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第15話 初めての魔法


食事後、自室に戻る途中でふと思った。

「ところで魔法ってどうやって使うんだ…?」

「アメリーは魔法の使い方が知りたいのかい?」

心の声が口から出ていたらしく、近くを歩いていた次兄のセシルがひょこりと顔の前に現れた。


「へ?」

うわ、言葉遣いを取り繕っていなかった!


「は、はい!もうすぐ10歳ですけれど、わたくし、自分がどのような魔法が使えるのか知りたいですわ」

俺はやや焦りながらも、サーシャとセドリック以外に使っている、この世界の住人向けのアメリアとしての言葉遣いで返事をする。

最初のうちは『わたくし』がなかなか言えなかったが、練習の甲斐もあって自然な口調になっていたのではないだろうか。ややドキドキと音を立てる心臓に気づかれないよう、なるべく自然な笑顔になるよう努めた。


「僕も今、氷魔法の練習をしているところだから、もし僕でよければ教えてあげようか?アメリーの髪色は僕と同じだし、ローレンス家の血筋なら氷魔法は確実に使えるはずだしね」


「えっ?!」

10歳になる前でも魔法って仕えるんだ??

そう思っているのが顔に出ていたのか、セシルお兄様は補足する。


「10歳になる前でも、魔力を感じ取ることさえできる状況なら魔法は仕えるよ。一般的に魔力が安定するのが10歳を超えた頃とされているから、(みな)魔法を習うのは10歳を過ぎてからだけどね」

なるほど。疑問に思っていたことを全て教えてくれたぞ。

突然の願ってもない申し出。

「是非お願いいたしますわ!」

思わずそう答えた。


せっかくのファンタジー世界だし、魔法が使えるなら是非とも使ってみたいわけである。


「そうしたら明日の昼過ぎに、訓練場においで」

訓練場とは、ローレンス家の敷地内にある剣術や魔術を稽古する場所だ。ローレンス家お抱えの騎士などもここで訓練をしている。


「わかりましたわ!セシルお兄様、明日はよろしくお願いいたします!」



ーー



自室に戻り、魔法を教えてもらえることにわくわくしながらもそろそろ寝ようとする途中で思い出した。



「そういえば、セドリックも油絵をしていて、この前の絵の具が全然乾かないって話をしていたんだけど」

「うん?」

俺の寝る準備を整えてくれていたサーシャが返事をする。


そう、今日セドリック王子の秘密の部屋で絵を見せてもらった際に、慣れない油絵のこの事について聞いてみた。


『まぁ、油絵ってそういうものだから気長に待つのが良いと思うけど、確かに完全に乾くまでにはかなり時間が掛るよね。絵の具に混ぜると乾きが早くなる物とかあるから、僕が使ってるやつを教えるよ!』

