Level.24 妖精の粉
Level.24 妖精の粉
翌日。10時にピーゲルの図書館の前でリトを待っていると時間通りにリトはやってきた。
「待たせて悪いな!さ、図書館で調べよう。」
「私も来たところだから大丈夫だよ。何かいいアイディアが見つかると良いんだけど…。」
いつもの冒険者の時の服装ではなく、最近街で購入した可愛らしい白のレースがあしらわれたチュニックとスキニージーンズを合わせたレイニーにリトもラフな私服を着てやってきた。2人で図書館の中に入って移動手段のアイテムを錬成するのに使えそうな材料を探し始めた。
レイニーはテレポートや転移魔法についての記述がある本を中心に調べた。図書館に来てから数時間お昼の時間になってお腹が空いてきたので、レイニーは調べ物を辞めた。いつのまにか、レイニーが共有の勉強スペースで調べ物をしていた目の前の席にリトも座っていて、レイニーの調べ物が終わるのを待っていてくれていた。
「ごめん、リト。私全然気づかなくて。」
「大丈夫だよ。レイニーの家で何かお昼でも作ろうぜ。俺グラタンが食べたい!」
「ふふ、分かった。ザルじいと一緒にグラタンを作ってあげるよ。家に帰ろうか。」
レイニーは調べ物に使っていた本を全て元の場所に返してザルじいの待つ家へと帰宅した。
「ただいま、ザルじい。」
「お邪魔しまーす。」
「レイニーおかえり。リトもいらっしゃい。お昼を食べに来たという感じじゃな?」
「正解。グラタンが食べたいってレイニーにリクエストしてあるんだ。」
「ほっほっ、既にリクエスト済みか。どれ、わしも手伝おうかの。」
家に帰ると出迎えてくれたザルじいにリトがレイニーの後ろからひょっこりと顔を出すとザルじいと少し会話をしてレイニーがエプロンをしてキッチンにやってくるとリトも昼食の準備の手伝いを買って出たのだった。
3人でグラタンとサラダとスープを食べてからレイニーは部屋で錬金術の魔法陣が描かれた布を広げて図書館で調べてノートに書き記してきた材料についてリトと一緒に話し合うことにした。
「リトは何かいい材料見つかった?」
「ああ。俺は紅鳥っていう鳥の羽がいいと思ったぞ!世界を飛び回っている紅鳥の羽があればどこへでも飛んでいけそうな気がしそうじゃないか?」
「ふむ、確かに…。紅鳥っていうのは初めて聞いたけど、世界を股にかける鳥ならテレポートに使えそうな材料ね。どこで手に入るの?」
「紅鳥はここから一番近い都市だとイフェスティオっていう火山都市に現れるみたいなんだ。」
「イフェスティオ…。よし、わかった。明日行ってみよう!」
「レイニーは何かいい材料見つかったか?」
「私は妖精の粉がいいんじゃないかと思って。」
「妖精の粉かぁ…。名前は聞いたことあるけど…、どうやって手に入れるんだ?」
「ピーゲルの森に妖精の国に通じるゲートがこの時期に現れてるみたいなの!夜にそのゲートの近くに行くと妖精たちに出会えるらしくて…。夜に一緒に行こうよ、リト!」
「そうなのか!それなら早めに手に入れられそうだな!よし、今夜妖精の粉を、明日イフェスティオに行って紅鳥の羽を手に入れよう!」
「うん!そうだね!」
こうしてシリウスから頼まれた移動手段のアイテムを作る計画は順調に進んでいった。
レイニーは夜食として簡単なサンドイッチを用意してリトが待つピーゲルの森の入り口に向かった。
「リトは妖精を見たことあるの?」
「俺は見たことないなぁ…、でもピーゲルの森に妖精が現れるっていうのは小さい頃じいちゃんから聞いたことがある気がする。」
「そうなんだ…、ピーゲルの森に現れるのは昔からなのか…。」
レイニーがリトからの話を聞いて考え込んでいると次第に森の中から"きゃっきゃ""うふふ"と言った誰かの笑い声が聞こえてきた。それは不気味な笑い声ではなく妖精たちの愉しむような声だとレイニーは気付いた。
リトと顔を見合わせてそーっと声のする方へ向かうとそこには森の中を流れる川のほとりにキラキラと輝く妖精たちがふわふわと踊るように舞っているところだった。
