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『シオカラ節 web小説大賞』総評

さて、今回、33作品もの力作の応募を頂き、誠に有難う御座いました。


「シオカラ節」の個人公募企画とあって、挑戦的な作風が多かったように思い、私も気合いを入れて読み進めて参りました。


その上で、皆様に求められているであろう忌憚なき意見を、改めて全体の総括として申し述べることで本企画の締め括りにしたいと存じます。


まずは、応募作品のジャンル別割合を見てみますと、


異世界転生物:7作品


ハイファンタジー:7作品


ローファンタジー:5作品


純文学:4作品


ラブコメ・恋愛物:4作品


ホラー/ミステリ:2作品


ギャグ/コメディ:2作品


産業小説:1作品


児童文学:1作品



と、こんな小さな公募ですが、見事に多種多様なジャンルの作品が集まった結果になりました。


その中でもやはり多いのがファンタジー。


中でも異世界転生物や旧時代的な世界観のハイファンタジーが多く、まだまだweb小説界隈ではそれらが嗜好されている一つの証左とも言えるのかもしれません。


そして、意外に多かったのが「純文学」ジャンルの応募。


恐らく前作のエッセイで私が日本文学史擬きをぶち上げたことに起因したのかもしれませんが、やはり敢えてぶつけて来ているだけあって力作揃いで、結果として佳作・入選に一作品ずつ入る結果と相成りました。


「オメーが『なろう』アンチかつ純文好きの老害なだけだろうが」


と憤懣やるかたない方々もいらっしゃるでしょうが、個人公募という特性上、もうそこは諦めて下さい。


私としては純粋に、作品の完成度、アイデア、ストーリーの面白さ、テーマ性を持って見比べたつもりですが。


話を戻しましてまずは全体を通して応募作品の良かった点から申し上げます。


まず挙げられるのは、文章に稚拙さが見られず、小説としてきちんと読める作品が多かったこと。


文章に読み難さやチープなオノマトペ表現はあまり見られず、私としても皆様の情熱が文字を通して伝わってきた次第です。


また、物語の設定についても、特にファンタジー作品につきまして、情景描写、場面描写とともに舞台設定についてもきちんと文字を割いていたものが多かったように思います。


アイデアについても、「異世界転生物」一つとっても単に転生させるだけでなく、スマホゲーのガチャ要素を取り入れたり、呪文の詠唱を噛みがちな主人公としてギャグテイストにしたりと趣向が凝らされており、独創性を意識した作品が多かったように思います。


逆にハイファンタジーにおいては近代西洋ファンタジーを意識した、重厚で濃密な設定がウリの正統派な作品が多くみられたのが印象的で、読み応えのある作品の数々には私も肩に力を入れて拝読しておりました。



と、全体を通して良かった点は以上で、作品別に良かった点もまだまだあり、是非ここで紹介したいところでもありますが、キリが無くなってしまうのでこの辺にして、次に皆様が気になっているところとして入賞作品と落選作品との差、有り体にいえば落選作品に共通する良くなかったところをご説明致します。



入賞作品とそれ以外の作品との大きな違いとしては、ストーリーの一貫性が挙げられます。


ストーリーの一貫性とは、一言で表すなら「この作品どういう話なのか」という、物語の根幹の部分のことです。


これが明確に打ち出されているのかどうか、そこが一つの分かれ目になっていました。


「そんななもん、あるに決まってんだろ、いちゃもんつけるのも大概にしろや!」


と罵声が飛んできそうではありますが、しかしながら、事実、私には伝わって来なかったのです。


「異世界転生物」を例にとりますと、平凡な主人公が何らかの事情で巻き込まれて異世界に転生するか、何か突飛な力を授かる、といった部分ばかりフォーカスされ、その後、力を授かったり転生した主人公が何を目指すのか、どうしたいのか、そういった目的が中々見えてこない作品が多かったように思います。


そういった目的が全く読み取れないとは流石に申しませんが、話の全容を掴むにはかなり読み進めなければならず、しかも目的自体も読者をあっと驚かせるような仕掛けがある訳でもなく、引き伸ばした割には単純な勧善懲悪に終始しているパターンが殆どでした。


もしくは、兄弟の因縁や後ろ暗い過去という業を背負った主人公を据えている作品も少なからず見られましたが、それにしても主人公のバックボーンの説明に終始し、中々話が前に進まない作品が多かったように思います。


これらの作品に共通するところとしては、いわゆる物語の「ヒキ」が弱い点も挙げられます。


巷では「ホットスタート」とかなんとか言われている技法ですが、私に言わせれば特別なものでも何でもなく、特にエンタメ作品においては必須であるとさえ考えています。


読者にしては、最初から回りくどい状況説明や舞台設定ばかりぶち込まれては辟易としてしまいますし、話に動きが無いとなると退屈でページを送る手が止まりがちになるのも仕方がないことでしょう。


作者にとっては丁寧に書き進めているつもりで、頭の中には今後の展開が見えているからこそ平坦で取り留めのないやり取りにも意義を見出せるのでしょうが、読者にはそんなことは分かりません。


これから面白くなる展開を期待し、我慢して退屈な文章を読んでもらうということ自体、娯楽に飢えていた世代ならともかく、今のご時世の読者には受け入れて貰える可能性は低いと言わざるを得ないと感じます。


しかしながら、伏線を張っていたり謎めかした雰囲気を出す為に敢えて序盤は起伏の乏しい展開を企図しているとして、自作品の物語構成上の欠陥について意義を唱える作者様もいらっしゃるかと存じますし、その論拠としてダークな雰囲気かつ中々話の全貌が掴めない作品の例として『新世紀エヴァンゲリオン』や『進撃の巨人』なんかを持ち出してくるような気がします。


