第10話 攻略対象は一人ではなかった
一度握手をしてしまった手前、こちらとしても変に距離を取りづらくなり、どうしたものかと思っていたのだが・・・。
話してみると、案外この王子は話しやすかった。
暫く他愛のない会話が続き、話題は趣味の話に。
「アメリアは何か趣味はあるの?」
趣味・・・。趣味かぁ・・・。
俺は、少し考えてから答えた。
「絵を描くこと・・・かなぁ?」
学生時代は美術部だった。
社会人になって、あまり描くことも無くなっていたが、パソコンやスマホも無い世界。暇つぶしとか趣味という言葉で真っ先に思いついたのは絵を描くことだった。
「へぇ!どんな絵を描くんだい?」
突然、王子の目が輝き出した。おおぅ、食いつくなぁ。
「デッサンや人物画・・・とかかなぁ?」
そういえば学生時代はコンクールとか出して入賞したこともあったっけ。そんなことを思い出しながら答える。
「それは素晴らしいね!是非、アメリアの描いた絵を見てみたいな!何か作品はあるだろうか?」
優雅に微笑みながらそう仰りながら、小首を傾げて聞いてくる幼い王子。
金色の柔らかそうな髪がふわりと揺れた。
あー、俺が描いた絵ね。
・・・・と、ここまで話して、はた、と気づく。
しまった。この世界に来て絵なんて一度も描いていない。
趣味とか言っておいて絵を描く道具すらこの屋敷にはないかもしれない。というか見たことない。
どうしようかとサーシャに目線を送ると、顔の前で手刀のように伸ばした手を小さく横に振っていた。
うん。無いよね。そうだよね。
少し考えて、
「いや・・・そのぉ、まだ見せられるほどの作品が描けていないんだよね。満足のいくものが描けたら見せる、でも良い?」
やんわりとお断りを入れることにした。
「そうか、残念だな」
その返事に、王子は少し残念というように眉尻を下げ、目線を下に落とした。
「・・・実はね、僕も少し絵を嗜んでいるんだ」
「へっ?」
そっと打ち明けるように語られたが、これまた予想外の回答をする王子に驚く。
ええ、王子様が絵なんて描くの?!もっとこう、優雅で何かすごいものが趣味だったりするのではと思っていたが。まぁ、現代社畜の俺の頭では、その優雅ですごい趣味ってのがどんなものか思いつけずにいるわけだが。
「絵を描くことが趣味だなんて、なかなかこの立場だと声を大にして言えないのに、君は不思議なほど自分をさらけ出してくれるんだね」
目線を落としたままそう告げる口元が嬉しそうに弧を描き少し揺れているように見えた。
ん?この立場だと声を大にして言えないって、どういう事だろう?
その言葉に疑問を抱いていると、
「今度、僕の屋敷にも遊びに来てよ。僕の描いた絵も、まだまだ拙いけど見て欲しいんだ」
さらっと屋敷に誘われた。屋敷って言うけど・・・それって王城だよね?王子様が住んでるんだもんね?
あわあわあわ。良いのか?大丈夫なのか?
嫌われようとしていたはずが、妙に心を開かれた気がする。
むしろ仲良くなって微かに同じ趣味を分かち合う友情のようなものが芽生えたかもしれない・・・。
そこまで思って、俺は閃いた。
それだ!
俺たち、友達になれば良いんだ!
これはいい事を思いついたとばかりに、ニコニコ頷く。
うんうん。俺としては男相手だし、そっちの方がやりやすい。
そして友情を結べば恋愛沙汰でヒロインが現れても、逆に相談に乗ったりしてサポートしていく道があるかもしれない。
既に淑女らしからぬ振る舞いも見せていることだし、案外素を出し合える良い友達になれるのではないだろうか。
友達という立場で側にいて、二人が結ばれる手伝いをするのだ。ヒロインと結ばれればお互い家同士の約束だからと穏便に婚約解消ができるかもしれない。
そうすればゲームの断罪ルートや投獄死罪も免れる。
そうだ、それだ。その道だよ。
何だか光が、道筋が見えてきた。
「わかった、是非遊びに行かせてくれ!」
こうなったら、久し振りに絵も描き始めよう。今度はちゃんと絵を見せられるようにたくさん描こう。何だか新しい世界に友達が出来たことが嬉しくなり、ワクワクしてきた俺であった。
ーー
「なるほど、友情エンド狙いか・・・」
王子が帰ったその日の夜、妹と俺は今日の報告会議を行っていた。
「でも絵を描く趣味があるなんて設定無かったと思うけどなぁ・・・」
そう言いながらうーん、と唸っている。あれ?絵を描くのが趣味じゃないの??
