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第7話 父と母

翌朝、婚約者候補のセドリックが屋敷へ訪れることもあり、みんなバタバタと忙しそうだった。前世の妹であり、この世界では専属メイドのサーシャが選んでくれたドレスを身にまとい、朝食を食べる。

前世では着なれないドレスは、少し動きづらいようにも思われたが、流石公爵家で一流の教育

をされてきただけのことはあり、案外身体は動き慣れていた。

もしかしたらまだ9歳なので、子供用に動きやすいものかもとは思ったが、胸元からスカートの裾まで大胆にあしらわれたレースとフリルを見たら、そんな事はなく流石に豪華だなと思う。


来訪前の最後の身だしなみ確認という事で、ドレスルームにある大きな鏡の前に立たされた自分を見つめていた。

群青色に輝く艶やかなロングヘアに合わせた、美しい水色のドレスから見える、白いフリルが9歳であるこの体の主の年齢を思い出させた。


相手は王族だが、初めての挨拶をする際にこの国では、女性側を家に招くのではなく、男性側が出向くことがマナーらしい。


「いいですか? アメリー。これからお越しになるセドリック殿下はこの国で一番偉い国王陛下の第三男であらせられるお方です。くれぐれも失礼のないようにするのですよ」

コツコツと足音を立て、鏡の中に現れた柔らかいブロンドの髪をした美しい女性が、優しい口調でそう言っている。

彼女はアメリアの母であるローレンス夫人だ。

俺の両肩にそっと手を添えながら、鏡越しに美しく微笑まれる。


「ははは、可愛い娘が緊張してしまうぞ。アメリー、今日は王子と仲良くなってくれればいいんだ」

そう言って現れた、アメリアと同じ艶やかな群青色の髪に同じく群青色の瞳をしたダンディなナイスガイは俺の今世の父であるローレンス公爵だ。

切れ長の涼しげな瞳を見ると、ああ、アメリアは父親に似ているのだなと思う。

「家庭教師のザカリー夫人からも、アメリーのマナーは完璧だとお墨付きを頂いたぞ。この年で全てのマナーを習得するとは、流石私の娘だ」


ははは、と涼しい目元を細めて俺の頭を優しく撫でる公爵。

転生してから食事の際など、頻繁に顔を合わせていたアメリアの両親。

いつもアメリアを甘やかせている夫妻ではあるが、こういった対応をみると本当にアメリアを大事にしていることが分かる。


俺はそっと、もう一度母であるローレンス夫人に目線を移動させる。

く・・・美しい。マジ美人・・・。娘のアメリアと違って、その瞳は穏やかで優しい。

流石乙女ゲームの世界というべきなのか。悪役令嬢であるアメリアも美少女なら、その遺伝子の元である両親も美形なのだ。


アメリアと似ているのは、その髪がウェーブがかっている点だろうか。

ターコイズブルーに輝くガラスのような瞳に見つめられ、心臓がドクリと脈立ち徐々に顔に熱を帯びていくのが自分で感じられた。

28年間彼女無しの俺が、こんな美女と至近距離はマズイ。


「コホン」


ドキドキしていると、そのやり取りを見ていた前世の妹であり、今世では専属メイドであるサーシャが咳ばらいをした。


その咳払いに、ローレンス夫人ことお母様は不思議そうな目線を送る。

「失礼いたしました。喉の調子がおかしいようで」

サーシャはそうはぐらかすと、俺を見つめてくる。その目は「しっかりしなさいよね、おにーちゃん」と言っているように感じられた。

うん、多分そう思ってることだろう。俺は彼女に苦笑いを返すと、鏡に向き直った。


今日は俺こと、公爵令嬢のアメリア・ローレンスの婚約者となる、この国の第三王子と対面する日だ。

元男で、この世界に来て乙女ゲームの悪役令嬢とやらに転生していた俺が、この先の人生を分ける岐路が今日である。

俺は自らを落ち着けるために一つ大きく深呼吸をして、気合を入れた。



来訪は昼過ぎだった。

大きな屋敷の正面入口に、使用人たちが立ち並び来客を待つ。

あれだけ慌ただしかった屋敷内は、全ての準備を整え終わり、厳かな静寂を感じた。


静まり返った空気の中、次第にパカパカと数頭の馬の走る蹄の音が聞こえ、屋敷の外に豪華な馬車が止まった。

ドキドキと鳴る心臓を片手に、隠れるようにして、窓の外からその光景を眺める。


あぁ、あれがこの国の第三王子セドリックか。

それはキラキラと揺れる金色の髪、遠目から顔はよく見えないが、豪華な装飾があしらわれ、10歳そこそこの子供が着るには贅沢すぎる服装。まさに王子と呼ぶにふさわしい風貌だった。


さすが乙女ゲームの世界だ。

俺は自分の後ろに立って控えるサーシャに目を向けた。お互いの視線が合うと、同時に深く頷いた。



「ようこそお越しくださいました」


使用人が左右に立ち並ぶ通路の中央を通り、そう声を発したのは父親であるローレンス公爵だ。その後ろには母であるローレンス夫人も控えている。


満面の笑顔で迎え立つ夫妻は、優雅な動作で公爵邸の中へ王子を案内していた。


「・・・いよいよだね、おにーちゃん」

後ろにいたはずのサーシャは、いつの間にか俺の隣に並び立って外を見つめていた。


「うわぁ・・・あのキラキラ王子の幼少期。可愛すぎる・・・」

ぼそりと隣から聞こえてきた声に、一瞬遠い目をしそうになったが、

パチン、と両手で頬を叩く音が聞こえると、

「ダメダメ、集中しないと・・・!」

と小さく呟くサーシャに、ほっと胸をなでおろす。


ビックリした。いきなりヲタ活が始まったのかと思った。


読んでいただきありがとうございます。

今日でGW最終日。

今後はゆっくりペースで更新していきます。

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