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第13話 セドリックの部屋と魔法と

30代の若くイケメンな国王を、そうまじまじと見つめていると、隣に座っていたお母様がコホンと小さく咳ばらいをしてから、口元を扇子で隠し「ご挨拶しなさい」と耳打ちしてきた。

あ、やべ凝視しすぎて失礼だったか?

「国王陛下にご挨拶申し上げます。アメリア・ローレンスです」

焦りつつ挨拶をする。

「ああ。よろしく頼む」

すると、国王はニカッと歯を見せて笑った。

「おい、セドリックを連れて来てくれ」

続いて、近くにいる侍女にそう命令した国王。

「折角だからお互いのことをもっと知る時間を作ったほうが良いだろう。」

命令された侍女は「かしこまりました」と頭を下げてその場を離れた。


会う前までは王様だからと怖い印象を持っていたが、どうやらとても良い人のようだ。

俺に向き直った国王は、ニコニコと茶菓子として出されたクッキーを勧めてくれている。

「ありがとうございます、いただきます」

俺も笑顔でそう伝えクッキーを数枚いただいた。




セドリックが応接室に来ると、国王は城内を案内するようにと王子に伝えた。

その為、今俺はセドリック王子と二人で広い廊下を歩いている。


「こんなに早く屋敷に来てもらえるなんて驚いたよ」

横を歩くセドリックが楽しそうに俺を見ながら言う。

「私も昨日聞いてビックリしたよ。でも約束通り絵を見せてもらえるのが楽しみだな」


そう、先日ローレンス邸へセドリックが来た際、セドリックが描いた絵を見せてもらう約束をしていたのだ。

二人で歩きながら、さっそくその絵を見せてもらうことになり、現在彼の部屋を目指して歩いている。

豪華で煌びやかな階段を上り、暫く歩くとこれまた彫刻細工が素晴らしい扉の前に立った。


「ここが僕の部屋だ」


そうセドリックが言いながら扉を開く。

どうぞ、と俺の手を取り中へ案内してくれる。

流石王族。まだ9歳だというのに身のこなしがジェントルマンだ。将来が有望だな。

そう感心している間に部屋の奥、書斎の前まで通された。


「うわー、難しそうな本ばっかだな」

なんとなくその書斎を眺めると、本の背には『政治経済』やら『修辞学』『領土』『王都の歴史』などといった文字が並んでいた。

家庭教師から似たような本を出され、自分も少し勉強したが、正直そんなに好きではない。

嫌そうな顔をしている俺を見てクスリと笑ったセドリックは、

「そんなに難しい内容でもないよ。それに覚えておく必要のあるものばかりだ」

と爽やかに言う。

なんてこった。この王子、賢さも王子級だわ。


この歳にして外見、中身、所作、全てが完璧じゃないか?王家の英才教育ハンパないな。

流石乙女ゲームの攻略対象。

うんうん、と一人腕を組みながら頷く俺を横目でやや不思議そうに見ながらセドリックは一冊の本を本棚から取り出した。


すると、ガガガとゆっくり静かに重たい音が響き、なんとその本棚が扉のように左右に開いた。


「え??隠し扉???」

何それ、映画みたいなんだけど!すげー!


