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Level.21 お嬢様とコーヒー

Level.21 お嬢様とコーヒー

「お待たせしました、ナポリタンでございます。」

 レイニーがフリルが少しだけしか主張していないシンプルなワンピースに身を包んだ人形のような少女は運ばれて来たナポリタンとセットのコーヒーを見てびっくりしていた。

「これが、噂に聞くナポリタン…。ようやく味わうことが出来るのですね…!いただきます!」

 レイニーは注文の仕事も落ち着いて来ていたのでカウンター席でフォークを使ってぎこちない様子でパスタを巻きつけるお嬢様の様子をレイニーはちらちらと気にしていた。

 ようやくパスタを一口大に巻き終え、ぱくりと口の中に入れた瞬間お人形さんの目が見開かれた。

 カウンターでコーヒーの準備をしているレイニーにお人形さんは身を乗り出してきた。

「あの!このナポリタンという料理、初めて食べたのですけど、とっても複雑な味わいがして…、隠し味…?はわかりませんがコク深いけれど、食べやすいそんな料理ですね!私気に入りました!」

「見事な感想ありがとうございます。ナポリタンの隠し味はですね…。」

 興奮した様子でレイニーに詰め寄ってくるので、レイニーは隠し味についてお人形さんの耳元で"牛乳ですよ"とこそっと教えてあげた。

 するとお人形さんは至近距離でのウィスパーボイスにポポポと頬を染めたが、直ぐに頭をブンブンと振って黙々とナポリタンを食べていった。

 あまりの食べっぷりに作った側も満足そうな表情で見守った。そして食後のコーヒーをお出しすると、お人形さんの柔らかそうだった表情がピシリと硬くなった。

「あ、あの、どうされました、お客様?」

 レイニーが思わずカウンターから声を掛けると、お人形さんはどこか遠くに行っていた意識が戻ったらしく、慌ててカップを手に取りぐいっとコーヒーを飲んだ。

 だが、しかしそれは砂糖もミルクも入っていないブラックコーヒー。初めてコーヒーを飲むお嬢様なのに、ブラックで良かったのか!?とレイニーが慌てていると。お人形さんは案の定"苦ーい!!"と絶叫した。

 あまりにも声が大きかったので、店にいた人全てがカウンター席でブラックコーヒーを飲んで固まっているお人形さんに視線が集中していた。

 その視線に気づいたのか、お人形さんが縮こまって"す、すみません…"と言ったので、店内の他のお客さんは気にしなかったようですぐに自分たちの会話を再開させた。

 レイニーは説明をせずに飲んでしまったお人形さんのお客様に頭を下げた。

「説明不足で大変申し訳ありません、コーヒーというのはシャンゲルという魔物の頭の上で作られる豆を焙煎しミルで細かく挽き、特製のフィルターを使って粉になったコーヒーの上からお湯を注いで抽出されたものがコーヒーです。こんな真っ黒な見た目をしております、慣れている方はブラックコーヒーで飲む方もいらっしゃいますが、まずは砂糖とミルクを入れてみるとまろやかになって飲みやすいと思いますよ。」

「そ、そうだったのですね…。私ったら見た目のインパクトが大きすぎて、何の説明も受けずに…。すみません…。」

 シュンと眉毛を下げて反省をするお人形さんにレイニーはぶんぶんと両手を左右に振った。

「い、いえ!お客様が謝ることでは…!ミルクと砂糖を自分好みに入れるのも楽しみの一つですよ。どうぞ、試してみてください。」

 レイニーはお人形さんに砂糖の入った小瓶とミルクの入った小瓶をススス…と勧めてお人形さんの行動を見守った。お人形さんはレイニーに勧められて砂糖をティースプーン2杯ほど入れ、ミルクもコーヒーの色が綺麗なマーブル色に変わっていくのを見つめながら入れていた。

「こ、こんなものでしょうか…?」

「まずは飲んでみましょう。」

お人形さんはレイニーに言われるとコクリと頷き、そっとコーヒーカップに口をつけて飲んでみた。

「!さっきのと全然違う…!」

「ふふ、さっきはあんなに苦かったのに、って感じですよね。コーヒーの世界は奥深いですよ。砂糖やミルクの量ももっと研究して自分好みの量を導き出すのもまたそれだけが楽しみになると思います。」

