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Level.26 テレポート結晶

Level.26 テレポート結晶

 暑い暑いイフェスティオから馬車で帰宅したレイニーとリトは家に着いた頃には真っ暗だったので錬成は明日にしようということになり、お互いの家に帰ることにした。リトがいつものようにレイニーを街外れの家まで送ってくれたので、レイニーが家に入って"またね"と言って手を振ってから中に入ると、ちょうどお風呂上がりのザルじいと鉢合わせた。

「おや、レイニーおかえり。今日はどんなところに行ってきたんじゃ?」

「それがね、ザルじい!私凄いものを見ちゃったの!」

「ほう?どんなものを見たのか気になるが、先にお風呂に入ってきたらどうじゃ?」

「あ…、汗でベタついてたんだった…。先にお風呂入ってくるね!」

 レイニーは火山都市からの帰りで汗を大量にかいてしまっていたので、まずはその気持ち悪さを解消すべく、お風呂に入って汗と火山都市での土埃などをよく洗い流した。

 髪の毛も洗ってさっぱりしたレイニーは居住スペースの2階でザルじいが開発したアイスクリームを突きながらイフェスティオであった出来事をザルじいに話した。ザルじいの相槌がうまくてレイニーは紅鳥の神々しさや美しさを言葉で表現しづらくてヤキモキしたが、ザルじいはそんなレイニーの話を聞いて"良かったのう。"と言ってくれた。話に付き合ってくれたザルじいを解放してあげて、レイニーは自分の部屋で今日まで集まったテレポートアイテムを錬成するための材料たちを机に並べた。

 ここまで集めるのにトントン拍子で集められたが、今後量産とかしなくてはならなくなった時に、妖精の粉や紅鳥の乱獲など起こらないだろうかとレイニーはそんな底知れぬ不安があった。だが、そんな問題もジルビド率いる冒険者ギルドに相談すれば解決するかもしれないと思い、レイニーは眠りについたのであった。

 ――――――

 翌日。金曜日の今日は本来であればメニューの試作をする日であったが、今日は朝からリトがレイニーたちの家に来て錬金術を見守ることになっていた。

 朝ごはんを3人で食べ終えるとレイニーとリトは部屋に行って早速錬金術をするための布を敷き、材料を魔法陣の上に置いた。

「えっと錬金術のやり方は…素材を魔法陣の上に並べ、魔力を魔法陣に注ぎ込み、素材が一つになるイメージをして魔力を注ぎ続けることで錬金術が完成します…。ふむ、簡単そうだね、やってみよう!」

「待て、レイニー。練習はしてみたのか?」

「ん?してないよ?」

「はぁ…、こういうのは練習してからやるのがいいんだぞ。いきなりやって成功するとは限らないし、今回の材料はそう簡単に集められるものでも無い。だから、まずは薬草とかで作るポーションで練習して方がいいんじゃないか?」

「あ…、そうだよね。手始めにポーションを作ってみるよ。薬草ならポーチに少し入ってるし。」

 レイニーはリトにアドバイスされ、一発勝負で錬金術をしようとしていたので、それを反省した。

 まずは薬草と森の清らかな水を錬成するとポーションになるので、それを魔法陣の上に置いて魔力を注ぎ込み始めた。一つにまとまる意識を持ちながらぎゅーっと一本のポーションになるイメージを続けると、ポンッという軽い音と共に魔法陣の上を見てみると、よく見るポーションの瓶があったので、リトの方を見るとグッドサインをもらった。

「やったー!ポーション出来た!初めて自分で作ったよ!なんか感動!」

「ポーションは初歩的な錬金術だからな。冒険者になりたての頃は俺も作ったことあるぞ。」

「へぇー!そうなんだ!じゃあ、何本かポーションを作って練習してからテレポートアイテムの錬成をしようか!」

「おう!レイニー頑張れよ!」

 レイニーは1人で部屋で錬金術の練習でポーションを量産している間にリトはザルじいの元へ行き、コーヒー談義に花を咲かせていたようだった。

 お昼の時間になると、お腹をぐーぐー言わせてレイニーがリビングにやってきたので、リトとザルじいが苦笑いをしながらお昼ご飯を用意してくれた。今日のお昼はニンニク香る豚バラ丼だった。お肉大好きなリトのリクエストらしい。が、レイニーも魔力を消費してて疲れていたのでガツンとエネルギーがチャージできるような肉料理はありがたかった。ご飯を食べ終え、用意してくれたザルじいに代わってレイニーが皿洗いをすると午後からはポーションでの錬金術の練習をやめ、テレポートアイテムの錬成をすることにした。

