Level.28 苦労のくず餅
Level.28 苦労のくず餅
「もち米、ですか?ええ、確かに私の実家では作っておりますが…。」
「本当!?じゃあ、そのもち米をとりあえず10kgくらい取り寄せてもらえるかなぁ…?」
「分かりました。近々実家に帰省するのでその時にお願いしておきます。」
「ナシュナさんの実家かぁ…、どこにあるんだっけ?」
レイニーは喫茶店の営業後、次の日の仕込みをしながらナシュナにもち米の件をお願いしてみた。ナシュナからOKを貰うことが出来たのでそのまま話はナシュナの実家の話になった。
「私の実家はアクイラという水の街です。ピーゲルの街からは北西に上がった所ですね。山々と水が清らかな自然豊かな街なんです。私はそこの米農家として生計を立ててる両親の元で育ちました。」
「アクイラって街は初めて聞いたなぁ…今度行ってみたいな!」
「是非とも、レイニーさんが来てくれるなら私の実家にご案内したいです。」
そんな話をしてナシュナはザルじいと一緒にアイスコーヒーの配合の話をし始めてしまったので、レイニーは次の日の仕込みの続きを始めた。
次の日の営業日もお客さんの入りは少なく、レイニーは一刻も早く夏の新メニューを作らねばと意気込んだ。
お店がお休みの平日。レイニーとザルじいの家にナシュナの実家からとりあえずと言っていたもち米10kgが届いた。
「よし、これで白玉粉が作れるね!ザルじい、教えて!」
「ふむ、まずはもち米を洗ってくれるかの?わしは石臼の準備をする。」
「分かった!」
レイニーはザルじいに頼まれた通り、届いたもち米をとりあえず1kg分ザルに取り出してザクザクともち米を洗った。その間にザルじいはパントリーから石臼を取り出して"よっこいしょ"とキッチンに置いた。
「もち米を石臼で挽くの?」
「ああ、そうじゃよ。水と一緒に挽いて白濁した水が出てくるからそれを取り出して乾燥させれば白玉粉の完成じゃよ。どれ、わしがお手本を見せよう。」
レイニーはザルじいの実演を見ながら感心した。ザルじいの手際は良く、あっという間にもち米が挽かれ、白濁した液体がボウルにいっぱい出来上がった。それを布などで濾して濾したものをバッドなどに広げて乾燥させることにした。
「こうやって白玉粉が出来るんだぁ…。初めて知ったよ。」
「これも先人の知恵よな。さて、こっちのボウルにも沈殿したきめ細やかな粉ができるからの。上澄を捨ててこれも乾燥させようかの。」
「ん、分かった!」
レイニーはザルじいに言われた通りに作業をして、その日の白玉粉作りは終わったのだった。
――――――
白玉粉を乾燥させている間に今度はくず餅作りに取り掛かった。
「ザルじいはくず粉もまだ見つけられてないんだっけ…?」
「そうなんじゃよ…、ツル科の植物が森には無くての。葛という植物から出来るんじゃが…。」
「ふむ、コーヒーの原料にもなったみたいに植物型の魔物から上手く作れるかもしれないし、私調べてみる!」
「ありがとう、レイニー。」
レイニーはザルじいがなし得なかったくず餅を作り上げようとまずはツル科の植物が自生しているかどうかを調べるため図書館で植物図鑑と睨めっこをした。
「うーん、ツル科の植物はあるけど、葛みたいなのは無いなぁ…。ふむ、ベーゲンブルグに近い方の草原エリアにツル科の植物がありそうだね、行ってみよう!」
レイニーは植物の見た目をしっかりとメモして図書館を後にした。そしてまずテレポート結晶でベーゲンブルグまで飛び、そこから草原エリアに向かって走った。
「ここら辺かな?」
辿り着いた草原エリアでまずはメモしたツル科の植物を探した。
「あ、これかな!」
レイニーがその植物に触れようとすると、ザザッと植物がその手を避けるように動いた。レイニーがそれを再び握ろうとすると逃げる。その繰り返しをしているとレイニーはだんだんイライラしてきて武器である槍を取り出した。
「あー!もうなんで逃げるのよ!」
ブンブンと槍を振り回して植物を追い詰めようとしても植物はどんどん逃げてしまい、レイニーは捕まえることが出来ずにいた。
「こんなにすばしっこいなんて…。片っ端から倒してやる…!」
