戦力外通告
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「すまないが、マキヤ。非常に言いにくいんだが……」
何度も聞いたセリフを目の前に立つ男が言う。この先の言葉は聞かなくともだいたいいつも同じだ。
「あー……っと、その、もしかしてクビ、ですか」
「あ、ああ。急な話で悪いんだが、まぁそういうことだ」
「いえ、……こちらこそ力になれなくて申し訳ありませんでした。……今までありがとうございました、アランさん」
これで何度目かになる戦力外通告。別にこの人が悪いわけじゃない。むしろ、俺に戦う能力が全くないにも関わらず今までパーティに置いておいてくれたのには感謝しかない。
アランさんは申し訳なさそうにしながら頭を下げている。パーティの前衛を務めていたアランさんは、真面目でパーティメンバーからの信頼も厚い。俺も彼の人柄には好意を抱いていたので、職を失うよりも彼の期待に応えられなかったことが心残りだ。
「ごめんねぇ、マキヤくん。次に向かうダンジョンはちょっと危険なの。私たちもこれからレベルアップしていかないとって思っててね」
アランさんの隣に立つ女性、ルリカさんが困ったように笑っている。彼女の扱う攻撃魔法と支援魔法は、何度もパーティの危機を救ってきた。お淑やかで気遣いができる彼女は、パーティに欠かせない存在だった。
「そうなんですか……。近頃、魔物の活動が活発らしいので気をつけて下さいね」
「すまんなァマキヤ。お前はいい奴だから、次のパーティもすぐ見つかると思うぜ?」
厳つい顔の男が笑いながら俺の背中を叩く。
「ええ、グレンさんにもお世話になりました。またどこかでお会いしましょう」
「なんだよ水臭ェな!またいつでも誘ってくれや!もちろん、お前の奢りでなァ!」
「はは……。考えておきます……」
口調は荒いが面倒見もよく、新人冒険者からも慕われているグレンさん。彼の豪快な斧捌きがもう見れないと思うと、少し残念だ。
「では、またどこかで会おう、マキヤ」
「はい。皆さん今までありがとうございました」
冒険者ギルドから出ていく3人を見送る。たった今、俺は無職になってしまった。冒険者として今まで頑張ってきたけど、ここらが年貢の納め時なのかもな……。
俺に冒険者としての適性がないことは、昔から分かっていた。剣術が得意でもなければ、魔術が得意なわけでもない。斥候としての才能もない、となればいよいよ荷物持ちぐらいしかできることがない。
ただ、荷物持ちにもある程度の戦闘能力がなければ、危険なダンジョンでは自分の身すら守ることができない。このタイミングでの戦力外通告は、ある意味当然のことなのだ。
「……次の仕事、探さないとなー」
生きるためには、お金がいる。そんな当たり前のことに考えを巡らせながら、俺は冒険者ギルドを後にした。