお弁当を持たせてくれていたので、レイニーは街の跡地の近くの森の川辺でお昼ご飯を食べることにした。ザルじいが用意してくれたお弁当はオムライス弁当だった。ケチャップライスとトロトロ卵の相性がザルじいの包み込んでくれる優しさを表現しているようでレイニーは涙が出そうになった。だが、泣いてる暇はない!リトを探さねばとレイニーは自分を鼓舞してお弁当を食べ終えると川辺から森に入って捜索を再開した。するとまた狼の遠吠えが聞こえたので、レイニーはその遠吠えの声がする方に向かって走った。するとそこには古びた洋館が姿を現した。

「こんなところに建物が…。怪しい…」

 レイニーは洋館に入って誰かいるのか確かめようと扉に手をかけたが、鍵が閉まっているようで、ガチャガチャと扉を揺らしても開く気配は無かった。せっかくなにかリトへの手ががりになるかと思ったが、これでは振り出しに…と思っていると再び近くで狼の遠吠えが聞こえた。その方角に足を進めるとそこには狼の像が2つ向き合って立っている違和感のある空間が現れた。

 レイニーはこの空間が怪しいと思い、様々な角度から何かのギミックが無いか探したが、一向に見つからなかった。が。そこで先ほど狼の遠吠えを聞いてここに来れたのだから誰かが狼の遠吠えを使って…と考え、みよう見真似で狼の遠吠えのようにレイニーは"アオーン"と鳴いてみた。

 すると、2匹の狼の像の間の地面がゴゴゴと動き、地下への階段が現れたのだった。

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