俺は目の前の光景に興奮し、すごい、凄いとはしゃいでしまった。

その姿をまたクスリと笑いながらセドリックは、

「王家の部屋はこういうちょっと面白い作りになってる部屋が多いんだ」

と教えてくれた。

「そんなに喜んでくれるとは思わなかったよ。やっぱり自然体で接してくれると楽しいな」



そう言って完全に開いた隠し扉の先に案内してくれるセドリック。

すると嗅ぎ慣れたにおいが辺りに充満した。

絵の具のにおいだ。


「ようこそ、僕のアトリエへ!」

隠し扉の部屋の中は、入って右向きに細長い空間となっている。

部屋の中央でセドリックが両手を開き振り返った。

明かりが灯された室内に大小様々なキャンバスが並んでいる。

シックな壁紙にはいくつかの絵が飾られていた。部屋の中に窓はない。


「うわぁ~」

その空間自体が俺の若かりし頃の少年心をくすぐるようで、凄くワクワクした。


ゆっくりとその室内に足を踏み入れながら、その飾られた絵を順に見ていく。

鉛筆で描かれた噴水のデッサン。この王城のどこかにあるのだろうか。

鮮やかな赤が特徴の一輪の花。これは油絵で書かれているのだろうか。

他にも庭園の風景や花瓶など、様々だ。


「すごいな、たくさんある・・・」


目を輝かせながら見る俺に、セドリックは照れくさそうな笑みを浮かべた。


「ど・・・どうだろうか?僕の絵は・・・」


自分の作品たちの評価が気になるのか、少し顔を赤らめながらもおずおずと尋ねるセドリック。


セドリックの絵は、どれも9歳の少年が描いたのかと思うと驚いてしまうような出来だった。

もの凄く上手いかといえば、まだ子どもが描いた拙さもある。

そういった点は微笑ましく思え、思わず顔が綻んだ。

しかし、なんだろう。

どう表現したらいいか分からないが、ほんのわずかに・・・とても少しではあるが、寂しい印象を与えた。


1輪の花の絵にしろ、庭園の風景画にしろ、その題材だけが描かれているからだろうか。

何というのだろう・・・。題材は決して悪くはないし、むしろ上手なのだが、なんというか・・・無機質。

そう、無機質な感じがした。


「すごいよ!すごく上手だね!」


しかし、俺の実年齢は28歳。まだ9歳の、しかもこの国の王子に対して思ったことすべてを口にして、落胆させるような大人ではない。子どもの成長には褒めることが大切だ!と思った俺は精一杯褒めることにした。


「あ、ありがとう・・・!」


褒められたセドリックは照れながらも嬉しそうに笑顔を見せた。

「・・・うっ」

天使のようなルックスにあどけない笑顔はなかなかの破壊力がある。

俺の今までの人生、周囲にこんなに可愛い子どもは居ただろうか?いや、居なかった。

思わず俺は胸に手をあてよろめいた。


「だ、大丈夫?」

そんな俺を見て驚いた表情のセドリックが駆け寄り、心配げに顔を覗き込んできた。

更に近くで見る王子の顔。

わぁー、幼い子どもって本当に肌がきめ細かいなぁーーー。思わず王子の顔を凝視してそう思ったが、ハッとして首を振る。

「ごめん、大丈夫。気にしないで」

そう言うと、王子は心配そうに「わかった」と頷いてくれた。



「ところで、いろいろ気になってることがあるんだけど」

王子が元の距離感まで離れるのを見ながら、この隠し部屋に入ってから気になっていることを聞く。


「この部屋は窓がないけど、換気どうなっているの?」

そう、この部屋には窓がない。明かりはついているので明るいが、もしこの部屋で油絵を描いているとなれば独特のシンナー臭や油の臭いがこもり、かなり臭くなってしまう。

しかも空気が悪くなるので、体調も壊してしまいそうだ。

しかし、かすかに臭いはするものの、この部屋はそんなに空気が悪いようには感じなかった。


「あぁ、それなら風魔法を使って空気を浄化しているから問題ないよ」


ん・・・・?魔法?

そういえば、サーシャがこの乙女ゲームの世界について、教えてくれた時に「15歳になると魔力を持った者だけが入学できるという魔法学園がある」みたいな事を言っていたなぁ・・・。

この世界に来て、まだ実際の魔法について、見聞きしたことが無かったが、本当にあるのか?この世界に魔法とやらが。


俺が不思議そうな顔をしていたのか、セドリックはクスリと笑い、「ほら、あれ」と部屋の天井を指さした。

そこには、握りこぶし大くらいの透明な水晶のようなものが埋め込まれていた。

「あれには空気浄化の魔法が施されているんだ」


浄化魔法・・・。

よく見るとそれはうっすらと光っており、かすかに風の流れを感じる。弱で扇風機を回している感じだろうか。


「我がフォックス王家は風魔法の家系だから、この魔法アイテムも昔の王族の魔力で造られたものらしいよ」

「へ、へぇ・・・」

家系によって使える魔法が異なるということだろうか。

そういえばあいつ、魔法については全く教えてくれてないな。これって結構大事なことなのではないだろうか。

俺はサーシャの顔を頭に浮かべる。頭の中でそばかすの少女がてへっと舌を出して笑いごまかす姿が浮かんだ。・・・帰ったら問いただそう。

「確かローレンス公爵の家系は氷だったよね」

ん?そうなの?自分の家系なんて知らされていないので分からない俺は、別の話題は無いかと室内へきょろきょろと視線を回した。


と、見回す先の1枚の絵が気になった。


セドリックが描いた絵の中で、並ぶそれらとは違ったテイストだからだろうか。なんだがその空間だけ違う世界のような印象を受けた。


「セドリック。これも君が描いたの?」

惹かれるようにその絵の前で立ち止まる俺を見て、「あぁ、それか」と隣まで歩み寄るセドリック。

「この絵は僕の爺やが描いた絵なんだ」


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