 リトもレイニーの部屋にやってきてその行末を見届けることにしたらしい。

「えっと、導き石と、妖精の粉…紅鳥の羽根…っと…。」

 レイニーは魔法陣の上に3つの材料を並べるとリトと目線を合わせてからレイニーは目を閉じて、魔力操作に集中した。

 3つある材料が一つにまとまるイメージを込めて魔力を送り続けること数分、そろそろ魔力操作にブレが生じ始める頃合いだった。

 レイニーは魔力を一定の量注ぎ込み続ける魔力操作に才能があるらしく、ブレは僅かなだけで、錬金術が失敗するほどのブレは出なかった。そして、10分間魔力を注ぎ続け、ポンッという軽い音と共にレイニーは目を開けた。すると魔法陣の上には正八面体で紫色とピンク色が混ざったような色の石が3つ、コロンと転がっていた。

 その様子を見てレイニーはリトと顔を見合わせてハイタッチをした。

「完成!?完成かな、これ!」

「結晶石みたいな石ができたな!これは試してみようぜ!」

「うん!私ちょっとベーゲンブルグまで飛んでみようと思う!」

「おう、俺はここで待ってればいいんだな?」

「うん、よろしく!」

 興奮冷めやらぬ様子でレイニーとリトは魔法陣の上に出来ている石を一つ取り、レイニーはベーゲンブルグに向かいたいと願い魔力を込めるとシュンッという風切音と共にレイニーはピーゲルの街外れの家の自室から、ベーゲンブルグの街の入り口まで一瞬で飛んでくることができた。

 嬉しそうな顔をしたレイニーは直ぐにピーゲルの街にテレポートで戻ると家にいるリトの元へと向かった。

「リト!これ大成功だよ!ちゃんとテレポートできた!」

「おお!やったじゃん、レイニー!これでシリウスさんの悩みを解決できそうじゃないか!」

「そうだね!ナシュナを安心安全に移動できる手段が出来たよ!」

 2人で再びハイタッチをしてからレイニーは3つのテレポートアイテムをナシュナと他に誰が使おうか悩んだ。

「それなら作ったレイニーが持つのは当然じゃないか?」

「私が持ってていいの?」

「当たり前だろ、レイニーが作ったんだから。これはレイニーのものになるべきだよ。」

「それなら最後の一つはリトにあげるよ。リトにも素材集めから手伝ってもらったし。」

「え、いいのか!?やったー!冒険者として手軽にテレポートができるアイテムがあるのは重宝するぞー!」

 そんな話をしているとコンコンコンと部屋の扉がノックされた。

「はい、どうぞ。」

「何やら騒がしいがナシュナとシリウスさんが来ておるぞ。」

「えっ、もう!?だってテレポートアイテムが出来たのはさっき…。」

「別の用事だと思うが?」

「へ?」

 レイニーとリトはなんの用事で2人が家を訪れてくれたのか分からないまま、リビングにて待っていたナシュナ夫妻の元にレイニーは向かった。

「お待たせしました、ナシュナさん。シリウスさん。今回はどうされました?」

「それが……あの、申し上げにくいんですが、私の喫茶店での就業時間を短くしてもらおうかなと思いまして…。」

「えっ!?」

「シリウスと話し合って私がコーヒーの研究をするのを自宅でするようになればいいとの家族会議で決まりまして…。誠に申し訳ないのですが、仕事の時間を短くして早めに切り上げさせてもらえないかなと…。」

「ナシュナさん!その必要はありませんよ!」

「え…?」

「今さっきテレポートアイテムが完成したんです!これを使えば街と街の行き来が楽になりますよ!」

ナシュナから告げられたのは就業時間の短縮についてだった。あんなに楽しそうにコーヒーの研究をザルじいとしていたのにその時間が無くなるのはナシュナにとって苦渋の決断だったろうに、ナシュナはシリウスからの心配な気持ちを汲んで研究は自宅に帰ってきてから行うことに決定したそうだった。

 だが、ちょうどいいタイミングでテレポートアイテムが完成したので、そんなナシュナの貴重な楽しみの研究の時間を削ることなく一瞬で帰宅することができる、テレポートアイテムをレイニーはナシュナに見せた。

「これがそのアイテムです!名前は〜…、テレポート結晶、ですかね。」

 レイニーの手の中にある宝石のような輝きを放つアイテムってナシュナが一つつまみ上げると、太陽光に透かしてキラキラと輝くのを楽しんでいた。

「レイニーさん、これが頼んでいた移動手段ですか?」

「頼んでいた?」

 シリウスがびっくりした表情でレイニーに言うとナシュナがシリウスの言葉に反応していた。

「シリウス…、まさかあなた私が心配だからってレイニーさんに無理難題を押し付けてたんじゃ…!?」

「ナシュナさん、落ち着いて!私たち冒険者たちもテレポート結晶のようなアイテムは喉から手が出るほど欲しいものなので作るのは必然的だったんですよ。だからいい機会ですし作ったんです!ナシュナさんはおまけ、みたいに思っていただければ!」

「レイニーさん…、すみません、私のために…ありがとうございます。これはありがたく使わせていただきます。」

 ナシュナは大事そうにテレポート結晶を抱いて頭を深々と下げた。そんなナシュナに慌てた様子でレイニーが"顔をあげてください、ナシュナさん!"というやりとりがあったのはいつものことだろう。

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