Level.20 開店です!
Level.20 開店です!
朝帰りしたレイニーにザルじいが朝食を作りながら出迎えてくれた。
「レイニー、おかえり。ベーゲンブルグは観光して来なくて良かったのか?」
「早く帰って、買ってきた茶葉の研究をしたくってね!紅茶の茶葉っぽいのは後日お店に届く予定だけど、直ぐに受け取ってきた緑茶になりそうな茶葉をどう料理に生かすか早く試したくてさ~!」
「思わぬ収穫があったようじゃの。さて、朝ご飯にするかの。」
「私も手伝う!」
レイニーはベーゲルブルグから帰ってきたばかりだったが、冒険者を始めて体力がついてきたのか、朝帰りでもさほど疲れてはいないようだった。
そして2人でトーストとスープの朝ごはんを食べてから、レイニーは茶葉の研究。ザルじいは他の喫茶店のメニューの考案に取り掛かったのだった。
お昼近くになって、2人の家にベーゲンブルグの八百屋から茶葉が届いた。麻袋に入った大量の茶葉を見て、レイニーはこれなら!と紅茶の茶葉を使ってまずは普通にお茶を淹れてみた。カップに注がれたお茶は紅茶と同じ茶褐色で香りはフルーツのように甘くてそれでいてくどくないフルーティーな香りだった。レイニーとザルじいが一口紅茶を飲むと2人は笑顔になった。
「うん!これこそ紅茶だよ!フルーツティーみたいな香りで華やかだし!」
「うむ。これなら喫茶店らしさも出るじゃろうて。紅茶の茶葉を使ったスイーツも作れそうじゃの。」
「それいいね、ザルじい!紅茶のシフォンケーキが食べたいかも…。」
レイニーは紅茶の茶葉を使ったスイーツを思い浮かべて涎がじゅるりと出てきた。そんなレイニーにザルじいは愉快そうに笑っていた。
――――――
それから1ヶ月後。紅茶とコーヒーの淹れ方の研究も終わり、メニューも数種類増やしてようやくレイニーとザルじいの飲食店、"喫茶レイン"の開店日がやってきた。
事前に喫茶店の営業はレイニーの冒険者業との兼用も兼ねてるので週末の土日のみの営業にしようと決めていた。初めての喫茶店の営業にレイニーは緊張していた。ちゃんとお客さんが来てくれるのか、料理を美味しいと言ってもらえるか、心配なことはたくさんあるが、ここまでやってきたのだから、大丈夫!と自分に言い聞かせてレイニーは開店準備を急いだ。
10時に開店するため、30分前の9時半には従業員として働いてくれるリトもやってきて、レイニー、ザルじい、リトの3人はお揃いの白いシャツに黒のエプロンをして喫茶店の店員の格好をして準備を整えた。
「いよいよ、この日がやってきました!私とザルじいの料理をみんなに食べてもらうため、沢山の料理を作ってみんなに喜んでもらいましょう!喫茶レイン、開店します!」
「おーっ!」
レイニーの声と共にリトが拳を突き上げて同調すると、ザルじいはニコニコと笑顔で頷いた。
レイニーがお店の入り口の扉を開けると、開店を待っていたピーゲルの街の人たちがゾロゾロと店内に入ってきてくれた。
「ここがレイニーちゃんとザルじいのお店ね!」
「ランラさん!来てくださってありがとうございます!ご注文は何にしますか?」
「そうね~…、このナポリタンっていうのとこーひー?っていうセットを頼むわ。」
「僕はグラタンと紅茶のセットを。」
「えっと!僕は、僕は~!ハンバーグっていう料理!」
「はい、かしこまりました。」
早速お店に訪れてくれたリトの家族から注文を受けたレイニーはキッチンに行って注文の品を作り始めた。
ホワイトソースのピザトーストを作った時に思いついた、グラタンと小さなお子さんでも食べやすく人気のあるハンバーグもメニューに追加したのは作戦成功かもしれないなとレイニーは思っていた。1番初めにナポリタンが完成したので、ホールを担当するリトに持って行ってもらうと、次にハンバーグをフライパンで焼き始めた。グラタンはザルじいがオーブンに入れたのを見ていたから、もう直ぐ出来ると思いハンバーグの作業も佳境に入ってきた。
それからというものの、お店にはひっきりなしにお客さんが入ってきて、レイニーはホールとキッチンを何度も往復してお客さんが落ち着いた頃の夕方にはへとへとだった。
「ふう~…、少しは落ち着ける時間になったかな…。まだスイーツの準備はしてないし、ティータイムの時間は少しお客さんも減ったかな…。」
「初めてにしては上々の滑り出しではないかの。まぁ、これから物珍しさに来ていたお客さんがどれだけリピートしてくれるかが勝負どころじゃがの。」