「そうなんですね…。これが、コーヒー…。」

「コーヒー自体が苦いので、甘いものと一緒に食べるといいと思います。先日は何も食べずにお客様を帰らせてしまうような事態にさせてしまったので、1品おまけにしますよ。」

「甘いもの…それではこのプリンアラモードというのも追加でお願いします。」

「はい、かしこまりました。」

 レイニーは笑顔で注文を受けるとキッチンへ行き、カットしておいたフルーツを数種類と冷蔵庫で冷やしていたプリンを取り出してガラスの器に盛り付け始めた。

 プリンの周りを取り囲むようにフルーツたちを並べて完成したらプリンアラモードを慎重にカウンターの席で待つ、お人形さんの元へ運んだ。

「まぁ…!」

「お待たせしました、プリンアラモードです。」

 レイニーがプリンアラモードをお人形さんの前に置くと、目をキラキラと輝かせていろんな角度から料理を見始めた。

「こんなに芸術品のような料理があるなんて…!い、いただきます。」

 お人形さんはどこから食べような迷っていたようだが、意を決して真ん中に盛り付けられたプリンをスプーンで掬って食べてみた。

「ん~!甘くてプルプルしてて…初めての食感です!」

「気に入っていただけましたか?」

「はい!またこの苦めのコーヒーと一緒に食べるとコーヒーの苦味が中和される気がします。甘いものと一緒に飲むコーヒーがこんなに美味しいだなんて…。驚きです。」

「気に入っていただけたなら嬉しいです。」

「申し遅れました、私ベーゲンブルグに最近引っ越して来た、ナシュナ・ロームントと申します。」

「初めましてナシュナさん。私はこの喫茶レインの店長を務めております、レイニーといいます。」

 お互いに自己紹介をするとレイニーは先日ベーゲンブルグでナシュナを見たという話をした。

「あの時を見られていたんですね…。あの時は初めてロームント家に嫁いできた時ですね。ベーゲンブルグはいい街です。でも、何か刺激が足りない気がして…。そんな時このお店の噂話を耳にしましたの!」

「情報が回るのが早いですね。それで先日馬車で…。」

「はい…、私が無知だったのが要因ですが、他のお客様の邪魔をしてしまったのではないかと…。気がかりでした。」

「まぁ、確かにこの街の人は馬車は持っていませんからね。馬車で来られる方の配慮をしていなかったこちらの責任でもあります。」

「いえいえ!レイニーさんが謝ることではないです…!私はここの名物だというコーヒーを飲むことが出来て満足していますから!どんな経緯があるとはいえ、もう気にしないでください。」

「ナシュナさん…。ありがとうございます。コーヒーも気に入ってくださったようで。」

 レイニーは馬車で来る人の可能性を考えていなかったことを悔いて頭を下げた。そんなレイニーにナシュナは慌てた様子で両手をぶんぶんと左右に振った。コーヒーを気に入ってくれたことをレイニーが嬉しく思っていると伝えるとナシュナは笑顔で頷いた。

「見た目にインパクトがあるのでどうやって作られているのか気になりますね!」

「それならいっそのことこのお店で働いてみますか?コーヒーの作り方を間近で見ることが出来ますし。」

「えっ!?このお店で働く…そんなこといいのですか?」

 レイニーはナシュナがふと口にした言葉を聞いて"ふむ"と考えるとこのお店で働かないかと誘った。このお店の従業員でもあるリトの本業は冒険者なのでリトの代わりに入ってもらえればなとそういう気持ちで言葉にしてみたのだった。

「ナシュナさんさえ良ければですけれど。」

「ぜ、ぜひ!私で良ければ働かせてください!」

 ナシュナは興奮した様子でカウンター席から立ち上がりカウンターの向こう側にいるレイニーに近づいた。

「じゃあ、お店がお休みの火曜日に面接を行いましょう。10時頃来ていただけますか?」

「はい!わかりました!」

 こうしてレイニーはナシュナを雇用すべく面接の約束を取り付け、その日が来るのを楽しみにしたのだった。

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