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Level.16 開店準備!

Level.16 開店準備!

 キュリアを見送ってから数日後。

 レイニーたちの街には平穏が戻り、いつものピーゲルの森でワイルドボアやジャイアントグリズリーを狩ったり、薬草を摘むクエストをこなす毎日が訪れた。

 今日も薬草を摘むクエストとワイルドボアを一定数狩るクエストを同時進行していると、リトが"はぁ…"とため息を吐いた。

「そんな大きなため息吐いてどうしたの、リト。」

「それがさぁ…、聞いてくれよ、レイニー。」

 そこまで大きなため息を吐かれると気になって仕方がないので、レイニーが問いかけると待ってましたと言わんばかりにリトが食いついて来た。

 そんなリトのテンションにレイニーが少したじろいていると、リトはお構いなしに話を進めた。

「最近母さんがレイニーたちが作ってくれた料理の真似をするようになったんだけど、どうしてもあの複雑な味を再現出来なくて困ってるらしいんだ。またあの味を食べてみたいって言うのが本音らしいけど。」

「ランラさん、料理得意そうだけど…。そういえばザルじいがこの世界の食文化はさほど発展してないって言ってたな…。」

「それだよ、それ!レイニーが作ってくれた、生姜焼き?だっけ…、それが食べたいって弟のルークも言っててさ!俺もまた食べたいな~って思ってたところなんだよ!食文化の発展に繋がるんだ!レイニーの作る料理にはそんな力があるんだよ!」

「そう…なのかな。私のいた世界では当たり前のことだったから、実感が湧かないよ…。」

 レイニーはリトからグイグイと迫られて苦笑いをするしかなかった。だが、自分の料理でこの世界の食文化が発展するかもしれないと聞くと貢献してみたいなという気持ちにもなる。そこでレイニーはクエストを終えた後、リトと共に帰宅するとザルじいに相談してみることにした。

「ってなわけで、私にもこの世界の食文化を変えられるかもしれないと思ったんだけど…、それでザルじいにも手を貸してもらいたいの。」

「ほう。食文化の発展か…。わしもこの世界に来て20数年は経っておるが、1人の力じゃどうにも変えられんと決めつけておってのう。なにも行動に移せなかったんじゃよ。」

「そうだったんだ…。でも、今は私もいるし、リトも手伝ってくれるって言ってるから!」

 レイニーはザルじいのそんな気持ちを初めて知ると尚更この世界のために何か出来るならやってみるべき!とザルじいを励ました。

「でも、食文化の発展ってどうすればいいのかな?」

「それならさ!この家を店にするのはどうかな!?」

「え?お店?」

 レイニーが食文化の発展とはまず何からしたらいいのか分からずに首を捻っているとリトが閃いたように発言した。

「そうじゃのう。この家のキッチンは広いし前に住んでおった人がお店をやっていたと聞くし、少し手を加えてもらえば食事を提供できる飲食店になろうよ。」

「私たちが飲食店を…。それ!それいいね!皆に私たちの世界の料理を食べてもらって食文化の発展にも繋がる…!リト、ナイスアイディア!」

 リトの言葉にザルじいもレイニーも賛成し、お店を開こうと言う話になった。そこからはトントン拍子で話は進み、まずはこの街の建築関係を担っている工務店に依頼して工務店の人と外観や内装などの細かなデザインの話をした。

 工事費用は先日、オークやオーガを狩ったことで得たクエストの報酬金がたんまりあるので心配はいらなかった。工務店の人との相談も終わり、レイニーたちの家は2ヶ月ほど手を加えられて作業が終了し、新たな家の外観へと姿を変えた。

 赤いレンガが目を引き街の外観ともマッチする西洋風の家に変わったレイニーとザルじいの店舗兼住宅。外観と内装が終わったら次はお店のコンセプトや店名など考えることだった。

