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第12話 いざ、王城へ

「うーん・・・」

翌日、描いた絵を前に腕を組み唸る俺。

「どうしたの、おにーちゃん」

前世の妹であり、侍女のサーシャがそんな俺の顔を覗き込む。

「絵の具が乾かない」


そうなのだ。前世で水彩画しか描いたことのない俺は、その感覚でいたため翌朝うっかりキャンバスを触ってしまいその事に気づいた。

やっぱり油絵は勝手が違うのか?

確かに、油絵は乾くのに時間がかかると聞いたことがある気がする。あと臭い。

うーん、うーん唸る俺の身体を持ち上げると、サーシャは風呂場に俺を連れていき、お風呂に入れてくれた。

この生活も慣れたもので、最初は恥ずかしがっていた俺も、よく考えたら同性である女の子の、しかも幼い身体を洗ってもらっているのだと思うと、素直に身体を預けることができた。


お風呂が終わるとサーシャは手際良く着替えをさせてくれる。なんだかんだ侍女の仕事はさせてほしいと言われ、あれから毎日支度をしてくれている前世の妹サーシャ。これはこれで楽でいいな。

「早く支度して朝ごはん食べちゃわないと、ザカリー夫人来ちゃうよ?」

今日は家庭教師のザカリー夫人が来てピアノのレッスンだ。

長い群青色の髪を丁寧に艶が出るようブラッシングして、テキパキと俺の身だしなみを完璧に整えてくれる妹に感心しながら思う。

仕方ない。授業が終わったらまた見てみよう。

身だしなみの準備が終わると、朝食を食べレッスンルームへ向かった。


ピアノなんて、前世の学生時代に音楽室にあったものを少し触ったことがある程度だったが、アメリアの身体と記憶がしっかり思えていることで問題なく弾けていた。

「今日も素晴らしいですわ、アメリアお嬢様」

悦に浸る表情の夫人。家庭教師であるザカリー夫人はほとんどの授業を教えてくれる。

それを横目で見つつ、自分でもすごいと思った。

アメリアの身体になってから様々なレッスンや勉強をしたが、ほとんど新しく学ぶことがないほどアメリアは完璧に習得していた。記憶の中のアメリアは、まさに天才だと周囲からもてはやされ、そのせいで非常に態度も大きくなっていたが、正直この歳でこれだけのスキルを身につけていたら俺でも天狗になっていたかもしれない。いや、なると思う。

最近思うのだ。名家に生まれ、身分だけでわがまま放題のお嬢様になってしまった訳ではないのではないかと。

現に、あれだけ使用人たちに横柄な態度をとっているが誰も注意する人間はいなかった。当たり前だ。雇われの身でその家主のお嬢様を叱ったりでもしたら首が飛ぶかもしれない。あ、解雇的な意味でね。

そんな調子で育っていくものだから、自分の思うようにならないと納得がいかない性格になってしまい、悪役令嬢としてあのような悲劇に繋がってしまうのだろう。まだ9歳の少女だ。これから軌道修正して、アメリアの周囲からの評価を改善していかなくては。




「はっ!こ、これは・・・!」

午前のレッスンが終わり、昼食をとる前に部屋へ戻るとスケッチブックが置いてあった。

A3サイズほどのそれを両手に取り、俺は目を輝かせた。

「ちゃんと発注しておいたよ」

後ろからついてきたサーシャが、どうだというように言う。

「ありがとう!これでどこでも絵が描けるようになるぞー!」

早速鉛筆とスケッチブックを携え、意気揚々と出かけようとする俺の手を掴み静止するサーシャ。

「おにーちゃん、お昼ご飯食べた後も午後は歴史の授業があるでしょ」

前世のニート生活とは打って変わってしっかりとメイドとしての仕事をこなす妹は、こういった場面でも容赦ない。

「うっ」

仕方なく手に持っていたそれを机に戻し、お昼を食べるために食事が出される部屋に移動する俺なのだった。



「ところで、婚約も成立したから一度王宮に挨拶に行く事になったみたい」

今日の昼食は軽食スタイルのため、テラス席でサーシャと二人だ。

他の使用人が近くにいない為、俺と二人の時はこうして向かい合って座っている。


食事中の俺を眺めつつ唐突にそう告げるサーシャ。

「エッ」

驚いて食事を中断する俺。王城?!まじか。

「それってあれか?やっぱり国王様と挨拶ってこと?」

恐る恐る聞くと

「まぁ、そういうことになるね」

とさらりと答えられてしまった。

「いや、え?いつ?心の準備が・・・」

「レッスンないから明日になったみたいだよ」

「はぁ?!明日?!」

いくらなんでも早すぎない?!動揺する俺。

「そんなに堅苦しい感じににはならないだろうって侍従長も言ってたし、大丈夫じゃない?」

平然と答えながら、紅茶を飲み始めているサーシャ。「いい?これはセドリックと婚約が成立しちゃったんだから避けられないことだよ。滅多に会うことなんてできない国王と挨拶できるんだから、しっかりと悪役令嬢にならないように好感度を上げておかないと。それに・・・」

