第2話 だれ?
ーーーー卑しい庶民の出で、よくもーーー様を!!
ぼんやりとした意識の中、長い髪の後ろ姿の女性が、大きな声を上げて怒鳴っているのが見えた。
ーーのに!ーーーー私のことをーーーてくれないのは全てーーーのせいよ!!
ーーーろしてやる!!ーーー絶対に、ーーーしてやるーーー!!!
膜がかかったような音声で、所どころよく聞こえない。
一体この女性は何に対してこんなにも怒っているのだろうか。
ふと首を回して周囲を見ると、ピンク色の髪をした女の子が怯えるような姿勢で立っていた。
その顔はどこか曖昧でハッキリと見えない。
ただ、最近の若い子はピンク色なんて派手な色にするんだなぁ、とどこか歳より臭い事を思っていた。
ーーー凍れ、何もかもーーー!!あの女の事をーーーーせーーー!!
髪の長い女性がそう叫び、片手をあげたかと思うと、青白い光がその手に降り注いだ。
な、なんだ?!魔法?!
そう驚いていると、
ーーーーやめるんだ!!
今度は男性の声が聞こえる。
振り返ると、後ろに金髪の青年が片手に剣を持って立っていた。
男性は俺のことなど見えていないかのように、長髪の女性を睨みつけている。
男性の声に、掲げていた手をビクリと震わせた女性が動作を止め、ゆっくりと振り返る。
その顔は、すごく整った美しさだったが、とても悲しそうな表情をしていたーーーー。
チュンチュン、と何だか可愛らしい鳥の声が聞こえる。
シャァ、というカーテンを開ける音が聞こえ、柔らかい陽射しで瞼の外側が眩しくなる。一瞬、キツく目を閉じ顔を背ける。その光から逃れた後、うっすらと目を開き寝起きのぼんやりとした視界でその光の方へ向きやった。
何だか夢を見た気がするが、一体何の夢を見ていたのだろう?
どこか焦燥感があるような、もやもやとした気持ちが残っているが、よく思い出せない。
フッとその光が遮られたかと思うと、目の前に見知らぬメイド姿の少女が立っていた。
「おはようございます、お嬢様」
そう言って少女は恭しく深いお辞儀をしてきた。
・・・・え、誰?っていうかここ何処?・・・オジョウサマって何だ??
唐突のことに頭が付いていかない。俺に頭を下げるそのメイド姿の少女の頭の後ろで束ねられたお団子を呆然と眺めた。
そのメイド姿の少女は秋葉原とかでカフェの呼び込みをしているようなそれとは違い、品の良さそうなお淑やかな佇まいだ。スカートも短くない。パネルとかも持ってないし。
・・・・いや、っていうか何でメイド?俺なんか変な夢でも見てるのか??
様々な疑問が巡り、何も返事をしない俺に対して不快そうな顔一つ見せる事無く、その少女は「失礼します」というと俺を抱きかかえた。って、え??
突然の事に硬直する。
待って待って、いきなりそんな知らない女の子に抱き抱えられるとか、ちょっと犯罪じゃね!俺セクハラになっちゃうよ?!
28年間生きてきて、彼女一人いたことが無く、ましてやこんな年下の女の子に免疫などない俺は焦りだしワタワタしながら両手をバタバタさせたが・・・・。
ふと気がついた。
いや、なんか俺小さくない?
何でこの女の子俺のこと抱き上げられるんだ?どう見ても年下でそんなに力があるようにも見えないし、華奢な感じなのに俺より身長が高い。
それに先ほどからバタバタと動かしている自分の手を見ると、まるで子供のように小さかった。しかもなんかすごく白い。これ、絶対俺の手じゃないじゃん・・・・。
ドユコト・・・・。
底知れぬ恐怖と不安が湧き出し、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
俺を抱きかかえた少女は全身が映るほど大きな鏡の前に俺を降ろした。
その鏡に映った姿を見た俺は更なるパニックに陥った。
いや、ほんとに誰ーーー・・・!!
否応なしに視界に入るその姿は、見知ったそれとは似ても似つかない。いやもはや全くの別人。
だって、だって・・・これって・・・女の子じゃん・・・・。
鏡に映る(おそらく)俺は、10歳ほどの子供だった。しかもどう見ても女の子。
「どうしてこうなった・・・」
色々と突っ込みたい事だらけだが、俺の口から何とか出てきた言葉はその一言だった。
「如何致しましたか?お嬢様?」
メイドの少女が心配そうに顔を覗き込む。
聞くまでもなく、この少女が口にする「オジョウサマ」とは俺のことのようだ。
「いや、あの、えっと・・・」
俺の口から出る声も、いつものそれじゃない。なんか幼くて可愛い感じの声が出てくる。
・・・って、そうじゃなくて!
もごもごと何を言ったらいいか整理が付かない俺に「お召し物をお取り替えしますね」と、微笑み、服を脱がそうとする少女。
え、待って?何してんの?オメシモノヲオトリカエ?って、え着替え?着替えなの??
「わーーーー!!まった待った!!、いや大丈夫、一人で出来るから!やめてホント!」
焦りながら叫び、バタバタと再度手を振り回す俺に驚き、目を見開くメイド少女。
これはまずい。何だかわからんが、非常にまずい。
とにかく一度一人になりたいと思った俺は、勢いに任せてそのメイドを近くにあった扉まで追いやり「待ってください!お嬢様?!」と慌てる声を無視して部屋の外に閉め出した。
なんか鍵も付いてる。閉めとこう。
ガチャリと音を立て鍵が閉まったことに焦ったのか、外のメイド少女は何やら慌てた声を出したり扉を叩いたりしている。
何だか申し訳ない気持ちになりながらも、色々と混乱した頭で状況整理をするために周囲を見渡した。
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