「お店のコンセプトだけど…。ザルじい、何か飲食店でやってみたいこととか出したい料理とかある?」

「うーん、そうじゃのう。わしは前にいた世界で喫茶店が特に大好きでのう。コーヒーにこだわった店や軽食を出してくれる店にはよく入り浸ったものじゃよ。」

「喫茶店…!いいね!私も喫茶店好き!あのレトロな雰囲気がたまらないんだよねぇ…!」

 レイニーとザルじいの意見が一致したことで、お店は喫茶店にして、次は店名だった。

 新しく出来た2階のリビングでレイニーは店名のアイディアを紙に書いていっては消してを繰り返していた。

 そんなレイニーを尻目に早速新しくなったレイニーたちの家に遊びに来ていたリトがザルじいにヒソヒソ声で問いかけた。

「レイニーはなにをそんなに唸ってるんだ?」

「この店の店名を決めるのに悩んでおるようじゃよ。」

「店名かぁ…、レイニーの店なんだし、レイニーの名前に近いのが良いと思うぞ、俺は。」

「そうじゃの。ここはレイニーの名付け親のわしが考えよう。そうじゃのう…、"喫茶レイン"というのはどうじゃ?」

「ザルじいいいね!"喫茶レイン"!レイニーの名前を借りてるしなんかオシャレな感じがする!」

 ザルじいとリトが盛り上がって話をしていると、その話を聞いていたレイニーがバン!と机を叩いて立ち上がった。リトは少々うるさくしすぎたかと冷や汗を流してズンズンと近づいてくるレイニーにたじろいてしまった。

「リト…。」

「ご、ごめん、レイニー!勝手に君の名前を使って考えて…!」

「そうじゃないの。その店名…、」

「だから、ごめんて…!」

「めちゃくちゃいいじゃない!」

「へ???」

 リトはレイニーから返ってきた言葉にきょとんとしていると、レイニーはリトの手を握ってブンブンと上下に振った。リトはレイニーの言葉を理解するのに数秒かかった。そして自分とザルじいが冗談半分で言った店名がレイニーにはお気に召したようで、嬉しそうにはにかんだ。

「私の名前をもじったのが店名になるのは少し恥ずかしいけど、皆んなには覚えてもらいやすいだろうし!それにしよう!ね、ザルじい!」

「ほっほっ、わしのアイディアが採用されたようで嬉しいわい。」

 リトはレイニーがこんなに喜んでくれるとは思っておらず、最初はキョトンとしていたが、次第にレイニーの嬉しさが伝播したのかリトも微笑んだ。

 こうして店名は決まり、喫茶店の雰囲気を醸し出すための家具なども職人さんに発注し、着々と"喫茶レイン"の開店計画は進行していった。

 ――――――

 だが次なる問題がレイニーたちを悩ませた。それは喫茶店の代名詞とも言えるコーヒーの仕入れだった。

「わしがこの世界に来て20数年は経っておるが、未だにコーヒー豆に出会えておらんのよ…。喫茶店をやるならコーヒーがないことにはのう…。」

「ザルじいはピーゲルの八百屋さんとか果物屋さんを使ってコーヒー豆を調べてみて!私は別の角度から考えてみる!」

「別の角度?」

「ふふっ、ちょっと考えていることがあって!」

 そう言ってレイニーは喫茶店の開店準備の合間にピーゲルの森とは反対方向に広がる草原エリアに来ていた。今日のクエストは植物型の魔物のシャンゲルという魔物を一定数討伐するのがクエスト内容だった。

 シャンゲルの見た目は魔物大図鑑を見て覚えていたのだが、その時シャンゲルの頭の上にできている実がコーヒー豆に似ているなと魔物大図鑑を見た時に思っていたのだった。そこでレイニーはシャンゲルのクエストを受注し、シャンゲルを見つけては倒す前にその頭の上の実を拝借してみたのだった。

「やっぱり!焙煎前だけど、コーヒー豆にそっくり!これならザルじいも喜んでくれるに違いない!」

 そしてレイニーはクエスト内容の一定数のシャンゲルを狩って魔石を収集すると、冒険者ギルドに戻り報酬金とドロップ品を受け取ると嬉々として自宅に帰った。

「ザルじい、朗報だよ!」

「おかえり、レイニー。どうしたんじゃ、そんなに嬉しそうにして…」

「コーヒー豆が見つかったんだよ!見てよ、これ!」

 帰宅したレイニーをザルじいが笑顔で出迎えてくれるとレイニーは早速シャンゲルからちょっと拝借した実をザルじいに見せた。するとザルじいは目をカッと開いて興奮した様子を見せた。

「こ、これは!焙煎前じゃがコーヒー豆じゃないか!レイニー、よく見つけたのう!」

「えへへ、シャンゲルっていう魔物の頭に生えてた実なんだけどね、魔物大図鑑っていう本を見てた時にコーヒー豆に似てるなぁ~って前に思ってたことを思い出して!んで、さっきシャンゲル討伐のクエストをこなしてきてちょっと実を取ってきたの。」

「魔物に付いてた実かぁ…、それは盲点じゃったな。魔物の実なんて皆コーヒーを飲んでくれるかのう?」

「まぁ、まずはコーヒー豆を焙煎したり挽いてみたりして様子を見てみようよ!」

「そうじゃの。わしの考えた調理器具がその力を発揮する時が来たようじゃの!」

 そう言って腕まくりをするザルじいが本当に嬉しそうでレイニーも嬉しくなってザルじいの手伝いを買って出たのだった。

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