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キツネとタヌキとお星さま

作者: 突然の嵐

あるところになまけ者のタヌキがいました。

タヌキはたいそうめんどうくさがりだったので、お腹がへってごはんを食べに行くとき以外は、日がな一日木かけでごろごろしていました。



ある日のことです。なまけ者のタヌキのところに、一匹のキツネがやってきました。


「これはこれはタヌキさんごきげんよう」


キツネは片手を上げてあいさつをしましたが、タヌキは眠りこけていてキツネの声が聞こえません。


「タヌキさん。タヌキさん? お客がきたぞ! 起きたらどうだい!」


しびれをきらしたキツネが大声を出すと、タヌキはようやく目をさましました。ごろんとねがえりをうち、キツネの方へ向きを変えます。


「わぁ、こんにちはキツネさん」

「おいおい。そのじょうとうな布団から出てきたらどうだい? 失礼だろう」


キツネが肩をすくめてそう言うと、タヌキは「それもそうだね。ごめんなさい」と、体を起こしてかれ葉のお布団の上にすわりました。


「ここらじゃみないかおだねぇ。どこからきたの?」

タヌキはたずねます。

「ぼくは西の森で生まれたんだ」

「それじゃあ、あなたはどうしてここにいるの?」

「よく聞いてくれたね! なにをかくそう、ふるさとを出たぼくは、東の山を目指して旅をしているところなんだよ」


フフンと胸をはるキツネを見て、タヌキは首をかしげます。


「それはどうして?」

「どうしてって、決まってるだろ! ぼくはあそこでてっぺんを目指すのさ!」


キツネは思いきり腕をのばして空を指さします。指先は、雲よりももっとずっと高いところでサンサンと輝く太陽を指さしていました。

東の山にはたくさんの動物たちがくらしています。キツネはそこで一番になりたいというのです。


「へー」

「気のないへんじだなぁ」

「うーん……」


おもしろくなさそうにうなるキツネでしたが、タヌキはねむたくてねむたくて、それどころではありません。

今にも布団にもぐりこみそうなタヌキを見て、キツネは「いいことを思いついた!」と手を打ちました。


「そうだ! ぼくの技をとくべつに見せてあげよう!」


そう言うとキツネはタヌキからはなれて、どこかから取り出した葉っぱをおでこにはりつけます。かしこそうな目が、お星さまのようにキラリとかがやきました。


「いいかいタヌキさん? ちゃんと見てるんだよ?」

「うん。わかったよ」


タヌキがあくびをしながらうなずくと、キツネは「それっ!」と一言かけ声をあげてグルンと空中で一回転します。


「わぁ、すごい!」


タヌキは小さな目をまんまるに見ひらきました。地面に足をついたキツネはなんと、一本足のカサのようかいに変身していたのです。

ぱちぱちと手をたたくタヌキに、キツネは一つ目をギロリと動かしてとくいげです。


「そうだろうとも! どうだい? もっと見せてあげようか?」

「うわー、ほうとぅ? みたいみたい!」

「よしきた!」


タヌキはぶんぶんうなずき、それを見たキツネはまたグルンと一回転。ドロンと大きなヘビに変身しました。


「すごいすごーい!」

「まだまだこれからさ!」


キツネはじょうきげんで、コウモリやユウレイなどたくさんの姿に変身して見せました。タヌキはそんなキツネをキラキラとした目で見つめていました。

白黒のクマから変身をといたキツネは、腰に手をあてて胸をはります。


「どうだい? すごかったろう?」

「うん! あなたはとてもすごいどうぶつだね!」

「そうだろうとも! なにせたくさん練習したからね!」

「れんしゅう?」


タヌキはまた首をかしげます。少しの間考えこんで、それからもじもじとキツネにたずねました。


「おいらもたくさんれんしゅうしたら、キツネさんみたいにへんしんができるようになるのかな?」

「さぁてね。どうかなぁ?」


キツネは片方の目をほそくして、なんだかイジワルに笑いました。タヌキの耳が元気をなくしてしゅんと下がります。


「むりなのかぁ……」

「いやいや! やってみないとわからないさ!」


おちこんでしまったタヌキを見て、キツネはあわてて木の葉を差しだしました。


「ぼくの葉っぱを一枚あげよう。これでうんとたくさん練習したら、きっとタヌキさんもぼくみたいに変身できるようになるさ!」


それを聞いたタヌキはすっかり元気をとりもどします。キツネから木の葉を受けとって、ぱぁっと顔をかがやかせました。


「ほんとかい! ありがとうキツネさん! ぼくがんばるよ!」

「なぁに、せんぱいからのせんべつさ! ぼくはもう旅にもどるからね」


そう言ってキツネがタヌキの肩をたたくと、タヌキの耳がまたしゅんと下がりました。


「もういっちゃうの?」