手元に持っていたティーセットをテーブルに置くと、真剣な眼差しを向けられる。


「セドリックに会うことになると思うから、しっかりこの前言ったように布石を打たないとだからね」


布石。つまりあれだ。婚約したけど好きな人ができたら応援するし、いつでも婚約解消していいからね〜ってやつだ。

これをしっかり伝えておかなくては、ゲームのシナリオが始まった時に俺は邪魔な悪役令嬢のポジションについてしまう。

「わ、わかった・・・」

若干、妹の圧に押されつつコクリと素直に頷く俺であった。



ーー



この世界に来て、初めて屋敷の外に出た。

今日は正式に婚約者となったこの国の第三王子セドリック・フォックスと、この国の国王が住む王宮へ向かうのだ。


今朝の支度は大変だった。

いつもサーシャが一人でしてくれる身支度は、数人の侍女に取り囲まれながら行われ、髪型やら何やらいつもより入念にセットされた。

先日のセドリックが我が公爵家に来た時よりも念入りだ。

王城へは馬車で向かっている。俺はその馬車に揺られながら外の風景を眺めていた。

初めて見る王都の街並みは非常に賑わっていた。様々な商店が立ち並び、窓の外からは何やら美味しそうな匂いも立ち込めている。

見ると、街の子どもだろうか。今のアメリアと同じ歳くらいの子が美味しそうに串に刺さった肉にかじり付いていた。

良いなぁ。いつも堅苦しい礼儀作法やら勉強ばかりで、ろくに遊びまわったりもできていない。俺もあんなふうに自由に街を散策したり、屋台を食べ歩きしてみたい。

まぁそんな事言ったらお母様に「はしたない」「公爵家の令嬢がそんな事するんじゃありません」と叱られてしまうかもしれない。

そんな事を考えながら、ふと今日の目的を思い出す。

途端に気が重くなって、ハァ、とため息が漏れた。

なるべく考えないように馬車の外を眺めていたが、現実に向き合うと緊張で胃が痛くなりそうだ。


そうこうしているうちに、馬車は城門前まで付いていた。

で、でかい・・・・。

窓から見上げる城門は重厚な佇まいをしている。その迫力に驚いていると、同じ車内に座っていたお父様が「はっはっは。アメリーも驚くだろう。これがこの国で一番偉い王族が住む城だ」と言っていた。



城に付き馬車から降りると、門を守る兵士と執事のような格好をした男性が出迎えてくれていた。

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

華麗な身のこなしで案内をされ付いていく。

城の外観もすごかったが、内部は更にすごかった。煌びやかなホールや美しい装飾品。天井から壁は様々な模様や金細工があしらわれており細かい手の施しよう。床なんておそらく全て大理石だ。さすが王宮・・・。

物珍しさと好奇心からテンションが上がりついキョロキョロしてしまう俺に、後ろからついて来ている侍女サーシャに小声で「はしたないですよ」と叱られてしまった。



「こちらでお待ちください」

執事さんに通された部屋も見事だった。開放的で広い空間に、壁や天井は細かい装飾。中央に広くて見事な長テーブル。

慣れた所作で席につくローレンス公爵夫妻に続き同じように座った。

内心そわそわして落ち着かない。

アメリアの部屋も広いのに、ここはそれよりもっと広い。

キョロキョロしないように気をつけながら目だけで周囲を見渡していると、執事が出ていった扉が4回ノックされ、メイド姿の数人の女性達がティーセットが載ったカートを押して入ってきた。

優雅な手つきで紅茶を入れ、茶菓子を配置していく。あまりにも優雅で見惚れてしまいそうだ。


メイド達が恭しく頭を下げ部屋から出て行った後、出されたティーセットに手を付けずしばらくぼんやり眺めていると、ついにその人は現れた。


「いやー、待たせてすまんね」

場の状況からして国王と思われる30代後半くらいの男性が、片手を挙げすまんすまんと言いながら小走りで近寄ってくる。

あれ?なんか思ってたのと違う。

身なりこそちゃんとしているが立ち振る舞いや言動が俺の中の国王イメージのそれとは違っていた。大冠も着けていないし赤い大きなマントも身に着けていない。白いピッシリとした身なりをしてはいるものの、よく映画やアニメででてくる「王様」とは雰囲気が違うなと思った。


親戚の叔父さんもあんな感じだったな。

「色々と執務が立て込んでいたんだが・・・息子がアメリア嬢を非常に気に入って帰ってくるものだから、はやく会いたくて無理やり時間を作ったんだ」

わははと豪快に笑う。

「これはこれは国王陛下、この度はお招きいただきありがとうございます」

お父様が立ち上がり、右手を胸にあてがいお辞儀をする。

「お目通り光栄ですわ」

続いてお母様も綺麗に挨拶をした。

俺も慌てて淑女の礼をする。

「ああ良い良い、この先家族になるんだ。そう硬くならないでくれ」

気さくな国王は、手をパタパタと振りながら席に座るよう促してくれる。

「恐れ入ります」

お父様が座るのに続いて、お母様も腰をおろす。

それに習い俺も腰をおろすと、国王陛下と目がバッチリ合った。

「おお、そなたがアメリア嬢か!なるほど、意志の強い目をしている」

腕を組みながら前のめりに俺を見つめるので、居心地が悪い。

「ありがとうございます」

そう言いつつ愛想笑いをして返しておいた。


国王の容姿はセドリックとよく似ている。

キラキラと眩しい金色の髪。少し茶色と金が混じったような美しい色の瞳。セドリックが成長するとこうなるのか、と思わず見とれそうになるイケメンぶり。

さすがゲームの世界だ。国王もイケメンとは・・・。


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