Level.27 夏の新メニュー
Level.27 夏の新メニュー
ナシュナ夫婦がベーゲンブルグの街までテレポート結晶で帰ったのを見送ってからレイニーはテレポート結晶のことについて、冒険者ギルドに報告した方がいいかと思った。リトもその意見には賛成のようで2人で冒険者ギルドに向かった。
ギルド長のジルビドにアポを取っていなかったが、時間をとってもらえるか分からず受付カウンターに行こうとしたところでレイニーはジルビドの補佐官をしているハルストを見つけた。
「ハルストさん!」
「おや、レイニーさんにリトさん。今日もクエストですか?」
「いえ、今日はジルビドさんに用事があるんですけど…。」
「ほう。ジルビド様に…ご用件だけでも伺いましょう。」
「それがテレポートアイテムを錬成して作り出すことが出来たんです。冒険者として重宝するアイテムだと思うので冒険者ギルドに報告だけでもと思いまして…。」
「ふむ、それは興味深い話ですね。直ぐにジルビド様に話をつけましょう。ギルド長室の前でお待ちいただけますか?」
「!いいんですか!?ありがとうございます!」
ハルストはレイニーからテレポート結晶の話を聞くと顎に手を当てて考える素振りを見せると直ぐにジルビドに話をつけてくれることになり、レイニーとリトは顔を見合わせてハイタッチをした。2人でジルビドのいるギルド長室の前で待っていると、しばらくしてハルストから中に入っていいと言われ、レイニー達はジルビドが待つ部屋へと入った。
「レイニーくん、リトくん、ハルストから話は聞いた。テレポートアイテムを作ったそうだね。」
「はい、テレポート結晶という名前をつけました。材料は導き石、紅鳥の羽根、妖精の粉です。私が試しにテレポートをしたところ、問題なく作動しました。冒険者にとっては役に立つものですが、1回の錬成で出来たのは3つ…。1つは私のお店の従業員で今回のテレポートアイテムの生成の依頼をしてくれた人物に渡しました。残る2つは私とリトで使おうかと思っています。」
「ふむ、紅鳥の羽根と妖精の粉か…。それは考え付かなかったな。冒険者ギルドとしてもテレポートアイテムの錬成はしたことがあったが、なかなかうまく出来なくてね。錬成素材が分かっただけでも収穫だよ。完成したらテレポート結晶はレイニーくんたちが好きに使ってくれて構わない。だが、紅鳥の羽根と妖精の粉はレアアイテムだ…。テレポート結晶を量産したいところだが、乱獲も防がねばならない…。」
「そう、ですよね…。乱獲だけは避けたいと思っています。紅鳥の羽根も妖精の粉も好意で受け取れたようなものなので…。」
「よし、冒険者ギルドとしてはテレポート結晶の錬成レシピを図書館の一部の人間だけが閲覧できる禁書庫で取り扱うことにしよう。そうすれば徒に乱獲が起きるのを少しは防げるだろう。」
ジルビドはレイニーから話を聞くと材料のレア度を考えて図書館の制限エリアである禁書庫で錬成レシピを取り扱うことを考えてくれた。それに今回の錬成で出来た3つのテレポート結晶の所有権もレイニーたちが使っていいとも許を得ることができた。レイニーたちはジルビドに頭を下げてギルド長室を後にした。
「いや〜、ジルビドさんがいい人でよかったよ!テレポート結晶は冒険者なら誰でも欲しがるものだと思ってたからてっきりギルドに納めてくれって言われるかと…。」
「そうだよな…、俺もそれは考えたよ。ナシュナさんに渡したのも独断みたいなものだったし、怒られるかと…。」
2人でジルビドが良い人でよかったと心からそう思ってレイニーの家に帰ったのだった。
――――――
季節は夏になり始め、日に日に高くなっていく気温にレイニーは喫茶店での休憩時間中にぐったりとしていた。
「毎日少しずつ暑くなってきてて、お客さんの出入りも怪しくなってきたよね〜…、これは夏限定のメニューを考えなきゃいけないかな〜…。」
暑くなってきて外に出る機会も減ってきている中、お客さんがなかなか来ないことをレイニーは危惧していた。ここは夏の新メニューを考案して少しでもお客さんを呼び込まなければ!と思い、レイニーは喫茶店がお休みの日に新メニューの考案をすることにした。
「よし!夏の定番の甘味と言えば!あんみつとかき氷よね!」
「しかしレイニー、この世界の人にかき氷はちと攻めすぎかもしれんぞ?」
「そこなんだよね〜…、氷を削って甘いシロップをかけただけだし、この世界の人にとったら何故氷を削って食べるのか〜みたいなことになるだろうし…。あんみつともう一つ涼しげな甘味があれば…。」
レイニーが夏の新メニューを考えようとしているとそばでアイスコーヒーを飲んでいたザルじいがアドバイスをくれた。確かにザルじいの言う通り、かき氷はちょっと攻めすぎかと思ってレイニーは夏の時期に合う甘味を考えた。一つはあんみつで決定なのだが、もう一つが思いつかずレイニーはウンウンと唸っていた。