「なんだい、なさけない顔だなぁ。それならきみもぼくと一緒にくるかい?」

「えぇ? おいらがキツネさんとたびにでるだって?」


おどろいたタヌキは聞きかえしました。自分のすみかから外に出るなんて、そんなこと、生まれてから一度も考えたことはありませんでしたから。


「そうだよ。その方が、ぼくもにぎやかになって楽しそうだ」


キツネの言うように、たしかに二匹での旅は楽しそうです。きっとキツネは東の山で一番になるでしょう。そんなキツネをとなりで見ているのも、きっときっと楽しいでしょう。


「うーん……」


タヌキは少しの間考えこんで、


「……ううん。おいらはここにのこるよ」


首をゆっくり横にふりました。キツネとの旅や生活は楽しそうですが、タヌキはこの場所が好きでしたし、なにより旅の途中でおひるねはできません。

タヌキの返事を聞いたキツネはため息をつきました。


「そうかい……。残念だけど、それじゃあお別れだね」

「うん。げんきでね、キツネさん」

「ありがとうタヌキさん」


タヌキとかたい握手をかわしたキツネは、グルンと背を向けて走りだしました。


「じゃあまたねー!」


タヌキはキツネが見えなくなるまで、手をぶんぶんとふりつづけました。



キツネと別れてから数日がたちました。タヌキは布団からのっそりと起きだします。太陽の光がまぶしくて目をぐしぐしとこすり、それから大きくのびをしました。ゆっくり深呼吸をしてすっかり目をさましたタヌキは、キツネにもらった木の葉を取りだしました。あれから毎日練習をしていますが、キツネのようにうまく変身することができません。まだまだキツネの言う「たくさん」には足りていないのでしょう。


「今日こそは!」


お腹をポンっと叩いて気合いを入れたタヌキは、「えいやっ!」とかけ声をあげてグルンと空中で一回転しました。そしてそのまま地面に落っこちました。


「あう……まだまだ……!」


地面にぶつかった頭や腰がいたくてたまりませんが、それをガマンしてタヌキは起きあがります。木の葉をおでこにくっつけて、キツネの姿を思いうかべました。


「もう一回だ……!」


タヌキは思いきりお腹をポンっと叩いて、すかさず「えいや!」ととびあがりました。グルン!

するとどうでしょう。タヌキはみごとに変身をとげていました。


「わっ! わわっ!」


タヌキはおどろきとよろこびで声をあげます。でもピョンピョンとびはねようとしても、足が地面からはなれません。おかしいなと思ったタヌキが地面を見ると、そこにはゴツゴツしたお腹がありました。なんと、タヌキは石ころに変身していたのです。


「うわーん!」


タヌキはなさけなく泣き出してしまいました。これでは一歩たりとも動けません。おまけに変身のとき方がわからないものですから、このままではずっと石ころのままです。お気に入りのお布団でねむれませんし、ごはんも食べられません。おまけにキツネのようにかっこうよくもないのです。


「うわーん! だれか助けてよぅ!」


タヌキはかなしくてかなしくて、わんわんわんわん泣きつづけました。でも泣いたってどうにもなりません。


「このままずっと、おいらは石ころのまんまなのかな……」


しばらくして、泣きつかれたタヌキが鼻をすんすん鳴らしていると、近くでガサガサ音がしました。これはチャンスと、タヌキは大きな声をあげます。


「だれだかわからないけど、おいらを助けてよ!」

「だれだ? どこにいる?」


タヌキの声を聞きとどけ草木をかき分けて出てきたのは、なんと人間でした。その上ナタとテッポウを持っています。タヌキはびっくりしてしまいましたが、今は固い石ころだということを思い出して、自分を元気づけました。もう一度声をあげます。


「ここだよ! 足下の小石だよ!」


いっしょうけんめいに声を出しつづけていると、人間はようやくタヌキを見つけました。でもなんだかのこわい顔をしています。


「石ころがしゃべってやがる!」

「ちがうよ! おいらはタヌキだよ!」

「タヌキだろうが石ころだろうが関係ねぇ! 気味が悪いやつだ。どっかにとんでっちまいな!」


人間は怒鳴りつけると、タヌキを思いきりけとばしました。石ころの姿をしたタヌキは、バビュンと空にとびだします。


「うわぁーん!」


自分ではどうにもできず、タヌキは悲鳴をあげることしかできません。その間にもグングンとすみかの森をとびこし、川をとびこし、人間の村をとびこし、そうして気がつけばタヌキは東の山の上にいました。そう、キツネが目指していたあの山です。

いきおいをなくしたタヌキは地面に向かってグングン落ちていき、


「あいたぁ……!?」


キツネの頭に落っこちました。まるで流れ星みたいに。



おしまい

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