そう答えてメモにスラスラとその乾燥促進剤の商品名を書いて渡してくれていたのだ。

「これを1瓶仕入れてほしいんだよね」

そう言ってサーシャにメモを渡す。


「ふう~ん、分かった!」

あまり興味がないようにも見えるが、快くお願いを聞いてくれたようだ。


「ところでさ、せっかくだからおにーちゃんも一緒に街に買いにいかない?」

「え!良いのかな?」

思ってもみない提案だった。


「ちゃんと許可を取れば護衛騎士がつくと思うし、大丈夫じゃないかな?」


なるほど。俺はてっきり公爵家の令嬢でまだ10歳にも満たないから敷地内から出ないものなのかと思っていたが、街か。行ってみたいな。


「そしたら、明日はセシルお兄様と予定があるから、明後日に行こうかな?」

そう言うと、

「了解。許可取っておくね!」


と、快い返事をしてくる。

さすが優秀な俺の妹。

なんだか頼りになるぞ。



そんなやりとりをして、その日は眠りについたのだった。



ーー



翌日、セシルお兄様との約束の時間。

俺はサーシャを引き連れて訓練場に来ていた。



そこでは、ローレンス家に仕える騎士たちが剣術の練習をしており、金属同士がぶつかる甲高い音が響いていた。

「すごー!迫力ある~!」

前世の世界では、映画やドラマでしか見ていない光景が目の前に広がっており、ついつい興奮してしまう。

「おにーちゃん、言葉遣い気をつけてよ?あと、公爵令嬢は騎士の稽古姿を、そんな拳を握って凝視しないものだからね!」

隣を歩く前世の妹、サーシャからジトリとこちらを睨み、小声で注意されてしまう。

「うぅ・・・、公爵令嬢、世知辛い・・・」

そんなやり取りをしていると、後方から声がかかった。


「アメリー!こっち!」

振り向くと数メートル離れたところで、次兄のセシルがこちらに手を振っていた。

訓練用の着衣なのか、襟に装飾のついた白のシャツと、黒いズボンとブーツ姿。

動きやすそうな格好である。

サラサラとしたアメリアとお揃いの群青色の髪が風になびいて・・・

「美少年・・・」

隣にいるサーシャがぼそりと呟いた言葉に頷いた。

ローレンス家、やはり美形ぞろいである。



「すまない、待たせてしまったかな?」

近くまで駆け寄ってくるセシルは、優しい目元でそう尋ねてくる。

「いえ、今きたたところですわ」

何なら時間通りだ。そういえば、家庭教師であるザカリー夫人の授業で、レディーは男性と待ち合わせをする際は少し遅れていくことがマナーと言っていたのを思い出す。

あー、セシルお兄様はそれで少し困り眉なのか。まぁ、家族だからそこはノーカンという事にしておこう。

「アメリアお嬢様は、本日の稽古が楽しみすぎるあまり、早く着きすぎてしまったようです」

隣にいるサーシャがさらりとフォローを加える。


「あぁ、そうだったんだね。そんなに楽しみにしてもらえてるとは、嬉しいな」

困り眉だったセシルお兄様の眉毛はいつも通りの位置に戻り、嬉しそうにはにかんでいる。

「うぐっ」

隣のサーシャが小さく呻き口元に手をあてた。可愛い・・・と呟いているのを、俺は聞き逃さなかった。


「公爵家の家族が使う訓練場はこの先だから、ついてきて」

そう言うと、まだ小さい妹である俺の手を引き、セシルお兄様は廊下の先を目指した。




手を引かれるままついていくと、開けた訓練場についた。先ほどの騎士たちのいた場所に比べると、豪華な作りになっている。

バスケの試合とかできそうな広さだな・・・。

白い石造りの壁に四方が覆われており、上は吹き抜けになっている。

訓練場の入口のほうは屋根があり、休憩スペースも用意されていた。

数名の警備兵が壁を背に控えている。


「さて、さっそく始めようか」

周囲を見回していた俺はその言葉に頷き、セシルお兄様に向きなおった。


「まず、魔法を使うには自分の中にある魔力の存在を感じ取らなければならないんだ」

そう言い、セシルお兄様は目を閉じて大きく息を吸うと、ゆっくりと吐き出した。

すると、うっすらと薄い水色のような光がセシルお兄様を包み始める。

「わぁ・・・」

すごい、と凝視していると、セシルお兄様が目を開く。

「これが魔力だよ」

開いた目が俺を捉えると、優しくにこりと微笑まれる。

「今はイメージがしやすいように僕の魔力を視覚化して身にまとっているんだ。魔力は自分の体内にあるものだけれど、こうやって身体の外に放出することで行使することができるよ。」

すごい。アニメとかで見るやつじゃん!

俺は心の中でワクワクしながら、顔は真剣に聞いてますよ~という表情を作り頷く。


「この感覚に慣れたら、あとはどんな事をしたいかイメージするんだ。こんな風に言葉にすると魔法を行使しやすいよ」

そう言いながらセシルお兄様は訓練場の中央にある大きな壁に向かって手を伸ばし、

「氷の矢!」

と叫んだ。


すると、セシルお兄様の手から先の尖った氷の結晶が浮き上がり、まっすぐ壁に向かって飛んでいく。

カン、カン、カンッと、壁に打ち付けられたそれらはそのまま砕けてすうっと消えていった。

「す、凄いです!セシルお兄様!!」


思わず拍手をしながらそう伝えると、セシルお兄様は照れくさそうな表情を浮かべた。

しっかり者のセシルお兄様は今年で13歳。

神殿で魔力適正を受けてから3年で魔力を使いこなし、魔法学園に入学もまだしていないというのに、こうやって俺に教えてくれているという事は、やはり優秀なんだろうな。

尊敬の眼差しを向ける俺に、やはり照れくさそうなセシルお兄様。

こほん、と咳ばらいをして

「それじゃあ、魔力を感じ取るところからやってみようか」

と言われ、俺の実践がスタートした。



「えーっと、まずは・・・」

そう言いながら目を閉じる。

自分の内側にある魔力を感じ取るんだったよな・・・。

やや抽象的とも思えるその指示に、上手くできるか?と不安はあったものの、自分の中の魔力を感じ取ろうと胸に手をあててみる。


「あ・・・」

暗い意識の中、何だか自分の胸の中心あたりに光のようなものを感じた。

「感じ取れたかな?それがアメリーの魔力だよ」

優しいセシルお兄様の声が聞こえる。

「これが・・・」

「そう、そのままゆっくりその光を広げるイメージで自分を包み込んでみて」

言われるがまま、イメージしてみる。光を広げて・・・・。


「わぁ・・・!アメリア様、凄いです!」

サーシャの声がして、目を開く。

すると、自分の視界の前にゆらゆらと光がうねっているいるように見えた。

「これが・・・」

そう言いながら自分の両手を見る。

肌のを包むように先ほど見たセシルお兄様と同じ薄い水色と・・・・その上を紅く細い線のようなものがうねるように巻きついている。

「アメリー・・・凄いよ・・・。君、2属性持ちなんだね」


読んでいただきありがとうございます。

暑くなってきましたね。

皆さん、熱中症に気を付けましょう~!

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