もしかして、原作には描かれていない裏の設定でもあるのだろうか。
そんなことをうっすらと考えている俺に、妹が言う。
「ちなみに、ちゃんとセドリックには好きな人ができたら応援するからいつでも婚約破棄して良いよって伝えた?」
「ん?言ってないけど?」
まだ婚約が確定したわけでもないし、もしかしたら、こんな自由に振る舞う女性は初めてって言うくらいだから友達にはなれたとしても婚約者に迎えようなんて思わないんじゃないか?
と、俺の中では思っていたため既に一件落着したつもりだったが、
「いやいや、言ってないけど?じゃないよ!元々婚約者になる設定なんだから、その前に断られないと意味無いじゃん!ふつーに仲良くなって、このままじゃセドリックの婚約者のままゲームがスタートして終いには死刑だよ!」
向かい合ったソファに座っていたサーシャが机に手をつき身を乗り出して抗議する。
「えー、そうかぁ?」
その勢いに少し押されながらもあまりしっくり来ない俺。だって、自分が国の王子だって言うなら、もっとお淑やかで奥ゆかしく女性らしい子が良いと思うけど。その方が可愛いし、一緒にいて癒されるんじゃないか?まぁ、女性と付き合ったことがないから若干妄想と願望から来ている考えだが。
同じ趣味を持った子なら、友達として接したりするんじゃないか?
そう考えている俺に、妹がとんでもない事を言ってきた。
「まぁでも、おにーちゃんがしっかりセドリックと友情を深めていけばセドリックルートでの死亡は回避できるかもね」
俺の反応にやや諦めを覚えたような声音で元のソファに座り直す妹。
・・・うん?セドリックルート?
何やら不穏なことをさらりと言っていたような。
「おい、待てセドリックルートって何だ?何か他にもルートがあるような言い方だな・・・」
まさかな。はははは。
嫌な予感がする俺に向かい、妹の口からとんでもない事が告げられた。
「え?何って、攻略対象はあと4人いるから。悪役令嬢のアメリアは、全ルートで主人公の敵役として出てくるし、おにーちゃんにはあと4通りのバッドエンドが控えてるよ?」
そうサラッと口にしたその言葉に、開いた口がふさがらない。
なん・・・ですと・・・?
まぁ、確かに。
乙女ゲームと聞いた時から何となくそんな気はしていた。
攻略相手は一人ではない。確かにそうだ。一人しか攻略できないより色んな相手と恋愛し攻略できた方がプレイヤーは楽しいのだろう。
だからって。
なぜ全てのルートの悪役に俺が登場することになってんだ?!
その後、妹から全ての攻略対象情報を聞き出した。
セドリック王子以外の攻略者は合計4名。
魔導騎士見習いのジョセフ・アンダーソン
名門魔導騎士の家系。学園の入学時にヒロインに対し一目惚れする。硬派で一途。
ヒロインと幼馴染のクリス・ホーキンス
平民出身だが類い稀な魔術センスが評価され成績優秀。儚い系イケメンで女子からの人気も高い。
黒魔術を専攻する1年上の上級生アダム・ヴィンセント
黒の魔術師であるヴィンセント伯爵の息子で、漆黒の髪に銀色の目を宿し、冷たく近寄り難い空気を纏っている。
学園の教師であるヘンリー・オズボーン
他の攻略対象を全てクリアするとプレイできる隠し攻略対象、らしい。
それら全てのルートで何故か悪役としてアメリアは登場。
その美しい美貌とは裏腹に、我が儘で支配欲が強く攻略対象たちを権力にものを言わせて従わせようとしているようだった。
そんな中でお気に入りの攻略対象にちょっかいを出してくるヒロインに対し粛清を試みるが、全てのルートで失敗し自滅する。
・・・そんな残念なキャラに転生したとは・・・悲しくなってきた。すごく美人なのに。
とりあえず学園入学前の今、他の攻略対象と遭遇する可能性はほとんど無いのではないかと妹は言っていた。
そうだな。入学してからが肝心だ。
今はセドリック王子との友情を深めて1つ目のデッドエンドを回避することに集中することにしよう。
そうして俺たちはこの先の方針を決めたのであった。