「そうだよね…。これからも来てもらえないと意味ないもんね…!」
キッチンでヘトヘトになっていたレイニーの元にザルじいがやってきてポンポンと頭を撫でてくれた。初めてのことで疲れているのはザルじいも同じなのに励ましてくれるのはザルじいの良いところだとレイニーは嬉しくなった。
こうして、喫茶レインの初日は幕を閉じたのだった。
――――――
翌日。喫茶店営業2日目もお客さんの入りは上々だった。見たこともない料理があると噂が噂を呼び、ピーゲルの街以外からもお客さんがやってきているようで、中には冒険者の装いのお客さんもいて、レイニーは嬉しくなった。
順調にお客さんを捌き切り、夕方の少し落ち着く時間になった頃、問題が起きた。
キッチンでお客さんの注文した料理を作っているレイニーの元に困惑した表情でリトがやってきた。
「レイニー、ちょっといいか?」
「ん?どうしたの、リト。」
「あのさ、それが…。今来店したお客さんがどこに馬車を停めればいいんだって言ってて…。」
「馬車?馬車で来た人がいるってことね…。私が対応するから、もう少し待ってて、このナポリタン仕上げたらお客様のところに行くわ。」
「ありがとう、助かる。」
レイニーはリトから馬車で来たお客さんの特徴を教えてもらい、急いでナポリタンを仕上げるとそれを持ってホールに出た。すると、レイニーが特徴を聞いていた馬車で来たというお客さんを見てレイニーは思い出した。
そのお客さんは以前ベーゲンブルグに行った際に見たお人形さんのようなドレスを着た女の子だったのだ。
「お待たせして申し訳ございません。店長のレイニーと申します。馬車で来たという件についてですが…。私たちのお店には馬車を停めるスペースはございません。他のお客様や街の通行人の邪魔になってしまうので、馬車でのご来店はお控えくださいますとありがたいです。」
「まぁ!馬車だとお邪魔になってしまうのですね…!す、すみません!今日は直ぐにお引きしますので!失礼しました…!」
レイニーが声をかけた馬車の主人である人形のような女の子はレイニーから申し訳なさそうに馬車のお断りを受けるとアワアワと焦った様子でよくある傲慢な貴族のような風格は見せずにそそくさとお店を去って行った。レイニーは思わぬ反応にぽかーんとするしかなく、馬車が去っていくウマの蹄の音で我に帰ったのだった。
「あんな貴族様もいるんだ…。」
そんな風に言葉を漏らしたレイニーは直ぐに他のお客様の注文を受けにホールを駆け回り初開店の喫茶レインはなかなかの滑り出しをしたのだった。
――――――
それから次の営業日の1週間後に向けてレイニーはルーティンを決めて行った。土日の営業なので月曜日ゆっくりと休むことにして火曜日から木曜日は冒険者業でお金とコーヒーの原料になるシャンゲルの実を集める作業に徹し、金曜日は新しいメニューの考案をするように決めた。
初開店から1週間後。週末営業の喫茶レインには今日もまた沢山のお客様が来店してくれていた。
あまりの忙しさにレイニーもザルじいもお昼ご飯が食べられない状況にある時、カランカランと来客を告げるベルが鳴ったのを聞いてレイニーがホールに飛び出すとそこには以前馬車で来た云々を言って店長のレイニーの登場で直ぐに引き返していったお人形さんのような女の子がやってきていた。今日はフリフリのドレスではなく、少し華やかなワンピースを着ていた。
「いらっしゃいませ。カウンターのお席が空いてますのでどうぞ。」
「ありがとうございます、失礼します。」
ワンピースのお人形さんの女の子はレイニーの案内でカウンターに座るとキョロキョロと辺りを見渡してレイニーからメニューを受け取ると初めて見る料理の名前ばかりで直ぐにホールの担当であるリトを捕まえたようだった。
「あ、あの、このナポリタンというのはどういう料理ですの?」
「ナポリタンはスパゲッティという小麦粉で作られたパスタにケチャップソースで味付けをした料理ですよ。隠し味でまろやかになっているので食べやすいかと。」
「では、そのナポリタンと…、コーヒー?というのをお願いしますわ。」
「かしこまりました。」
お人形さんのような少女はナポリタンを注文するとお店の内装を隅々まで見てワクワクとした表情で料理を待っていた。
一方キッチンではレイニーがリトからこの間の馬車で来たお人形さんやってきていたことを知り、ナポリタンを作るとレイニー自ら運んでいった。
「お待たせしました、ナポリタンでございます。」




