赤い空
大きな音がした。瞼越しでもわかる眩しい閃光と共に。
飛び交う怒号。訓練までまだ時間はある。
響き渡る悲鳴。ここはまだ前線ではない。
大きな衝撃で目をさます。ベッドの前に昨日まであった壁はない。
「なんだ・・・あれ」
目に焼き付けられる有り得ざる災厄。それを見た瞬間、身体は細胞レベルで悲鳴をあげる。指先の震えが止まらない。ただひとつだけ、理性によって理解できることは
「にげないと」
声をあげてはならない。目を合わせてはならない。奴らに気付かれてはならない。あの巨人は呼吸をするように、有を無に還す。存在を認識されれば終わると本能が示す。気付かれる前に逃げないと。
親しかった男だったものは、頭を潰され皮を剥がれ身を抉られて捨てられていた。仲がよかった女だったものは五体満足のまま犯され、隣の部屋の子供だったものは背骨を砕かれペイントボールにように地面に叩きつけられる。鳴り止まない悲鳴に耳をふさぐ。見えないフリをして走り去る。僕があれらに見つかる度に、僕があれらに助けを求められる度に、死槍は僕の心臓に狙いを定め絶えることなく穿ち続けた。それでも僕は走る。走り続ける。走り続けた。