レイニーは逃げるツル科の植物型の魔物を片っ端から倒していった。最初は逃げられてばかりだったが、次第に行動パターンを読み、先回りして倒せるようになった。そして10体ほど倒したあたりでレイニーはその魔物がドロップしたあるものに気がついた。
「《プルプルの粉》?」
レイニーはそのドロップ品の名前に覚えがなく、一旦ベーゲルブルグの草原からテレポート結晶でピーゲルまで戻ると冒険者ギルドに向かい、《プルプルの粉》の正体について受付嬢のシルビーに尋ねてみた。
「あー、プルプルの粉ね。トペルクっていう魔物からドロップするものでね、水を含ませるとプルプルした物体になるの!」
「プルプルした物体…スライムとは違うんですか?」
「スライムよりももうちょっと固いかなぁ…って感じ。レイニーちゃん、プルプルの粉、ドロップしたの?」
「はい。ちょっととある植物を探してる時に偶然ドロップして…なんだろうと思って。」
「じゃあ、ベーゲンブルグの方の草原に行ったんだね。あそこらへんは植物型の魔物が多くて薬草取りに行ったら魔物だらけだったーって話をよく聞くからさ。気を付けてね。」
「分かりました、気を付けます。シルビーさん、情報ありがとうございました!」
レイニーはシルビーにお礼を言うと再びベーゲンブルグの草原に向かい、プルプルの粉をドロップするトペルクという魔物と同じ、植物を探した。
「これは…違う。これも違う…。間違ってトペルクが出たら狩らなきゃいけないけど、本当に葛見つかるかなぁ…。」
弱音を吐いているとガシッと掴んだ植物がちょうど噂をしていたトペルクでレイニーは直ぐに槍を構えてトペルクを倒した。"ふぅ"と一息吐いて再び葛探しをして、結局夕方になる頃にやっとの思いでトペルクではない、普通の植物の葛に似たものを見つけることが出来た。
「よし!これでザルじいがくず餅を作ってくれるはず!」
レイニーはその植物を持って帰り、ザルじいに渡す前にスケッチをしてメモをしておき、後日にその植物を図鑑を使って見つけるための保管しておいた。
レイニーはザルじいに葛に似た植物を見せると、ザルじいは手を震わせながら"こ、これは!"と叫んだ。
「間違いなく葛じゃ!よし、これでくず餅を作ってやろう。」
「やったー!」
レイニーは喜んだが、ザルじいはくず餅を作り出すのに時間がかかると言われ、レイニーはがっくりと肩を落とした。
「じゃあ、まず白玉あんみつだけでもお店に出そうかな…。」
「そうしてくれると助かるわい。」
そう言ってレイニーはその週末に夏の新メニュー第一弾として白玉あんみつを売り出した。
するとピーゲルの街の人たちが涼を求めてお店のアイスコーヒーを頼んでいると新しいメニューがあることに気付き、レイニーやリトなどの従業員からの勧めもあり、白玉あんみつが少しずつ注文されるようになった。
初めは寒天や白玉を見たことがない人たちが"これはなんだ?"と従業員に質問することが多かったので、レイニーは店内に黒板を用意して寒天と白玉の説明書きを載せるとその説明を受けてから食べたお客さんが面白い食感でさっぱりしてるけど、冷たくて甘い!と評判を呼び、夏の新メニュー第一弾の白玉あんみつは上々の滑り出しをしたのだった。
そして、白玉あんみつが売れ始めた頃、ザルじいからようやくくず粉が出来たことを教えてもらったレイニーはリトとナシュナを呼んでくず餅の試食会を開いた。くず餅にはきな粉と黒蜜が欠かせなかったが、どの素材もザルじいが森に住んでいたころに開発していたので、その2つをくず餅にたっぷりと掛けて、まずレイニーが食べると、そのとろけるようなでもしっかりともちもちしているくず餅に頬に手を添えて"美味しい〜"と破顔するとリトとナシュナも待ちきれなくなって、くず餅を口にした。皆、顔をとろけさせながら"美味しい!"と口々に言ったので、ザルじいは心底嬉しそうに"そりゃ良かったわい。"と喜んだ。
こうしてレイニーとザルじいが苦労して作り上げたくず餅は夏の新メニュー第二弾としてお店のメニューに並べることとなった。やはり白玉あんみつと同じで最初は誰も注文してくれなかったが、レイニーが黒板に説明文などを書き記すと、流行りに敏感な若者の女の子たちがくず餅を注文し、その不思議な食感が話題を呼びくず餅も夏の新メニューとして定着することになったのだった。




