Level.17 悩みのナポリタン
Level.17 悩みのナポリタン
コーヒー豆を入手したことで、ザルじいは早速コーヒー豆を粉にすべくさまざまな調理器具をパントリーから取り出して準備を始めた。
「コーヒー豆が見つからなかったのに、よくここまで調理器具を作ったよね…。」
「それだけコーヒーが好きということじゃよ。」
ザルじいはレイニーと会話をしながらシャンゲルの実を焙煎し始めた。レイニーはその作業をずっと見続けていたが、飽きてきたのか喫茶店の看板メニューを考え始めた。
「ねぇ、ザルじい。喫茶店といえばの軽食ってなんだと思う?」
「そうさのう…。ナポリタン、ピザトースト、プリンアラモード…とかかの?」
「考えなきゃいけない料理が沢山だなぁ、頑張ろ!」
「ほっほっ、その調子じゃよ。」
焙煎を続けるザルじいにレイニーが喫茶店の看板メニューになりそうなものを問いかけると返ってきた言葉にレイニーは少し頭を抱えた。だが、それを乗り越えてこその喫茶店の看板メニューだ!と自分を鼓舞してレシピを考え始めた。
「まずはナポリタンからかな。パスタからレシピを考えないと…。」
「レイニー、ナポリタンを作るならこれを使いなさい。」
「ん?なにこれ…ってパスタ!?なんでザルじいがパスタ持ってるの?」
「だってわしがこの世界でパスタを作った第一人者だからのう。」
「えっ!そうだったの!?」
レイニーは衝撃の事実をザルじいから聞いたが、ザルじいは森の小屋で暮らしている間に様々な調理器具の他に麺類なども発明していたのだった。そんなザルじいの努力の結晶であるパスタを使ってレイニーはまずナポリタンの試作を始めた。
1回目に作ったナポリタンをコーヒー豆の焙煎途中のザルじいにも試食してもらい、感想を言い合った。
「うん、美味しいんだけど…。なんだか物足りない感じがするなぁ…。ザルじいはどう思う?」
「そうじゃのう。レイニーの言う通り何かコク深さに欠けるのう。」
「コク深さ…何を入れたらいいんだろう…?」
レイニーはザルじいからの助言をもとにさまざまな材料を加えてみてナポリタンの完成を急いだが、試食してみても納得のいく味が再現出来ず、レイニーは完全に行き詰まってしまった。
「(何が足りないんだろう…。後もう少しで完成なのに…)」
レイニーはその想いを抱く内に焦りが見えてきていた。レイニーは次第にご飯も食べずにナポリタンの試作ばかりをして、遊びにやってきたリトやコーヒーの焙煎が終わったザルじいにも気付かずに没頭していた。
レイニーがナポリタンの考案を始めて3日目。この日も自室に閉じこもってナポリタンのレシピを考えているレイニーにリトがやってきた。
「レイニー、最近根を詰めすぎだぞ。ご飯もろくに食べていないそうじゃないか。」
「ナポリタンの試作で味見しまくってるからお腹空かないの。」
リトが声を掛けてもレイニーは机の上の紙から視線を逸らさず、レシピのどの部分を改良すれば美味しいナポリタンが出来るのか、それがレイニーを悩ませた。頭を抱えるレイニーに、リトがついに行動を起こした。リトはレイニーの肩を掴んでぐいっと向きを変えるとリトの正面に向かせた。そして真っ直ぐレイニーの目を見ながらこう諭した。
「レイニー、俺やザルじいは君の体調を心配しているんだ。メニューの考案が難しいのは分かる。でも、周りの人に心配をかけすぎるのも良くない。それは分かるな?」
「リトとザルじいに心配掛けすぎた…?」
「そうだ。レイニーは何も1人でお店を切り盛りする訳じゃないだろ?ザルじいにだって相談して良いんだから。レイニーは1人じゃないんだよ。」
「リト…。」
今にも泣きそうな表情でレイニーの肩を持つリトにレイニーはハッとした。ここまで心配してくれたリトやザルじいの気持ちを無視して料理の考案をしても、喜んでもらえない気がした。そこでレイニーはナポリタンの考案をし始めてから久しぶりに部屋の外に出た。
