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第3話 メイド

「ひ、広いな・・・・」

改めて見ると、そこはやたらと広い部屋だった。

俺の住んでたアパートの部屋の軽く3〜4倍はありそうだな・・・・。


もしかしてこれはこの身体の女の子一人のための部屋なのか?

部屋の内部は俺が先ほどまで寝ていたベッドと大きな鏡、中央にはお洒落な形状の机といかにも高級そうなソファなどがあった。

可愛い女の子が似合うような、白と水色を基調とした配色でまとめられた室内は子ども向けとはいえセンスを感じる。


恐る恐る、先ほど見た自分の姿を確かめるため巨大な鏡の前に戻る。

鏡にはやはり先ほどの女の子が映っていた。

鏡に片手をついて、もう一方の手で自分のほっぺを抓ってみる。

「いたた・・・」

痛い。鏡の中の女の子も同じようにほっぺを抓り痛がっていた。

鏡の中の少しヒリヒリする頬を見ると、ほんの少し赤くなっている。

「やっぱりこれ、俺っぽいな・・・」


鏡から一歩下がって、全身を見てみる。

群青色に艶めくウェーブがかった長い髪。その髪と同じ色をした大きな瞳は少し釣り上がり気味で意志の強そうな目をしている。肌は透き通るように白く滑らかだ。

「よく見ると、なんかすごい美少女だな・・・」

ゴクリ、と唾を飲み込む。これ、俺なのか?何でこんな姿に・・・・?

ここにくる前って何してたんだっけ・・・・?


そう考え、目を閉じるとあの火事での炎と煙がフラッシュバックした。

「ヒッ・・・・!」

両手で自分の身体を抱きしめるように蹲った。そうだ。忘れもしない。

熱くて、苦しくて、地獄のようなあの炎。俺、死んだんだよな・・・?

身体の奥底から震えだし、歯がカチカチと音を立てている。

なんで。どうしてあんな事に。

怖い、こわい、コワイ・・・・!!肌が焼ける感覚を思い出し、必死に自分の腕をさする。

だ、大丈夫だ。痛くない、焼けてない。白くて綺麗な腕だ。

しばらくそのまま固まっていたが、まだ小さいその身体を見つめ、少しだけ平常心を取り戻した俺は今置かれている状況について考えた。


おそらく、いや間違いなく俺、神谷渉はあの時火災に巻き込まれあのアパートで死んだはずだ。

しかし今、こうして生きている。しかも見知らぬ女の子として。

正直なぜこのような事態になったのか全く検討も付かない。生まれ変わったのか?

そんな事があり得るのか?ゲームや漫画の世界ならともかく、これは間違いなく自分の身に起きている現実リアルだ。


もう少し状況が分かる情報が欲しい。

そう思った俺は先ほど閉めた部屋の鍵を開け、外に飛び出した・・・・が。

「ぶわっ」

何かにぶつかりそのまま尻餅を付く。

見上げると、先ほど部屋を追い出したメイド姿の少女が立っていた。

「お、お嬢様?!」

突然部屋から出てきた俺に驚くメイド。


なんかさっきもうっすら思ったけど、顔の作りが日本人じゃないよな・・・。後ろでお団子にはしているけれど、前髪や後れ毛から分かる栗色の柔らかそうな癖っ毛に明るい茶色の瞳。

顔の中心部に散りばめられたそばかすがあどけなさを感じる。ジーっと少女の顔を見つめていると、焦った表情の少女が

「申し訳ございません。大丈夫ですか、お嬢様?」

と、片膝をつき俺のことを抱き上げた。おい、またか。さっきから軽々俺のことを持ち上げるんだけど。ヤメテクンナイ?

人生で二回目の少女に抱きかかえられ移動するという経験に、今度はジタバタせずおとなしく運ばれることにした。内心は嫌だけど。



メイド姿の少女はそのまま俺がもといた部屋の中へ連れて行き、ゆっくりとソファに降ろした。

俺の身体を一通り見て確かめると

「何処か痛むところはございませんか?」

と顔を覗き込んでくる。

「いや、大丈夫です・・・」

背筋を伸ばして反射的にそう答えた俺に

「良かった。お怪我はなさそうですね」

と微笑んだ。

少女に目を向ける。14〜5歳といったところか。俺の中学時代に比べて、随分と礼儀正しく、しっかりした子だな。


先ほどは無理やり部屋を追い出してしまったが、それに対して怒る様子もなく俺を心配してくれていたし、問題ない事が分かると安心したように微笑んでくれた。


その姿を見てふと思った。この子なら、この世界のことを教えてくれるかも知れない。


そう思った俺は、オブラートに包むことなく今までのことを全て話した。

自分は本当はこんな小さな身体の少女ではなく、成人男性であること。木造アパートが火事になり、自分は死んでしまったはずだという事。

気が付いたらここにいて、見知らぬ姿に変わっていたということ・・・・。

更にここは何処なのか、自分は誰なのかを聞いた。

普通ならこの身体の持ち主をお嬢様と呼び、知っている相手に対してそんなことを言うのはかなり怪しまれる状況になるのだが、そんなことまで機転を回して上手いこと伝えられるほど俺の頭は冷静にはなっていなかった。


少女は興味深そうに俺の話を最後まで聞いてくれた。

そして何か考える素振りをしてからと頷くと、俺の両手を取る。

「まさかと思うのですが・・・」

やや神妙な面持ちになり、声を落とすとこう言った。

「もしかして、その以前の名とは・・・・神谷渉ではありませんか?」


えーーっ!なんで知ってんの??

あまりの予想外な言葉に、俺は本日何度目かの驚愕。まんまると目を見開いた。


読んでいただきありがとうございます。GW中は少しづつ更新しようと思います。

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