ですが、予め釘を刺しておきますと、これらの作品においても、あくまでも話の軸が「人類を滅ぼそうとする謎の敵"使徒"を殲滅する」「人を喰い領地を脅かす巨人を駆逐する」という、分かりやすくシンプルなものだからこそ、その背景にある物語世界の謎や伏線についても魅力が引き立つのではないでしょうか。



加えて、落選作品においてもう一つ言及するとすれば、作品紹介ページ、所謂「あらすじ」自体がごちゃついていたこともストーリーの一貫性の無さに起因しているような気がします。


はっきり申しますと、作品の「あらすじ」紹介において、舞台設定や主人公の立場のあらまし、果ては独善的なフレーバーテキストをばかりに文章を割き、一番大事な、「この物語がどんな話であるのか」、そういう根幹の部分についてはまるで伝わってこないものばかりでした。


「じゃあ、ネタバレスレみたいに本文の内容を細かく書けって言うのかよ?」


と脊髄反射の如く反発する作者様もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。


分かりやすく言えば、


「あなたの作品を簡潔に説明してください」


これこそが「あらすじ」なのです。


それが言い表せないのであれば、それすなわちストーリーの幹が定まってないとすらいえるのではないでしょうか。


その場の思い付きや、よく創作で言われる「キャラクターが勝手に動く」なんかも、それのみで本当に面白くなるのは鳥山明先生など一部の天才ぐらいでしょう。


そのような手法が取られた作品の大部分は、とって付けたようなお色気シーンや短絡的なバトル展開など、断続的で大して繋がりもない話の連続で、それこそありきたりな話にしか見えなくなってしまいます。


また、話の根幹がブレブレですと、キャラクターや設定についてもやがて破綻をきたしてしまい、呼んでもいない「中世ヨーロッパ警察」をも招来してしまうことにもなっていくのではないでしょうか。


そして、得てしてそういう風な作品は、作者様自身行き当たりばったりで書かれている為、俗に言う「エタる」症状にも陥りやすいともいえます。


話の目的がぼんやりとしか定まっていないので、ぽっと思い浮かんだアイデアを携えて勢い勇んで出港したものの、碌にコンパス(方向性)や航海図プロットを用意していない所為で大海に出た時点で次第に彷徨い続ける羽目になり、最終的にはネットの深海へと未完の作品として沈んでいくのも無理からぬ話です。



いずれにせよ、特にファンタジー作品においては、まずはしっかりとプロットを作って物語の骨組みをかっちりと決めておく、それこそが作品の完成度を高める第一歩だと感じます。




ここらで話を変えまして、別の側面から落選作品に注文をつけるとすれば、主人公のキャラクター性についても物申したいと存じます。


今回拝見した作品の多くが、紋切り型(ステレオタイプ)の「巻き込まれ型主人公」の特徴を呈していました。


「巻き込まれ型主人公」とは、突然何らかのトラブルに遭遇し、半ばなし崩し的に世界を救ったりヒロインや仲間の為に奔走する主人公のことで、その構造上、性格的にも内向的でクセのない、ある意味無機質ともいえる主人公像です。


特にサブカルチャー色の強いライトノベルでは長きに渡り用いられてきたキャラ設定ですが、同じサブカルチャー作品を見渡せば、今流行りの作品の主人公像とは乖離を起こしている、もっとはっきり申し上げれば、少々時代遅れの主人公像に感じてしまうのです。


これは特に少年誌において顕著で、『鬼滅の刃』・『進撃の巨人』・『呪術廻戦』など、ダークファンタジーがエンタメ業界をを席巻しておりますし、今回の応募作品においてもこのジャンルの作品が少なからず見られました。


しかしながら、同じジャンルの作品とはいえ、皆様の作品と先述した大ヒット作品では主人公の物語世界への向き合い方が違います。


つまりは、ダークな世界観の主人公が己の宿命に悩みもがくのは現代エンタメの一つのトレンドですが、これも先行する傑作では大昔の私小説のように自分の悲惨な状況を嘆いているだけではなく、それに立ち向かう克己心をエモーショナルに描くのが特徴になっています。


ここが皆様の作品との大きな違いで、先述の大ヒット作の主人公は、自ら課せられた運命に抗い、自ら思い描くの理想や願望、目的を果たす為に邁進するという、浪漫主義の匂いが嗅ぎ取れるタイプの人物像に対して、「巻き込まれ型主人公」は偶然授かった能力を使いはするものの、取り敢えず目の前の問題を解決してゆくことが中心で、どこか空虚な印象を受けます。


あくまでも読者のアバターとしての役割を担っている側面もあるのでしょうが、キャラクターに味があるかと言われると微妙なところです。


現実社会でも昨今は災害や疫病、不況など乗り越え難い逆境に見舞われている中、あるいはそれ以上の絶望に見舞われているに主人公が果敢に立ち向かってゆく姿に読者も自らを重ね、その魅力に惹かれてゆくのではないでしょうか。


勿論、少年誌の購読者とweb小説の読者層とでは好まれるキャラクターやストーリー設定が異なることは私も理解しておりますし、あくまでも一個人の趣向の域を出ない論であることも分かっております。


ですが、今回は個人公募の選評という場ですので、私なりに所感を書き連ねただけであるということはご了承頂ければ有難いです。




また長くなってしまいましたが、以上で本企画を〆させて頂きます。


ご覧頂き、ありがとうございました。

P.S. 落選した作品につきまして、個別に理由等はお答えは致しませんので、よろしくどうぞ。

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