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第9話 作戦実行?

「えいっ」

バフっと、勢いよく俺は大きなソファに飛び乗り、ぐるりと半回転。だら〜んと片肘を付いて寝そべった。

スカートと袖口の裾がやや捲れて、この身体の持ち主であるアメリアの細くて白い手足が微かに露わになった。

どうだ。これぞ、絶対に淑女はやらないであろうお転婆ソファダイブだ。

ついでに履いていた靴も、ポイっと床に脱ぎ捨ててやった。



この世界で意識が覚醒してから数日。

屋敷での生活をするにあたり、アメリアにはマナー講師がついていた。

貴族には全ての所作を美しく見せるためのマナーがあり、立ち方や話の仕方、食事においても厳しく躾けを受けるのだそうだ。

アメリアは、そんな貴族の所作を9歳にして完璧にマスターしていた。

そして、それは身体が覚えているため先ほどの挨拶では完璧な淑女的挨拶、カーテシーを決め込んだのだが・・・。


それとは打って変わって、およそ淑女とはいえない振る舞いをしてやった。

先ほどの挨拶からのダイブだ。インパクトはさぞ大きいことだろう。


どうだ。こんな姿を初対面で見せられたら絶対に引くだろ。

そう期待を込めて、チラリと片目でセドリック王子の顔を盗み見る。


すると、狙い通りなのか王子は、まんまると目玉を見開き驚いた表情を浮かべている。


お、いい反応だぞ。

その反応を見て、すかさず茶菓子として出されていたクッキーに手を運び、バクバクと食べ始めてみせた。家庭教師からは女性らしく小さな口を開けて口元が汚れないように食べなさい、と厳しく作法を教え込まれたが、それとは正反対に大きな口を開け、口の周りに食べかすをつけながら食べてみせた。

「クッキーうまーい」

そう言いながら、またチラリと様子を伺う。


まだ立ったままのセドリック王子は、天使のように綺麗なその顔を強張らせ、困惑した表情を浮かべ、徐々に顔が高揚しはじめた。

王子の数は後ろに下がった位置に立っていた従者も、何が起こったのかというような目でこちらを凝視していた。


あ、ちょっと恥ずかしい。

中身は大の大人である自分が、こんないたいけな少年たちの前で・・・。ダメだ。自分を客観視すると居た堪れなくなりそうなので、視線を専属メイドに向ける。

サーシャは一歩こちらに歩み寄り、さりげなくスカートの捲れを直してから、また一歩下がった。

前世の妹である彼女は、俺の後ろで控える姿勢に戻るさなか、さりげなく親指を立てていた。

よく見ると口元もやや通常より大きめに弧を描いている。

うん。良い感じらしい。



身内の反応を確認して満足した俺は、王子の様子を見るべく、再度クッキーに手を伸ばしながら向き直った。



片方の手の平の上に反対側の肘を立て考える人の上半身ポーズを取っている。閉じた片手を口の前にあてがい、沈黙して俺の行動を見つめている。

よし、思った通りの反応だ。いいぞいいぞ、驚いて引いてくれ!こんなマナーの無い令嬢なんてありえないと怒って部屋から出ていくがいい!

セドリック王子が、こちらの予想通りの反応をしている事に好感触を得た俺がそう思っていると、


「ぷ、あはははっ」

突然、王子が笑い出した。



ビクッと俺は肩を跳ねさせて王子の方を見る。

「あぁ、ごめん。こんなに自由に振る舞う令嬢は初めてで少し驚いてしまったよ」

なんと王子は怒るどころか、目に涙を浮かべながら笑っていた。

そして、静かに反対側のソファへ腰を下ろすと、俺が食べていたクッキーを頬張った。

「本当だ、とても美味しいクッキーだね」


あ、あれ?

思っていた反応と全く違うんですが??

怒るどころか笑ってるんですが・・・。

ボーゼンと王子を見ていると


「形式ばった顔合わせだと思っていたけど、そうやって自然体でいてくれるとこちらも気を使わなくて済むからありがたいよ」

そう言ってまた笑う。


ええええー!!

めっちゃ良い子!この王子、良い子なんですけど・・・!!!

予想外の反応に今度はこちらが驚く。


そして、こんな子相手に、20近く歳が離れたおっさんが何やってるんだ・・・。

何だか自分が恥ずかしくなってきた。

いや、外見は9歳の幼女だけど。


正直、28年間彼女なしで元社畜の俺にはこんな事しか思いつかなかった。いや、深夜のテンションで考えた作戦だから悪かったのか・・・?何となく反省。


いたたまれず、スッとソファに座り直すと出されていた紅茶を一口飲んだ。

そんな様子の俺を見てセドリックがクスリと笑い口を開く。

「そのまま楽にしていていいよ、君の家なんだし」

そう言って王子も紅茶に手を伸ばす。

「は、はい。ありがございます」


居た堪れない。あっさり作戦は失敗に終わり、昨日の自分と妹を恨む。

きっとこの王子様は王族なだけあって、こんなイレギュラーが起きたとしても動じない教育を受けていたのだろう。広い懐と寛大な慈悲を見せるまだ子どもの王子に対して、申し訳ない気持ちになった。



「僕たち同い年だったよね?敬語は使わなくても良いよ」

う、王子スマイルが眩しい。

そして同い年か。9歳・・・。9歳の幼気な子どもになんて姿を見せたんだ。自分も外見は同い年だが・・・。

「アメリア嬢・・・アメリアって呼んでも良いかな?僕のことはセドリックと呼んでくれ」

目の前に手を差し伸べられる。握手を求められているのだ。

「は、はい・・・じゃなくて、うん。わかった」

差し出された手を握り返す。

既に俺の、婚約者として諦めさせようという気持ちが折れ始めていた。


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