「夏…甘味…涼しげ…。うーんと…、透明な…あっ!そうだ、くず餅!」
レイニーは見た目が涼しげな透明の甘味を考えていたら、くず餅のアイディアがパッと閃いた。
「くず餅なら見た目も涼しげだし、もちもちとしててきなこや黒蜜で食べれば甘くて美味しいし〜!うん、決定だ!」
レイニーはこうしてあんみつとくず餅を夏の新メニューとして作ることにした。
まずはあんみつの材料である寒天と白玉を作ることから考えた。
「寒天は確かテングサっていう海藻から作られてるんだよね…。ザルじい、テングサに代わる海藻とか知らない?」
「わしもまだテングサの代わりになるものには出会えておらんのよ…。海藻を取り寄せようにも港町は少し遠くての。寒天作りはほぼ諦めていたんじゃよ。」
「そうなのか…、じゃあ、私が港町まで行って海藻を取り寄せてくるよ!」
「ありがとう、レイニー。寒天作りはわしも少しは知識を貸してやることができる。まずは海藻を取り寄せてくれ。」
「分かった!明日にでも港町に行ってくる!」
こうしてレイニーは寒天を作るための海藻を取り寄せるため、港町に行くことにした。次の日、レイニーはピーゲルの街から一番近い港町、グルヴァールという街に向かった。半日かけて馬車に揺られて着いた港町でレイニーは早速海藻屋さんを探した。
「まず海藻屋さんってあるのかな…。」
レイニーはそんな不安を抱えつつ、グルヴァールの新鮮な魚や海産物が並ぶ市場を覗いてみた。
「うわぁ!新鮮そうな魚がたくさん…、焼き魚…煮付け…刺身…。いかんいかん、本来の目的…!」
魚たちを見て涎が出てくるのを我慢してレイニーは海藻を取り扱う店を探した。10分ほどうろついていると、市場の奥の方にさまざまな海藻が陳列されたお店を見つけることができた。
「ここか!うーん、テングサの代わりになるもの…。」
「おや、若いお嬢さん、海藻に興味があるのかい?」
「あっ、こんにちは。ちょっと興味がありまして。あの、海藻を煮詰めて乾物にしたいと思ってるんですけど、それに合う海藻ってありませんか?」
「海藻を煮詰めて乾物に?聞いたことないなぁ…。本当にそんなものを作ってどうするんだい?」
「えっと…、私"喫茶店"という飲食店をやっているものでして。そこで出すお料理に海藻を煮詰めて乾物にしたものを使いたいなと思いまして、甘味になるんです!」
「ほう?それは海藻屋としては気になる代物だな!よし、お嬢さんのいう海藻を煮詰めて次なるものが作れそうな海藻を見繕うよ!ちょっと待ってな!」
「!ありがとうございます!」
海藻屋の店主はレイニーの言う寒天の話を聞くと興味を示してくれて、直ぐに寒天作りに使えそうな海藻を5種類ほど用意してくれた。レイニーはその5種類をお店まで卸してくれるよう、契約を取り付け、グルヴァールからピーゲルの街に帰ってきたのであった。
――――――
翌日。グルヴァールの海藻屋さんから海藻が送られてきたので、レイニーはザルじいと共に寒天作りを始めた。
「寒天は海藻を煮詰めて粘着質になって来たところで海藻を取り除いたものを冷やし固めて更に乾燥させたりして出来るものじゃ。テングサがあれば簡単なんじゃが…。レイニーが取り寄せてくれた5種類の中からテングサに近いものを見つけるとしようかの。」
「ん、わかった!まずは煮詰めなくちゃね!」
レイニーとザルじいは手分けして海藻を水でよく洗い、鍋に入れて水と少量の酢を入れてグツグツと煮詰めた。海藻の粘着質が出てきてとろとろとしてきたところで火から下ろし、海藻と粘着質の液を分けて、粘着質のを冷やし固め、更にそれを乾燥させることで寒天を作ろうとした。
それなりの日数をかけて作られた寒天もどきは5種類の取り寄せた海藻のうち2種類が一番近い状態に出来上がった。他の3種類はうまく固まらなかったり乾燥する時点で難しかったりしたのだった。
2種類の海藻はテングリとノリグサという海藻で、レイニーはこれを寒天作りに使えそうだと思い、グルヴァールの海藻屋さんに手紙で追加で卸して貰えるよう、お願いの文書を作成した。
「よし、これで寒天の問題は解決!次は〜、白玉かぁ。」
「白玉粉の作り方はわしが知っておるからレイニーはもち米を用意してくれるかの?」
「ザルじい、白玉粉の作り方知ってるの!?すごい…。」
「ほっほっ、前の世界で甘味を作るのが好きでのう。よく自分で調べて作ったものよ。」
「私もその探究心を見習わなくちゃね!よし、もち米ね!そういえばナシュナの実家がお米農家って聞いたことあるような…。」
レイニーは僅かな記憶を頼りに喫茶店の営業日にナシュナに実家のことを尋ねてみることにしたのだった。