2階のリビングに向かうとそこには心配そうな表情でレイニーを出迎えてくれたザルじいがいた。レイニーはそんな表情にさせてしまった罪悪感で落ち込んでしまった。
「2人とも心配してくれてたんだね…。私全然気付かずにナポリタンのレシピを完成させようとばかり考えてて…。」
「レイニーが分かってくれればいいんだよ。何も1人でお店を切り盛りするわけじゃないって気づいてくれたなら良かった。」
「リト、ザルじい、ありがとう。」
レイニーはそう言って少し涙ぐんでしまった。そんなレイニーにザルじいが近寄って肩に手を置くと椅子に座るよう促した。
「さ、レイニー、一緒にご飯を食べようかの。」
「うん…!」
リビングダイニングのテーブルに並べられた料理を前にしてレイニーは思わず"美味しそう…“と言う声が漏れた。
そんなレイニーにザルじいがいつのまにか作り上げたコーヒーを淹れてくれた。
「レイニーはコーヒーにミルクと砂糖は入れるかの?」
「うん…、たっぷりで。」
「あい、分かった。」
レイニーはぐすっと鼻を啜りながらザルじいがコーヒーを淹れてくれる動作を何気なく見ていた。そしてコーヒーにミルクが注がれ、コーヒーの焦茶とミルクの白が混ざり合っていく様子を見てレイニーはハッとした。
「そうだ!牛乳!」
「びっくりした…、どうしたんだレイニー。」
レイニーが突然声を上げたので隣に座っていたリトが肩をビクッと震わせて驚いた。
「ナポリタンに足りなかったもの!牛乳を入れれば良いんだと思う!早速作らなくちゃ!」
「まぁまぁ、レイニー、そう焦らんでもナポリタンは逃げないし、食事の後でも良いじゃろうて。」
「あっ…、そうだね…。焦っちゃった、ごめん。」
レイニーはザルじいに落ち着くよう言われると苦笑いをして頭を掻いた。
そしてザルじいからカフェオレが入ったカップを受け取ると手を合わせて合唱をした。
「いただきます。」
ザルじいが用意してくれたのは唐揚げだった。醤油味のカリカリサクサクの衣が美味しくてレイニーは次第に笑顔になった。
リトとザルじいの3人で食べた唐揚げの味をレイニーは長く覚えていることだろうとそう思った。
食後のコーヒータイムを楽しんでからレイニーはザルじいと共にナポリタンを作り始めた。ピーマンとベーコン玉ねぎを切り、ザルじいが作ったスパゲッティを茹で、フライパンで切った野菜たちを炒め始めるとザルじいがケチャップやウスターソースなどの調味料を用意してくれた。もちろん、レイニーが先ほど思いついた牛乳の用意を忘れなかった。
茹で上がったスパゲッティを炒めた野菜たちと合わせて調味料を合わせて満遍なくケチャップを纏わせると最後に牛乳と砂糖を少し加えて味見をした。
「うん!美味しい!」
そう言ってレイニーは出来上がったナポリタンをザルじいとリトにも食べてもらうべく、皿に盛り付けた。
「お待たせ。食べてみてくれる?」
「いくらでも食うよ!」
「レイニー特製のナポリタンの味はどうだろうかのう。」
ダイニングテーブルにナポリタンを運んで2人に食べてもらうとレイニーは2人の反応をドキドキしながら窺った。
ザルじいはフォークで上手にクルクルと巻きつけて食べていて、リトはそんなザルじいのやり方を真似してすこしぎこちないがフォークにナポリタンを絡ませて無理やり口に入れた。
そして…。
「うん!美味い!牛乳のおかげか柔らかい味だな!ケチャップの酸味が抑えられてる気がする!」
「確かにリトの言う通り酸味が抑えられて砂糖の甘さで子供もお年寄りも食べやすい味だと思うぞ。」
「ほんと!?美味しい!?良かった~…」
レイニーは2人の反応を見てへたりと座り込んだ。一生懸命考えて出来上がったナポリタンはレイニー渾身の一品になったのであった。