レイニーとリトはその幻想的な雰囲気にぽけーっとしていると妖精の1人がレイニーたちが覗き込んでいるのに気付いて"人間だ、人間だ"と騒ぎ始めた。レイニーは見つかったら不味かったのかと慌てたが、妖精たちは嫌がるそぶりどころか、"一緒に踊ろうよ!"とレイニーとリトの手を引いて踊る妖精たちの輪の中に引き入れた。妖精たちの元気はどこから湧いてくるのか分からないほど、踊りまくるとレイニーは疲れてその場に座り込んでしまった。レイニーよりも体力があるリトでさえもヘトヘトで2人して息を荒くしていた。
そんなレイニーたちの元にのしのしと何かが近付いてくる気配がした。リトとレイニーが警戒しながらその音の方を見ると鹿の背に乗ったレイニーよりも背が低い少女が現れた。金髪の髪を流れるように長くしてエメラルドのような宝石の輝きを持つ瞳は何かもを見透かされているようでレイニーは少しばかり恐怖を覚えた。
「怖がらなくていいわ、人間の子よ。私は妖精たちの女王。先ほどからいい香りが鼻を掠めてお腹がいい音を鳴らしてしまいそうなの。」
「妖精の女王様…。あっ、いい匂いってこれ…?」
レイニーは妖精の女王の美しさに見惚れていると女王が言ったいい香りのするものを考えた。すると夜食で持ってきていたサンドイッチのことかと思ってカゴを取り出すと妖精の女王は頷いた。
「私は人間の食べ物を口にすることが出来ないの。その美味しそうなものは私たちの子にあげてちょうだい。」
「わ、わかりました…。」
レイニーは妖精の女王様に逆らってはいけないと思い、女王様の言う通り、川辺で踊っていた妖精たちにサンドイッチの入ったカゴを見せると"なにこれー!"と踊るのをやめてサンドイッチに食いついてきた。
妖精の1人が恐る恐るサンドイッチを口にすると周りにいた妖精たちも次々にサンドイッチを食べた。
「美味しい!これ美味しい!」
「もっと欲しい!」
サンドイッチは妖精たちの口に合ってたみたいで、レイニーとリトの分として作ってきたサンドイッチはあっという間に無くなってしまった。
「ふぅー!ごちそうさま!」
妖精たちが口々にそういうとレイニーは"お粗末さまでした"と苦笑いをした。すると妖精の女王様が1人の妖精を手招きしてこそこそと耳打ちをしていた。レイニーはその様子を見て首を傾げていると、耳打ちをされた妖精が女王様から離れるとレイニーの元に来た。
「手を出して!」
「え…、こう?」
「そうそう!ちょっと待ってて!」
レイニーは妖精に言われた通りに両手を差し出していると、妖精たちがレイニーの手の上に集まり出して半透明に輝く羽を一生懸命動かすとキラキラと輝く金色の粉がレイニーの手の中に溜まっていった。
「これって…!」
「それは妖精の粉!女王様が食べ物をくれたお礼にあげなさいって!これが欲しかったんでしょ?」
「!女王様にはお見通しなんですね…。」
レイニーは妖精たちから少し離れたところで鹿を撫でていた女王様の方を見ると、女王様は"ふふふ"と上品に笑っていた。レイニーは女王様の配慮で妖精の粉を手に入れることが出来た。別れ際にレイニーは女王様に頭を下げて"またお会いできたら今度は妖精たちに別の料理を持ってきますね"と言って妖精たちが国へ戻るのを見送ったのだった。
幻想的な雰囲気はあっという間に消えていつものピーゲルの森に戻った。レイニーは先ほどまでの妖精たちの光景が夢ではないかと思ったが、手の中に残る妖精の粉が夢ではないと思わせてくれた。
「なんだか、レイニーのサンドイッチのおかげで妖精の粉を手に入れられたみたいだな。夜食を作ってきて正解だ。」
「うん、そうだね、意外だった…。」
「さ、明日はイフェスティオに行くんだ、早めに帰って寝ないとな!」
レイニーは手の中の粉を瓶に詰めて保存すると明日のイフェスティオに行くことを思い出して、急いで家に帰って就寝したのであった。




