路地裏の出会い
2
「はぁ……」
ため息をつきながら宿までの路地裏を歩く。慣れたとはいえ、何度目かの戦力外通告に気持ちも沈んでいく。パーティメンバーがいい人だったから、余計に悲しくなる。
「今月厳しいってのに……どうすっかな……」
今宿泊している宿は決して高い宿ではないが、今の所持金だとあと1週間ぐらいが限界だ。なるべく早く次の仕事を見つけないと、野宿することになってしまう。
「にゃぁ」
そんなことを考えながら歩いていた俺の耳に、小さな鳴き声が届く。
「にゃぁ〜〜」
声のする方に目を向けると、小さな黒猫がうずくまりながらこちらを見上げていた。
「お前も捨てられたのか?」
この世界では、黒猫は不幸の象徴として忌み嫌われている。とくにこの国、ルーインで主に信仰されているファリス教の教典では、魔王の使い魔として黒猫がたびたび登場するのもあり、その傾向が強い。信心深い人が多いこの町では黒猫が1匹で生きていくのはあまりに難しいだろう。
「……俺と一緒にくるか?ま、大したもてなしはできないけど」
ついさっきパーティをクビになったばかりの俺は、黒猫の境遇と自分の境遇を重ね合わせてしまっていた。正直、猫1匹を飼う余裕すらないが、ここでこの黒猫を見捨てるという選択はしたくなかった。
「……にゃ」
しゃがんで差し伸べた手に黒猫が近づいてくる。よく見れば薄汚れて、毛並みもボサボサだ。
近づいてきた黒猫を抱き上げる。しばらく腕の中でもがいていたが、目を離した隙に腕をすり抜け、頭の上にするりと駆け上がった。
「はは、そこが落ち着くのか?落ちないようにな」
器用に頭の上に登った黒猫は、ここが自分の場所だと言わんばかりに丸くなった。少し重たいが、まぁ大丈夫だろう。
「お前のためにもしっかり働かないとなぁ」
頭の上に話しかけると、それが当たり前だと言わんばかりにおでこをぺしぺしと叩かれる。……なかなか不遜な猫だな、こいつ。
「……ま、なんとかなるか」
金を稼ぐだけならいくらでも仕事はある。それこそ雑用だろうが、今までいくらでもやってきた俺にとっては朝飯前だ。……言ってて虚しくなってきた。
「そういや、猫ってなに食べるんだっけ」
魚……、肉は食べないだろうし、うーーん。
ま、余り物でいいか。わざわざ猫用の餌を買うほど懐に余裕はない。すまんな、猫よ。
この世界で仲間を見つけた俺は、足取り軽く宿までの道を歩く。
この時俺は知る由もなかったのだ──この出会いが、これからの俺の運命を大きく変えていくことを──。